うちはシスイ憑依伝   作:EKAWARI

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 こちらでは初めまして。ばんははろ、作者のEKAWARIです。
 初めに、この作品はNARUTOの二次創作であり、原作キャラクターへのオリ主憑依物となっております。
 それに関していくつか注意事項があります。
 まず、原作でうちはシスイというキャラクターについて、判明していることが少ないため、捏造設定が多く含まれています。(たとえばイタチと6歳差など)
 当作品には一部原作キャラクターのTS(性別変更)要素も含まれています。
 設定上CPらしきものはありますが(婚約者設定)、本質的な意味で恋愛要素は全くありません。
 巷で人気のハーレム要素もありません。
 オリ主は、憑依先のスペック以上のチートや、原作知識以上のチートは持ち合わせていません。
 当作品はオリ主無双物でもありません。 
 主人公はNOTロリコンの子供好きシスコンです。
 主人公はあまり自分では自覚していませんし、表面上は明るい良い兄ちゃんですが、前世も現世もちょっと(?)心を病んでいます。
 この作品は5話か6話くらいで完結する中短編です。

 以上、大丈夫だというかたはどうぞごゆるりとお楽しみください。
 かしこ。


第一話

 

 

 英雄になどなれない。

 どこまで行っても俺は凡人で、ただの人。

 全てを守るなど出来ないし、出来もしない約束もまた意味がない。

 だからこそ、俺は俺の『一』だけを護ると決めたんだ。

 

 所詮は、身勝手なエゴイスト。

 

 

 

 

 ―――――うちはシスイ憑依伝―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけばオレは暗闇の中を漂っていた。

 一体ここはどこかとか、何がどうなっているのかとか、なにもかもが曖昧でどうにも判然としない。

 ただ、その微睡むような感覚からしてこれは夢の中だと思った。

 夢の中で夢だと理解するなんて全く奇妙なことだ。

 思わず苦笑する。

『?』

 けれど、それに違和感を持った。

 夢など曖昧でおぼろげなものなのに、何故オレは思考しているんだ?

 とりあえず、順に思い出してみようと考えた。

 まず、今日の出来事だ。

 ああ、そうだ。今日は確かジャンプの発売日で、夜勤明けでどうにもふわふわした頭を抱えながら、眠気覚ましを兼ねてコンビニで立ち読みしたんだっけな。

 今週のNARUTO、最後に歴代火影達が火影岩の上に乗って全員集合しているシーンかっこよかったな。

 あれ? それからオレはどうしたんだっけ。

 ……もっと思い出してみよう。

 オレには6歳年の離れた妹がいて、大学の近くの寮に今は住んでいて、来週はオレの誕生日で、妹がご馳走を作りに来週帰るねってメールを……。

 ……なんだろう、頭が痛い。ガンガンする。

 いや、どうせこれは夢の中だ、気のせいに違いない。もっと、ちゃんと思い出さないと。

 そう、両親は7年前に死んで、事故で、オレは妹が大学に入るまで妹と2人暮らしで、大学を中退してずっと社会人として働いて、笑って、働いて、名前……名前は?

『おーい、内田、たまにはつきあえよ』

『はは、先輩勘弁してくださいよ。オレ、妹の面倒見なきゃいけないんすからね』

『あー、そういやお前って』

『その代わり、今度昼飯つきあいますから。あ、もう帰らなきゃ。じゃ、お先失礼します』

 そうだ、内田だ。そう呼ばれていた。そうずっと呼ばれていた。

 あれ、でもなんで、『名前』が思い出せないんだろう。

 

 光が降りた。

「ああ、シスイ起きた?」

 ? 誰の声だろう、これは。

 よく見えない目をこすってオレは瞼を開ける。

「ああ、駄目よ、そんなに目をこすっちゃ、めっ」

 そこには優しげな黒髪黒目の美人さんが、黒い、着物と洋服の中間みたいな衣装を着て、困ったような優しげな慈愛に満ちた顔をしてオレを見ていた。知らない顔だ。だけど、何故かとても懐かしいような気がするのは、彼女の母性に満ちた雰囲気のせいだろうか。

「……誰?」

 そう何気なく口に出してからオレは驚いた。なんだこの高い声は。まるっきり子供の声じゃないか。どういうことだ。

「もう、寝ぼけているの? シスイ。お母さん貴方に忘れられるなんて哀しくて泣いてしまいそうよ」

 怒っている口調ではなく、少し演技掛かった拗ねたような顔と声はどことなく愛くるしく思えるものだったが……って、まて、今何を言った? お母さんって? 誰のだ。

 ……オレの?

 いや、そんな筈はない。母を最後に見たのは7年前で、顔も声も大分曖昧になっている部分はあるが、それでもうちの母さんはもっと恰幅の良い普通の中年女性だったし、こんなに若くもない。見たところこの人は20代半ばくらいだ。

「変なシスイ。それはともかくそろそろ起きなさい。昼寝の時間は終わりよ」

 と、そこでオレは自分の目線が大分下にあることに気づいた。そして手のひらに目線を落として唖然とする。そこにあるのは、成人男子のごつごつとした手ではなく、紅葉のような小さな子供の手そのものだったからだ。

 ……これは、一体どういうことだ。

「お、お母さん」

「ん? どうしたのシスイ。それより悪いんだけど、これからお母さん任務に出るから、良い子でお留守番していてね。戸棚の中におやつ、あるからね」

 任務? 何、これはどういうことだ。

 そしてオレは、オレに背を向けた、その自称母さんの背中にそれを見た。

 赤と白で象られた団扇模様……漫画NARUTOに登場する、うちは一族の家紋。

「うちは……?」

「ん? そうよ。お母さんも誇り高きうちは一族の1人だからね。あなたや夫の名に恥じないように頑張ってくるわ」

 そういって、母と名乗ったその女性は笑って玄関を出て行った。

 驚愕に固まるオレの心を置き去りにして。

 

 オレは、漫画の世界に来てしまったというのだろうか。

 そんな馬鹿なという思いがある。

 そんなまさかという思いがある。

 けれど、オレは自分で見た物や体験した物は信じるというのを信条にしている。

 此処で現実逃避していても何も変わらないのだ。

 

 だから、あれからオレは家中を探索した。

 未だ信じられない気持ちは多いが、鏡の中の自分は丁度3歳かそこらくらいの大きさで、容姿も元の生まれ持ったものとは違っていて、信じられないけど、これが今のオレだと納得するしかなかった。

 家は和風だけど、完全な和風というにはちょっとだけ違和感があったし、何より家の壁にはうちはの家紋が刻まれていたし、家にある書物は手書きで記されていて、パソコンで印字されている現代の物とは全く違っていた。巻物だって数多くある。

 ここまできたら、まさかと思わざるを得ない。

 もしかして本当にオレは漫画の世界に来たのか。

 だが、慌てたら駄目だ。動揺したら駄目だ。確信はまだないのだ。何よりこの外見だ。我が子だと思って慈愛の瞳を向けてきたあの人を、不審がらせるわけにはいかない。

 だからオレは『両親』が帰ってきてから、さりげなく、小さな子供の無邪気な質問を装って色んなことを聞いた。

 

 此処は火の国、木の葉隠れの里で、オレは名門うちは一族の子。俺の名前はうちはシスイで、歳は3歳。祖父は、2代目火影千手扉間の部下の1人だったうちはカガミ。それが答えだった。

 うちはシスイの名も、うちはカガミの名も知っている。どちらもジャンプで連載している漫画、NARUTOの登場人物として記憶していた名前だったのだから。

 どうしてなのかわからない。なんでなのかわからない。

 それでも確信するしかなかった。無理矢理にでも納得するしかなかった。

 オレは、あの世界的にも有名な漫画、NARUTOの登場人物である『うちはシスイ』に憑依、或いは転生してしまったのだと。

 

 最初の1ヶ月はただひたすらへこんだ。

 なにせ自分が漫画の中の登場人物になってしまったのだ。なんて馬鹿らしい。これが中学生くらいのガキだったのなら深く考えもせずに凄いと喜んだのかもしれないが、成人をとっくに越えたいい歳こいた大人が漫画の中の登場人物に、なんてファンタジー過ぎるにも程がある。

 いや、そういう種類の小説があることは知識としては知っているが、どっちかというとオレ、MAD動画鑑賞派だったし。原作介入だっけ? チャット友達に勧められて読んだことはあるけど、あんまり好きでもなかったような。

 ……自分の名前を未だに思い出せないのに、なんでこういうことはよく覚えているんだろう。そういえば、NARUTO原作の内容も結構覚えてるな。集め出したのがここ2年くらいで記憶が新しいせいかもしれないけど。

 

「…………」

 原作に介入するつもりなんて、ない。

 オレは平凡に生きて平凡に暮らせたらそれでいいけど、うちはシスイになってしまった時点で、きっと無理なんじゃないのかなとも思う。原作通りならオレは死ぬのだろうし。あと、原作を読んでてファンだったうちはイタチがどうなるのかも気にならないわけじゃない。でも、己が臆病者で、なによりただの凡人で身勝手な普通の人間だと知っていた。

「ああ、もう」

 ガジガジと頭を掻く。

 そうだ、うちはシスイは今はオレだ。なら、こうやってふて腐れてても意味がないんだ。時間は流れていくんだから、時を無駄にしているだけだ。誰に言われなくてもそんなこと自分が一番わかっている。

 覚悟を決めろ。

 うちはシスイとして生きていく覚悟を。

 何故、と問うてそれに答えてくれるそんな都合の良い存在なんていないんだから。

 今は何も目標はない。寧ろ、どうしていいのか誰かに教えて欲しいくらいだ。だからといって未来のオレまでそのままであるなんて限らない。なら、今力をつけなくてどうする。何かの壁にぶち当たったとき、それをなんとかするのは俺自身がその時もっている力に頼るしかないのだから。誰かに頼るなんてほうがお門違いだ。

 オレに何が出来る。オレは何を持っている。オレのアドバンテージとは何だ。

 決まっている。

 それは『原作知識』だ。

 この世界の未来を、そのまま進めば訪れるだろう出来事をオレは知っている。この世界の普通の人間が知り得ないような情報もいくつも。情報というのは力だ。それだけで圧倒的な力だ。

 織田信長が寡兵で万を超える今川義元を討ち取れたのは何故か? それは天候もあっただろう。驕りもあっただろう。だが、それより大きいのは情報。織田信長は義元を討ち取った武将ではなく、義元についての情報を渡した武将こそを一番に労った。それほどに情報の力とは大きい。しかし、情報とは時と共に薄れ、風化していくものなのだ。

 だから、オレはオレに与えられたメモ帳、白紙の巻物などありったけの紙全てに、オレの覚えている限りのNARUTOの情報を片っ端から書き連ねた。

 人は忘れる生き物だ。そして何を必要とするのかはその時にならないとわからない。

 だから、些細なことでもいい。なんでもいいんだ。全てを、知っている全てを出来るだけ文章という形で残していれば、それは将来のオレの助けになる。細かい状況を思い出せない事件があっても、メモを見れば思い出せる。

 幸いというべきなのかオレは悪筆だ。意識して丁寧に書くときはともかく、走り書きとなるとオレ以外の人間にはほぼ解読不可能になるほどに字が汚い。他人がこれを見たところで、ただの子供の落書きとしか見ないだろう。そしてそう思われるのはとても助かることだった。周囲を欺けるのだから。

 そして、その一週間後、オレは比較的家にいることの多い母に頼みごとをした。

 

「お母さん、オレに忍術を教えてよ」

 時間は有限だ。そして努力無くして才能の開花もまたない。また才能が開花しても、それを研ぎ続けなければ、いつかは錆びて落ちるだけ。将来どうなるかはわからないけれど、一流アスリートやピアニストがそうであるように、幼い頃からの研鑽こそが大きな力となるのだ。だから何を覚えるにせよ、早いに超したことはない。

 母さんは最初、思わぬといった風に吃驚した顔を見せたけど、その後はにっこりと大輪のひまわりのような笑顔を見せて「良いわよ」と笑った。

 

 ところでオレはあまり頭が良くない。

 中学校は地元の公立校に進んだし、高校も偏差値50くらいのまあ三流高校出身だ。大学だってオレなりに猛勉強して入ったけど、県内でもあんまり有名じゃないとこだったし、成績は常に平均を下回っていた。

 褒められたのは一つの物事に対する集中力くらいのものだったか。

 運動も勉強も出来るわけではなく、顔も平凡。強いて言うなら、明るい楽しい人みたいに言われてたので全くモテてないわけでもなかったのがせめてもの救いだったのだが、それも20歳になるまでの話だ。両親が死んで、大学を中退して、彼女とも別れて会社に入ったあとは、妹以外の異性とは無縁の生活だった。

 本来の『うちはシスイ』は違うと思う。いや、寧ろオレとは真逆だろう。

 この体を使っているオレが言うのもなんだが、うちはシスイは天才だ。

 オレにとっては驚くべきことに、この体と頭脳は、人から教えられたことに対して、それこそスポンジが水を吸い込むようにして吸収していく。ぐんぐんと、教えられれば教えられた分だけ伸びていく。こんなことは『オレ』の時ではありえなかった。同じ練習量でも、体が覚えられる量が違う。前世とはあまりに違いすぎる。

「いてっ」

 しかし、うちはシスイは天才だと確信するその一方で、それを操っているのがオレだからこその壁にも突き当たった。

「もう、言ったでしょう。ただ、突っ込むだけじゃ駄目なのよ」

「うー……ごめん」

 複数のことを教えられても、効果的に組み合わせて使うとなると、オレはどうしようもなく出来損ないだった。

 1つのことなら出来るんだ。それこそ1つ1つのものを覚えることなら、使うことなら、この体がうちはシスイだからこそ、やってのけることが出来る。けれど、複数の選択肢を用意して、その中から効果的なものを選んで使うとなると途端にボロが出る。判断が付かないんだ。戦略を練ることが出来ないといって言い。

 情けないが、多分これはオレのせいなのだ。たとえハイスペックな能力を持ち合わせていたとしても、それを使う頭がなければ意味がない。猫に小判、豚に真珠という奴だ。

 はたけカカシやうちはイタチのようにオールラウンダーになることはオレには出来ない。

 その結論が出るまではそれこそ2週間くらいで、1度認識すればあっさりとオレは認めることが出来た。

 

 けれど、オールラウンダーになれないのならそれでいいではないか。

 それは強くなるのを諦めたとかではない。

 考え方の方向性を変えればいいだけの話だ。

 身体能力はともかく、オレに頭脳の才などない。所詮はオレは凡人。しかしこの体は天才だ。ならば目指すのは1つだけだ。オールラウンダーになれないのなら、一点特化のスペシャリストになればいい。

 さて、じゃあ何を鍛えればいいのだろうか。

 そこで思い出すのは原作のイタチの台詞と、うちはシスイの持つ異名。

 そう、『瞬身のシスイ』。最強幻術である『別天神』という万華鏡写輪眼をもっており、原作開始の何年も前に亡くなっている人物でありながら、あのビーにもうちは最強の幻術使いと言われていた。それが原作のシスイだ。

 二つ名を持ち、敵国にも名を知られていたほど有名だったのが幻術。そして、異名になっているところから瞬身の術にも長けていたということなのだろう。おそらくオレも、この体がシスイのものである以上、鍛えれば伸びるはずだ。

 なら、方針は決まった。

 幻術と瞬身の術この2つを徹底的に鍛える。それこそ、誰も及ばない領域まで昇華してみせる。元よりオレは多角的にものを見ることが不得手な人間だ。一か十しかない。ならば究極の一を取る。あとは、この2つの能力をサポート出来る能力も副次的に鍛えていけばいい。

 

 そうして日々は過ぎていく。やがて第三次忍界大戦が始まり、里の大人達はより一層忙しくなり、母が家にいないときもそれに比例して増え、そして6歳になったオレはアカデミーへと入学した。

 けれど、まだ下忍にすらなっていないオレの日常はそこまで変わらない。修行とアカデミーの繰り返しだ。

 アカデミーでは成績はそれほど悪くない。強いて言うなら座学の成績はあんまり良くないが、中身が成人のくせに情けなくないかといわれても仕方ない。元の世界のことならともかく、この世界特有のものについては覚えるにしても頭の中でごっちゃになるんだ。馬鹿だなーと言われても、うるせーとしか言い返せねえな、こりゃ。

 けど、成績が悪くないといっても所詮下忍予備軍の忍たまレベルの間ではの話だ。多分一般の下忍と比べたら、今のオレのレベルはといえば、体術は中の上、忍術は中の下がいいところだろう。正直大抵の忍術はアカデミーで覚える基本と、うちは一族だからと母に教えられた火遁・豪火球の術くらいしか覚えてないしな。

 しかも火遁・豪火球の術を使えるとはいっても、基本的に幻術と瞬身の術以外は切り捨て方針で鍛錬しているものだから、サスケが初めて覚えて実演したときのレベルに毛が生えたくらいの威力しかないし。どこが豪火だよ、ただのボヤじゃねえかと言われても否定は出来ない。ぶっちゃけ、これサバイバルでの火付けくらいにしか役に立たんだろ。

 その代わり、毎日のように鍛錬を続けている幻術や瞬身の術だけなら、現時点でも中忍レベルにさえ通じる自信はあるのだが……まあ、一点特化でいくと決めたのはオレだから仕方ないんだけど、このアンバランスさは時々悔しくなるな。

 

 7歳を過ぎると、家で留守番をすることにも大分慣れた。今では家に母がいない時は珍しくないが、前の世界で、大学を中退してから妹が大学に入学するまで妹の面倒を見続けてきたオレだ。それに加え、妹が大学に入ってからはもっぱら独り暮らしだった。そんなオレにとっては家事全般をこなすことはそれほど苦痛ではなく、1人であることに自然ささえ感じ始めていた。

 

 そして8歳になった。アカデミーは優秀な生徒は飛び級が出来る仕組みになっており、今度からオレは最高学年に通うことになっていた。母も漸くまとまった休みが取れたらしく、その日はニコニコとした笑顔で、オレに構えることが嬉しそうだった。そして母さんは言った。

「シスイ、今からフガクさんの家に行くわよ」

 フガクさんはうちは一族の総まとめをしている人であり、あのうちはイタチやサスケの父親でもある人物である。思わぬ名前に吃驚してオレは母さんを見た。そんな俺の心を読んだように、笑って母は言う。

「貴方も来年にはアカデミーを卒業して下忍として働くことになるからね。そうなれば一族の会合にも顔を出すことになるし、まあ顔合わせなんだけど、んー……あー……どうしよっかなあ。言っちゃおうかなあ」

「母さん、母さん。言いたいことがあるならはっきり言って欲しいんだけど」

 どうでもいいけど、中身成人越えしている身としては、こんな風に子供として対応をするのはちときついものがあったりするんだが、それでもこの人を無碍にしたくはないので、出来るだけ子供として振る舞うようには心がけている。時々ぼろが出そうになるときはあるが、それはそれだ。

「んじゃ言うね。いやね、ほら今里中がてんでやんやじゃない? わたしもあまり貴方の側にいてあげられないし、それはみんな同じ。それでね、フガクさんとミコトさんにはお子さんが1人いるんだけど、まだ小さくて、1人にするのは可哀想だし、良かったら空いている時間にあなたにその子の相手してほしいのよ」

 そりゃ戦争中なんだからてんでやんやどころじゃない……って、まて。それってつまりオレはイタチの遊び役として今連れてかれようとしているってことなのか?

「あ、ほら、ここのおうちよ」

 そんなことを思う間に、イタチの家にたどり着いた。

 

「あら、いらっしゃい」

 出迎えてくれたのは、警務部隊を取り仕切るうちはフガクの妻であり、イタチの母親のミコトさんだった。

「ええと、お邪魔します」

「確かシスイ君よね。大きくなったわね。ほら、イタチ、挨拶しなさい」

 そういって、「うん」と素直な声を上げて出てきたのは、まだおそらくは1歳半から2歳くらいの年齢のイタチだった。

 とことこと歩く体躯は子供だから当然だが小さく、浮かべた表情は穏やかで、どことなく歳に似合わぬ落ち着きがあったけれど、それでも可愛らしい子供だった。

「はじめまして、うちはイタチです」

 ニコリとイタチが笑ってぺこりと頭を一つ下げる。

 おお、可愛い。ううむ、礼儀正しいし出来たお子さんだ。良い子良い子と撫で回したい。しかし、初対面でそれはどうなのか。とりあえずにかっと笑って先に挨拶と自己紹介をすることにした。

「そっか。イタチか。オレは同じうちは一族で、うちはシスイだ。お前より年上でおにいさんになる。よろしくな」

「うん、シスイ兄さん」

 うわ、何この素直な生き物。可愛いな。思わず反射的にオレはイタチの頭をなで回していた。

 うーむ、ちょっとこれうちの妹が生まれた時のこと思い出すなあ。兄弟持ちが羨ましくて、妹か弟が欲しいなと思ってた頃に生まれた待望の妹だったもんだから、猫かわいがりしてた記憶がある。あんまりにも妹が出来たことが嬉しかったもんだから、おしめを替えたりミルクを作ったりするのも何度か手伝ったりもしたっけ。

「そういえば、イタチは何歳になるんだ?」

「もうすぐ2歳だよ」

「そっか。オレは今8歳だな」

 そっかー。イタチは2歳かー。可愛い盛りだよなー。なんか歳の割にはしっかりしているけど。こんな可愛い子が将来ああなるなんて世の中酷いよなー。うんうん……あれ、ってことは今のオレとは6歳差か。丁度オレと妹と同じだけ離れているのか。そりゃ懐かしくなるわけだ。

 ……まあ、いいや。可愛いは正義だ。ガキは嫌いじゃないんだが、アカデミーの奴らは同期で一応世間的には同じくらいの年齢ということになっているから、年上として振る舞うわけにもいかなくて、やりにくくて仕方なかったんだが、これだけ歳離れていたらちょっとくらい素を出しても大丈夫だろう、多分。

「よし、イタチ、遊ぼうぜ」

 

 そして暫くイタチと2人で遊んだんだが、いやあ楽しいなあ。

 なんていうか、ちっこいイタチ可愛いな。こう、前世でNARUTO読んでいた時はオレの中のイタチのイメージは、強くて美形でかっこよくて優しい奴っていうか、良い兄貴、もうイタチが火影になってたら良かったんじゃね? って感じだったんだが、こうしてみているとイタチが弟でも良かったのかもしれん。うーむ、ほっぺたプニプニだぜ、流石2歳児。

 ていうか、懐いてくるイタチ可愛い。ほわっとした声で「シスイ兄さん」とか可愛い、めんこい。

 因みに遊びの中にさりげなく忍術も混ぜていたりするんだが、それを見て見よう見まねである程度忍術らしきもの発動出来るあたりにイタチの天稟の才を感じるんだが、あまり気にしないことにしている。だってイタチだし。しかし、可愛いは正義だ。

 そうしてそんな風に遊ぶ俺たちを見て、母さんとミコトさんはクスクスと笑いながら「すっかり仲良しさんね」と呼びかけた。

「そうしてみると、本当の兄妹みたいよ?」

「そうですか? 嬉しいです」

 うん。イタチみたいに可愛い弟ならいくらでも大歓迎さ。……たとえ将来的にオレのスペック越える相手だろうとな。いいんだオレが凡人なのは誰よりもオレが一番良く知っている。今更嫉妬なんてしないさ。虚しいだけだからな。

「イタチ、素敵なお兄ちゃんが出来て良かったわね」

「うん」

 おお、照れてる。可愛い奴め。ていうかこの時代のイタチは素直だな、おい。まあ、まだ2歳のくせに原作みたいに悟っていたら、そっちのほうが怖いけどさ。

「そうだ、シスイ君、良かったらイタチを連れてお風呂に行ってくれる?」

「え? いいんですか?」

「イタチも懐いているようだし。今日はうちに泊まればいいわよ。おばさん、シスイ君なら歓迎しちゃうわ」

 そういってミコトさんは笑った。母さんに至ってはこの状況を予測していたかのように、「はい」と言ってオレに着替えが入った袋を渡した。って、母さん最初っからあんたその気だったのか。まあ、いいけど。

 しかし、誰かと一緒に風呂入るのって久しぶりだなー。妹がまだ幼稚園に通ってた頃は毎日のように一緒に入ったもんだけど、小学校に上がったあたりから恥ずかしがって一緒に入らなくなったんだっけ。あいつの髪ふわふわのさらさらだったし、髪洗ってやるのとか好きだったんだけどなー。そういや、イタチも結構サラサラっぽいストレートヘアーだな。弟のサスケはツンツン頭だったのに。きっと母親のミコトさんに似たんだろうな、イタチは。睫も長いし。

「よし、んじゃ行こうぜイタチ。髪洗ってやるよ」

「じぶんであらえるよ?」

 流石イタチ。2歳になるかならないかの年齢で自分で髪洗えるのか……マジモンの天才はやはり違うのか。すげえな、おい。しかしそんなことはオレには関係ねえ。何故なら、オレがイタチの髪を洗いたいからだ。

「いいっていいって。子供が遠慮するな。オレがやってやりたいだけなんだからさ。というわけで行くぞ、イタチ」

 そういってイタチを肩車する。未だ8歳のオレがイタチを背負ったところで、肩車しても身長制限にひっかかることはない。イタチはいきなりオレにおぶられたのに驚いたのか「わっ」と小さく声を漏らして、それから恐る恐るといった調子でちょこんとオレの肩口の衣を握った。可愛い奴め。

 そしてオレはイタチ共々風呂へと向かったんだ、が。しかし、オレはそこで最大の誤算と出会ったのだった!

 

 ドタドタと音を上げる。動揺のあまり音を消すことなんて忘れてオレは駆けた。

「か、か、かかかか母さん、大変だ! イタチついてない!? ちんこついてないよ!?」

「あらあら、シスイ、なにいってるの? イタチちゃんは女の子よ」

 大慌てで戻ってきたオレに対し、のほほんと答える母。なんだ、そっか、イタチ女の子だったのかー。

 って、え?

 ナ、ナンダッテー!!?

 ちょ、オレ、聞いてない。そんなの聞いてないよ!?

 ていうか、あれ!? 原作じゃ確かにイタチって男だったよね!? オレの記憶違いじゃないよね!? いや、確かにイタチは弟と違って半裸にさえなったことないようなキャラだったから、確認したわけじゃないけど、兄さんって呼ばれてたし、声優だって男だったし、間違いなく男だよな!? それが、女とか、え、マジどうなってんの。ここNARUTO世界じゃないの、オレの勘違いなの。

 いや、確かに綺麗なツラはしていたのかもしれないが。っていうか、下手な女キャラより睫長く描かれていたが。寧ろ睫バシバシだったが。ほうれい線消し動画なんてもろ美女です、本当にありがとうございます状態だったが。ええええーーー。おそらくナイス兄部門で一位取るだろうイタチが女になっているとか想定外過ぎにもほどがある。

「それより、イタチちゃんを置いて来ちゃ駄目でしょう」

 は、そうだった。オレ、脱衣室にあいつ置き去りにしちゃったんじゃねえか。

「うわあああ、イタチ、すまん!」

 とりあえず謝りながら戻った。いくら女だったことが想定外過ぎて動揺していたとはいえ、2歳のガキンチョを裸で放置とかマジありえない。

 見ればイタチはしょぼんと表情を落として、どこか落ち込んでる風情だった。

「シスイにいさんは、ほんとうはわたしがうとましい?」

 うわあ、なんかすごい誤解されている。ていうか、よくよく考えればそういえばイタチ原作では一人称オレだったのに(カカシ相手に「私」って言ってたことあったような気もするけど)、こっちでは「わたし」言ってるんじゃん。ヒントあったんだから気付けよ、オレ。いや、でもちんこついてないだけで外見マジで原作と大差ないし、じゃなくて、そんなこと思っている時じゃねえ。

「そんなことない! イタチが疎ましいなんて思うわけないだろ! ちょっと、想定外のことがあって吃驚しちまっただけだ!」

 ていうか、本気で吃驚したし、今でもイタチが実は女の子でしたーを受け入れられているかといえば微妙なわけだが、まあそこはわざわざいうことじゃないし。ていうか、なんで2歳児がさらっと「疎ましい」とか難しい単語使えるんだ! 流石はアカデミー入学してんだかしてないんだかくらいから、「許せ」なんて子供に似つかわしくない台詞が口癖だったイタチさんだぜ。

「本当に?」

「本当、本当。それより、放置してごめんな」

 出来るだけ優しくイタチの髪を手で梳くようにして撫でながら言う。出来るだけ目線があうように、膝を落として、根気よくイタチの返事を待った。

「……シスイ兄さんは、わたしのことを男だとおもってたのか」

 ギクッ。もろ男だと思ってました。ていうか、原作知ってたら誰でもそう思うと思う。性別違ってても顔同じだし。子供だから男も女も体型変わらないし。

「わたしは女にみえないのか」

 って、そんな顔するなーーー! 良心が、良心が傷つく。やばい、ぐさぐさくる。まるで確認するかのような、オレを責めているわけじゃない口調なところが特に、胸が痛い。表情とか子供らしくはないけど凄くイタチらしい憂い顔ですけど、こんな小さな子にそんな顔させてる時点でダメージ半端無い。

「そんなことはない! イタチは凄く可愛い女の子だ!!」

 とりあえずがっしりと抱きしめてそう反射的に叫んだ。

 ぶっちゃけ、イタチが女の子であることを受け入れられるのかと若干悩んでいたんだが、こんないたいけな子供にこんな表情をさせることに比べたらたいした問題じゃない、筈だ。うん、多分、きっと。

「オレがちょっと、アホでマヌケだっただけだ。イタチはなにも悪くないんだからな」

 そうオレが力説すると、イタチはちょっとの間ぽかんとオレを見たかと思うと、ふと年相応の無邪気な顔で微笑んだ。

「そうか。なら、ふろ入ろう」

 そういって笑うイタチは本当に無邪気な子供で、言葉の端々から知性と品格も感じたけど、それでもやっぱり可愛い子供だった。

(……まあ、可愛いからいっか)

 性別についてはこれ以上気にするのはやめとこう。考えたら負けだ。男だろうと女だろうとイタチはイタチだ。

 そう思ってオレもまた風呂へと向かった。

 

 それからは暇を見つける度、オレはイタチの家へと遊びに行った。遊びがてらに忍術を教えることも珍しくはなく、オレはアカデミーを終えると修行するかイタチの家に行くのどちらかだ。

 それは、今が第三次忍界大戦で大人たちが任務で里にあまりいないというのも理由にあったし、自分の親があまり家にいないのと同様に、イタチの両親であるフガクさんやミコトさんも不在がちだったからというのもある。まあ、ようはイタチが心配だったのだ。オレは慣れているけど、イタチはまだ2歳であり、いくら大人びて年の割にしっかりしているとはいえ、幼児なんだから。

 それでも、子供が幼いからだろう。ミコトさんは大概里関連の任務にまわされているらしく、オレの母よりは家にいる率が高くはあったのだが。

 ミコトさんはまるでオレも家族の一員であるかのように、イタチに会いに行く度、暖かくオレを迎えてくれた。

 

 ある日、父が死んだという訃報が入った。けれど、それは戦争中なら別に珍しいことじゃない。戦争中であるため、葬儀はそっと慎ましく行われた。元の世界で考えるとそうでもないのだろうけど、それでも父は、前線に立ち続けてきた忍びとしては長生きしたほうなのだと思う。

 しかしいつからだろう。こんな風にこの世界の父母のことを自然に父母と言えるようになったのは。前世においての父母の記憶は既にオレにとっては朧気過ぎて、あっちのほうが夢だったんじゃないかと時々思う。記憶も、少し頼りない。

 オレのことをどんな風に呼ぶのかなんて、こっちの父母はわかっても、あっちの父母がどうであったのかなんて、思い出せないのだから。

 思い出したことといえば……オレのHNが「シスイ」だったなんてことを少し前に思い出した。

 特に理由があってそんな名前を名乗っていたわけじゃないと思う。

 ネットに嵌りだしたのは数年前からだけど、なんて名乗ればいいのかなーって思って悩んでいた時にたまたまTVつけたらNARUTOのアニメをやってて、その時「シスイの目が」どうたらこうたらと流れているのを聞いて、なんとなく響きが綺麗だなーと思って適当にHNとしてもらっといただけで、うちはシスイ自身に思い入れとかあったわけじゃない。

 けれど、道理で今生の両親に「シスイ」と呼ばれても違和感があまりなかったわけだよ、オレ。違和感がなかったのはネット界で呼ばれ慣れていたからだったんだな。

 もしかして、シスイになってしまったのも、HNになんとなくでうちはシスイの名前もらっちまったのが原因なんだろうか? なんて、んなわけないか。それが真相だったらアホ過ぎる。

 しかし、名字は覚えているし、HNは思い出したのになんで下の名前は思い出せないのかね? 目下の疑問だ。まあ、過去を引きずっててもどうしようもないけどさ。

 

 そして時は過ぎていく。

「シスイ兄さん、このだんごおいしいよ」

 イタチは相変わらずオレに懐いている。団子を口にしながら、にこにこと笑いかけてくるイタチは相変わらずとても可愛い。甘い物が好きなイタチは、普段は歳に似合わぬ落ち着いた顔が多いけど、おやつの時間は本当に幸せそうだ。しかしそんなイタチの笑顔を見る度に募る想いがある。

 こんな子を、イタチを、将来里の犠牲になんてしていいのだろうか、と。

 今、こうしてイタチは笑っているのに。この笑顔を奪って良いのか。

 別にイタチ自身は犠牲なんて思っていなかったかもしれない。いや、忍びにとって自己犠牲こそが本分だと本気で思っていたのかも知れない。だから後悔はしていなかったのかもしれないけど、でも、原作のイタチは、あんなに報われないようにしか思えない最期でさえ満足したのかもしれないけど、こいつに、同じ道を辿らせて良いのか。

 イタチは可愛い。礼儀正しいし、品格があるし、優しい。本当に優しい子なんだ。

 確かに才能の片鱗は既に見えている。年に似合わぬほどに聡いし、理解力も高く、さらっと会話の中に難しい単語とかも混ぜてしまう。普通の子離れをしていると言えるのかも知れない。

 だけど、子供なんだ。こんな風に無邪気な笑顔の似合う、優しい子なんだよ。キャベツや甘い物が好きで、肉が嫌いなそんな普通の子。

 この子の肩に、里や一族の闇を背負わせたくなんてない。

 オレはどうすればいいのだろう。

 原作に関わるつもりなんてなかったのに。平凡に生きて平凡で暮らせたらそれでいい人間なのに。命を賭けるなんてごめんだと確かに思っていたはずなのに。だけど、今オレはうちはの悲劇を回避する方法を必死に考えている。なんとかしたいと、してやりたいと思っている。イタチに、泣きながら両親を殺させたくなんて、ない。愛する家族を斬らねばならないなんて、そんなの哀しすぎる。こいつはとても優しい奴なのに。

「……シスイ兄さん?」

「ん? なんだよ」

「…………」

 イタチはどこか気遣わしげにオレを見上げると、背伸びをして、そっとオレの頭に手を伸ばした。口より雄弁な目で「大丈夫なのか?」と聞きながら、オレが度々イタチにしてやっているのを真似るかのようにオレの頭を、その小さな紅葉のような手で撫でた。

 心配、されたんだろう。表には出していなかったつもりなのに、まいったな。ちゃんと笑顔を浮かべられていると思ったのにな。

「ごめんな、ありがとう、イタチ」

 そのままぎゅっとイタチの体を抱き込む。小さな子供の体温が暖かい。ふと、その体温に、過去の残照が脳裏を横切った。

 

『あまり無理しないでね。料理くらいなら私だって出来るんだから』

『お兄ちゃんは、すぐ無茶するから心配』

『ねえ、お兄ちゃん。無理して笑わなくていいのよ』

 

 オレの笑顔はそんなにへたくそなんだろうか。心配をかけるつもりなんてなかったのに。

 どうしてだろうな。

 ―――いつだって他人はだませるのに、いつも『妹』だけは騙せない。

 

 

 

 続く

 

 

 


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