四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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始めましての方は始めまして。
お久しぶりの方ははお久しぶりです。
NARUTOでの二次小説の投稿を一先ず止め、また新たに違う作品を書かせていただきました。
真に勝手かとは思いますが、この作品を見て楽しんでいただければ嬉しい限りでございます。


序幕

一人の、男がいた――。

 

 

 

怪談を愛し、他者の悲鳴を大いに好む……変わった男がいた――。

 

 

 

彼は『怪談を創る』ことに情熱を注ぎ、創り上げたその怪談を持ってして何人もの人間を恐怖と悲鳴の渦へ巻き込んでいった。

そして怪談に執着するあまり、ついには()()()()をも怪談に仕立て上げてしまい。生身の人間のまま、彼は怪異の存在へとなり、人々から噂されるようになったのだった――。

 

だが、怪異になったからと言って彼は普通の人間に変わりははく、年をとるにしたがって彼の怪談に対する活動も徐々に衰退していった。

それと同時に彼が今まで築きあげてきたオリジナルの怪談も人々から少しずつ忘れ去られていくこととなる。

 

高齢者となり、身体が思うように動かなくなってしまい、ベッド生活を送るようになってしまった彼にはもう怪談を創る気力も体力もほとんどなくなってしまっていた。

しかし、怪談と他者の悲鳴に対する愛着だけは決して弱まることはなかった――。

 

意識が深い闇に落ちる直前、彼は心の底から願う。

 

次に生まれ変われるのなら、また新しい怪談と悲鳴を生み出していきたいと――。

 

 

 

 

 

 

所変わってここは幻想郷――。

魑魅魍魎が跋扈する外界から結界で隔離された隠れ里――。

その幻想郷の端っこに小さな神社が立てられている。名は『博麗神社』。外と幻想郷を隔てる博麗大結界を代々管理する巫女が住む神社。

 

その現在の巫女である博麗霊夢(はくれいれいむ)はいつもの日課である朝の境内の掃除をするために、竹箒片手にその日も神社から外に出た。

初夏の空気をいっぱいに吸って、すがすがしい気持ちで掃除を開始しようと一歩踏み出し――その動きをすぐに止めた。

 

神社に置かれている賽銭箱。それに寄りかかるようにして誰かが眠っていたのだ。

怪訝に思いながら霊夢はその男に近づく。

見た目、黒髪長身の若い男、それ以外では外の世界の人間が着るような服に身を包んでいるだけのどこにでもいる普通の男に見えた。

 

(外来人?……いや、それにしたってこの気配は……?)

 

静かに寝息を立てるその男を観察しながら、霊夢は持っていた竹箒の先っちょで男の頬をグリグリと突っついた。

 

「ぐほっ!?誰だ人の永眠を妨げる奴は!?」

「あ、起きた」

 

霊夢によって無理やり覚醒された男はゆるゆると身体を起こすと、大きく間延びをする。

そして眠気がすっかりなくなった眼で辺りをきょろきょろと見回し、驚きに眼を丸くする。

 

「……どこだここは?……あの世、なのか?」

「なんだ、あんたあの世に行きたかったの?なら三途の川までなら案内してやってもいいわ。くれるモノくれればだけど」

 

そう言って霊夢は親指と人差し指で輪を作ってそれを男の目の前に突きつけた。

それを男は軽くスルーし、今度は足元に眼を落とす。そして再び驚愕。

 

「な、なんだこの体は!?」

 

男は今の自分の姿を見て驚いていた。それもそのはず、男はさっきまで白髪の高齢老人の姿だったのだ。

それが怪談を創っていた最盛期の肉体に戻っており、しかもご丁寧なことに服装もその当時普段着同様に着こなしていた中学の制服の姿になっていたのだ。

動揺しながら自分の身体を触りまくる男に霊夢はじとりとした眼で声をかける。

 

「ちょっと。お金も何もくれないならどっか行ってくれる?私忙しいのよ」

 

そう言って霊夢は竹箒を肩に乗せ、もう片方の手でシッシと男を追い払うような仕草をした後、男から離れようとする。

そこに慌てて男が声をかける。

 

「待ってくれ。ここがどこだか知ってるなら教えてくれ」

「なんだ、やっぱり外から来たのね。……ここは『幻想郷』よ。人と異形が共存する理想郷」

「!?……幻想郷、だと……?ここが……?」

 

呆然と響きながら男は空を見上げ、反対に霊夢は眉根を寄せた。

 

(反応が妙ね……幻想郷のことを知ってる……?)

 

再び怪訝な表情で男を見つめる霊夢。その視線を受けながら男は顔を俯かせるも、次の瞬間にはバッと顔を上げて空に向かって高々に笑い声を上げた。

 

「ひゃーーーーっはっはっはっはっはっはぁっ!!!そうかそうか、ここがっ!!ここが俺が()()()()()()()()()()と願っていた幻想郷かぁ!!素晴しい、素晴しいぞこれは!…夢?幻?何でもいい!!今事実として俺は幻想郷の地に立っている!!それだけで湧き上がるこの高揚感!!嬉しくて頭がおかしくなりそうだ!!」

(もうおかしくなってんじゃないの!?)

 

狂ったように笑う男を見てドン引きする霊夢だったが、ため息を一つ吐くといまだ笑い続ける男に鋭い口調で声をかける。

 

「いい加減早く出てってくれないかしら。じゃなきゃ神社にあだ名す()()として髪の毛一本残さず滅してやるわよ?」

 

懐から一枚のお札を取り出しながら霊夢は男に殺気を含ませた言葉をかける。しかし意外にも男が見せた反応はきょとんとした表情(モノ)だった。

 

「妖怪?何を言ってる、俺は人間だぞ?」

「人間ですって?馬鹿言わないで。確かに姿は人間だけど、あんたから出てる気配は明らかに人外のモノよ。……でもまあ妖怪って言うにも少し違う感じがするわね。例えるなら以前起こった『都市伝説異変』で現れた都市伝説の怪異らの気配に近いかしら?」

「何だと?」

 

それを聞き、男は再び自分の身体に目を落とす。

そして何か考え込む仕草をすると、腑に落ちた表情を携えて顔を上げた。

 

「……なるほど、そう言うことか」

「何一人で納得してんのよ」

 

首をかしげる霊夢に対し、男は手で制す。

 

「いや良い。こっちの問題だからな。……それより今更だが、あんた名前は?」

「……博麗霊夢。この幻想郷の博麗大結界を管理する楽園の素敵な巫女よ。覚えておきなさい。……あんたは?」

「四ツ谷文太郎。怪談と他人の悲鳴を何よりも好む、ただの変人さ♪」

「自分で言うことそれ?」

「ヒヒッ……さて霊夢。俺はこの幻想郷で第二の生活を始めようと思うが、よろしいか?」

「あっそう。面倒事起こさないって言うなら好きにすれば良いわ。何かやらかしたときはすぐに私が飛んできてあんたを袋叩きにするだけよ」

「怖っ!?」

 

こうして怪談と悲鳴をこよなく愛する男――四ツ谷文太郎の幻想郷を舞台とした第二の生活が幕を開けた。この後彼が巻き起こす奇妙な出来事がいくつも生まれることとなるのだが、それはこの場にいる博麗の巫女や四ツ谷本人でさえもまだ知らない――。




次の話も早めに投稿します。

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