四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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前回のあらすじ。
折り畳み入道の噂が霊夢たちの耳にも入る。


其ノ四

その日妹紅は、永遠亭に薬を購入しに来た人里の人間を家に送り届け、自分も自宅に帰るため迷いの竹林に戻ってきていた――。

その時には日はすっかりと沈み、辺りはもう真っ暗になっていたが、妹紅にとってはそれはいつものことで、臆することなく片手に小さな炎を灯らせるとそれを光源に竹林の中を家へと向かって真っ直ぐ突き進んでいた。

そろそろ家に着くころとなったとき、妹紅は不意に脚を止める。

暗闇の中、竹やぶの奥に小さな明かりが見えたからだ。

それと同時にその方向から微かに人の声も聞こえた。

 

(何だ?誰かいるのか?)

 

そう思いながら妹紅は明かりの方へ歩みを進めた。

近づくに連れてそこに何があるのかはっきりしだしてくる――。

未だ距離があるが、そこには複数の妖精たちや妖怪たちが集まっていた。

彼らはそこにある光源を囲むかのようにしてその中心に何かを見ていた。

何をしているんだ?と、首をかしげながら妹紅はその群集に向かってさらに歩を進める。

だが次の瞬間、彼らが何かに操られるようにバッと振り返る。

 

「!?」

 

妹紅も反射的に歩みを止めるも、彼らが見ている方向は妹紅がいる所とは別の方向。そこには何も無くただ夜の闇だけが広がっていた。

にもかかわらず次の瞬間――。

 

『---------------------ッッッ!!!!』

 

妖怪たちはそこに()()()()()()()()を見てしまったかのように、声にならない悲鳴を上げた。

 

「!!?」

 

その悲鳴を聞いた妹紅はその場で固まる。その間に妖精や妖怪たちは蜘蛛の子を散らすようにしてその場から逃げ出した。

 

(な、何だ!?一体何が起こった!??)

 

混乱しながらも妹紅は右腕に大きな炎を纏わせると、先ほど彼らが見ていた方向に眼を向ける。しかしそこにはやはり何も無く、変わった所も怪しいと思える所も全く無かった。

何か狐に摘まれたかのような、それでいて得体の知れない何かに纏わり憑かれたような感覚を感じ、妹紅は生唾を飲み込む。

 

(今そこに……()()()()の、か……?)

 

呆然と立ち尽くす妹紅の耳に突然笑い声が響き、それにつられて眼を向ける。

そこは先ほど妖怪たちが囲んでいた場所であった。そこには複数の蝋燭が地面に立てられており、先ほどから見えていた光源はこの蝋燭の火のものだと分かる。

その蝋燭の群れの中心に、一人の男が立っていた――。

黒っぽい着物に腹巻をした長身のその男は、悪戯が成功した子供のように竹やぶの隙間から見える月に向かって高々に笑い声を上げていたのである。

 

「ひゃーっはっはっはっはっはぁっ!!!いいな、イイナァ!!妖精や妖怪どもの悲鳴も案外悪くないじゃないか!!人間も妖怪も妖精も宇宙人も神ですらも、悲鳴は全て平等であり、そこに微塵の変化も無い!!そして全ての悲鳴は、俺のモノ!!!」

 

やや意味不明なことを口走りながらそこにいる男――四ツ谷は再び不気味に笑い声を上げる。

そして、ようやく妹紅の存在に気付くとピタリと笑い声を止めた。

 

「あん?誰だ?」

「……そ、それはこっちのセリフだ!誰だお前は!?一体何をしていた!?」

 

妹紅はそう言って四ツ谷に噛み付くも、四ツ谷はキョトンとした顔で答える。

 

「……何って、俺はただ怪談を語ってただけだ」

「怪談だと!?それであいつらが逃げて行ったとでも言うのか!?馬鹿もやすみやすみ言え!!」

「馬鹿とは心外だな。例え異形の存在と言えど、その心に恐怖心があれば、未知の存在に対してビビッてしまうのは当たり前だ」

「未知の存在、だと……?さっきまでそれがここに居たって言うのか!?」

「さぁ?ひょっとしたら、()()()()()じゃないか?」

 

そう言って四ツ谷は妹紅の背後を指差す。

それにつられて妹紅は大きくその場から飛び退くと両腕に炎を纏わせ、構える。

しかし、やはりそこには何も無く、ただ夜の闇が広がるのみ。

 

「……?」

「シシシッ!」

 

呆然とする妹紅に四ツ谷の笑い声が聞こえ、そこでようやく自分がからかわれたのに気付いた妹紅はこめかみに青筋を浮き立たせながら四ツ谷を睨む。

それを見た四ツ谷は両手で妹紅を制す。

 

「……悪かった。だが、俺がさっき言った事は本当だ。俺はあいつ等を相手に怪談を聞かせ、それにビビッてあいつ等は逃げ出した。それだけのハナシさ……」

「……一体なんでこんな所で怪談を行っていた?」

「なに、ちょっとした実験さ。別に何か大きな事をやらかすつもりは無い。……それにこの実験も()()()()()()()()()

 

四ツ谷のその言葉を聞いて、妹紅は眉根を寄せる。それと同時に暗闇の中から見覚えのある少女が四ツ谷の方へ走ってきた。

 

「師匠ー、結果出ました!やっぱりダメですね。()()は出ませんでした」

「そうか……まぁ、予想通りだな」

「小傘!?」

 

その少女――多々良小傘の存在を確認した妹紅は声を上げ、小傘も妹紅がいることに気付くと「あ、妹紅さん。こんばんは」と言ってぺこりと頭を下げて見せた。

だが妹紅は別に小傘がここに居る事や、四ツ谷を「師匠」と呼んでいる事に驚いていたわけではなかった。

彼女が驚いていたのは、小傘から漂う妖気であった。ついこの前会ったときは簡単にあしらえる程の実力しかなかった下級妖怪であったのに、今会っている彼女はそれとは月とすっぽんの力を滲み出していたのである。何があったかと聞き出したくなるのは当然だと言える。

だがそれを聞くよりも先に、四ツ谷が小傘に声をかける。

 

「小傘。ここでの用は済んだ。撤収するぞ」

「あ、はい。分かりました!後片付けしてきますね!」

 

ビシッと敬礼した小傘は妹紅が止める間もなく、風のようにその場を去ってゆく。

四ツ谷もきびすを返し、その場を去ろうとしたのを妹紅は止める。

 

「ま、待て!」

「ん?何だ、まだ何か用か?」

 

歩みを止め、四ツ谷は妹紅に眼を向ける。妹紅の方は色々と聞きたいことがあったのだが、今は一つだけに留めておく事にし、それを四ツ谷に問いかける。

 

「あんた、名前は?」

「……四ツ谷文太郎。最近、幻想郷にやってきた、しがない変人さ♪」

 

その名を聞いて妹紅は僅かにピクリと反応した。その名だけは親友であり寺子屋の教師でもある慧音から聞かされていたからだ。

何でも怪談と他人の悲鳴が大好きな奇妙な男だと、なるほど納得だなと、目の前に居る四ツ谷を見ながら妹紅はそう思った。

そう思っているうちに、今度は四ツ谷が妹紅に問いかける。

 

「そう言うあんたは誰だ?」

「……藤原、妹紅。慧音から私の話は聞いてないのか……?」

「!……へぇ、あんたがねぇ」

 

そう言って四ツ谷は妹紅をしげしげと眺める。すると遠くのほうから小傘の声が響いてきた。

 

「師匠ー!帰る準備できましたよー!」

 

その言葉を聴いた四ツ谷は再び妹紅に背を向けた。そしてそのまま口を開く。

 

「……あんた俺が何でこんな事をしているのか知りたいって顔してるな?なら、明日の夕刻、人里の広場に来て見るといい……そこでさっきあいつらに聞かせたのと同じ怪談を語ってやる」

 

そう言い残すと今度こそ四ツ谷は妹紅を残して夜の竹林の闇の中に消えていった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――と、言う事なんだ」

 

博麗神社の居間でそう妹紅は締めくくり、その場に沈黙が降りるも、すぐに魔理沙が声を上げた。

 

「妖怪どもをビビらせるなんて、そいつどんな怪談を聞かせたんだよ」

「……おそらく、今幻想郷じゅうで噂になっている折り畳み入道じゃないかしら?でもただの妖怪の怪談で同じ妖怪を怖がらせるなんて、どんな語り方をしたのかしら?」

 

霊夢がそう呟き、それに妹紅は同意する。

 

「まったくだ。それにあいつの言う『実験』が今日で終わるらしい。何かあるとすればその時だと思って、一応お前にもそれを伝えに来たんだ」

 

「一応って何よ」とジト目で妹紅を睨む霊夢。すると今度は紫が妹紅に声をかける。

 

「彼は今日の夕刻に、人里の広場で怪談を行うって言ってたのね?」

「……ああ」

「そう。なら霊夢、私たちもそれに参加しましょ♪……こっそりとね」

「こっそり?何でよ?」

「だって堂々と私のような存在やあなたがやってきたら、彼警戒するかもしれないでしょ?」

「う~ん、言われてみれば……」

 

腕組みをして霊夢はうなり。そこに魔理沙と妹紅も声を上げる。

 

「面白そうだな!なら私も行くぞ!」

「私も行く。あいつに誘われた手前、見に行かないわけにもいかないしな」

 

かくしてその場に居た四人全員がその日の四ツ谷の怪談に参加する表明をした――。




ランキング入り。ありがとうございます!
これからもどしどし書いていこうと思いますが、なにぶん文章表現が苦手なため、ちぐはぐな部分が多々あると思いますが、読んでくれる皆々様には温かい眼で見守ってくれると嬉しいです。

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