魔法科高校の愛溺事録   作:薔薇大書館の管理人

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幹比古よ、羽ばたけ~~!!


新たな下宿人

 

 

 

 

 

 

 

 

 美月そっくりな町娘の少女、ミツに介抱されながら過ごして早二日。

 

 すっかり崩していた体調も改善し、ようやく布団から起き上がれるようになった。まだずっと寝込んでいたせいで、若干身体の関節に痛みやだるさが残るが、これは運動しないといけないという合図だという事で、問題はない。

 だが、この後が問題だった…。

 

 

 「幹比古さん、体調はもうよろしいのですか? まだ休んでいた方が…」

 

 

 「ううん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。それより、ミツ…さんに色々と面倒見てもらったのに、何も恩をお返しできなくて。」

 

 

 「いえ、私の方は気になさらないでください。困っている人を助けるのは当たり前ですから!」

 

 

 優しく微笑みを見せるミツに幹比古は言葉を失いそうになり、思わず自分の頬を殴る。あれからなんとかミツを美月だと思わないように、別人だと言い聞かせ、普段通り話す事が出来た。…といっても、幹比古は普段気負わずに話せるのは、達也たちや家族くらいだ。実家の道場の門下生とは、鍛錬を通してなら会話が成立するが、それ以外だと緊張してしまい、美味く話がまとまらなくなってしまう。元々人見知りだし、それも自覚しているが、達也たちと行動を共にするようになってからは改善は進んでいた。しかし、未だに初めて面識を持つ相手に対しては人見知りの部分が出て、自分から話しかける事は少ない。

 風紀委員長である幹比古が、風紀委員の定例会議でたまに噛んでしまって、風紀委員たちのちょっとした気分発散にもなっているくらいだ。

 そんな幹比古なのだが、今回はミツの外見が美月に瓜二つのため、緊張感もなく、普段通りに会話も成立していた。

 

 初めの時は、見分けがつかない自分を責めていたが、ふと美月ならかけている眼鏡をしていない事に気づき、別人だという認識を持つ事が出来た。美月は「霊子放射光過敏症」という症状を緩和するために、眼鏡(オーラ・カット・コーティング・レンズ)を常に装着している霊視能力者。幹比古のような古式魔法師から言うと、希少な才能とされる『水晶眼』の持ち主だ。並外れた霊視力のため、眼鏡がないとその波動で気絶する事もある。眼鏡をつけていない段階で気づくべきだったと今思えば、そこまで頭が回らなかった事に悔いる幹比古だった。

 

 

 「ところで、幹比古さんはこの後どうされるのですか?」

 

 

 美月の言葉で我に返った幹比古はどう答えようか戸惑う。

 

 人見知りの件や体調は問題ない。しかし、この後どこかに行く当てとかもないし、この夢の世界を脱却するための方法もまだ理解しきれていない。この夢の世界についても知らない。完全にお手上げ状態だ。

 まずは情報集めする必要があるが、いきなりここから出たとして、上手く立ち回れるのかと聞かれると、答えは無理だ。もしかしたらこの世界に達也たちも来ているかもしれないが、それを訪ね回って、いざこざに巻き込まれるかもしれないと思うと、億劫な気分になる。

 

 返事に渋っていると、助け舟が入った。

 

 

 「あら、幹比古さん。 もう起き上がっていいのですか?」

 

 

 この宿の女将が部屋に入ってきた。

 言い忘れていたが、幹比古がお世話になっていたのはこの町でも評判の下宿で、この女将はミツの母親だ。一度護衛の名目で美月を自宅まで送った際に美月の母親とも挨拶をしたが、その時の母親の姿と瓜二つだった。幹比古はもうすっかりこういうものなんだと認識している。

 

 

 「ええ、お陰様で。本当にありがとうございました、女将さん。」

 

 

 「良いんですよ、困ったときは助け合いですから。」

 

 

 ミツと同じことを言う女将に、ふと親子なんだなと思った幹比古に、女将が言葉を続ける。

 

 

 「それよりもこの後、どこかに行く当てでもあるんですか?」

 

 

 「あ、いえ…、それが…」

 

 

 「あら~…、やっぱりなのね~。」

 

 

 「…へ?」

 

 

 「お母さん、お医者様の仰られた事は正しかったのかもしれません。」

 

 

 「そうね…、このまま見送るのも心配だし…。」

 

 

 「あ、あの~、どうしたんですか?」

 

 

 親子だけで話が進んでいく様子に幹比古は問いかける。幹比古の頭の中は疑問だらけになっていた。

 

 

 「ああ、この前お医者様をお呼びした際、頭を強く打っているため、もしかしたら記憶があやふやなところがあるかもしれないと、打診を受けていたんですよ。問診の際、答えに詰まってしまう所もあったようですし、所々記憶が抜け落ちているんでしょ?名前以外分からないようですしね。」

 

 

 女将が説明してくれるが、幹比古は心の中で過振りを入れていた。

 

 

 (違います! それは答えなかったんではなく、答えられなかったんです!

  身分は?とか聞かれてもこの世界のものではないし、言えないですから!まさか問診を渋っていただけでこんな勘違いされるなんて…!)

 

 

 内心では必死に否定しているが、一方で冷静に物事を判断している自分もいて、この状況は有利だと、このまま勘違いされた方がいいと何も言わないのだ。

 

 

 「ですから、記憶が戻って、幹比古さんが家に帰られるようになるまで、この宿にいてくれていいですよ。ちょうど部屋の空きがありますし。」

 

 

 「お母さんが言っている通り、私達はここにいてもらってもいいですから!」

 

 

 「…あ、有難うございます。 では、僕も何かお手伝いします。恩返しさせてください。」

 

 

 …という事で、幹比古は命の恩人である女将とミツが経営する下宿人となり、ここで手伝いをする事になったのであった。

 

 

 




おお~~!!これって、いうならば、彼女の両親とお試し生活…と言えるのではないか!

幹比古! 頑張れよ~~!!

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