おまたせしました、シスイ伝五話です。
この回の冒頭の主人公とフガクさんのやりとりを書きたいがためにイタチをTSさせたといっても、ほぼ過言ではない(笑)
そしてあの人登場。この話のタイトルは「うちはシスイ憑依伝」であって「転生伝」ではないのだ。
最後にはおまけに大人主人公のパロメーターと設定があったりしますが、少しでもお楽しみいただけたら幸いに存じます。
次回で最終回、どうかよろしければまだおつきあいくださいませ。
前略、天国のお母さん、お父さん、そして若くして命を散らした多くの友たちよ。元気に過ごしていますか。
この世界で生きてきて約15年。命の危機を感じなかった時のほうが少ないくらいなのですが、それでもピンチです。……もしかしたら、オレ、今日中にそちらに行くことになるのかもしれません。
ふふふふ……オレ、絶対今死んだ魚みたいな目しているよ。
ああ、やだやだ、どうしようかね。まだ、やることはたくさんあるってのに、何も成せていないのに死ぬのは勘弁してほしいんだけどな……。
……いや、現実逃避したところで何も変わらないんだけどさ。
「それで、シスイ君、何か言いたいことはあるか?」
目の前にいるのは、あぐらをかいた上に腕を組み、ゴゴゴゴッとまるで黒くドロドロの炎みたいなチャクラもとい殺気を吹き上げつつ、眼光鋭く正座で体を縮こませているオレを見下ろしてくるうちはフガクさんの姿。
流石は腐っても警務部隊の隊長、殺気怖ぇーーー!
ていうか、比喩じゃなくてリアル般若化していると思うのは、きっとオレの気のせいではないだろう。
「いや、あの、そのですね……」
敵に殺気を叩き付けられているのは慣れているから平気なオレも、この人の前では思わずしどろもどろだ。
「……シスイ君?」
あの、笑顔怖いです、はい。
……さて、なんでこんなことになったのかとりあえず回想してみようと思う。
といっても、多分想像はつくことだとは思うんだが。
昨晩、オレは任務帰りにイタチの元へとやってきた。
それは特に理由があってした行動というわけではなく、なんとなく最近会ってなかったイタチの顔が見たくなって、気づいたら無意識に足が向いていたのだ。
そこで問題だったのが、丁度オレは完徹4日目で、眠気とか疲労とかが色々限界だったこと。
オレはイタチに部屋に招かれるまま、促されるままにあいつの布団でイタチと一夜を共にしてしまったのだ。
勿論エロい意味ではない。
そもそもオレはイタチのことは可愛いと思っているし、大好きだがあくまで妹分として庇護対象としてしか見ていないし、そもオレにロリコン趣味はない。12歳などオレにとっては子供である。オレにとってはそんな未発達な体をした相手に、欲情出来る奴の精神構造のほうがよっぽどわからん。
が、あくまでそれはオレから見た見解である。
父親であるフガクさんから見たそれはまた別の話だ。
しかも、だ。
間が悪いというか、どう考えてもオレが悪いんだろうけど、今朝フガクさんによって見られた光景がこれまたまずかった。
―――――確かにオレは寝る前はイタチとは同じ布団でも、背中合わせに寝ていたはずなのだ。
オレは本当にイタチにそんな気ないけど、なんだかんだいってこの世界のイタチは女の子なわけだし、オレがイタチに対してやましい気持ちを持っていたりするんじゃないかと勘違いさせちゃいけないよなって、スキンシップは多くてもオレは誤解させないよう極力気をつけていた。
ところが、今朝方、夜明けの気配に目が覚めてみたら、なんとオレはギュウッと手を前に回して、イタチの体をすっぽり抱きかかえていたではないか。
我がことながらなんでこうなっているのかわからず、オレは混乱して暫し固まった。起きたら目の前に、イタチの白い首と黒髪があるんだもの、そりゃ驚くだろ。
なんでこんなことになってるんだよ。ちょっと、待てあれひょっとして抱き枕か。寝ぼけてイタチを抱き枕かなんかとでも思ったのかオレ。
いや、暖かくてちっさくて良い匂いして抱き心地良いけど! てか、いつの間に抱きしめていたんだよ、本当。それで途中で全く気づかず朝を迎えるとかどんだけ深く寝てたんだよ、オレ。疲れてたのか、そんなに疲れてたのか!? いや、疲れすぎてて男の生理現象であるアレが起きなかったのは不幸中の幸いだったけど。うわ、一生の不覚だ!
そんなツッコミを自分に入れてみるが後の祭りである。起こした行動ってのは今更無かったことには出来ないのだ。そして、オレにどうやら一晩中抱きしめられていたらしいイタチはといえば……。
「シスイ……その、起きたのなら、離してもらえないかな」
珍しく……というべきか、そのいつもなら無表情に近いミコトさんによく似た美貌を、羞恥にほんのりと赤く染めて、ちらりと横目でオレを見つつ、これまた珍しくどこか狼狽えたような、躊躇いがちの歯切れの悪いそんな声でそんな言葉を言ったのだイタチは。
いつもなら、そんなふうに珍しく赤面するイタチを見たら「可愛いなあ」とか兄貴分の感慨として思うんだが、なにせ今回はイタチが顔を赤らめているシチュエーションがシチュエーションである。オレはイタチのそんな反応に益々固まった。
思考停止である。イヤ、マジでどうしたらいいのかわからない。
これは一体なんの試練だと言うのだろうか。
イタチは良い匂いするし、腕の中にジャストサイズだし、柔らかいし、暖かいし、歳に似合わぬ大人びた美人顔だし、でもイタチだし、まだ子供だし、珍しく頬赤らめているし、でもオレの腕から無理矢理逃れようとかはしてないし、ていうか離してくれって口でいうわりに大人しいし、え? 何この状況?
ど、ど、ど、どどど、どうすれば!?
思わず、たじろいで腕を動かすと、変なところに当たったのかイタチはピクリと肩を揺らして、「……んッ」と、ほんのり鼻に抜けるような声を漏らした。小さな蚊の鳴くような声だったが、密接していて距離が近いせいか声の振動からして直に伝わってくるようだった。
だーーー、変な声出すのやめて、マジやめて。そんな気なくてもなんかおかしな気分になるから! つか歳のわりに低い擦れ声がちょっと色っぽいとか不覚にも思っちまったじゃねえか。
落ち着け、オレ。本当、マジ落ち着けオレ。
相手はイタチだぞ、ていうか、子供。まだ12歳の子供! しかも妹みたいにずっと思ってきた相手! オレは、オレはロリコンじゃねえーーー!!!
すずやトーニャよりも刀子さん派だし、綾波やアスカより断然ミサトさん、NARUTOでいうなら紅さんがオレのジャスティスなんだ! ヒナタやサクラは可愛いとは思うけど、あくまで庇護対象です! いや、確かにイタチは大人びているけどさ、それでもあと5年、いや早熟だからそれ含んでも3年は早いわ-! じゃなくて、おおい、何考えてんのオレ!? だから、イタチは妹分だっつーの!
落ち着けオレ。クールだ、冷静になるんだ。
相手は子供、相手はイタチ。まだ初潮を迎えているかどうかさえ怪しいおガキ様。絹糸みたいな長く真っ直ぐな黒髪が白い首筋に数筋垂れているのがなんか色っぽいとか気のせいだ! 変な感想でイタチを汚すんじゃない、オレ。この世に妹に欲情する兄貴などいない。いないったらいない。いたら変態だ!
そしてよし、なんとか落ち着いてきた、このまま何事もないようにイタチを離そうと決意したその時、なんというタイミングだろうか、ガラリと音を立て、無情にもこの家の主の手によってイタチの部屋の扉は開けられたのだった。
「……そこで娘に何をしている?」
その、むっつりと普段から顰められているフガクさんの顔は、いつも以上に、青筋立ててこめかみをひくつかせていた。
さて、今の状況を客観的に考えてみよう。
娘の部屋に男がいる。その男は背中からすっぽりと娘を抱きしめている。娘は特に抵抗していない。しかも彼女は普段あまり感情を表に出さないというのに、今は珍しくも赤面して俯いている。出されている布団は一組だけ。娘と男は布団の中だ。服の乱れこそないけど、誰だってここまで状況が揃えば、誤解しないはずがない。
寧ろ、男と女が一つの布団で寝ていて誤解しないほうがおかしい。
どう考えても、オレ不逞の輩です、本当に有り難うございます。
……オレ、オワタ。
* * *
「いや、だから、ですからね、本当に誤解なんですって。神や先祖に誓って、イタチに手を出したりしていません! 信じてください!!」
とりあえずオレは土下座姿勢のまま、必死に誤解を解くことにした。クソ、泣きたい。まだA級任務に連続勤務のほうがマシだぞ、これ。
いや、そりゃね、オレがフガクさんの立場でもきっと怒るからね、気持ちはわかるんだけど、だけど、本当に手を出してなんていないし、そもそもオレロリコンじゃないしね!?
そんな風に脂汗をダラダラかきながら、頭を地面すれすれまで下げて弁明するオレを見かねてだろう。当事者の1人であるイタチは「父さん、シスイ兄さんは……」とフォローしようとだろう、言葉を躊躇いがちにかけるが、それをフガクさんは「イタチ、お前は黙っていろ」の一言で遮った。
うん、デスヨネー。
「本当に、手を出していないというのだな?」
嘘は許さんといわんばかりのオーラを身に纏って、ドスのきいた声で尋ねるフガクさん。
これはチャンスとばかりに、間髪入れず言葉を返すオレ。
「当たり前です。そもそもイタチはまだ12歳のガキですよ!? まだ身体もまともに出来上がっていない子供相手に手出す筈ないでしょう!? ていうか、どう考えても3年は早いっていうか、子供相手になんか思ったりするわけないじゃないですか!? 子供に手出したいと思うのは変態だけですよ!?」
そう、ここぞとばかりに身の潔白と思いの丈を叫んでみたのだが……。
フガクさんはブルブルと肩を震わせたかと思えば、次にクワリと鬼の形相になって、雷のような声で怒鳴りつけた。
「うちの娘は、そんなに手を出す価値すらないほどに、魅力がないと言うつもりかーーー!!」
えええ!? 手出してないっていったのに、それはそれで超怒ったーーー!?
って、寅の印!? ちょ、おま、こんなところでそんなもん使うなよ!? ぎゃーーー!
その後、止めに入ったイタチとミコトさんの2人によってオレは一命を取り留めた。助かった、一時はどうなることかと思ったぜ……。
いや、その気になったらオレでもフガクさんは止められるけどさ……なにせこの件で悪いのはオレ。不逞の輩はオレってなわけで、こっちは弁明する立場だし、反撃なんぞ出来ないわけよ。かといって瞬身で逃げたり、幻術かけてお茶を濁すわけにもいかないしさ。もうドキドキですよ。
そしてその後、仲良くオレ達は朝食を囲むことになった。尚、現時刻は朝の7時半である。
サスケはイタチの部屋でオレが一晩泊まったことは幸い知らないので、サスケからのオレに対する敵意はいつもぐらいであるわけだが、もしもオレがイタチの部屋に昨晩泊まったことを知っていたら、多分フガクさんだけでなく、サスケも激怒したんだろうななんてことを思う。……それにしてもこのタクアン美味いなあ。
そうしてボリボリとタクアンを貪るオレを前にして、ミコトさんはクスッと綺麗に笑って、オレに話しかけてきた。
「ねえ、シスイ君」
「ん? なんですか、ミコトさん」
ああ、それにしても本当このタクアン美味い。
「いっそのこと、うちで暮らす?」
「ぶーーー!?」
オレはとっさに吹き出した口元をティッシュで覆った。無駄に目にもとまらぬ早業である。それにサスケが「うるさいっ」とオレを睨み付けつつ言い出すわけだが、そんなこと構っていられる心境じゃない。
「母さん……!?」
珍しくも、イタチも驚きの声を上げている。
「だってシスイ君はいずれうちの子になるんだし、ねえ、イタチもそれでいいでしょ?」
「そんなの駄目だ! 姉さんはオレのなんだからな!」
そこで誰よりも真っ先に非難の声を上げたのは、ハイパーシスコン、サスケだった。ていうか、自分の姉を自分の物扱いするってどんだけ?
「ね、あなたもいいでしょ?」
「う……うむ。そうだな」
フガクさんは歯切れ悪く妻の言葉に同意する。
って、うむじゃねええ!!
え!? あんた今朝イタチがオレに手出されたんじゃないのかって、殺気まで出して迫ってきたよね!? 今朝火遁の術をまわりを見ずに放つほどに、オレに対して怒っていたよね!? ちょ、どうなったんだよ。今朝の親ばか頑固親父なアンタはどこにいったんだ。なんでイタチとの結婚前提なのにオレが住むことを肯定してんだよ。
「ね、シスイ君」
「え、いや、ちょ、その、そんなこと突然言われても困りますっていうか、なんていうか……ちょ、ほら、イタチもなんか言ってやってくれよ」
ていうか当事者を置いてけぼりにして話を進めないでくれ。そもそも確かに名義上婚約者同士だけど、別にオレとイタチの間に恋情があるってわけでもないんだし。
そう思いオレは焦りながら、おそらく味方だろうもう1人の当事者であるイタチのほうへと振り向いたわけだが……。
「…………え、ああ……」
あれ? イタチの反応がえらく薄い……? ていうか、もしかしてぼんやりしている? え、イタチがぼんやりしているとかかなりレアなんですけど、心ここにあらずって感じだし、どうしたんだ?
「皆が良いなら私はそれでいいと思います」
イタチは静かな口調でそんな言葉を言うけれど……。
いやいや、ミコトさんがオレをこの家に住ませようとしている理由考えたら、良くはないだろ。お前に関わる問題だぞ?
と、思うがどこかぼんやりとしたイタチを見ているとツッコム気にもなれなかった。
そして食事も終わりを迎え、次にフガクさんから告げられたのは思わぬ言葉だった。
「イタチが15を迎えたとき、2人の婚姻を行う。これは家長としての決定だ」
……どういうことだ?
確かに、イタチとオレは婚約者ということになっている。だが、こんな具体的なこと、今まで言い出すことはなかった。今までずっとオレとイタチは名前だけの許嫁だったのだ。
「2人ともいいな」
威厳のある声で、うちはフガクは言う。
その家長の決定にサスケは一瞬文句を言おうとしていたけれど、父の眼光に負けてびくりと肩を震わせ、結局は言わなかった。イタチもまた、静かに父の決定を受け入れている。何を考えているのか、ただ静かに俯いていた。
女の子にとって結婚って結構重要なことだと思うんだが、何も思わないんだろうか? イタチと婚約者であることに対して、イタチに好きなやつが出来るまでの足かけ婚約であり、イタチをオレが守ってやる口実くらいにしか思っていなかったオレとしては、そんなイタチに戸惑う。ずっと、兄妹同然で育ったんだ。オレがそうであるように、イタチもまたオレに恋愛感情を抱いているとはとても思えないんだが……。
そして、イタチは席を立ち、次にサスケとミコトさんが席を立ち、残されたのはオレとフガクさんだけになった。
だから、オレは尋ねた。
「どういうおつもりですか」
「……」
フガクさんは何も答えず、広い背をオレに向けてただ立っている。
「貴方は、何故急にこんなことを……」
「シスイ君、そういえば君はいくつになるんだったか」
そのオレの追求を遮るように、フガクさんはそんな質問をオレに投げかけた。わけがわからぬままにオレは答える。
「18ですけど」
「……そうか。もうそんなになるのか。思えば、君だけだったな。イタチのことを、なんの躊躇いも戸惑いもなく、子供として扱ってきたのは……」
その声は、その言葉は、まるで若き日を懐かしむ年寄りのような言葉で……。
「フガクさん?」
「……アレの才能を知って尚、イタチに自然体として接したのは君だけだった……」
ポツリ、ポツリと溢される独り言めいた其れは、まるでどこかに消えてしまいそうな……。
何か、オレは、見落としてはいないか?
「……イタチを頼む」
どこか張り詰めたような、思い詰めたような声でフガクさんはそう締めくくる。
それに、言葉では説明できないイヤな予感が背筋を走る。
ゾワゾワと、言葉に出来ない、何かが掛け違えられたような、そんな……予感。
「フガクさん……?」
それきり男は答えない。しかし、その広い背中は、それ以上の追求をただ拒んでいた。
そんなやりとりから数ヶ月が過ぎた。
まるであの日のことは幻かなにかだったかのように、次に会ったときにはフガクさんはいつも通りに戻っていた。けれど、あの日が夢ではなかった証拠のように、3年後のオレとイタチの結婚に纏わる話が、当事者であるオレとイタチそっちのけで進められ、オレは苦笑しつつものらりくらりと躱している。
尚、イタチはあの晩オレがイタチの仕事を代行していることの言質を取ったからか、次第にオレ宛てにイタチが受ける任務が入ってくることは無くなり、オレは他の上忍並には非番の日が回ってくるようになった。多分イタチのほうから止めるよう進言したのだろう。
オレ自身の生活は相変わらずだ。
担当上忍として下忍三人組の世話を焼いたり、時には宿題として修行や課題を課してやったり、一族の会合に出ては強硬派と合いも変わらず口論を繰り広げ、穏健派のみんなが強硬派に傾かないように説得と根回しを続けたり、非番の日はイタチやサスケの元に遊びに行ったり、時々アカデミーに教員代行として幻術について教えに行ったり、ガキ共に懐かれて夕方まで付き合わされたり。
そんな日常を送っている。
そんなある日のことだった。
その日はアカデミーへの出張講師としての仕事しか入っていなく、割と早くに任務を終え、纏わり付いてくるガキ共の相手を適当に終わらせてから悠々と自宅に向かって歩いていた。明日は非番である。
鍛えている身だし、この身体の基礎能力は高いとはいえ、ガキ共の相手は気疲れもする。うーんと肩をまわせばパキパキと小気味の良い音が鳴った。
さて、今晩は何を食うか。そんなことを考えながら歩いている時、ふと目の前の公園にいるそれに気づいたのだ。
そう、それは間違いようがない。金色の髪、ヒゲのような頬の三本線、オレンジの服に身を包んだサスケと同じ年頃の男の子。
……ナルトだ。
うずまきナルトが1人夕方の公園へと取り残されていた。
他の子供達は皆親の迎えを受けたのだろう。次々と親と共に帰っていく。そんな中でヒソヒソと聞こえる声。
「イヤだわ……例の子よ」
「……さっさと死ねばいいのに」
ナルトはブランコに1人身を預けて、俯いている。その手はぎゅっと握られていて、震えているのがわかった。
……聞こえているのだ。
やがて、無責任な陰口を叩いた保護者達は己の子を連れて出て行った。
もうナルト以外誰も残っていない。
(あー……)
イヤなタイミングに出くわしたなと思う。
正直、オレはナルトを救う気なんてなかった。
そりゃそうだ、俺の手はイタチやサスケなど少数の人間だけで塞がっているし、優先順位一位はとっくの昔に決まっているのだ。介入するほど余裕があるわけではない。それに、原作を見るかぎり、ナルトは放っておいてもそのうち救われることがわかっている。……まあ、オレの存在のせいで歴史がNARUTOとは変わった部分もあるかもしれないが、それでもナルト関連に置いてはそこまで変わるとは思えない。
(ああ、でもそういえば……)
……そうだった。
この世界では、ナルトのある意味1番の救いである筈のうみのイルカはナルトと同じ孤児なんかじゃない。
九尾襲撃の際、オレが別天神で九尾の縛りを早々に外したのもあって、イルカの父は死んだけれど、母は死ななかった。だから、今でもイルカは九尾事件の際に怪我の後遺症が残って忍びを辞めた母と一緒に暮らしている。
ということはやっぱり原作通りにはならないのかもしれないと、認識を直した。
だが、しかし、どちらにせよナルトの面倒までは見きれない。それに、ナルトには火影の暗部がつけられているはずだから、そこまで危険な目にあうことはないだろう。
だから、悪いけどナルトは見捨て…………。
「……って、ああ、もう、何やってんだ、オレは」
ガジガジと乱暴な仕草で己の頭を掻く。
ええい、馬鹿だ。オレは絶対馬鹿だ。
あんな風に目の前でこの世の終わりみたいな顔をしているガキがいて、放っておけるか!
クソ、見なきゃ良かったとか言ってももう遅い。オレは既に見ちまったんだよ、クソッ!
だったら、目の前で見捨てられるかよ。
任務中で、なおかつ相手が敵のガキだってんならいくらでも我慢出来るし、ナルトとイタチだったら絶対オレはイタチのほうを優先するけどな、泣きそうなガキを見て見てみないふりが出来るほど、生憎オレは人間辞めれてねえんだよ。
ズカズカと、そんな自分に対する苛立ちを混ぜながら音を立てて歩く。そして、ブランコに黄昏れながら1人取り残されているナルトの前へとオレは立った。
「おい、ガキンチョ」
「……なんだってばよ、なんで話しかけんだってばよ、あんた」
ナルトは原作の快活さが嘘のように、ビクリと身体を震わせたかと思うと、暗い表情と怯えを混ぜた声で言う。それに、オレはガリガリと再び頭をかくと、トンとナルトと目線の高さが合うように、身体を屈めた。
「なんでって言われてもなあ~……辛気くさい顔したガキがいるから、つい?」
いや、本当それ以外に答えようないんだよな、うん。
ナルトはそんなオレの言葉に「なんだよそれ」とつぶやくと、次に怯えた顔ではなく、不思議そうな顔をして言った。
「あんたは、オレを……って、言わないのか」
「……ん? よくわかんねえけど、言って欲しいのか」
そのオレの言葉に数秒ほど黙って、それからフルフルとナルトは頭を左右に振った。思わず、オレはナルトの頭をグシャグシャと撫でる。ガキの頭を撫でるのはオレのクセみたいなもんだ。特に何か理由があってしたわけじゃないけど、ナルトはそんなオレの行為に吃驚しつつも、嫌がってはいないようだった。
(参ったな、深入りはしたくねえんだけど)
……実はナルトに話しかけて、少し後悔し始めていたりはする。しかし、ここまで来てやめるわけにもいかんだろう。
「で、坊主、お前は帰らないのか」
その言葉に、ナルトははっと何かを思い出したような顔をして、プイとそっぽを向く。
「……どうせ、帰っても誰もいねェもん」
……改めて思うに、ナルトの境遇も結構酷いよな、これ。
「んじゃ坊主、今晩うち来るか」
「は?」
かけた言葉は半分無意識だが、まあここまで来ればあとは同じだ。
「実はよぉ、おにいさんも独り暮らしでな。1人で食う飯ってのもあじけねえもんだし、飯を作るなら1人も2人も変わりゃしねえし。旅は道連れ世は情けっていうし? ここで会ったのもなんかの縁だ。飯、喰いにこねえ? まあ、イヤなら強制はしねえけどな。どうせオレら会ったばっかだし、名前も知んねえし」
ナルトはそのオレの言葉にプルプルと再び頭を左右に振ってから、言った。
「……アンタ、知ってる。にいちゃん、うちはシスイって名前なんだろ」
「へ?」
思わぬナルトの言葉に今度はオレが固まった。そんなオレに向かって、にししと原作を思わせる笑みを浮かべてナルトは言う。
「もの凄い子供好きだって、アカデミーでは有名だってばよ」
……ああ、そういやこの時期既にナルトはアカデミーに入っているよね。サスケと同い年だしね。うん。っていうか、いつの間にそんなに有名になってたよ、オレは!? うわ、恥ずかしい。知らなかった。オレ、確かに臨時の幻術講師としてアカデミーに行くことはあるけどさ、教えているの上級生だけだぜ? なんで下級生のナルトが知ってんだよ。どんだけ有名なの?
「あー……ええと、オレは、別にそんな子供好きってほどじゃ、いや、その嫌いじゃないけどさ……」
思わずしどろもどろになって、視線を漂わせながら言う。そんなオレに対して、ナルトはにっこりと太陽のような笑顔を浮かべて、右手を差し出しながら言った。
「オレ、うずまきナルト! よろしくな、シスイのにいちゃん」
……やっぱりオレ、選択肢間違ったのかも知れない。
「へー、ここがにいちゃんの住まいかぁ」
ナルトはキョロキョロしながら、今はオレだけが住んでいる家を物珍しそうに眺めていた。
「こーら、あんまり人んちではしゃぐんじゃないっての」
オレはそんなナルトの頭をペチリと力を込めず軽く叩くと、「こっちだ」と先導する。それにナルトは「えへへへ」と凄く嬉しそうに笑って後に続いた。
因みにここまで来るのが大変だった。何せ、相手は暗部の護衛がついた九尾の人柱力である……が、それ以前の問題としてオレはうちは一族であり、うちは一族は一族以外に排他的な集団という問題があった。
なので、オレはまず、ナルトを家に呼ぶことに対して、すらすらと暗部の人間だったらわかるような極簡単な暗号で「ナルトは今晩預かっとくわ。問題発生したらちゃんと報告するので、火影様によろしく言っといて」と記して、ナルトが見ていない隙にナルトについている暗部に向かって文矢を投げて寄越し、うちはの集落に入る際は、出来るだけオレの影に隠しながら、「ちょっと任務で預かった子」と言い訳し、で家まで連れてきたのだ。正直、この時点で色々頭が痛い。
多分三代目のじいさんはこれまでの対応からして、オレを信用してくれているとは思うけど、他の上層部の中にはオレのことを疑っているやつもいるわけだからな、色々ひやひやである。
「なぁ、なぁ、そういやシスイのにいちゃん、何を作るんだ?」
「んー……作り置きのカレーがあるからそうだなあ。中華麺が丁度3袋くらい残ってたし、カレーラーメンでも作るか」
確か、ナルトはラーメン好きだったと思うし、これでいけるだろうと思ってしたオレの提案に対して、ナルトは不思議そうな顔をしてキョトリと首をかしげた。
「なぁ、カレーにラーメンって合うのか?」
「カレーうどんがあるんだから、カレーラーメンがあってもいいじゃん」
ドキッパリと言い切って、オレはナルトを居間に案内し、「ちょっと待ってろ」と声をかけて、カレー鍋に火をかける。続けて、もう一つ小さな鍋を用意して、お湯を沸騰させた。
それから10分と経たず、カレーラーメンが出来上がった。尚、ナルトの分に関しては、お子様の舌に合うようにカレーはミルクと少量の蜂蜜で割っておいた。ま、元から中辛なのでそこまで辛くはなかっただろうけどな、一応だ、一応。
「いただきます」
「いただきますだってばよ」
2人手を合わせて食事を始める。ナルトはズルズルと音を立てて麺を啜った。
「美味ぇ、美味いってばよ、シスイのにいちゃん!」
「そーか、そーか。良かったな、そりゃ」
「へへへ」
ナルトはニコニコと笑いながら、オレにとっては予想もしてなかった言葉を言った。
「アンタ、良い奴だな!」
……良い奴? オレが?
オレは、思わず箸を止めて、マジマジとナルトを見返して、それから苦虫を噛んだような声で言った。
「……別に、オレは良い奴でもなんでもねえよ。お前に声をかけたのだって、別に善意でもなんでもねえ。ただたんにオレがなんとなく放っておけなかったから、かけただけなんだよ。ただの気まぐれだ」
それはオレの本音だった。
「いいか、ナルト。別にお前だからオレは声をかけたわけじゃないんだからな、勘違いするなよ。多分こんなのこれっきりだ」
そう、冷たくさえ聞こえる声でオレは言った筈なのに、なのにナルトの奴は、そんなオレの反応なんか綺麗に無視をして、「うんうん、わかってるってばよ。あんたが良い人だってちゃんとオレわかってるってばよ」とかなんとか、自分の都合の良いことを言った。
「人の話聞いてるのかよ、てめえ……」
思わずガックリと肩を落とす。なんつうか、脱力するな、おい。いや、ナルトの頭脳だから仕方ないのか? オレも人のこと言えるほど立派なおつむしていないけどさ。
と、その時、ふとナルトが顔中をべたべたと汚していることに気づいた。ありゃ、やっちまったな、こいつ。カレーは染みになるんだよなあ。
「ちょっと、こっち向け、ナルト」
「ん? なんだってばよ? わっ、ぷ」
オレはぐいぐいと使い捨ての手ぬぐいでナルトの顔についたカレーを拭う。
「全く、そんなに音を立てて啜るからだ。もうちっと上品に食え、上品に。ていうか、服にもついたし、洗濯しとくからそれ食ったら風呂行けよ。あとで、オレのガキの頃着てた服出しておくけど、デザインと服の大きさの文句までは聞けねえからな……って、なんだよ」
見れば、ナルトはこれ以上ないってくらい破顔させていた。
「にしししし、うん、なんでもねえッ。にいちゃんは良い奴だなーって思っただけだってばよ」
「……だから、オレは別に良い奴じゃないんだって」
思わず再びガックリと肩を落とす。オレ、ただの自己中エゴイストなんだけどな。
……まあ、笑っているからいっか。ガキに目の前で泣かれるよりはずっといい。
と、その時よく知った気配が屋敷の敷地内に入ってきた。
「お、来客だな。悪いが、ナルト。風呂は後回しだ。このシャツやるから、とりあえず汚れたその服さっさと脱いで着替えとけ」
そう声をかけてオレは玄関へと向かった。客が誰かは既にわかっている。
「こんばんは」
そう声をかけたのは、やっぱりというべきか、イタチだった。なにやら手には黒い包みをもっている。
「おう、イタチ。どうしたんだ? ……って聞くまでもないか」
「ああ。母さんがシスイに差し入れだってさ。ところで、その子は……」
そういってイタチは、一見無表情な美貌の中に、少しの不思議そうな色を入れて背後に目線を送る。
……ああ、やっぱバレるよな、イタチには。ていうか、ナルト下手な尾行やめい。隠れているつもりで全然隠れてねえからな、お前。
オレはため息をつきつつ、言う。
「ナルト、出てきていいぞ」
そのオレの言葉を聞いて、吃驚した気配を漂わせつつ、許可が下りたからだろう、ナルトはぶかぶかのシャツを上半身に纏って、パタパタと走って現れた。
「なぁなぁ、シスイのにいちゃん。このねえちゃん誰だ? 凄く綺麗な人だってばよ」
「こらっ、人に名を尋ねるときは、自分から名乗ること。知りたいんならちゃんと自分で自己紹介くらいしろ」
その言葉と共に、軽くオレはナルトの頭にデコピンを1つ落とす。それを喰らったナルトはといえば、「いてっ」と口にしながらも、何が嬉しいのか「へへへっ」と笑っていた。
しかし、名前を人に尋ねる前に自分から名乗るのは基本だとオレは思っていたのだが、そういう常識くらいナルトに教えてなかったのか、三代目?
うーん、今更ながら、三代目を信用しすぎるのはまずいのかもしれない。
「オレさ、オレさ、うずまきナルトっていうんだ。なあ、ねえちゃんは?」
「そうか、君が……」
ふと、イタチの目に一瞬郷愁のような色が宿る。無理もないか。確かナルトの母親であるうずまきクシナと、イタチの母であるミコトさんは友人だったはずだ。きっとイタチ自身もナルトの母御さんとは面識があったのだろう。
しかし、流石はイタチというべきか、そんな一瞬の郷愁をあっという間に隠して、イタチは綺麗に笑みつつ、ナルトの頭を一撫でして言った。
「うちはイタチ。シスイとは一応婚約者ということになっている。よろしく頼む、ナルト君」
……イタチにしてはわりと柔らかい態度だなあ。やっぱりナルトがサスケと同い年だからか。
一方、イタチに撫でられたナルトといえば、なんだかちっさくてもいっちょまえに男ってことなんだろうか、頬を赤らめて、照れていた。
可愛い奴め。
「ところで、なんでナルト君がここに?」
「まあ、色々あって今夜は預かることになったみたいな?」
まさか、自分から預かること言い出したとかは流石に言えない。
「ところで、イタチはもう夕食はとったのか? 取ってないなら一緒に食おうぜ」
そうオレがイタチを誘うと、ナルトは不思議そうな顔をして「シスイのにいちゃん、さっき食べたばっかだってばよ?」とか言ってくるので、オレは「しょうがねえだろ、すぐ腹減る年頃なんだからよー」とわざとらしい拗ねた口調と仕草で言ってのけた。それを見て、イタチは上品に微笑む。
「そうだな。たまにはそうさせてもらおうかな」
そういって、イタチが靴を脱ごうとした時だった、トタトタと軽快な足音を立てて、第三の客人がやってきたのは。
「姉さんッ!」
やってきたのは、思った通りというべきか、やっぱりというべきか、まあどっちも一緒なんだけど、イタチの最愛の弟であるうちはサスケだった。
「姉さん、いつまでこっちにいるんだよ。早く帰ろう」
そんなことを言いながら、ぐいぐいとイタチの腕をひっぱる。そんなサスケにイタチは仄かに困ったような姉の顔を見せるも、あまり甘やかしてはいけないと思っているのだろう、「こら、サスケ。ここは家じゃないんだぞ」と額をデコツンして窘めた。因みにサスケがこういう時オレをスルーすることはいつものことである。
……うん、ここオレん家なんだけどな?
そんな中、1人この状況に取り残されている奴がいた。
「オマエ、いきなり来てなんだってばよ?」
いわずと知れたナルトである。そこで、漸く、サスケはナルトもここにいることに気づいたようだ。驚いた顔でナルトを見上げている。
「ん? あれオマエどっかで見たような……って、えー、あーーー! オマエ、サスケ、うちはサスケじゃねぇかってばよォ! あれ? でもお前ってばそんなキャラだっけ?」
「あ……? 誰だ、テメエ」
ポンと手を叩いて、思い出したといわんばかりに叫んだナルトとは対照的に、サスケはといえば、不機嫌丸出しのガラの悪さである。いつものことながら、こいつ、姉の前とその他大勢の前で態度違いすぎるだろ。全くなんでこんな子に育ってしまったのかね、おにいさん悲しい。イタチは礼儀正しくするときはちゃんと礼儀正しくできるのに。
「こら、サスケ。そんな態度は失礼だろう。ナルト君、君はサスケとはアカデミーでの?」
軽くサスケを小突きながらナルトへと問いを投げる、イタチ。それに対して、ムスッとサスケは面白くなさそうな不満げな顔をしているが、イタチの前だからだろう、サスケにしては大人しくしていた。
「ああ。知ってるけど……なぁ、もしかしてイタチのねえちゃんってばサスケの?」
「ああ、サスケの姉になる」
「オレの姉さんと気安く話すな、このウスラトンカチ!」
いや、お前導火線切れるの早すぎだろ、サスケ。
そしてそんな敵対心バリバリのサスケの態度にこっちも苛ついたのだろう、今まで比較的大人しくしていたナルトは「なんだとテメェコノヤロー!!」とこっちもプッチリキレて、サスケに向かって突撃していった。
「やんのか、ドベが!」
「うるせー、いつもクールぶって、お前なんかただの姉ちゃんッ子じゃねーかってんだよ、サスケェ!」
そして始まる、とっくみあいの喧嘩。
ああ、オマエラ平和ね。あ、うん。
とりあえず、チラリと隣のイタチを見てみるが、弟を溺愛しているイタチではあるのだが、同世代との喧嘩は寧ろ微笑ましく思っているのか、サスケとナルトの喧嘩を止める気はないようだ。まあ、だよね。この世代の男の子ってのは寧ろ喧嘩するほうが健全だわな。
……まあ、昔から早熟だったイタチとしては、同世代との喧嘩は色んな意味でありえないことだったから、喧嘩出来る弟がいることを羨みつつも嬉しく思ってたりするんだろうけど。
「とりあえず、時間かかりそうだし、家上がるか? この前そこのおばちゃんからうちは煎餅もらったんだ。食うだろ? あと、刻みキャベツも出すよ」
「そうだな……うん、そうする」
そういって、イタチとオレはそそくさと食卓へとついた。
そして、ナルトとサスケがボロボロになりつつ帰ってきたのは、その1時間後。基本的にやっぱりサスケのほうが有利なんだろう、どちらかというとナルトのほうがボロボロだったのだが、それでもナルトもやられっぱなしというわけでもなく、サスケにも青あざがいくつかあった。
「全く、オマエラなー、本当仲良いのな」
オレは呆れながら言う。それに揃って2人は同時に反発した。
「テメエ、その目は節穴か」
「シスイのにいちゃん、笑えない冗談だってばよ」
そういって、再び顔を合わせて、同時に「フンッ」といって互いに顔を背ける。漫才か。
「ったく、おい、オマエラ、用意はしておいたから、2人とも揃って風呂に行ってこい」
オレは呆れつつも、2人に着替えとタオルを投げつけるようにして渡しつつ言う。
「な、なんでオレがこんな奴と」
「シスイのにいちゃん、あんまりだってば、それ」
こういう時、オレが説得しても聞かないんだよな、特にサスケ。
「サスケ」
そんなオレの心の機微を呼んだのだろう、イタチが仕方ない弟だなと言わんばかりの口調で弟の名を呼ぶ。
「そんなドロドロの状態で帰って、母さんになんて言い訳する気だ?」
「……ッ」
その言葉にぐっとサスケは言葉につまった。
続けてイタチはナルトにぺこりと1度頭を下げて次のようなことを言う。
「ナルト君、出来の悪い弟ですまないが、サスケのこと頼む」
「ま、まあ、イタチのねえちゃんが言うなら……仕方ねえってばよ」
ナルトは、ぽりぽりと赤くなった頬を掻きつつそんな言葉を言った。
……なんて、鮮やかな手際なんだ、イタチ。恐ろしい奴だな、お前は。まあ、いいけどね。
そして20分後、風呂から上がったサスケとナルトの傷の手当ても済み、まったりとくつろぐオレ達だったわけなんだが、まだ小さいお子様には既にきつかったらしく、サスケもナルトもウトウトと眠りかけていた。
「まだまだ、ガキだな」
そんなオレの台詞に同意して、イタチは微笑む。
そういえば、最近イタチはよく笑うようになった。
とはいっても、比較の問題で、以前が笑わなさすぎただけなのかもしれないけど、でもそんなイタチの変化をオレは嬉しく思う。
とにかく、今夜はナルトはうちで預かると三代目には既に連絡済みだ。どうせオレは明日非番なんだし、泊まっていかれても問題はない。なので、オレは適当に余った来客用の布団を押し入れから取り出して、その上にナルトを寝かせた。
「うーん……むにゃむにゃ、もう食べれないってばよ……テウチのおっちゃん……」
「なんつう夢見てんだ、こいつ」
思わず苦笑しながら、ナルトの上に掛け布団をかける。
そして、イタチの背中ですっかり眠りについたサスケと、イタチを送るために家を出た。
「眠っていると可愛いのにな」
「サスケは起きてても可愛いけど」
「知ってるよ」
思わず苦笑して、サスケを背負うイタチを見る。イタチはサスケが起きている時はあまりあからさまには褒めないけど、本人のいない前では途端に弟馬鹿と化すのだ。
しかし、本当に幸せそうな顔をして寝ている。
「むにゃ……姉さ……」
「おーい、夢の中でまで呼ばれてるぞ? イタチ」
そんなサスケの反応とオレの言葉に、イタチはクスクスと笑った。
(嗚呼、これだ)
「シスイ……?」
ふと足を止めたオレを不思議に思ったのだろう、イタチもまた足をとめてオレを見る。その顔が意外にも年相応に幼い顔で、オレは思わず胸に暖かい気持ちが満ちるのを感じた。
「……やっぱり、オマエラは笑っているほうがいいよ」
その笑顔を、守りたいと思う。
「オレの夢、覚えているか」
その言葉を前に、イタチは瞳を伏せる。……誰が聞いているかわからないこんな場所で言っていいのかを迷っているような仕草。覚えていると見て、間違いないのだろう。
「あの誓いを嘘にする気はないんだ、オレは」
「……」
イタチは何も答えない。
「だから、オレは、お前を……いや、お前らを守るよ」
思い出すのは、今のうちはの状況。出来るかぎりオレは説得を重ねてきた。賛同者も増えてきた。根気よく何度でも、オレはうちはが武力をもって立ち上がることの愚かしさを説き続けてきた。だから、原作ではとっくに手遅れのこの時期になっても、まだうちはは完全にクーデター派へと傾いてはいない。
けれど、それでも漠然とした不安が消えることはなかった。
「たとえ……何があってもな」
「シスイ、あなたは……」
イタチはそんなオレの言葉に、何かを言い出そうとする。それはイタチにしては珍しく、焦燥のような色が混じっていた。けれど、その続きを言うこともなく、イタチは、何かを押し殺すような表情を一瞬宿して、それからどこか諦めたような声でポツリと言った。
「いや……やめておく。きっと、言ってもあなたには意味はない」
イタチが何を言おうとしたのか、結局オレにはわからなかった。
そして、この数日後、事件は起こる。
それはいつもの任務帰りの夜だった。
その夜は月1つなく、暗殺をするのならこれ以上うってつけの日はないだろう。そんな夜、音もなくそれは忍びより、そしてそのままターゲットの命を……。
「はっ、舐めんなよッ!」
……取ることは叶わなかった。
それは、原作を知っているからこそ回避出来た出来事。
いずれダンゾウがうちはシスイの写輪眼を狙い、襲ってくるだろうことは、この世界がNARUTOに連なる世界で、自分がうちはシスイになってしまった時からわかっていたことだった。
それでも、NARUTOに比べればその襲撃の時期は随分遅かったといえる。
その違いは、この世界ではNARUTO世界ほどうちはのクーデター論が進んでいなかったこともあるし、NARUTOのうちはシスイと違って、オレが万華鏡写輪眼を発眼していることは同じでも、それを周囲に知られないようにしてきたということがでかいのかもしれなかった。
それでも、オレがダンゾウに襲撃される可能性を忘れたことはない。
だからこそ、もしもの時に生き延びるために、幻術と瞬身の次に、気配の察知能力と回避能力を磨き続けてきたんだ。襲われるとしたら、任務帰りだろうから、1人で帰る夜に気を抜くことだけは殆どしたことがない。強いて言うなら、あの無意識に動いていた夜くらいのものか。そう考えると今考えてもあの時の無防備なオレにぞっとするもんだ。心底、あの時襲われなくて良かったと思う。
そして、オレは前を見る。そこには夜闇に隠れるようにして、4人ほどが潜んでいた。全て暗部の根に属するものたちである。
「っていうか、おいおい、ダンゾウの子飼いどもが皆様揃っておそろいで」
言いながらもひやりとする。正直言ってオレは火力があるほうではない。上忍になれたのも、戦闘力の高さを買われたのではなく、サポート能力の高さと、誰と組んでも大抵は上手く合わせられる汎用性を買われて選ばれた感が強かった。一対一で戦えばオレほど火力のない上忍なんてのはそうはいないだろう。
オレにとって、正面戦と多対一の戦いってのは鬼門そのものだ。
だからこそ、オレは……。
「ッ!? 待て、この」
煙幕を浴びせて逃げる。
そりゃもう一目散に逃げる。だってしょうがない、まともにやっても勝てないんだもの。
勝てない戦いに挑んで命を落とすほどオレはお人好しじゃねえのよ。
「待てーっ!」
「うるせえ! 待てと言われて待つ奴があるか! ていうか、テメーら、いい加減にしろ。なんでオレなんかを襲うのかしりゃしねえけど、三代目にチクッぞ、こら!!」
いいながら、オレは瞬身を多用しながら走る。へへん、オレに追いつけるやつなんて滅多にいねーんだよ、残念。スピードでオレに追いつきたかったら波風ミナトでも呼んでこいっての。いや、既に死んでいるけど。
オレは走る、ひた走る。やつらがうかつに動けないように人が多い場所を狙って、走った。それと同時に最近やっとこさなんとか覚えた影分身を使ったそれとの合流を目指す。
そしてオレは数分後奴らを完全に撒いて、自分の影分身と再会を果たした。
「よし、ちゃんと撮れたか?」
影分身は「ああ」と返事をしてそのネガをオレに渡す。そしてオレは影分身を解除した。
次の日の朝、オレは三代目の元へとやってきていた。
「おお、なんじゃシスイ」
三代目は相変わらず好々爺のような顔をして、煙管をふかしている。
そんな三代目に向かってオレはにっこりと笑い、バン、とその机の上に、昨日撮ったその写真をつきつけた。三代目が目を見開く。
そこには、オレに襲いかかる根の忍び達の姿写真があった。
「なんでか知らないんですけど、オレ、根に襲われたんですよねー」
にっこりと笑ってオレは言う。だが声は笑っていない。
「三代目、オレが襲われたことは他言しませんから、ダンゾウ、謹慎処分にしません?」
三代目は乾いて引きつった笑みを浮かべて1つ頷いた。
そして、実際にダンゾウの権威は以前より少し陰りを帯びるようになる。
……この時のオレのミスを言うのなら、それでうちはクーデター未遂事件のあらかたのことは片付いたと、そう早とちりをしてしまったことだろう。
そう、まだ何1つ解決などしていないのに、オレはこのオレが襲われた事件が、この時のオレの対応が却ってマイナスに進んでしまうなど思っていなかったのだ。
甘いとしか言いようがない。
オレは、木の葉警務部隊のことを、彼らの情報力を甘く、見過ぎていたのだ。
それを知ったのは、ダンゾウにオレが襲われた次の月の会合。
いつもの定期集会だと思った、それが誤解だった。
「なん……だって?」
「お前がダンゾウの手のものに襲われたことを知っていると、そういったんだ、シスイ」
そう答えたのは過激派の若い木の葉警務部隊員の男だった。
「身内が襲われたんだ! もう奴ら我慢出来ねえ!」
「今こそ、うちはが木の葉の上に立つ時だ!!」
「そうだ、そうだ! うちはの権威を取り戻し、示すのだ!」
何故だ、何故こんなことになる。
「おばちゃん、なあ、ウルチのおばちゃん、なんとか言ってやってくれ。こんなのは間違ってる、オレは……!」
思わず、穏健派であった煎餅屋のおばさんに懇願するようにして詰め寄る。しかし、いつも穏やかで優しかったウルチのおばちゃんは、小さい子を宥めるような声でこんなことを言ったのだ。
「あのね、シスイちゃん、あたしらは、あんたがそう言うから我慢し続けてきたのよ?」
その言葉に思わず固まった。
また、別に穏健派だったはずの雑貨屋のじいちゃんは言う。
「お前は、ワシらの希望じゃった。実権から遠離り続けてきたうちはじゃったが、しかしお前は色んな人に認められ、一族の垣根さえ越えて愛されておった。けれど、そんな万民に認められたお前さえ廃されようとされるんじゃ。なら、この先うちはにどんな希望があるという?」
何を、言ってるんだ。
「そんなこと、どうだっていいんだ! オレが狙われたことなんてどうでもいい。クーデターなんて、力で無理矢理奪った頂上の座に一体なんの意味があるっていうんだ!!」
「お前は何もわかっていない」
そんなオレの思いを切り捨てるかのように、フガクさんは言う。
「ことは既に、お前1人の問題ではないのだ。そう、これは……うちは全体の問題だ」
そういって、フガクさんはオレから視線を逸らした。
絶望に、目の前が黒く染まる錯覚を覚える。
オレは、駄目だったのか。
結局、回避など出来ないのか。
オレは……!
まだ、クーデターは始まらない。準備にも時間がかかるからと、皆は言う。
そして1人、また1人、帰って、残ったのはオレとフガクさんの2人だけだ。
イタチは、暗部の仕事があったからと今日の会合には居ない。いなくて、良かったと思う。
ああ、本当に良かった。
「……帰らないのか、シスイ君」
「…………1つ聞きたいことがあるんだ、うちはフガク」
そうやって吐き出すように出た声は、まるで自分の声とは思えないほどにドロドロとした感情を纏ってドス黒い。
「アンタは、自分の子供よりもメンツのほうが大事なのか」
僅かに空気が薙いだ気がした。
「アンタは、自分の娘や息子の幸せよりも、一族のメンツのほうが大事だっていうのか!!」
「……そうだ」
感情の宿らぬ声で、うちはの代表たる男は答えた。
「ッ! テメエ!!」
オレは思わず激情にかられるままに男の襟首を掴み上げ、その頬にむかってコブシをふりあげた。
馬乗りになったオレごと、うちはフガクは飛ぶ。頑なな態度はそのままに、抵抗はなかった。
何も答えぬ無表情。この顔はよく知っている。
そう、これはイタチが……。
「オレは、うちはフガクだ」
そう、男は言った。
「これがオレの選んだ道なのだ」
もう、胸にどす黒い激情はない。代わりに、あるのは奇妙な虚しさだ。
「……そうかよ」
「もう、殴らないのかね」
「ああ、意味なんて……ないからな」
そして、聞こえないほど小さな声でポツリとつぶやく。
「それに、オレは……所詮は同じ穴の狢だ」
道は1つに決まった。
オレは……。
* * *
気づけば、オレは暗闇を漂っていた。
それを見て、感じて、オレはこれが夢だと思った。
『?』
この感覚をオレは知っている。
以前にも覚えがある感覚だ。
そう、以前にもこんなことがあった。
あれはいつのことだったか。
そう、あれは……ああ、そうだ思い出した。
オレがこの世界にきたときだ。
ゴポリと、泡の音がした。
気づけばオレは底についていた。
そのまま、そのまるで海底を思わせる暗闇を歩く。
ひたひたと、ひたひたと。
本当に奇妙な感覚だ。
歩いているのか、泳いでいるのかさえ、フワフワとしてわかりやしない。
そして、オレはそこにたどり着いた。
誰かが座っている。
見覚えがある。
あれは、誰だ?
よく見た顔。毎日のように見る顔。
けれど、同じでどこまでも違う、貌。
“初めまして、というべきなんだろうな”
笑う、その男の名前は……。
『あ……』
“内田○○くん……?”
『あんたは……』
そう、それは―――――。
『うちは、シスイ……?』
オレの夢の中であるはずの暗闇の果て、そこにその男は……本物のうちはシスイであるはずの男はいた。
続く
というわけで、本物シスイさん(?)登場な第五話でした。
次回で最終回というわけで、1度ここで主人公についてとパロメーターについて纏めてみます。
うちはシスイ(憑依オリ主)18歳時点。(前世は享年27歳)
アカデミー卒業年齢:9歳 中忍昇格:11歳。上忍昇格:16歳前後。
身長177㎝ 体重59㎏
好きな食べ物:和菓子、タクアン。
嫌いな食べ物:納豆、なめこ。
好きな言葉:可愛いは正義。
趣味:子供の面倒見ること(←本人は否定)
忍:2,5 体:3 幻:5 賢:2,5 力:3,5 速:5 精:3,5 印:3
使える術。
一般的な幻術全般+写輪眼を使った幻術全般(術によっては指の動きだけで幻術に嵌めれるらしいい)
別天神。
瞬身の術。(ほぼレベルマックス)
高レベルの幻術返し。(幻術耐性が高すぎて、基本的に幻術にかかることがない)
アカデミーで習う術全般。
口寄せ(鳩)。
鳥分身。(5体くらいまでなら作れるようになったらしい)
火遁・豪火球の術。(第一部のサスケ並の威力)
火遁・龍火の術。
火遁・鳳仙火の術。(ただし、作れる火の玉の数はお察し)
金縛りの術。
影分身。(1体くらいしか作れない)
掌仙術。(威力:小)
毒薬の知識。(?)
相変わらず単体だと泣けるほどの火力不足っぷりだが、その分スピードと幻術がもの凄い厄介であり、主戦力ではなく、サポート役にまわすと鬼性能を発揮する。チームプレイヤー。
備考:何故か気づけばうちはシスイになっていた元日本人の青年。
前世の家族構成は20歳までは父、母、主人公、妹の4人、父母の死後は妹との2人。
中流階級の家に生まれ、何不自由なく育ち、顔も平凡で、運動も不得意で、勉強も苦手ではあったが、20歳くらいまでは家族に友人に恋人に恵まれていたリア充だった。
ところが、20歳の時両親へプレゼントした温泉旅行の際に父母を事故で亡くし、それから大学を中退して、彼女とも別れ、社会人として妹を養うためにも働き出した。
だが、なんの覚悟もなく両親をある日失ってしまった若かった彼には、胸にたまるものも多く、しかし妹に恰好悪い姿を見せるわけにはいかないと吐き出すこともせずに、それを全て笑顔で隠して、本人の許容量を超えて家庭と会社と社会で頑張り、そのことがきっかけで、年々精神的に病んでいき、ネットや漫画、アニメの世界に入るようになり、実際の人間関係や彼女を作るということがどんどん煩わしくなっていった末に惰性でオタク化した。なので、オタク歴自体は3年ほどと短い。だが、チャット友達の入れ知恵もあって、オタク知識は濃いんだが薄いんだかで、オタク歴短いわりに「転生小説」とかも知っていた。
根本的に子供好きの重度のシスコンであるため、実は彼が病んだ原因に妹の存在もあったんだが(当時20歳の遊び盛りの彼が丸ごと背負うには中学生の妹は重すぎた)、シスコンであるため認めることはない=本人が自分が病んでいることに気づくことはない。
妹のほうは主人公が年々病んでいくことに薄々気づいていたらしい。そのため、兄に対して「無理をしないで」と何度も忠告している。
主人公が表向きは明るく子供好きの世話好き兄ちゃんなのに病んでいることに気づいていたのは、前世の妹とイタチだけらしい。なので時々主人公はイタチを通して妹を見ている。
そしてシスイに転生後、「イタチを火影にする」という夢をもち、それを基本方針として掲げている。九尾の事件に関わったのも、どちらかといえばうちはオビトを始末するのが目的だった。その理由もまた、イタチを火影にするさいにどう考えてもオビトは障害になるからというものだったらしい。
本人は自覚していないし、テンプレタイプではないが、間違いなく彼はヤンデレである。
因みに前世で精神的に病んで以来、性欲が底辺に落ちているため、他人に恋愛感情を抱きにくくなっているが、精神的なものが原因であるため、多分精神が正常に戻ったら性欲も戻ると思われる。が、忍者なんて職業をして人の命を刈り続けるかぎり、彼の精神が正常に戻ることはまずない。
尚、子供好きではあるが、あくまで子供は庇護対象として大好きなだけであり、ロリショタ趣味は理解出来ない人種。彼の好みの女性は18~30歳くらいの大人の女性らしい。尚、指フェチの太もも派であり、胸のサイズには興味がない。黒髪女性が好き。性格面では、普段はそうでなくとも、自分にだけ甘えてくる女性とかにキュンと来るらしい。
尚、前世では非童貞だが、前世を引きずって性欲が底辺であるため、現世では童貞らしい。
TSイタチ。
原作と違って何故か女として生まれたイタチ。
基本的に能力は原作とあんまり変わらない。
外見的な違いは、原作のイタチよりも骨格ラインが全体的にシャープで、ほうれい線がかなり薄くなっているくらいで、顔も髪型も殆ど変わっていない。
成長後は170㎝前後の身長にモデルのようなスレンダー体型。胸はCカップくらい。でも、一流の忍びなので、つくとこには綺麗に筋肉ついてる。
一人称が「私」に変わっているくらいで、口癖とか口調もそれほど変わっていないらしい。
性格に関しては根本的な部分は大きく変化していないが、細かいところで主人公の影響受けているとか受けていないとか。
主人公をどう思っているのかは不明。
主人公とは婚約者ということになっている。
恋愛的にはともかく、役割とポジション的にはこの話のヒロインである。