四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

20 / 150
前回のあらすじ。
四ツ谷は妹紅を交えた人間たち相手に怪談を語る。
離れた所で霊夢たちがいることも気付かずに……。


其ノ七 (終)?

聞き手の人々から溢れ出た『畏れ』が空中で集まって一つとなり、置かれていた木箱の一つに吸い込まれるようにして入っていく――。

そして一分もしないうちに、その木箱が一人でにガタガタと揺れたかと思うと、突然蓋がバッと開き、そこから蒼い肌の山伏の格好をした大入道が姿を現した――。

 

「なっ!?これも幻覚か……!?」

「……いいや。さっきまでのは確かに虚構だったが、()()()()()()

 

呆然と呟く妹紅に四ツ谷がそう答えると、ゆっくりとした足取りで、その怪異――折り畳み入道に歩み寄る。

生まれたばかりだからか、寝ぼけ眼で辺りをきょろきょろと見回した折り畳み入道は、四ツ谷の姿を視界に納めると、途端にその双眸を大きく見開いた――。

 

「……大体予想はしていたが、やはり今回の実験で生まれたな。……ようこそ幻想郷へ。そして誕生おめでとう――折り畳み入道」

 

四ツ谷のその言葉に、折り畳み入道は嬉しそうに笑い、四ツ谷を見下ろす。

 

「ゲゲゲゲッ!オラを創ってくれてありがとう、父ちゃん!」

「……あー、悪いがその『父ちゃん』って言うのやめてくれ。間違ってはいないが、どうにも抵抗感がある」

「じゃあ……パパ?」

「鳥肌感ハンパない!?却下だ!頼むから父親的呼び名から離れたモンを考えてくれ!」

 

頭を抱える四ツ谷の元に、薊と金小僧も姿を現す。

妹紅は金小僧の姿に眼を丸くするも、その場に居た誰もそれに気付かなかった。

薊が口を開く。

 

「四ツ谷さん。『演出』の後片付け終わりました」

「ご苦労さん。まあ、片付けって言っても、薊には空き箱をカタカタ鳴らしてもらい、金小僧にはあの青い敷物が入った箱を倒してもらっただけだけどな」

 

四ツ谷のその言葉に妹紅が口を開く。

 

「なっ……たかだかそれだけの仕掛けのみでアレだけの事をやってのけたって言うのか!?」

「ああ……単純なものだろ?だが、やりようによってはそんな簡素な仕掛けでも想像を上回る効果を発揮する事があるのさ。……実際に体験したんだからわかるだろ?」

 

四ツ谷がそう言って妹紅は押し黙った。

そして「さて」と響くと、四ツ谷は懐からメモ帳を取り出し、開く――。

 

「……これでだいたいはっきりさせる事ができたな。俺の『怪異を創る程度の能力』、その発動条件が――」

 

 

 

 

 

 

「――『最恐の怪談』を行ったとき、そしてその聞き手が『人間』であるときだって言う事が……!」

 

 

 

 

 

 

事実、赤染傘の時も金小僧の時も、発生した『畏れ』が特徴的な動きを見せたのは、四ツ谷が『最恐の怪談』を『人間』に聞かせた時だったのである――。

金小僧の一件の時、四ツ谷は金小僧の噂を広めるため、川岸で民衆相手に怪談を聞かせたのだが、その時は『最恐の怪談』の一条件、『演出』を行ってはいなかった。

また、その時四ツ谷は噂を流すための金小僧の怪談を、皆に教える事に重点を置いていたために、『語り』の方にもあまり力を入れておらず、結果民衆たちから出た『畏れ』も大した量ではなく、集まるどころか方々に散っていったのである――。

それは今回、折り畳み入道の怪談を噂で流すため、薊にそれを教えた時も同じであった――。

それを確認するために、今日の昼間に人里の別の場所でも怪談を行ったのだが結果は同じとなった。

また、人間以外からも『畏れ』を出す事が可能なのかと、昨晩迷いの竹林で妖怪相手に『最恐の怪談』を行ったのだが、その時は怪異が生まれるどころか、『畏れ』すらも聞き手の妖怪たちから出る事がなかったのである――。

 

「よって赤染傘、金小僧、そして今回の折り畳み入道で行った実験と経験から、俺の能力の仕組みはざっとこんな感じじゃないかと結論付けた」

 

そう言って四ツ谷はメモ帳にサラサラと文字を書くとそれをその場の全員に見せた。

 

 

 

1:『怪異を創る程度の能力』は『最恐の怪談』を行った時に発動される。

 

2:その時、聞き手が『人間』でなければならない。(人外が相手だと怪異どころか、畏れすら生まれない)

 

3:条件が揃っている状態で、その時語られた怪談にモデルがいる場合、生まれた畏れは全てそのモデルに吸収される。

 

4:『演出』を抜いた状態で『人間』に怪談を語った場合、畏れは出るが、量や濃度は『最恐の怪談』の時と比べても低く、集まる事もなく逆に方々に散っていく。

 

 

 

「ふーん、つまりあんたはその怪異を創りだす能力の全容を知るために、わざわざこんな実験(こと)をしていたわけか」

 

納得したような声を上げる妹紅に四ツ谷は肩をすくめる。

 

「まあ、正直まだ()()()()()()()()()()()()、大体はな……。しかしまいった。これからは妖怪相手に怪談を語るべきか?いやでも、人間の悲鳴もなかなか捨てがたいんだよなぁ……」

 

独り言を呟きだした四ツ谷にため息をつきながら妹紅は声をかける。

 

「怪談を創るのを止めるという選択は無いのかお前には」

「無いね。怪談を創るのは俺の生き甲斐だからな。……とにかくこれからはこの能力が発動しないように気をつけながら、かつ思いっきり怪談を行える方法を模索していくしかないな。……悪いがあんたもしばらくこの事は他言無用にしてくれ。特に博麗の巫女とかに知られると面倒だしな」

 

そう四ツ谷は妹紅に頼み込むが、当の彼女は苦笑しながら首を横に振る――。

 

「悪いが四ツ谷。もう手遅れだ」

 

そう言って妹紅は四ツ谷の背後に眼を向ける。つられて四ツ谷たちも妹紅の視線の先を追い――。

 

「ゲッ!?」

「あっ!?」

「み、巫女様!?」

 

四ツ谷、小傘、薊が順に声を漏らした。

そこには言わずもがな、紫、霊夢、魔理沙、射命丸の四人が立っていた――。

 

「久しぶりね。中々に面白い出し物だったわよ?四ツ谷文太郎」

 

軽い口調で霊夢は言うが、その眼は全く笑ってはいなかった。

その横から紫が歩み出る。

 

「初めまして四ツ谷文太郎さん。私はこの幻想郷の創設者にして妖怪の賢者もしております、八雲紫よ」

「あんたが……?」

「師匠!!!」

 

四ツ谷が呟いたのとほぼ同時に小傘が叫んだ。

次の瞬間、四ツ谷の背後で空間が大きく裂け、そこからほっそりとした白い手が伸びて振り向こうとした四ツ谷の後頭部を鷲掴みにする。

 

「……ッ!!?」

 

何が起こったか気付くよりも先に、四ツ谷はその白い手の持ち主――()()()()()()()()()()()()()()()()()に羽交い絞めにされてしまっていた。

 

「あら……?今日は全然姿を見せないと思ったら、そんな所にいたのね、藍」

 

四ツ谷を拘束した美女――八雲藍(やくもらん)は、霊夢の言葉には答えず、主である紫に声をかけた。

 

「終了しました紫様」

「ご苦労様、藍」

 

紫が答えたと同時に小傘は「師匠!」と叫んで駆け寄ろうとするも、そこに霊夢と魔理沙が割り込み妨害する。

 

「れ、霊夢さん、魔理沙さん……!?」

「小傘、あんたちょっと見ないうちに随分と出世したじゃない?」

「今のお前なら全力で相手してやる事ができるんだぜ?」

 

動揺する小傘に霊夢と魔理沙はそれぞれお祓い棒と八卦炉を持って威嚇する。

それと同時に金小僧と折り畳み入道も動こうとするも、その二体にも妨害者が立ちふさがる――。

 

「……動くな。まだ生まれて間もないのに直ぐに灰に還されるのは嫌だろ……?じっとしていろ」

 

両腕に炎を纏わせた妹紅の重い声が金小僧と折り畳み入道に降りかかった。

どうやら彼女は四ツ谷たちに味方するより、今は霊夢たちの方に着いたほうが得策だと考えたようだった。

 

「あ、あぁぁ……」

 

そして最後に残った普通の人間である薊もどうする事もできずオロオロとするばかりであった。

もはや完全に四ツ谷を助ける者がいなくなる。

頭を地面に押し付けられた四ツ谷は、眼だけを動かして目の前に立っている紫を恨みがましく見上げる。

紫はそんな四ツ谷に膝を折って顔を近づける。そして扇を広げ、口元を隠すと眼を細めて小さく響いた――。

 

 

 

 

 

「四ツ谷文太郎さん。あなたの身柄……この私が預かるわ――」




第三幕終了(?)です。
怒涛の展開です。誤字脱字などを見つけられた場合、お気軽に報告して下さい。

加筆:この話のサブタイトルに(?)を付けました。何故付けたかは今後の話を見て行けば分かると思いますのでw

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。