霊夢と華扇は人里で情報収集するも、何故かここ最近の一件が無かった事とされており、二人は手詰まり状態となる。
偶然、魔理沙と会った直後、霊夢たちは人里に紛れ込むろくろ首と遭遇する。
「緘口令ですって!?何で人里に!?一体誰が!!?」
赤蛮奇からの思いがけないその事実に霊夢は半ば慌てて彼女に詰め寄った。
霊夢のその迫力に眼を白黒させながらも、赤蛮奇はそれに答える。
「だ、誰って……稗田の当主だって言うあの人間の嬢ちゃんとワーハクタクの先生ですよ」
「阿求と慧音が!?」
魔理沙が確認するかのようにそう叫び、赤蛮奇は頷いて見せた。
そして続けて口を開く。
「……どうも、
「私たちにも?何でよ!?」
「し、知りませんよ!」
霊夢がさらに噛み付くも、赤蛮奇は両手で彼女を制しながらそう叫び返した。
そこで今まで思案顔で黙っていた華扇が、赤蛮奇に問いかける。
「貴女は、よく知ってるわね。そういう情報」
「え?そりゃあ、基本妖怪と言っても、私はこの人里でそれなりに長く
「へぇ……」
赤蛮奇のその返答に華扇は眼を細める。その口元は僅かにつり上がっていた。
そして次に魔理沙が赤蛮奇に詰め寄る。
「オイ、他になんか知らないのか?この人里で起こっている事について何か」
「残念ながら私もこれ以上の事は何も」
あっさりとそう首を振ってもう何も無いと答える赤蛮奇。
すると、大通りの方から野太い男の声が聞こえてきた。
「お
「……やっば、和菓子屋のご主人だ。……それじゃあお三方、私への疑いも質問も無くなったみたいなのでこれで失礼させてもらいますね」
そう言い残すと踵を返して足早にその場を去り始める赤蛮奇。そしてその背中を見ながら、華扇は霊夢に何事か小さく耳打する。
それを聞いた霊夢は小さくニヤリと笑うと、去っていく赤蛮奇との距離を一瞬で詰めると、その襟首をむんずと捕まえた。
「グエッ!?……な、何ですか、まだ何か?」
首が無いというのに、霊夢に掴まれたショックで軽く息が詰まった赤蛮奇は、恨めしげな目で霊夢へと振り返る。
するとそこには、何とも不気味な笑みを浮かべる霊夢の顔があった。
「…………」
それを見た瞬間、嫌な予感を覚えた赤蛮奇は、血の気の引いた顔を引きつらせた。
赤蛮奇の心境を知ってか知らずか、霊夢はその妖しい笑顔を浮かばせながら、赤蛮奇の耳元で囁くように言う。
「……アンタ、人里では割と顔が広いのよね?……だったら――」
「――今から私の『犬』になりなさい」
――その夜、人里のとある民家。
深夜の、シンと静まり返った真っ暗な家の中で、仄かに光が漏れている部屋が一室在った――。
その部屋の中には、十歳前後の丸刈りの少年がおり、虚ろな目で先程から何事かを一人ブツブツと呟いていた。
「良し……行け……そこだ……。もうすぐ……もうすぐだ……ここで、とどめだ……」
そんな事を一人で呟き続ける少年。すると――。
――……ザ……ザザッ……!……ザザザザ…………!
「……?何だ……?」
――ザザザッ……!ザーザッ……!ザザザザザザザ……!
「おい、何だよ!今良い所だったのに!」
――ザザザザザザザ……ザザザザ……ザザッ……ザーッザザザザザ…………!
「ふざけるなよ速く直れよ!壊れたのか!?おい、早くしろよ!!」
バンバンと、少年が
――ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ……!!
「何なんだよこれ!?おい、早く
瞳に狂気を宿した少年は憤怒の形相で怒鳴り散らしながら腕を上げる。その瞬間――。
――ザザッ…………ザ………ザ………………。
「ようやく直……何だ……これ……?」
――ザザ……ザ……。
「何で……こんなのが、
――……ザ……ザザ……。
「何なんだよ!俺が見たいのはこんなんじゃ……?…………………、何か……
――ザ……ザザザ……。
「……な……何だよ……何なんだよこれ?!」
――……ザ…………ザ…………………ザザッ……!
「ま……まさか……!……昨日、母さんが言ってた
先ほどまでの憤怒の形相が嘘のように消え去り、代わりに恐怖で顔を真っ青にした少年がそう呟いた……。
その、およそ一分後――。
「-----------------------ッッッ!!!!」
少年の声にならない悲鳴が家の中に大きく響き渡った――。
――翌日の夕方。
博麗神社の居間にて、霊夢、魔理沙、華扇の三人が座っており、そして、ちゃぶ台を挟んでその三人の前には、ムスッとした仏頂面の赤蛮奇の姿もあった。
人里で売り子をやっていた時の着物姿ではなく、今は普段着である青いリボンに赤いマントとスカート、黒の洋服を纏っている。
そんな赤蛮奇の態度を気にする事無く、霊夢はのほほんとした顔で彼女に声をかける。
「いらっしゃい、赤蛮奇。……それで?頼んでいた情報収集の方は収穫あったのかしら?」
「『頼んでた』?人里では人間だと思われている私に否が応無く『力で脅して』情報収集させたの間違いではないのですか?」
ふて腐れたように赤蛮奇は、霊夢にそう言い返した。
先日、霊夢たちと別れる時。赤蛮奇は霊夢に人里での顔の広さに目をつけられ、彼女に代わりに人里での情報収集をやらされていたのだ。
半ば無理矢理使いっぱしりにされたので、赤蛮奇の機嫌はすこぶる悪い。
しかし、そんな赤蛮奇の態度も何処吹く風で、霊夢はジッと赤蛮奇を見つめて口を開く。
「屁理屈言っている暇があるんなら、あんたが持ってきた情報をさっさとここにぶちまけなさいよ。そうすれば、アンタは晴れてお役御免で自由になれるんだから」
赤蛮奇もジッと霊夢を見据えるも、彼女も確かにここで意固地に口を閉ざすよりも、さっさと話して帰った方がマシだと考えたのか、盛大に大きなため息をつくと霊夢たちに向き直り、真剣な顔で言葉を紡ぎ始める。
「……正直、あまり気乗りしなかった役目ですけれど……段々とそうも言ってられなくなりましたよ」
「……どう言う事?」
眉根を寄せてそう問いかける霊夢に、赤蛮奇は身を乗り出しながら真顔で霊夢たちに続けて口を開いた。
「今回の一件、無関係な私ですら異常としか思えず、見て見ぬふりができなくなってきましたから――」
「五件!?昨晩だけで五件、
バンッと、ちゃぶ台を両手で叩きながら、華扇が興奮した面持ちで赤蛮奇にそう叫んでいた。
傍らに座る霊夢と魔理沙も険しい顔つきで赤蛮奇を見つめる。
そんな視線を一身に受けながら、赤蛮奇は頷いた。
「……私の知る限りでは、ですがね。ほら、私って妖怪ですから、本来は夜が行動する時間帯なんですよ。……霊夢さんたちと分かれた後、仕事を終わらせて夜の人里で情報収集を行っていたんですがね……そしたら――」
そう言って赤蛮奇はその時の事をゆっくりと話し始めた――。
半ば無理矢理とは言え、一応真面目に情報収集を行っていた赤蛮奇は、その足でふらりと民家が密集する区画を訪れていた。
時刻は深夜になっており、周囲の民家は明かり一つ漏れている家は何処にも無かった。
さすがに今の時間帯じゃ無理か、と諦めて繁華街の方へと足を運ぼうとした時――。
「-----------------------ッッッ!!!!」
「!?」
唐突に近い所から絹を裂くような悲鳴が上がり、赤蛮奇は何事かとその悲鳴のした方へと半ば衝動的に駆け出していた。
件の悲鳴が上がったとおもしき家は直ぐに見つかった。
近くにあった民家を囲む垣根越しに、家の中から泣きじゃくる男の子の声とそれをあやす母親らしき会話が聞こえてきたからだ。
「うぅ……ふぇ、ふぇぇん!母さぁん!!」
「あらあら、全くどうしたのこの子ったら」
赤蛮奇はすぐさま自らの頭を飛ばし、垣根を飛び越えて家の庭先にふわりと下りた。
そして、庭に生えている木々の隙間から家の様子をうかがう。
すると庭に面した縁側の廊下に、俯いて目元をこする丸刈りの少年と少年の母親らしき女性の姿があった。
少年はむせび泣きながらも、嗚咽にまみれた声で必死で母親に伝えようと口を開く。
「……か、母さん……!あの……
「幽霊?お化け?……そんなの、何処にも見当たらないわよ。……可愛そうに、きっと悪い夢でも見たのよ」
「ひぐっ…………夢……?」
「そう、悪い夢よ……。
少年の背中を摩りながら、女性は優しくそう諭す。
しばらくそうしていた二人は、やがて女性の寝室らしき部屋へと少年を連れて行った。
どうやら、母親の女性の部屋で一緒に寝る事になったらしい。
親子二人が赤蛮奇の視界から消え、その場には赤蛮奇(首だけ)が残った。
夜の帳と虫の泣く声。それに赤蛮奇は違和感を覚えた。
(……妙に静かね)
そう思った彼女は頭を身体の方へと戻すと、周囲にある家々に視線を巡らす。
どの家も火が消えたようにシンと静まり返っている。
先程少年があれほど大きな悲鳴を上げたのにも拘らず、騒ぎ所か明かりが着いた家すら見当たらない。
(……どうなってるの?まさか全員が全員、熟睡してて気づいていないとか?)
首をかしげる赤蛮奇。すると次の瞬間――。
「-----------------------ッッッ!!!!」
「……!!」
再び別の方向から別の人間の悲鳴が上がる。
距離からしてまた近場だと気づいた赤蛮奇は再び無意識に駆け出していた――。
「――で、それを計五回、繰り返したって訳ですよ」
「「「…………」」」
一通りの説明を終えた赤蛮奇を前に、霊夢たちは沈黙する。
それに構わず赤蛮奇は、言葉を続けた。
「……最初はただの偶然だと思ったんですけど、周りに響くほどの
「……ちょっと待って。子供の、悲鳴……?悲鳴を上げたのは、
華扇のその問いに、赤蛮奇は素直に頷く。
「ええ、そうですよ?私が見た悲鳴を上げた子供たちは、全員十歳前後の子供たちでした。……寺子屋に通っていそうな」
「寺子屋……」
そう響く霊夢の脳裏に、寺子屋の女教師、上白沢慧音の顔が浮かんだ。
そして、彼女のその背後に……
思案顔になる霊夢であったが、その間も赤蛮奇の話は続いていた。
「でも、この話……これで終りじゃないんですよ」
「何?まだ続きがあるのか?」
赤蛮奇の言葉に魔理沙がそう反応する。
それを見た赤蛮奇は再び話し始めた。
「……その翌日、つまり今日の朝の事なんですけれどね。私が仕事で例の和菓子屋の前で水撒きをしていた時、悲鳴を上げていたその子供たちが、
「……?それがどうしたって言うんだ?」
首をかしげる魔理沙に、赤蛮奇は口を開く。
「いや、おかしいですよ。昨晩、怖い目に会ったはずの子たちが、家に篭らず登校しているんですよ?……しかも、その子供たち全員が、寺子屋所か
「なんですって!?」
眼を見開く霊夢に、華扇は確認するように赤蛮奇に問いかける。
「昨晩、悲鳴を上げた子供たちは全員、外で見かけなくなっていた子供たちだったの?」
「そうですよ?ちなみに、貴女が一昨日見たって言う娘さんもそうです。でも、今はちゃんと寺子屋に通っているのを見ましたよ」
「……!」
赤蛮奇の言葉に華扇は眼を丸くする。
「……どう言う事だ?今の今まで外で姿を見せていなかったガキ共が、その恐怖体験をきっかけにして以前の元の生活に戻ったって言うのか?」
「……それが何なのかが気になる所ね。その子供たちは確実にこの一件で大きな変化があったのは間違いないわ」
魔理沙と華扇が続けざまにそう呟き、それを黙って聞いていた霊夢が、確認するように赤蛮奇に声をかける。
「……さっきアンタ、こう言ったわよね?『丸刈りの少年が幽霊だかお化けだかを見たのを聞いた』って」
「ええ。母親には夢だって一蹴されちゃってましたけどね」
「……じゃあさ、聞いたことない?ここ最近、新しく生まれた噂。例えば……『怪談』、とか」
霊夢のその問いに、横から華扇が割って入る。
「ちょっと霊夢。新しい怪談が流れていないのは、先日私が調べているって言ったでしょ?」
しかし、この直後、赤蛮奇の言葉がその場を一瞬凍りつかせた――。
「怪談……?……ああ、ありましたよ。新しい怪談の噂」
「「「…………。……!?」」」
質問した霊夢を含めた三人が赤蛮奇のその返答に固まる。
「まぁ、と言ってもその怪談の噂が流れているのは、人里内でも
「どう言うこと!?詳しく話しなさい!!」
涼しい顔でそう呟く赤蛮奇を前に、ちゃぶ台をバンッと叩いた霊夢がそう叫んでいた――。
最新話投稿です。
数週間も待たせてしまい申し訳ありません。
この話から怒涛のネタバレが始まります。
勘が良い人は、この話だけで一体何が起こっているのか大体察した方がいるかもしれません。