Crucify My Love ~イノセント・ブルー~ 作:SPIRIT
原作:スクールデイズ
タグ:残酷な描写 SchoolDays スクールデイズ 流血描写あり 微グロ注意 二次創作 西園寺世界 桂言葉 伊藤誠 批評募集 シリアス 青春 学園 IFストーリー スクイズ
それだけにTV版School Daysを見た人でないと、ストーリーが分かりにくいかも。
多少流血シーンがありますが、どうかご勘弁ください。
タイトルの『Crucify My Love』は、
『私の愛を磔刑にして殺して』
という意味です。
ちなみにPixiv,mixiにも載せています。
この小説のテーマ曲を勝手に選んでしまいました。
X JAPAN『Crucify my Love:https://www.youtube.com/watch?v=CjyITdG92ZE』
対訳も表示されるので、歌詞の意味がすぐ分かります。
これを聴きながらこの小説を読むと雰囲気が増すかも。
「ひどいよ!! ひどいよ!! 自分だけ、桂さんと幸せになろうなんて!!!」
西園寺世界は、伊藤誠を殺した。
思い人を、殺した。
自分が信じられなかった。
自分も死のうと思った。
明かりをつけない、暗い自分の部屋。
気がつけば、誠を手にかけた包丁で、何度も手の甲に切り傷をつけていた。
手の甲は、ひっかき傷のような白い粉を吹いた後、赤い血がどんどん流れていく。
それをキズバンで抑え、何度も白い包帯で巻いた。
と、その時、聞き覚えのある着信音がなってくる。
誠からの、着信音だ。
『屋上で待ってる』
メールの差出人は、誠……登録したままになってたアドレスと同じ、彼の携帯から発信されていたものだった、
誰が……あんなメールを……
誠は……多分もう、あんなメールを打てる状態じゃない。彼を刺した時の感覚が、世界の手には生々しく残っていた。
じゃあ、いったい誰が……
世界が思い当たるのは、たった1人しかいなかった。1人しかいない。
世界は着替えるのももどかしく、慌てて榊野学園の屋上に駆け付けた。誠の家へ行ったときに来た制服のままで、返り血もそのまま、ピンク色のフェイクファーコートに隠した。
さらにその中には、ポケットに入れたままの包丁がある。
天文部部長である世界は、夜警に「星空を観察したい」とうそを言って、すぐに学校屋上のカギを取ることができた。
榊野学園、屋上。
かつて恋人の伊藤誠と、かつての友人だった桂言葉。
この2人と一緒に、しばしば昼食をとっていた場所だった。
同時に、伊藤誠と一緒にホテル代わりに利用していた場所。
しかしその場所は、かつてのように明るくなく、ただ満月が薄暗く屋上全体を照らしていた。
傍らのベンチの上に、一つのバッグが置かれている。黒い肩掛けバック。
世界が近づくと、女の声がした。
「病院、行キマシタカ?」
「!」
世界が振り返ると、いつの間に忍び寄ってきたのか、桂言葉が俯き加減で立っていた。
かつて自分の紹介で、伊藤誠に恋人として引き合わせた人物。
しかし誠の気持ちが自分になびき、関係を持っているうちに、やがて自分と相容れない存在になっていた。
そんな彼女の表情は、髪や影に隠れて見えないが、左手に何か……携帯らしいものを握りしめているのはわかった。
警戒して身構える世界の前で、言葉は身動き一つせずに淡々と口を開く。
「イイオ医者サンナンデスヨ」
「……行ってない?」
「ドウシテデスカ?」
「貴方に紹介してもらった病院なんか、行かない!」
自分から誠だけじゃなく、すべてを取り上げようとした。
そう悟ると、言葉のことも許せそうになかった。
その時初めて、言葉はゆっくりと顔を上げた。
泣いているわけでも、怒りを露骨に表してもいなかったが、目だけがひどく暗いまなざしをしているように見えた。
「ウソ、ダカラデスヨネ」
「!?」
「誠君ノ気ヲ引クタメニ、赤チャンガデキタナンテ嘘ツイタンデスモノネ」
「違うっ!!」
あまりにも冷徹で、淡々とした口調だ。でもどうしてこんな子にそんなことを決め付けられなくてはいけないのか?このお腹には何度も誠と愛し合った証拠を感じている。
「何ガ違ウンデスカ?」
「私は本当にっ!!」
「ダッタラ、チャント病院デ見セラレルハズデスヨネ」
診せられなかったんじゃない。
何されるかわからなくて、怖くて診せられなかっただけ……。
「ソレニ―」世界の思いを遮るように、言葉が次の言を告げた。「西園寺サンガ、誠君ノ子供ヲ産メルワケ、ナイジャナイデスカ。誠君ノ彼女ハ、私ナンデスカラ」
自信のある声だった。世界は否定したかった。全力で、否定してやりたかった。
しかし――――
誠は最期まで、自分のことを彼女とは、恋人とは呼んでくれなかった。
彼が恋人と呼んだのは、言葉だけだった。
「誠君は私の彼女」と言われた瞬間、世界の心の奥から悔しさと怒りがマグマのようにこみ上げ、目に塩辛い涙があふれてきた。
「私だって……」世界はたまらずに叫んだ。「私だって誠の彼女になりたかった!! それだけなのにっ! ずっと我慢して、誠のしたいことしただけなのに、何で!? どうして!!?」
泣いて覚める悪夢なら、今すぐ覚めてほしい。
それでも、言葉の目には光がなく冷たい。冷徹に、言った。
「誠君ナラ……ココニイマスヨ……聞イテミタラドウデスカ?」
なぜ……?
誠は、自分が殺して、もういないはずなのに。
ふいと傍らのベンチにある、黒いバックが気になった。修学旅行で使いそうな、黒い肩掛けバック。
好奇心と怖いもの見たさが半々の気持ちで、世界はおそるおそるバックの中をあける。
その中にあったのは―――
「!! う…っ!! ぐ…っ! ゲホッゲホッ!!」
かっと目が見開かれたままの、変わり果てた恋人の頭部だった。
たまらずに世界は腹のものを吐き出した。返り血と涙と嘔吐物で、顔も服もドロドロになった。
「西園寺サンノ言ッテルコト……」
「はあ……はあ……」
世界が呼吸を整えながら立ち上がると、言葉が何かの包みを開けながら、世界を見据えた。
その目は酷く冷たく、無機質な光を帯びていた。
言葉の右手には、すでに誰かの血で赤黒く染まったレザーソーが世界に向けて刃を向けていた。
「本当カドウカ、確カメサセテクダサイ」
いうが早いか、言葉は世界へ駆け寄った。
世界が気付いた時には、すぐそばで言葉が冷たい微笑みを浮かべ―――
世界がとっさに取り出した包丁は、手首をつかまれ取り落とされていた。
いつもの引っ込み思案で、弱弱しい言葉とは思えなかった。
世界の首筋に、鋸があてられていた。
言葉は一息つくと、すでに誰かの血で赤黒く染まった鋸の刃を引き、世界の首筋を切った―――
が、その前、一瞬。
空いていた世界の左手が、まるで吸い込まれるかのように、言葉の鋸の刃に向かっていった。
むろん、目にもとまらぬ速さである。
バシッ!
自分でもなぜこんな力があるのかわからなかったが、鋸が世界の頸動脈を切る前に、世界の左手は思いっきり言葉のレザーソーを弾き飛ばしていた。
のこぎりが宙を舞い、ネットフェンスに激突する。
唖然とする言葉。
すかさず世界は左手で地面に落ちた包丁を取り、言葉に突進した。
ドンッ!
世界が我に返ると、桂言葉は彼女の左肩の上で、頭を垂れて事切れていた。
突き立てた包丁は急所を貫いたらしく、赤黒い血が噴水のようにあふれ、彼女が買ったばかりのピンクのフェイクファーコートの袖を赤く濡らしていた。
ちらりと肩のあたりを見ると、言葉の目は先ほどと同じく光がないまま、半分閉ざされていた。
世界の膝ががくがくがくがくと震え、やがて力を失い、地面につく。
手にあった鮮血まみれの包丁が、言葉の体に刺さったまま、離れる。
2人も、殺した。
恋人と、かつての友人を。
「あ……あ……」
しばらく呆然としていた世界だが、なぜか、急にばかばかしい思いが心の奥底から急に吹き上がり、
「ふ……ふふふ……ふふふふふ……あはははははは……あはははははははははははっ……」
夜空を見上げ、思いっきり声をあげて笑い始めていた。
これは夢だ。ばかげた悪夢なんだ。泣いて覚めない夢なら、笑えば覚めるかもしれないではないか。
「あはははははははははははっ……あはははははははははははっ……あはははははははははははっ……!!」
満月だけが輝く夜空に、声をあげて、空を震わせるような声で笑っていた。
しかし、空に響く声はあまりにも虚ろで、また、両の目からは涙がとめどなくあふれていた。
無限に長い時のように思えた。
泣いても笑っても、目が覚めなかった。
夢ではなく、現実だった。
いつものような榊野学園の屋上の景色。殺風景なネットフェンスとコンクリートの床、ボイラー。
ただ一つ違うのは、頭部だけになった思い人と、かつては友人だった、しかし今は相容れない仲の人間の死体があるということ。
世界は泣き止むと、体を振って言葉の遺体を地面に落とす。
コトンと音がした。
左手の平の切り傷の痛みも感じず、ゆっくりと近づいて、先ほどの黒いカバンの中にある頭部だけになった誠を、両腕を使って抱え上げた。
かっと見開かれた生気のない目を、右人差し指と中指を使って閉ざす。
先ほどあまりにもおぞましく、思わず嘔吐してしまった思い人の頭部だが、今は非常にいとおしく感じられた。
思いっきり胸に抱きしめていた。
なんと変わり果てた姿になってしまったことか。
「ごめんね……ごめんね……」
成人男子の頭部は5キロ以上あると、彼女もどこかで聞いていたような気がする。
しかし思い人の頭部はそれに加えて、それ以外の何かで重くなっているような気がした。
「私も……そばに行くから……」
頭部を黒い肩掛けバッグにしまい込むと、それをたすきのように肩にかけ、世界はネットフェンスに手をかけてよじ登り始めた。
フェンスを乗り越え、再び誠の頭部を両手で抱えて立ち、下を見てみる。
いつもの茶色いグラウンドはなく、黒洞々たる闇があるばかり。
急に冬の北風が、世界の頬に容赦なく直撃した。
高所から落ちて死ぬとき、痛みはどれくらいなんだろう。どれだけ苦しんで死ぬんだろう。
その思いが頭をよぎった。世界は一瞬、ためらった。
きつく目をつむりながら、誠の頭部を思いっきり抱きしめた。
すると胸から、死者とは思えないぬくもりがとくとくと伝わってくる。
世界は思わず目を開け、その温かい感触に、じんわりした感銘を受ける。
「誠……こんな私を、温めてくれるんだ。
そうだ。
貴方となら、怖くない……
きっと私も、貴方も、桂さんが行く場所に召されることはできない。
だから……。
堕ちた先で会えると思う。
待っていて……」
微笑んで再び目を閉じ、やがて前に倒れこむように、暗闇に身を躍らせた。
翌朝、冬にしては妙に晴れている中。
榊野学園の校庭は、沢山の生徒たちと、ぎらつく赤い光を周囲にまき散らす物々しい救急車とで大いににぎわっていた。
1人の女子生徒が、恋人であった男子生徒の頭部を抱えて、屋上から投身自殺をしていたのだ。
さらに屋上には、その娘の恋敵であった女子生徒の、包丁が刺さったままの無残な姿が発見されていた。
「どうして……どうしてこんなことに……」
世界の友人であった黒田光は、両鼻から鼻水、口から涎が流れているのにも気にせず、声をあげて泣いていた。
傍らにいる、同じく友人の甘露寺七海は、これだけのことがありながら、いや、これだけのことがあったからこそ落ち着いている。
人間、一定以上の突拍子もないことが起きると、かえって無感動になるらしい。
「世界は伊藤のことが好きだったみたいだけど、伊藤は桂を彼女にしようとしていたからね。憎しみで思わず2人とも殺してしまったらしい」
七海は、自分でも驚くくらい冷静になっている。
西園寺世界の遺体は、白い布にくるまれて、2人の救急隊員に白い担架で運ばれていた。
「待ってください!」光が救急隊員に詰め寄る。「世界、どうなっちゃったんですか?」
答えも待たずに、光は布をまくり上げて、友人の亡骸を見てみた。
が、
「う……ぐっ!! がはっ! がはっ……!!」
彼女が大事そうに抱えているものを直に見てしまい、光は思わず吐きそうになった。
世界に内緒で自身も関係を持っていた少年の、変わり果てた頭部がそこにあった。
「なんで……なんでそのままになっているのよ……」
「死後硬直で、救急隊員も引き離せなかったそうだ」
七海は暗い声で言った。
隣にいる世界の母は、ただひたすらに顔を隠して、声を殺して泣き続けている。
七海は誠の頭部を見ないようにしながら布を一部元に戻し、世界の顔を凝視した。
「世界……こんなことになったのに……なんで笑っているの……?」
西園寺世界の顔は、まるで童話の眠れる森の少女のように、目を閉じたまま微笑みを浮かべていた。
あの世で、思い人と結ばれたから。
終わり
あとがき
ストーリー・キーワードは『もしTV版School Daysのラストシーンで、桂言葉ではなく西園寺世界が生き残っていたら』。
前々から気になっていたのですが、見終えて何年もたってから非常に頭の中の想像が実り始めてきていたので、描いてみることにしました。(結構小説版『School Days ~イノセントブルー~』を地の文を書くうえで参考にしています』)
その時言葉の精神は完全に狂気に染まっていたけれど(台詞を全部カタカナにしたのはそれを強調するため)、世界は正気であった、というイメージがあったもので。
ただ2人とも、まして気が狂うほどに愛した人間を手にかけた者の精神としては、このまま警察に逮捕されるより、愛する人のいるあの世に行きたいと思うほうが自然かなと感じ、このような結末にいたしました。
世界が投身自殺をするときに、誠の首が入ったバッグをたすき掛けにしたというのは、数キロもある成人男子の頭部を持って女の子がネットフェンスをよじ登る場合、それしか自然な方法がないと思ったんですね。
他にあらかじめ首を向こうのほうに投げて、それからフェンスを越えるという方法も考えたのですが、おそらくかなりシュールな描写になると思ってやめました。
(スポーツジムで数キロのダンベルを持ってみていろいろ想像したんですけどね。)
『死後硬直で恋人同士の体が離れられない』というのはもともと渡辺淳一の小説『失楽園』にあったのですが、School Daysの狂気的な愛にはうってつけと思っていたので、取り入れることにしました。というより、『狂気的な愛』というキーワードでは両作品とも共通すると思ったので。
『眠れる森の少女』という描写はTHE虎舞竜の『ロード』から。
こっちも恋人の死がメインテーマでしたね。
個人的に残念だったのは『世界が妊娠していた』ことを地の文で明らかにできなかったこと。
僕個人としては、彼女は妊娠していたという前提で描いていたんだけど(さもなければ世界が浮かばれない)、妊娠したばかりの人間がそうであるかどうかを調べるには、血液検査をしてみないとわからないみたいなんですね。
つまり妊娠した女性が投身自殺した場合、病院で検査してみないとわからないということ。
もう1つは、この時に海外に行っていた清浦刹那を登場させられなかったこと。
このとき彼女はフランスにいたから、惨劇を知ったのはかなり後で、形見分けも野辺送りも、おそらくできなかったのではないかと思われます。
この小説のタイトル、『Crucify My Love』は、『この愛を磔刑にして殺して』という意味で、同タイトルのX JAPANの曲からとったものです。
元々は1992年のロス暴動を悼み人種愛を歌ったものですが、この歌の歌詞にある
「Crucify my love,If my love is blind」
すなわち
『私の愛が盲目だというのならば、磔刑にして殺して』というくだりがTV版School Daysにぴったりだと思ったので、タイトルに選び取ることにしました。
(最初は『悲しみのむこうへ』というタイトルだったけど。)
TV版School Daysを見た人にだけ向けた、気軽な戯作として描いたのですが、印象に残ってくれるとありがたいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。