四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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前回のあらすじ。

人里の子供たちの間でMMOが流行しており、しかも既に廃人化している事実を知り、元外の世界の出身者である四ツ谷と梳は驚愕を露にする。
幻想郷の未来が危うい所に来ている事を話した紫は、四ツ谷にある一計を持ち掛ける。


其ノ九

「……今のは俺の聞き間違いかァ?それってつまり、俺の『最恐の怪談』で『怪異』を創ってくれって言ってるんで良いんだよな?」

「ええ、そのとおりですわ。そして、その怪異を使って人里の子供たちを全員『正気』に戻していくのです」

 

確認するように響く四ツ谷の言葉に、紫は真剣な目でそう答える。

それを聞いたその場にいる全員が目を丸くする。

しかし、それを真正面から聞いた四ツ谷だけが「はぁ……」と深くため息をつくと目をわずかに据わらせた。

その眼には明らかな呆れと侮蔑の色が混じっている。

 

「そいつぁ……少し都合が良すぎる話だな……。てめーらは俺に能力を使わせたくなくて、それを固く禁止させた上、監視までしてんだろうが。それをてめーらの都合だけで勝手に破って俺に能力を使えだと?……ハッ!笑えねぇ冗談だ」

「……ですが、このままでは貴方たちも幻想郷の滅亡に巻き込まれる事になります。全くの他人事でもないのではなくて?」

 

淡々と静かにそう聞く紫に四ツ谷は鼻を鳴らす。

 

「……だから河童共がやらかした不始末の尻ぬぐいを、全部こっちにぶん投げるって言うのか?」

「幻想郷を守るためであれば、使えるモノは何だって使う。どう言われようと、それが私のスタンスですから」

 

目を細めて紫はあっさりとそう言ってのけた。

 

「……妖怪の賢者様はよほど面の皮が厚いみたいだな」

「貴様ッ!!」

 

嫌味たらたらな四ツ谷のその言葉に、そばで聞いていた藍がカッとなって四ツ谷に食って掛かった。

だが、それを紫が手で制する。

 

「お止めなさい、藍」

「ですが、紫様!」

 

声を上げる藍を一瞥すると、紫は真剣な目で四ツ谷を見据える。

 

「……四ツ谷さん。アナタがどう思われようとも、これは()()()()()既に決定事項なのですよ。今ここで手を打たなければ、どの道幻想郷の破滅は必至。……ごちゃごちゃ文句を言い並べている暇があるのなら、さっさと怪談を創ってくださいませんこと?……それとも、幻想郷の破滅に巻き込まれる前に、私がアナタをこの世界から先に消して差し上げましょうか?」

 

紫がそう言った瞬間、四ツ谷は鋭い目で紫を睨みつけ、紫も同じように四ツ谷を睨んだ。

二人の間で見えない火花がバチバチと弾けては散る。

それに触発されてか、二人の背後に控えていた会館住人たちと藍も互いに戦闘態勢をとる。

 

――一触即発。

 

正にそう言える状況の中、唐突に第三者の声がその場に響き渡った。

 

「……ま、待て!待ってくれ!双方とも矛を収めて一先ず落ち着いてくれ!!」

 

今の今まで四ツ谷達の会話を静観していた慧音であった。

慧音は申し訳なさそうな表情で四ツ谷に向き直ると、ゆっくりと頭を下げて口を開いた。

 

「四ツ谷、すまない。私からも、頼む。出来ればお前たちにも協力してほしい」

「…………」

 

頭を下げる慧音をジッと見た四ツ谷は、再び横目で紫へと視線を向けた。

 

「……慧音先生を会館(ここ)へ連れて来たのは、初っ端から俺が依頼を受けないと踏んだお前の差し金だな?俺にこの一件に協力させるための()()()として」

「ええ、その通りですわ。運がいい事に、彼女は今回の一件の解決の相談をするために『保護者会』を開こうとしていた所でしてね。これは丁度いいとばかりに、先生に保護者の大人たちを連れてここに行くように誘ったのですわ。これだけ大勢で押し寄せれば、アナタも無下にはできないと思いましてね」

「こんにゃろう……!」

 

ニッコリと笑いながら、あっさりとそう言ってのける紫に、口の端を引きつらせながら四ツ谷は紫を睨みつけた。

そんな四ツ谷を見てもお構いなしに、紫は淡々と言葉を続ける。

 

「……それに、今回の一件。慧音先生同様、寺子屋で教師をしているアナタにとっては決して他人事ではないでしょう?自身の教え子でもあると同時に、大好きな怪談も語って聞かせていたアナタには、今の子供たちを取り巻いている状況は非常に面白くないのではなくて?」

「……!」

 

紫のその言葉に、黙り込む四ツ谷。事実、それは的を射ていた。

教鞭をとる傍ら、自身の怪談を怖がりながらも楽しげに耳を傾けてくる子供たちとのその一時が、四ツ谷にとってとても充実した時間となっていたのも、また間違いではなかったからである。

 

「…………」

 

短い沈黙後、小さくため息をついた四ツ谷は、今一度、慧音を見据える。

慧音は頭を上げると四ツ谷へと(すが)るような口調で、口を開き始めた。

 

「四ツ谷頼む。この通りだ。子供たちがずっとあのままなんて私には耐えられない……!ついこの間まで元気に楽しそうに外を走り回っていた子供たちが、今じゃ何かにとり憑かれたかのように無表情であの箱にかじりついている……!これから先もあんな状態が続いて、そしてそれを見ている事しかできないなんて……そんなの、あまりにも酷すぎる……!」

 

そう、絞り出すように四ツ谷に訴えかける慧音の顔は、今にも泣きそうなほどに歪み……いや、実際に泣いていた――。

目尻に涙を溜め、嗚咽を押し殺して懇願するように四ツ谷を見つめていた。

今まで何十年もの間、教師として子供たちと接してきた慧音にとって、それ程までに今の状況は残酷極まりないものだったのである。

そして、四ツ谷は慧音のその視線を真摯に受け止めながら口を開く。

 

「……だが、慧音先生?分かっちゃいると思うが、その為にはガキ共(あいつら)には、一度()()()()()()()()()()()()()を味わってもらわなきゃならねぇ……。それでも良いんだな?」

 

真っ直ぐに視線を向けてそう問いかける四ツ谷に、慧音も同じく涙目になりながらも力強く頷いた。

 

「……ああ!それで子供たちの顔に、笑顔が戻るのなら……!」

 

それを見た四ツ谷は、一度俯きながら「はぁ~っ」と一つため息をこぼすと、再び顔を上げて紫へと目を向けた。

 

「……乗ってやるよ、お前の策謀に」

「ありがとうございます」

 

四ツ谷の返答に紫は静かに頭を下げると同時に、四ツ谷に感謝を述べた。

しかし、そんな彼女に四ツ谷は真剣な視線を向けながら続けて口を開く。

 

「だが、勘違いすんな。創るのは幻想郷の為でも、ましてや慧音先生やガキ共の為なんかじゃねぇ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――()()()()()()()()!それだけは、何一つとして変わりはしねぇよ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、四ツ谷さん?『怪異』はどういったモノを創るおつもりで?」

 

事が一段落した所で、紫は唐突に四ツ谷にそう尋ねてきた。

内心、紫はこれから四ツ谷がどういった怪異を生み出すのか個人的にも興味を持っていたのである。

そんな紫の問いかけに、四ツ谷は顎に手を当てながら、自分の考えを口にする。

 

「時間をかけてやるのも問題ねぇだろうが、正直それだと面倒くさいし、俺の読書の時間や怪談の語り聞かせ(憩いのひと時)が邪魔されるようで面白くねぇ。だから、今回は早期解決を目標にする」

「……えーと、ツッコミ所がいくつかありますけれど……要するに?」

「さっさと『怪異』創って、それ使ってさっさとガキ共を元に戻す」

 

ジト目で響く紫に、四ツ谷はあっけらかんとした表情でそう返した。

そして続けて口を開く。

 

「んで、肝心の『怪異』の方なんだが……こっちはもうどんなのを創るのか決めてある」

「え?もう決めてるんですか?」

 

小傘がそう尋ね、四ツ谷は頷く。

 

「ああ……。つーか、ぶっちゃけ某ホラー映画の()()()だがな。そこの九尾の式がブラウン管持って来た時にフッと頭をよぎった」

「……え?ホラー映画?」

「ブラウン管?……テレビ……?」

「それって……もしや……?」

 

四ツ谷のその言葉に、元外界住人の梳や、日常的に外界を往復している紫や藍は、それだけで四ツ谷がどんな『怪異』を創ろうとしているのかすぐに気づき、続けざまにそう声を漏らしていた。

それもそのはず、そのホラー映画は超が付くほどに有名であり、少なくとも日本人ならば知らない人は少ないのではないだろうか(まぁ、その反面、外界の事を全く知らない他の者たちは、当然ながら完全に蚊帳の外だったが)。

そんな三人を前に、四ツ谷はそれが正解だと言わんばかりに、ある単語を口にする。

 

「……『呪いのビデオ』」

「マジですか……」

 

不気味な笑みを浮かべる四ツ谷に呆気にとられながら梳がそう響く。

四ツ谷はその表情のまま腰に手を当ててフンと鼻を鳴らした。

 

「……ま。幻想郷(こっち)の奴らでも分かるように色々と設定は変えるがな。『ビデオテープ』やら『一週間』やらの設定はごっそり省き、代わりに『奇妙な箱で夜更かしするまで遊ぶ子の前に現れる』って設定を付け加えようと思う」

「……最後の方、ちょっぴり教育的ですわね……。まぁ、今回はテレビが深く関わってますから、ある意味ぴったりな『怪異』かもしれませんが……。で、()()をお創りになるのは明日から?」

 

四ツ谷のその答えにどこか納得しながらも、紫はさらに問いを投げる。すると四ツ谷はニヤリと笑う――。

 

「いんや、『今』から」

『今ァ!!?』

 

突拍子もない四ツ谷のその発言に、その場にいたほとんどの者の声が重なる。

されど四ツ谷は不気味な笑みを崩さず、その場にいる全員に対して呟く。

 

「言ったろ?さっさと創るって。それに創るための『聞き手』なら、今この会館に腐るほどいんじゃねぇか」

「……!まさか四ツ谷。()()()()()()()()()()()……!?」

 

その言葉の意味にいち早く気づいた慧音がそう声を発し、正解だと言わんばかりに四ツ谷は不気味な笑みのまま片眼を閉じて慧音を軽く指さして見せた。

 

「その通り。広間の住人たちを前に、俺が壇上に上がって『最恐の怪談』を始めんだよ。今回の怪異の怪談……その説明とかも最初のうちにやったりしてな」

 

そして、四ツ谷は今度は紫に視線を向けて軽い口調で口を開く。

 

「そんで、ある程度怪談を語った後の『演出』の方なんだが……それは妖怪賢者。()()()()()()()()

「……はい?」

 

流石の紫も、四ツ谷のこの発言には面食らった。

そんな彼女の驚きにも構わずに四ツ谷は言葉を続ける。

 

「俺が怪談を語っている最中にテレビを用意してもらって、その画面から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()這い出て来るって筋書きだ。()()()()()使()()()テレビ画面から()()()()()()()()()()()()()楽勝でできるだろ?」

 

さも何でもないかのように、そうのたまう四ツ谷に紫は慌てて待ったをかけた。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!つまりこう言う事?私にあの怪異の役をやれと?」

「あン?そう言ってるんだが?」

「なっ!?ふざけるな!何故紫様がそんな事をしなければならない!」

 

当然だと言わんばかりの顔でそう言う四ツ谷に、紫ではなく藍がかみついた。

しかし、そんな藍の怒りも四ツ谷は涼しい顔で受け流す。

 

「他の奴がやろうにも、慧音先生やこの会館の女性陣は人里の奴らに面が割れてるから、その役をやらせたら途中で気づかれる可能性がある。俺もその時壇上で怪談を語ってるから女装してやれって言われても無理だし、金小僧や折り畳み入道は論外だ。だとしたら人里の奴らに顔が知られてなく、かつ女性でその役ができそうで、今この場にいる奴としたら、アンタぐらいしかいないだろ?スキマ賢者」

「えぇ~……」

 

四ツ谷のその説明にも心底嫌そうな顔を浮かべる紫。

だがそんな彼女と四ツ谷の間に藍が割って入り、再び四ツ谷にかみつく。

 

「いや、どうしても必要なら私がやろう!わざわざ紫様がやる事はない!」

「……そのでかい九本の尻尾で、あの狭い画面の大きさに合わせてスキマから這い出るなんて芸当できるのか?」

「舐めるなよ?私は化け狐、耳や尻尾を消すなど朝飯前だ!」

「ほぉ~……」

 

藍の言葉に、四ツ谷は顎に手を当てて目を細めながらそう声を漏らす。

それを見た紫は内心小さくホッとため息をつくと声を上げた。

 

「……納得してくれたみたいだし、それで良いわよね四ツ谷さん?」

「わーったよ」

 

ため息をついて手をぶらぶらと振りながらそう了承する四ツ谷であったが、直後、おもむろに紫と藍に背中を向けると続けざまに言葉を紡いだ。

 

「……ま、誰にだって()()()()()はあるわけだしなぁ」

「……え?」

 

キョトンとそう声を漏らす紫に、四ツ谷は「意外だ」と言わんばかりの表情を顔に張り付けて言う。

 

「え?いや、だってそうだろう?俺は()()()怪異の役をやってくれって言ってんのに、わざわざ自分の式にそれを投げるなんて……こりゃあもう、()()()()()()()()()()()()()って言ってるようなもんじゃん」

 

()()()()()()やれやれと首を振る四ツ谷に紫は叫ぶ。

 

「ちょ!?馬鹿にしないで頂戴!それくらいの演技、私だって練習無しでも一発でできるわよ!!」

「えー?そうかぁ~?『それくらいの演技』って言ってる割にやらないってのは、逆に怪しくなぁ~い?」

「私は賢者よ!この幻想郷の有力者の一人なの!高位の者がわざわざ自分からそんな事やるわけないじゃない!」

 

腰に手を当ててフンと鼻を鳴らす紫を前に、四ツ谷は疑わしそうに目を細めながらさらにぺらぺらとまくし立てる。

 

「お偉い賢者様なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようなもんだと思うがなぁ?……あ、もしかして、若い姿はすれど実は意外と思うように体を動かせないとか?中身はあちこちガタが来てるとか?」

「潰すわよ怪談馬鹿!!」

「おーおー、ムキになる所がますます怪しィ~。こりゃあ噂で聞く中身BBA説もまんざら嘘ではないかも――」

 

「藍ー!選手交代よ!!この腐れニヤけ面男に私のハイスペックさをその目にとくと焼き付けさせてやるぅぅぅッ!!!!」

 

「え、ええぇっ!!?ゆ、紫さ――」

「おお、そうかそうか!やってくれるかぁ!いやぁ、お前ならそう言ってくれると思ってたよ!流石は賢者の肩書を持つ大妖怪様だ!!心から尊敬するぞ、イッヒッヒ!!」

 

顔を真っ赤にして叫ぶ紫に、藍が慌てて声をかけようとした瞬間、満面の笑みで四ツ谷が二人の間に割り込み、上機嫌で紫の両肩をポンポンと軽く叩いた。

そして直ぐに踵を返すと、今まで成り行きを見守っていた会館住人たちに向けて手を叩いてみせる。

 

「さぁて、そうと決まれば早速打合せして直ぐに始めるぞお前ら!」

「……は、はい師匠!」

 

小傘の声と共に、その場にいる全員も同時に頷き、四ツ谷も満足そうに腰に手を当てた。

 

「……最初っから私を怪異の役に仕立て上げる算段だったってわけ?私がアナタを無理矢理この一件に巻き込んだ腹いせに……!」

 

四ツ谷のその様子から、上手い事乗せられたのに気付いた紫は、引きつった笑みを顔に張り付けながら、忌々し気に四ツ谷の背中を睨みつけた。

そんな紫に対して四ツ谷は「ハッ!」と、笑って見せる。

 

「当然だ。こっちに厄介事を丸投げしてお前自身は高みの見物なんて誰がさせてやるかよ。そっちが強引を通して頼んで来たんなら、こっちの頼みも誰かに肩代わりさせずに引き受けるのが筋だろうが」

 

そして四ツ谷は一呼吸置くと、目を細めてニヤリと笑って見せる。

 

「それに……もうこの一件の解決を俺に任すのは()()()()なんだろ?だったら四の五の言ってないできっちり働いてもらわないとなぁ?」

「~~~~~~ッ!」

 

四ツ谷のその言葉に、紫は悔しそうに顔を歪ませ、それを見た四ツ谷は溜飲が下がったのか笑みを深くした。

そんな四ツ谷の背中に梳が声をかける。

 

「四ツ谷さん。怪談をやるにしても一つ問題が……」

「あン?」

 

振り向き視線を向けてくる四ツ谷に、梳はそれを口にする。

 

「テレビはここにあるから良しとして、肝心の怪異役の八雲さんに着せる衣装はどうするんですか?」

「あ」

 

梳のその指摘に、うっかりしてたとばかりに四ツ谷は声を漏らす。

先ほど、四ツ谷の言った白い洋服も、黒い長髪のカツラも、当然ながらこの会館には一つも無かったのである。

それに気づいた四ツ谷は一瞬考えるそぶりを見せると、もう一度、紫の方へと目を向ける。しかし――。

 

「……何ですか?言っときますけど、こっちで用意なんてしませんから」

「まァ、そう言うなって。どの道、怪異が創られないと困るのはそっちも同じだろう。なら、ここで拒むのは得策じゃない、そうだろ?」

 

へそを曲げてプイッとそっぽを向く紫に、四ツ谷はまぁまぁと両手を上下に振りながら宥める様にそう響く。その顔は不気味に笑っていたが。

そして今度は自身の胸の前に両手を合わせて見せると、続けて口を開く。

 

「なぁ、頼むぜ。何だったらさっきの事は謝るし、これで貸し借り無しでもいいから、な?このとぉ~~り!」

 

四ツ谷はそう言って両手を合わせたまま深く頭を下げる。

 

「……なによ、さっきまで偉そうだったのに、途端にへりくだって……」

 

横目で四ツ谷を見ながらぶつぶつと文句を垂れる紫であったが、やがて大きくため息をつくと、横に立つ藍に声をかけた。

 

「藍」

「……よろしいのですか、紫様?」

「仕方ないわ。彼の言う通り、怪異ができないとこっちだって困るのは明白だもの」

「ヒヒッ♪助かる」

 

紫と藍の会話を聞いて頭を下げたままそう響く四ツ谷に、紫はジト目で四ツ谷を見下ろした。

 

「……終始、その()()()()()()()()()()()()()()頭を下げられてもかえって気分が悪いだけですわよ四ツ谷さん。……気づいてないと思いで?」

「ありゃ、バレてたか」

 

そう言って頭を上げた四ツ谷の顔は、頭を下げる前と変わらない不気味な笑みが浮かんでいた。

こちらが断れないことを見越しての確信犯的な四ツ谷のその態度に、紫は一瞬、ムスッとした表情を浮かべるもすぐに再び大きなため息をついて藍に視線を送る。

その視線の意図を察した藍はすぐさま頷くと、懐から一枚のお札を取り出し、それを紫の頭上に向けて軽く投げた。

するとお札は、紫の頭の上で突然ボフン!と音を鳴らし、大量の煙を出して破裂すると、その煙が紫の全身をすっぽりと覆い隠してみせた。

そして数秒の時が立ってゆっくりと煙が晴れると――。

 

「ほぉ……」

「わぁ……」

 

四ツ谷とその隣に立っていた梳は、短く感嘆の声を上げた。

煙が晴れてそこに佇む紫は、先程とはまるで別人の容姿をしていた。

金色だった髪と瞳は黒へと変化しており、髪は腰まであるストレートロングに、洋服もさっきまでの紫のドレスから真っ白な長袖ワンピースへと早変わりしていたのだ。

顔立ちや体形は元のままであったが、それでも、映画で見たことのある『彼女』の容姿に限りなく近くなっていたのは間違いなかった。

 

「……こんな感じでいかがですか?四ツ谷さん」

 

ワンピースの裾をつまんでそう問いかける紫に、四ツ谷は満足そうに頷く。

 

「ヒッヒッヒ!上出来だ!」

「当然だ」

 

四ツ谷の気分よさげなその返答に、紫の横に立つ藍が当たり前だと言わんばかりに短くそう零していた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そして、時間軸は現在へと戻り、ひとしきり説明を終えた紫は、目の前で黙って聞いていた霊夢と魔理沙に向けて、続けて口を開く。

 

「……と、言うわけで、後は貴女たちでも想像つくでしょ?子供たちの保護者である親たちに『最恐の怪談』を聞いてもらい、それで『彼女』を生み出した私たちは、『彼女』を使って子供たちを片っ端から『更生』させていったってわけ。前もって保護者伝いでさりげなく子供たちに()()()()()()()()()()()()()()()()()を刷り込ませといてね」

「……なるほどねぇ、色々と合点がいったわよ。私たちに異変の事伝えず、むしろ蚊帳の外にしたのも、私たちじゃどうしようもないと踏ん切りをつけたからね?」

「そう言う事。流石の貴女たちでも、年端もいかない子供たちに向けて弾幕をかますって訳にもいかないでしょ?」

「むぅ……」

 

チラリと新たに生まれたずぶ濡れ女の怪異を横目に見ながら、霊夢の問いかけに紫はあっさりとそう答え、その答えが気に入らないのか、魔理沙が低く唸った。

そして短い沈黙の後、霊夢は観念したかのような小さなため息をつくと、両手を腰に当てて紫に声をかけた。

 

「……わかったわよ。確かに、話で聞く限り、今回は私たちの出る幕は無かったっぽいし、このままこの怪談馬鹿に任せてればこの異変も片付くんだったら、私もこれ以上とやかく言うつもりないわよ」

「そう、それはよかったわ♪」

 

ニッコリと満足そうにそう言う紫に、霊夢はわずかに目を細めると、立て続けに言葉を紡いだ。

 

「……ただ、紫。一つだけ言わせてもらってもいいかしら?」

「おう、私からも一言いいか?」

「……?何かしら?」

 

霊夢のそれに便乗するかのように魔理沙も声を上げる。この上何を言いたのかと紫は首をかしげる。

そんな紫の前で、霊夢と魔理沙はお互いの顔を見合わせると、再び紫へと目を向け――。

 

――そして、呆れた顔を浮かばせながら、紫に向けて同時に口を開いた。

 

 

 

 

「「……この怪談馬鹿(コイツ)の口車に乗せられて怪異に仕立て上げられてんじゃないわよ(ねぇよ)、妖怪『賢者』」」

「――――クゥッ!」

 

二人のその指摘に、紫はぐぅの音も出なかった――。




最新話投稿です。

いやぁ、遅れて本当にすみません。
最新話の難産+仕事の多忙+最近買ったばかりの新しいPCが不調を起こして修理に出していたのが重なって、約三ヶ月もの間、投稿が止まっていたのをここにお詫び申し上げます。
ですが、それだけ時間ができたのもあってか、またもや一万字越えとあいなりましたw

それはそうとして、いよいよ次回が今章の最後になります。
次回もまたよろしくお願いいたしますw

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