「な、何をしやがった! てめぇ~!!」
「あ、おい!待て!」
仲間の呼びとめも聞かず、もう一人の男が幹比古に殴り掛かる。先に殴ろうとした仲間が地面に倒れているのを凝視し、やっと現実に戻った彼は、仲間がやられた事に憤り、報復しに仕掛けてきた。
幹比古は、この男が冷静さを欠いている事を悟り、これくらいなら対処は可能だと男の拳を躱す。先程も一人目の男が殴り掛かってきた時、拳を躱し、鳩尾に一発お見舞いして悶絶させた。これでもスランプを脱却するために武道にも力を入れていただけに、ある程度の力のある人間相手なら武術で打ち負かす事が出来るほどの腕前を手にする事が出来た。…と言ってもやっと形になってきたというほどの腕前であり、エリカからは
「まだまだね。自分の身を護る程度までならなっているけど、それ以上の実力を身に付けたいなら今以上の努力が必要なんじゃない?」
…と何年かぶりに吉田家に遊びに来た(エリカの訪問理由で言うなら)際、修行中の幹比古を見て言った言葉だった。この時、幹比古はいつものようにエリカにつっかかることは無かった。寧ろ感謝したくらいだ。何故ならエリカが真剣な眼差しで真っ直ぐに告げてきたのだから。武術に関してならエリカは他者の実力を見極める観察眼を持っている。それは幼馴染でもある幹比古も知っている。だから、エリカに武術関連のアドバイスを受けるなら心強いのである。それからはエリカの言うとおり筋トレも増やし、絶賛切磋琢磨中だ。
話が逸れたが、要するに幹比古は相手が凄腕の剣士等でなくてよかったと安堵しているのだ。まだ真剣相手に勝てるほどの腕はないのだから。…魔法なしで。
今がその状況なのだが、幹比古は決して弱みを見せない。堂々とした振る舞いを続ける。…背後にはミツがいるし、カッコ悪い所なんて見せられない。
(僕だってカッコつけたいんだ! 女の子を護るのは男として当然だから! この調子ならいける!)
今ので自信がついたためか、心の中で自分を鼓舞する幹比古。最後に残った若い男に声を掛ける。
「後は君だけだ。君も彼らと同じようになるのが嫌なら、今回の事は水に流してもいいから、お仲間を連れて去ってくれないかな?」
「……随分と御人好しだな。 」
「まあね。でも……、見逃すのは今回だけだ。 次はない。あともう一つ。
僕は君達を許す気はない。」
睨みつける幹比古の視線を受け、ギョッとなる若い男。しかし、額に冷や汗を掻いているのに、にやりと笑みをこぼす。
「そうかよ。 …わかった。………なら手土産にお前を始末してからにしてやる!」
若い男が懐から小刀を抜き取り、幹比古に斬りかかる。咄嗟に背後に庇っていたミツを横に押し出す形で離れさせる幹比古。しかし、それだけで終わらず、地面に転がっていた最初に倒された男が復活し、幹比古の背後から羽交い絞めするために狙ってきた。背後から幹比古の動きを止め、その隙に小刀で止めを刺すという事なのだろう。
(くそ…っ! 力が足りなかったのか!)
鳩尾へのダメージが弱かったと、詰めの甘さを痛感した幹比古だったが、それは後の祭り。
すぐに男達の無力化を志すが、ここは夢の世界で魔法が使えない。なんとか身を怯ませて躱すが、男達はミツにまで狙いを定めている。幹比古は二人の突進や斬撃から紙一重で躱しながらミツを護るので精いっぱいだった。
そしてこれがそう簡単に上手くいくはずもなく、しばらくして幹比古に小刀が掠ってきて、着物の端が切れだしたり、腕や顔に赤い線が増えていく。
(このままじゃ…! )
対処が難しくなってきて、まずい状況に陥りそうになった幹比古。特に小刀を持つ若い男は戦いに慣れている感覚を覚える。
「なんだ? 態度だけ強がっていたのか? そこそこ武芸に力があるからと言って調子に乗ったお前が悪いんだからな。 覚悟しろや!」
そうして宿屋の壁に追い詰められてしまい、逃げ場所を失ってしまった。ミツは躱していく際に見物人たちの群れの中へ押入れ、匿ってもらっている。
「幹比古さん!!」
人垣からミツの声が耳に響く。幹比古は何か盾になる物を探すが、あいにく近くにない。ついに男が小刀を喉笛目掛けて振りかぶる。
幹比古は奥歯を噛み締めて、悔しがる。
(ここで僕は……!)
油断してしまっていた自分を悔いる幹比古。もう無理かと思ったその時だった…。
「ううおおおオオオォォォぉ~~~~~~~!!!!」
遠くから雄叫びを唸らせて猛スピードで走ってくる人影が、小石を刀を持つ手に当てて落とさせ、小刀を持った男の傍らにいた男を飛び蹴りで吹き飛ばした。
「くっ! 何しやがる……ぶへぇっ……!!」
小刀を失った男はその人影に回し蹴りをするが、それを片腕一本であっさりと受け止められてしまう。全くダメージを与えられなかったので男が驚くと、人影はニヤッと笑い、もう一本の腕を振りかぶり、強烈なパンチを掛け声とともに放つ。
「パンツァァァ~~~~~~~!!!!!」
その強烈なパンチは男を後ろへ空中突進させ、数百メートルは跳んだだろうと思える距離までいったのである。それを見て、人影が嬉しそうに話す。
「いや~! 結構跳んだな! おもしれ~程に。」
「………漫画的跳び方だったね。……ってそんなことよりどうしてここにいるんだ!
レオっ!!」
「お! 幹比古、やっと会えたぜ!」
軽く手を振り上げて笑顔で答えるレオと、夢の世界での再会を果たすのであった。
幹比古のピンチにレオが登場しました! 別々に飛ばされてたからね~。
そして登場もレオだから派手だった。