みんな~~!!後数時間で今年も終わりだけど、良いお年を!
響子との電話を終えると、物凄い威圧感を持った視線を向けてくるみんなに達也は嘘は言わずに答える。(全て答える気はないが)
「今のは、さっき話した仕事仲間からだ。一応報告しに電話してくれたようだ。……だからそんな目で睨んできても意味ないぞ、一条。」
「ハァ! …な、何の事だか俺には…。」
「俺が浮気していると疑い、そうなればいいと思っている目だ。」
「お、俺がそんな事を思っていたなんて言うのかよ!」
「違うのか? それなら深雪と馴れ初めている想像をしていたとでもいえばいいのか?」
「そ、それは………」
将輝は内心非常に焦っていた。
なんだって達也が言っている事は全て当たっているからだ。将輝の頭の中では『こいつ…、もしかして心を読む精神干渉魔法を使っているのか!?』と思考が廻っているほどだ。
電話に出ている達也の口調は男性にしては相手を気遣っている節が見られ、短い付き合いであるが、男との会話では遠慮がないというか、配慮が薄い。それに対し、女性には褒め言葉を言ったり、気遣いを見せたりとする…と将輝は感じていた。
だから、電話に話しかける達也の口調から相手が女性だと認識できた。そして電話から所々聞こえてくる女性の声で相手が深雪ではないと知り、「深雪以外と親しげに話す女性なんて愛人くらいしかいない!!」と思い込み、深雪を傷つける真似をしている目の前の達也に怒りを覚えると同時に、達也の浮気を知り、深雪が達也を幻滅し、泣いている所を優しくあの華奢で美しい身体を包み込み、抱きしめて慰めてあげたい…。そしてその後は深雪の婚約者として、未来の夫としての自分を確立させる…。という妄想を働かせていたのだった。
それが全て達也に言い当てられたのだ。将輝はどうやって言い訳しようかと思考を回転させるが、上手く言葉が見つからずにいる。
ちなみに、達也は将輝の心を読んでいる訳ではない。ただ今の達也と深雪、将輝に取り巻く環境を知っているからこそ考えられる推測を言ってみただけだ。だから、自分の言った事に反論できずに固まる将輝を見て、溜息を堪えずに分かりやすく吐くのだった。
「……一条、諦めた方がいい。これはお前の為でもある。深雪の意思が相当固い。」
遠まわしに「深雪はお前の事なぞ眼中にない。」と告げる。そしてその意味を正確に理解した将輝は、ここは言い返すのだった。
「それはやってみなければわからないじゃないか! 俺も生半可な気持ちで彼女に告ったわけではない! まだ婚約中なのだから、アピールしまくってみせる!」
深雪への恋心の強さを乗せて宣言する将輝だが、それを言う相手が間違っているんじゃないか?…と達也に思われているとは、将輝は熱が入り込み過ぎて気付かなかった。レオも幹比古も将輝のアピールは無謀だと思っている。深雪の達也への入れこみ様は前から凄かったが、最近は距離を保っているものの、甘さが濃くなったように感じていたので、達也と同じ思いを抱いていた。しかし、将輝の横恋慕によるアピールはさておき惚れた女性を一途に想うのは好感は持てるので、達也のようにはっきりと言う事は出来ずにただ見守るしかなかった。
それから、将輝が男の意地を見せると言って、達也に勝負を挑み、なぜか腕相撲をする事になる。もちろん、勝負は達也の圧勝で終わったが。
「そろそろ時間だな。レオ、今日は誘ってくれてありがとう。」
「いや、俺は久々にスリルが楽しめてよかったけどよ! やっぱり達也といるとわくわくするぜ!」
「僕は、正直程々にしてほしいけどね。…でも達也だからしょうがないかな。」
「俺が望んでやっている訳ではないがな。」
「まったく…、お前といると自分がまだまだだと思い知らされる…。」
「一条、何が言ったか?」
「いや、何も!…ごほん、じゃあ、俺はここで失礼する。そろそろ妹がやってくる頃だからな。迎えに行かないと。」
「ああ…、確か一条君には妹さんが二人いるんだっけ?」
「そうだ、今日は上の妹が遊びに来ることになっている。……親父も何を考えているんだか。」
「へぇ~、一条も実はシスコンだったんだな。」
「違う!西城!!俺は決してシスコンなんかじゃない!仕方なくだ!」
「レオ、一条をからかうな。これでも一条は照れているんだ。」
「照れていない!!」
ここでは自分の味方になってくれる者がいなくて、将輝は相棒であるジョージを思い出す。ここにいてくれたら絶対に心強いのに。
「もういい。俺は帰る。じゃあな。」
ここはもう去った方がいいと判断したのか、将輝が踵を返し、達也たちと別れ、妹の茜を迎えに行こうとする。
「待て、一条。」
しかし、達也からの有無も言わせぬ威圧ある一言に足を止める。
「だからなん………ぶっ!!」
振り返り様に文句を言おうとした将輝は突如として飛んできた弾力があるが巨大なものを顔面で受け取った。投げつけたのは、達也だ。
「ぶわぁ! 司波っ!! 何をする気だ!!」
「何を、と言われてもな。プレゼントだ、やる。」
「…………これをどう使えって言うんだ!」
達也から乱暴に渡されたものに一瞬目を向け、怒鳴る将輝。…というのも、将輝が渡されたのは、真っ白な布で型取った等身大の人間クッションだった。
「使い道まで俺が口出しする気はない。お前自身で決めればいいだろ?
…レオと幹比古にはこれだ。」
将輝を言葉で一蹴すると、レオと幹比古に向き直り、プレゼントを渡していった。レオには、ボクシングセット。幹比古には着物一式だ。
「おい、達也!これ如何したんだよ!」
「すべて景品だ。さすがに全部は俺も使い道がないからな。お前達に使ってもらった方がいいだろ?」
「あ、有難う…。」
「さ、サンキュー。」
レオと幹比古が渡されたプレゼントを手にして、固まっている中、達也が視線を将輝に戻すと既に将輝の姿はなかった。
「あれ?一条君はどこ?」
「あいつ、もう行ったのか?それにしてもあれって”バーシャルドール”だよな?良いのか、達也。」
レオが言った”バーシャルドール”とは達也が将輝に渡した人間クッションで、クッションと情報端末を有線接続し、クッションに反映させたい人のデータをインプットすると、その人の形に変化させることができる。
レオはそれを使って、将輝が何をするのかを想像し、恐る恐る聞いてみたのだ。
レオが何を言いたいのか、達也も理解していたので、問題ないとレオの心配を振り払った。
「あれは、男性用だ。深雪を投影する事などできない。」
「相変わらず、人が悪いな、達也は。」
「今更だな。」
そう言い合う達也とレオはお互いに悪戯が成功するのを楽しんでいる無邪気な笑みを浮かべるのだった。
そして、達也はレオと幹比古と別れ、無事に深雪と水波が待つ家に帰宅し、はりきって作っていた深雪の豪華な手料理を残さず全部食べ、長い一日を終えた。
景品をレオ達にもあげるって太っ腹だな~、達也は!
でも、将輝への対応は相変わらずだね。
みんな!!来年もどうぞ、よろしくお願いします!!