四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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  ……もーいーかーい……?




                    ……もーいーかーい……?




地底の奥深く……()()()()()闇の中で、人のモノとは思えない、不気味な声が響き渡ります……。
されど、答えてはいけません……。声を出してはいけません……。

それは『獲物』を探す“鬼„の声――。

もしも姿を見られたならば――。





            ……みぃーつーけーたぁー……





死に物狂いで逃げなさい――。

捕まれば最後、そこにあるのは――。


第九幕 隠れ鬼
其ノ一


五月五日の『こどもの日』――。

昼間の子供たちの活気が嘘のように静まり返った人里の夜。

夕餉を済ませて各々が食事の満腹感の余韻に浸っていた四ツ谷会館の者たちの元に、唐突に二人組の来訪者が現れたのだ――。

 

「すみませーん。夜分に失礼しまーす!」

「あン?この声は……」

 

玄関の方から響いたその声に聞き覚えのあった四ツ谷は、自ら玄関へと向かい、その来客を迎え入れた。

 

「よぅ、久しぶりだな。およそ一ヶ月ぶりか?()()()()

「……久しぶりに会って早々、随分な言い草ですね、四ツ谷さん」

 

ちょっぴり嫌味っぽくへらりと不気味に笑ってそう言う四ツ谷に、その昼寝門番――紅 美鈴(ほん めいりん)は、ジト目になりながらそう返してみせた。

四ツ谷はそんな美鈴の言葉にシッシ!と軽く笑って見せると、改めて彼女に尋ねてみた。

 

「……で、どうした?こんな時間に。何か用があって来たんだろ?」

「あ、いえ……。今回私はただの付き添いなだけでして、用があるのは――」

 

そう言いながら美鈴は首だけを動かして、自身の背後へと視線を移動させる。

 

「……?」

 

それにつられて四ツ谷も美鈴の後ろへと視線を向ける。するとそこには――。

 

「こ……こんばんは。四ツ谷……さん……」

 

――紅魔館当主、レミリア・スカーレットの妹、フランドール・スカーレットが美鈴の背後から恐る恐るといった調子で現れ、四ツ谷に向けてそう声をかけてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玄関で立ち話もなんだと思い、四ツ谷はフランドールと美鈴を『職員室』の休憩所に案内すると、途中で目に付いた小傘にお茶と茶菓子を用意するように頼んだ。

 

「どうぞ、粗茶ですが……。それとこの柏餅は今日、和菓子屋の店主さんからいただいたものです。よければ召し上がってください」

「ありがとうございます。いただきます」

「いただきまぁーす!」

 

お茶と茶菓子を机に置きながらそう言う小傘に、美鈴は軽く頭を下げながら感謝を述べ、フランドールは見た目相応に子供らしく喜ぶと、早速差し出された柏餅に手を伸ばしていた。

四ツ谷は二人が据わる椅子とは机を挟んで反対側にある椅子にドカリと腰を下ろすと、お茶をズズッと飲む美鈴と柏餅を頬張るフランドールに改めて尋ね始めた。

 

「それで、一体何の用なんだ?」

「あ、うーん……。えっとぉ……」

 

四ツ谷のその言葉に、フランドールは柏餅を食べる手を止め、何故か俯きながら悩む仕草をする。

先ほどまでの子供らしい表情は鳴りを潜め、どこか陰りのあるフランドールのその顔を四ツ谷はジッと見つめる。

美鈴もフランドールの様子に気づき、声をかけた。

 

「妹様?」

「あー、うん、ごめん。どこから先に話すべきなのか考えちゃって……」

 

あはは……、と空笑いを浮かべるフランドールに四ツ谷が予期せぬ爆弾を投げ入れた。

 

「……ひょっとして、その話ってのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「!?」

 

なりげない四ツ谷のその一言で、フランドールは驚愕に固まる。

何故?と言いたげに目は大きく見開き、呆然と四ツ谷を見ていた。

 

「……え?えっ?どういう事ですか?」

 

事態が呑み込めていない美鈴はフランドールの突然の変化に戸惑いながら、彼女と四ツ谷の顔を交互に視線を移動させる。

そんな美鈴に気づかず、驚愕の表情でフランドールは絞り出すかのように四ツ谷に問いかける。

 

「どう、して……?」

「先月のあの一件……。俺には一つだけ腑に落ちない事があった」

 

頬杖を突きながら目を細め、体面に座るフランドールを射抜くかのような視線を向けながら、四ツ谷は淡々と語る。

 

「……それは、お前が何で()()()()()()()()狂気を爆発させたのかって事だ。……数年前にお前の姉が起こした『紅霧異変』、あの異変からすぐの頃はお前の狂気が薄まり平穏な日常を送ってたと聞いた。だが、先月の一件の後、お前の姉から最近になってまた狂気が再発し始めたんだと聞かされた時、ちと妙だと思った……」

 

一拍置いての沈黙後、四ツ谷は再び口を開く。

 

空白(ブランク)が空きすぎてる。……『紅霧異変』から最近になるまで、お前は狂気に囚われる事無く普通に生活していた。なのに()()()()()()()()狂気が再発した。……ただ単にそれだけの期間、精神の抑制が持ったと言えばそれまでだが、俺にはこの間に()()()()()あったんじゃないかっていう気がしてならねぇ」

「……すごい」

 

四ツ谷のその推測が的を射ていたらしく、フランドールは目を丸くして素直に感嘆の声を漏らす。

 

「……どういう事ですか、妹様?」

「う、うん……。実はその事で四ツ谷……さんに、相談しに来たの」

 

美鈴にそう尋ねられ、フランドールはそう答えて四ツ谷を真っ直ぐに見つめる。

そんな視線を受けながら四ツ谷は目を細めて小さく笑った。

 

「……、無理すんな。はたから聞いてても『四ツ谷さん』じゃ呼びにくいのが丸わかりだ。……お前の呼びやすいので構わねーよ」

「……うん、ありがと。……じゃあ、四ツ谷おにーちゃん、でいい?」

「おう。……んじゃ、改めて聞かせてもらおうか。そこの門番の様子から見て、まだそいつだけじゃなく()()()()()()まだ話していない事なんだろ?」

 

四ツ谷のその言葉にフランドールは小さく頷くと、視線を美鈴へと向けた。

 

「美鈴……実は美鈴には……ううん、美鈴だけじゃない、お姉様たちにも今まで秘密にしていた事が、あったの……」

「妹様が秘密にしていた事?……それは一体?」

 

フランドールの言葉に美鈴は首をかしげながらも真剣な目でそう問いかける。

それにフランドールはポツリポツリと答え始めた――。

 

「美鈴、実は私ね、あの『紅霧異変』の後――」

 

 

 

 

 

 

「――お友達が、できたの。……私に初めてできた、大切な友達……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――フランドールがその『友達』と初めて出会ったのは、フランドールの自室がある薄暗い地下室であった。

当時、実姉であるレミリア・スカーレットが起こした『紅霧異変』から数ヶ月の時間が立っており、フランドール自身も異変後に霊夢と魔理沙相手に弾幕ごっこで大暴れをしたため、それまで溜まりに溜まっていた鬱憤が解消され、同時に狂気も薄れたためしばらくは平穏な毎日が続いていたのだ。

しかし、それも長くは続きそうになかった。

霊夢たちのおかげでガス抜きが出来たとは言え、フランドールの周囲の環境が劇的に変化したわけではかったのだ。行動範囲が地下から紅魔館内へと広まりはしたが、レミリアはフランドールを館から外に出すのを頑なに拒んだのだ。

それは、フランドールの持つ能力もそうであったが、一番の理由は日光にあった。

今でこそ吸血鬼専用の日焼け止めクリームがパチュリーの手で開発され、スカーレット姉妹はそれを使って自由に外出ができるものの、当時はまだ完成どころか開発すらされていなかったのである。

一応、日傘はあったのだがフランドールの性格上、いつ壊したり紛失したりするか分かったものじゃなかったので、おいそれとそれを渡すこともできなかった。

なら、夜に外出するのはどうかという話にもなったが、これもまた難しかった。

夜は人は寝静まれど妖怪などの異形は活発する時間。

フランドールほどではないにせよ、危険な存在と言えるモノは沢山いる。

ましてや、フランドールは少し前までずっと地下で過ごしていたある意味、『箱入り娘』とも呼べる存在だ。世間知らずな上、幻想郷住人以上に常識なんて皆無と言ってもいいだろう。

そんな奴らとフランドールが接触すればどういう事になるか。……決して良い展開になる事だけはないだろう。

その影響で他の幻想郷の有力者たちに目を付けられるのも、姉のレミリアから見ても絶対に避けるべき案件だった。

結果的に、フランドールがある程度の幻想郷での常識をつけるまでは、彼女を館から出す事を禁じざるを得なくなってしまったのだ。

それに不満を覚えながらも渋々咲夜やパチュリーたちに囲まれて常識を身に着けるための勉強を受ける日々を送るフランドール。

勉強を通して、咲夜やパチュリー、美鈴たちとも会話する量が大幅に多くなり、『紅霧異変』後には大図書館に頻繁に忍び込むようになった魔理沙とも親睦を深めるようにもなったものの、それでもフランドールの中から外に出られないという鬱屈した気持ちが晴れる事はなかった。

やがて勉強にも飽き、それと同時に自身の中にある不満が狂気と共に再度、燃え上がるかと思え始めた丁度その時――。

 

 

 

 

 

――フランドールは地下で一人の少女と出会った。

 

 

 

 

 

その少女は、見た目()()()()()()()()()()()()がよく似ており、ぱっと見、()()()()()()()()だとフランドールにはそう思えた。

また、話してみると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、さらには、そういった過去の影響からか()()()()()()()()()()()()()()()()事など、驚くほどフランドールと共通している部分が多くあり、それ故、フランドールはその少女に強い親近感を覚えるようになった。

 

その少女の出会い以降、フランドールの生活は()()()()()()()()()()――。

 

フランドールは定期的にやって来るその少女と地下で秘かに遊ぶようになったのだ。

たわいもない会話で盛り上がったり、かくれんぼや鬼ごっこなど、それこそ子供らしい遊戯をわんさかと行いながら、フランドールはその少女と時間が立つのも忘れて遊びに明け暮れた。

遊べない日があった時も、紅魔館に新聞を配達に来る鴉天狗を捕まえて、彼女を郵便配達員代わりに手紙のやり取り……つまりは『文通』を交わしたりもしていた。

よく似た境遇が故に二人の距離が次第に縮まり、ついには良い所も悪い所も互いに認め合える唯一無二の親友にまで絆が深まるのにも早々時間はかからなかった。

そしていつしか、フランドールの中でくすぶっていた不満や狂気の炎は鳴りを潜め、外に出たいという欲求もいつの間にか奇麗さっぱり無くなっていたのである。

心から分かり合える存在と出会えた事で、フランドールにとってそれ以外の事はもうどうでもよくなっていたのであった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ちょ、ちょっと待ってください妹様?」

 

そこまでフランドールの話を聞いていた美鈴は慌てて待ったをかけた。

そして眉根を寄せながらフランドールに問いかける。

 

「……『定期的に地下で会ってた』?地下って『紅魔館の地下』って事で良いんですよね?でも私、『紅霧異変』が終わってこのかた、そんな女の子を館内で見かけたことは一度もありませんでしたよ?……それに、わざわざ紅魔館まで一人で来るって事は、『普通の人間の女の子』ってわけじゃないんですよね?」

 

美鈴のその問いかけにフランドールは頷く。

 

「そうだよ、その娘は人間じゃない。妖怪だって言ってた。……でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とも言ってたよ」

 

それを聞いていた四ツ谷は唐突にポンと手を叩いた。

 

「そうか、わかったぞ。お前が地下で会ってた奴はズバリ――」

 

 

 

 

 

 

「――古明地(こめいじ)こいし、だな?」

 

 

 

 

 

 

ニヤリと笑った四ツ谷のその言葉に、美鈴はハッとなり、フランドールは正解だと言わんばかりに強く頷いた。

古明地こいし。その少女の事は四ツ谷も幻想郷縁起を読んで知っていた。

直接会った事は無いが、地底にある『地霊殿(ちれいでん)』という所に住む()さとり妖怪であり、記憶にあった幻想郷縁起に記されたそのこいしのプロフィールと今しがたフランドールが話した少女の特徴が見事に一致したのだ。

 

「……なるほど。確かに彼女の『無意識を操る程度の能力』なら、私に気づかれる事無く地下と外を行き来する事は可能ですね」

「……っつーかお前の場合は日がな一日昼寝ばっかしてたから気づかなかったってのもあるんじゃねーか?」

「うっ……」

 

こいしの持つ『無意識を操る能力』の事は美鈴も知っており、それに気づいた美鈴自身は一人うんうんと納得していたが、四ツ谷の何気ない一言で沈黙してしまった。

そんな美鈴をしり目に、四ツ谷はフランドールに質問を投げかけた。

 

「……で?その古明地こいしとお前が狂気を再発した事と一体何の関係があるんだ?」

 

その言葉にフランドールは黙ったまま、四ツ谷からは顔が見えなくなるほどに静かに深く俯むいた。

 

「……?」

 

怪訝な顔を浮かべる四ツ谷。その四ツ谷の視線の先にはフランドールの口元がわずかに見えており、その唇が微かに震えていたのだ。

四ツ谷だけでなく、フランドールの様子に気づいた美鈴も心配そうな目を彼女に向ける。

やがて、フランドールは絞り出すようにゆっくりと口を開いた。

 

「……その娘が……こいしがね……()()()()()()()()()()()()……」

「来なくなったって……喧嘩(けんか)でもしたのか?」

 

重く、どこか湿()()()()()()()フランドールのその言葉に、四ツ谷は静かにそう問いかける。

それにフランドールはブンブンと首を大きく振って続けて言葉を吐き始めた。

 

「……いつもみたいに次また遊ぶ約束をして別れたんだけれど、約束をした日になってもいつまでたっても来なかったの……。鴉天狗を使って手紙も送ったけれど、全然返事が来なくて……」

 

周囲の空気がどことなく重たくなり、四ツ谷と美鈴は互いに顔を見合わせる。

そして、なんとかこの空気を払拭しようと、美鈴が半ば無理矢理明るい口調でフランドールに声をかける。

 

「だ、大丈夫ですよ妹様。あまり私は面識はありませんが、こいしさんの事ですからそう深刻になる必要はないと思いますよ?……もしかしたら、風邪か何か体調をこじらせて寝込んでいるだけかもしれませんし……」

 

美鈴がそう言った直後、フランドールはいきなり顔を上げた。その双眸には大粒の涙を溜めて――。

 

「「!」」

 

驚いて目を見開く四ツ谷と美鈴を前に、フランドールは訴えるように叫んだ。

 

「ううん、おかしい!絶対におかしいッ!!だって――」

 

 

 

 

「――だって、来なくなってから今日まで、もう()()()()()()()()()!?」

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

フランドールのその告発に四ツ谷と美鈴が絶句する中、フランドールは堰を切ったかのように言葉を吐き続けた。

 

「私、待ったんだよ!?ずっとずっと、ずーーーっと!こいしが来るの待ってたの!!待ってるだけじゃなくて手紙だって何枚も何枚も送ったの!!でも……全然来てくれないし、手紙だって一通も返って来なかった……!!信じてたの!こいしなら約束を破らないで必ず私の所に遊びに来てくれるって!!また一緒に笑ってくれるって!!」

 

ぼろぼろとフランドールの目から雫が零れ始める。言葉に嗚咽が混じり始めるも、それでもフランドールは必死に言葉を絞り出していく。

 

「でも……それでも、やっぱりこいしは来てくれなくて……。もしかしたらこいしは私と遊ぶのに飽きて別の新しい友達と仲よく遊んでるんじゃないかって……。私の事なんかもう忘れちゃってるんじゃないかって不安になって……。私の事……もう嫌いになったんだったらどうしよう……」

「妹様……」

「そんな事、無いって……。こいしはそんな事……私の事忘れるわけないって……そんな事しないって、分かってる……。分かってる、はずなのに……ッ!!」

「…………」

 

頬を伝う涙を両手で何度もぬぐうフランドールを美鈴は沈痛な表情で静かに抱き寄せた。

それを沈黙しながら見つめる四ツ谷は、内心で一人納得していた。

 

(なるほどな……。突然いなくなった不安と、そこから来る『自分は捨てられたんじゃないか』っていう被害妄想が、コイツの消えかかっていた狂気を再発させる新たな火種となっちまったわけか……)

 

美鈴の腕の中で泣きじゃくるフランドールを、四ツ谷はただ静かに見守った。

やがて、ようやく落ち着きを見せたフランドールは目をごしごしとこすりながら、美鈴から離れる。

それを見た四ツ谷は静かにフランドールに問いかけた。

 

「……それで?結局お前はどうしたいんだ?」

「こいしに……会いたい……」

「『会う』、だけか?……なら、俺の所に来るのは()()()()()

「「え?」」

 

四ツ谷のその言葉に、フランドールだけでなく美鈴も驚く。そんな二人をよそに四ツ谷は静かに立ち上がると彼女たちに背を向けながらゆっくりと口を開く。

 

「……少女一人を探す()()なら、何も俺じゃなくても適任者は大勢いる。『探す』事に特化した能力を持つ奴に頼めば一発な話だ。だが……お前はその頼みを()()()()()()()()()()()()。……それは一体、どういう理由からだったんだ?」

「それは……。アナタなら……四ツ谷おにーちゃんなら……()()()()()()()()()()()()()……」

「見つける?『何を』……?」

 

フランドールの小さな響きに、四ツ谷は一歩踏み込む。

それに答える様に、フランドールも椅子から立ち上がると背中を向ける四ツ谷に相対し、今度ははっきりと口にする。

 

()()()()()()()()()()()()()……!私とお姉様の仲を元通りにしてくれた……お母様の真実を見つけてくれたあの時のように……!」

 

それを聞いた四ツ谷は天井を仰ぎ見ながら響く。

 

「……俺はただ怪談を創るだけだ。それが()()()()、今まで真実と繋がってきたってだけにすぎんし知った事じゃない。だが――」

 

 

 

 

 

 

「――それでも、お前が俺を頼りたいって言うのなら……()()()()()()()()()()()()。そうすりゃあ、恐怖で引きつった悲鳴と共に、()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

 

 

 

 

 

そう、肩越しに不気味な笑みをこちらに向ける四ツ谷に、フランドールは一瞬呆気にとられるも、泣き腫らした目をキッと引き締め、真剣な口調で四ツ谷に()()()お願いする。

 

「お願い、こいしを……私の友達が()()()()()()()()を炙り出して……!!」

 

その魂からの叫びに、四ツ谷はシッシ!と笑って答えて見せた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランドールと美鈴が紅魔館へと帰った後、四ツ谷は小傘と共に今後の相談を練っていた――。

 

「さぁて……、やると決めたはいいが、初っ端から大きな問題が立ちふさがっているんだよなぁ……」

「……?師匠、問題とは……?」

「行方不明になっている古明地こいしの姉の古明地(こめいじ)さとりだよ。手掛かりを探すためには、まず探し人に近い者から当たるのが鉄則だが……ぶっちゃけ俺、アイツ苦手なんだよなぁ……」

 

そう言いながら、四ツ谷は去年の宴会でさとりと初めて会った時の事を思い出した――。

 

 

 

 

 

 

 

『よぅ、初めまして、だな。俺は――』

『四ツ谷文太郎さんですね。……ふむふむ……なるほど。これはまた変わった幻想入りをしたものですね。天寿を全うした魂が怪異の肉体と融合して来たとは……』

『お、おぅ……』

『趣味は昼寝に漫画を含む読書。好きなものは怪談に悲鳴、それと【飲むおしるこ】という飲み物、ですか。おまけにおにぎりの具はたらこが好物、と』

『…………』

『怪談は……おぉぅ、これはまた予想以上に多く創ってらっしゃいますね。……飽きなかったのが不思議なくらいです。霊夢さんたちがアナタを怪談馬鹿と呼ぶのも納得ですね』

『……なァ、俺もちょっとは喋らせてくんね?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……百歩譲って心を読まれて個人情報を読まれるのは許すとしても、これから作り出す予定の『最恐の怪談』の内容まで読まれてネタバレする事になるってのは、流石に面白くない」

「でも、こいしちゃんの事を知るためには、まず、さとりさんに会わないと……」

 

ムムムと頭を抱える四ツ谷に小傘がそう諭すも、四ツ谷は小傘の顔を見て一言。

 

「……お前だけで行ってくんね?」

「えぇっ!?わちきだけでさとりさんに会いに行くんですか!?そりゃあ、折り畳み入道の能力で地底でもすぐに行けますけれど、師匠が自分で引き受けた事でしょう!?」

 

小傘に正論を叫ばれ、四ツ谷は再び頭を抱えた。

 

「ぐぅぅ……せめて、心を読まれないようにはできないモンか……」

「……ん~、妥協案ですけれど、『電話』を使うのはどうですか?離れた所から会話すれば心の声も聞こえないはずですし、電話自体も『再思の道』や『香霖堂』にあるはずですから簡単に手に入ると思いますよ?」

「電話、かぁ……。でも『声』だけ交わせてもなぁ……。欲を言えば顔も見せる事ができる『テレビ通信』機能がありゃあいいんだが――……あ」

「……師匠?」

 

何かを思いついたのか四ツ谷は一瞬ハッとした表情を浮かべるとすぐにニヤリと顔を歪めた――。

 

 

 

 

 

 

 

――翌日。

 

「ひゅぅぅ……。今日も()()総出で人里の奉仕活動かぁ……」

「シッシ!朝っぱらからしけた面してんなぁ、河童」

「ひゅ!?よ、四ツ谷の旦那!?……な、何か御用で?」

「シッシ、いやなに、前回の一件でお前らがやらかした事の尻拭いを俺が引き受けたろ?そのツケを『今』返して欲しくってさ♪」

「……?」




新章開幕です。

今章の舞台は地底世界、および地霊殿となります。今回も一万字越えと長くなりましたw
そして今章のタイトル『隠れ鬼』は、『隠れ鬼ごっこ』を指していますが、同時に某有名フリーホラーゲームも少し絡めてきております。
しかし、念のために申し上げますと、今章は『鬼』は出ますが、ブルーベリー色した()()()は登場しませんので、あしからずw

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