とある昼下がり。小三郎は今日の宿題も早々に終えて校庭をぶらぶらしている。すると向こうから二年い組の池田三郎次と川西左近がやって来た。
小三郎「三郎次先輩、左近先輩。こんちにわ。」
三郎次「やぁ。小三郎。」
左近「やぁ。」
道行き挨拶をしてそのまま横を通り抜ける。
三郎次「……あいつはからかっても何の得もないだろうなぁ?」
左近「三郎次。小三郎だけはからかっちゃダメ!下手したら留三郎先輩に殺されるぞ!」
校庭を歩いて行くと、今度は何やら六年生と五年生の人だかりが見えた。そして傍に乱太郎、きり丸、しんべえの姿もある。
小三郎「どうしたの?乱太郎。なんだか物々しい雰囲気だけど?」
乱太郎「小三郎!」
きり丸「あぁん!サブちゃん!救世主様!」
しんべえ「助けてぇ!僕たちまだ死にたくない!」
小三郎「へ!?ちょ、ちゃっと待って!説明して!
乱太郎曰く、二年生にからかわれてその事を竹谷八左ヱ門に言ったら自分達も六年生にからかわれではないが意見を聞いてくれないだの迷惑しているだの共感し、それを運悪く六年生が聞いてしまい険悪になり勝負をする事になったらしい。しかも学園長先生の思いつきで宝探しで対決という事。さらに宝役が自分達で怖くて仕方ないらしい。
小三郎「な、なるほどね。あの〜学園長先生?」
学園長「おぉ!食満小三郎。なんじゃ?」
小三郎「乱太郎達がこんなに怯えて可哀想だから……僕が宝役を代行してもよろしいでしょうか?」
全員「!?」
全員が小三郎に注目する。乱太郎達が慌てる。
乱太郎「い、いや悪いよ小三郎!君は何も関係ないじゃない!」
きり丸「そうだよ!何も俺たちは変わってくれなんて言ってないよ!」
しんべえ「怪我するよ!」
心配する乱太郎達、しかし小三郎は笑顔を見せる。
小三郎「僕の性格知ってるでしょ?それに…君たちの役に立てるなら……怪我しても本望じゃない?」
らんきりしん「!!!」
小三郎の性格は優しく世話焼きで面倒見が良い。決して誰かにお願いされずとも困っている人はほっとけない。乱太郎達は涙を流す。
乱太郎「ごめん…っ!ごめんね!小三郎!」
きり丸「本音言えば……変わって欲しかったたぁぁ!仏様ぁぁ!!」
しんべえ「ごめんね!いつも迷惑ばかりかけて!今度カステラあげるね!」
全員がしんべえが誰かに食べ物をあげる発言にびっくり。
留三郎「小三郎が宝か……異議はない!俺にとっては宝も同然!」
兵助「悪いですけど留三郎先輩!火薬委員会の宝でもあります!それに俺……今物凄くやる気湧いてきました!!」
留三郎と兵助が睨み合う。心なしかほかの先輩方もやる気がメラメラ上がって来た。
学園長「よし。宝役、食満小三郎に代行。開催は1時間後だ。小三郎はその間に逃げるなり隠れるなりしなさい。人数の少ない五年生にはヘムヘムをつけよう。」
小三郎は足早に自室へ戻った。乱太郎達も付いて行く。
八左ヱ門 「小三郎には飼育小屋の時に世話になりましたからね!俺にとっても宝です!」
仙蔵「私も密書の時に世話になったからな。私にとっても宝だ。」
文次郎「会計委員会にとっても宝だ。団蔵の清書にいつも世話になっているからな。」
留三郎「全員勘違いするなよ!兄弟の絆を舐めるなよ!」
全員がメラメラ燃える中、留三郎のブラコンスイッチも入った。
忍たま長屋では小三郎が色んな道具を袋や服に詰め込む。その姿をは組全員が見守る。
庄左ヱ門「小三郎も大変だね?そんな事に首突っ込まなくても。」
伊助「でも小三郎らしいんじゃない?優しいって事だよ。にしても……いつになく目が本気だ。」
今の小三郎はまさに死地に赴く顔、ある程度詰め終わると髷を解き椿油を馴染ませた櫛で丁寧に解く。
三治郎「な、なんか……本当に死にに行くような……。」
団蔵「よ、よせよ。縁起でもない…。」
解き終えると髷を結い、そして実家から持って来た桐の箪笥から十二個の盃をそれぞれの前に並べる。
金吾「こ、これって……水盃!?」
喜三太「なにそれ?」
ミニコーナー
「水盃とは通常、盃は酒を入れ酌み交わすことで、親睦を深め、お互いの関係を強固にする手段として使われ事であるが、水盃は酒ではなく水を入れて飲み交わしその後、盃を地面に叩きつけてて割る。割るということはその盃は使えない。即ち盃を酌み交わすのはこれが最後と言うこと。今生の別れの儀式です。」
小三郎は水の入ったトックリで一人一人の盃に水を入れる。そして全員が飲んだ。小三郎は立ち上がり自らの盃を叩きつけて割った。全員が息を飲んだ。
小三郎「みんな…元気でね…?君達がしてくれた事、絶対忘れない!ありがとう。もしあの世で出会えるのなら……また遊ぼうね!これにて、今生の別れとします!」
小三郎は部屋から出て走り去った。
伊助「ちょっ!縁起でもないこと言わないで!」
虎若「死んじゃやだよぉぉ!!」
兵太夫「君の言葉本当に洒落にならないから!!」
みんなが別れを惜しみ引き止めようとするが小三郎は全て振り解き、走り去った後、柱の影では山田先生と土井先生が頭を抱えた。
山田先生「小三郎ったら……真面目なんだけど…。」
土井先生「やる事たまにオーバーですよね?」
校庭の茂みに隠れ、周りの様子を伺う小三郎。
小三郎「さて……やりたい事やったし…どう来るかな?」
そして開始の狼煙が上がった。中編に続く。