十月も終わりに近づき、校庭では冷たい風が時おり吹く。小三郎はそろそろ冬物の服用意するため押入れに潜り込んでいた。
小三郎「これと、これ。……これはまだ暑いかな?」
服を整理していたら誰かが近づいてくる気配を感じた。
留三郎「小三郎!いるか?」
小三郎「兄者!うっ……薬臭い。」
留三郎「す、すまん。伊作が今自室で薬草を煮込んでいてな。」
小三郎「あぁ…逃げて来たんだ。立ち話もなんだから入ってよ。ちょっと散らかっているけど。」
小三郎が自室に留三郎を入れる。
留三郎「服の整理か。」
小三郎「急に夜は寒くなって来たから。そう言えば、兄者と二人っきりになるのは久しぶりだね?」
ニコッと笑う小三郎に留三郎もニッと笑う。そして小三郎の頭に手を置いた。
留三郎「ハハッ。そうだな!どうだ?忍術学園には…っと、聞くまでもないか。お前、実家にいた時よりいい顔になった!」
小三郎「だって楽しいんだもん!あっははは!」
小三郎は実家にいた時でも明るく振る舞っていたが、時折寂しそうにしていた。しかし今はそれは見られなかった。留三郎は何かを思いついたような表情を浮かべた。
留三郎「そうだ!明日はたしか、授業は午後までだったな?しんべえから教えてもらった、美味しいうどん屋さんがあるんだ。兄弟水入らずで一緒に行かないか?」
小三郎「いいねぇ!じゃあ、午後に門前で。」
留三郎「決まりだな!」
翌日、午前の授業が終わり、後は正午まで自習となった。小三郎はその時間で宿題を片付けていた。それにつられ、隣同士の喜三太、金吾も終わらせてしまおうと一緒にやっていた。
喜三太「今日の宿題は簡単だねぇ~?」
小三郎「書き取りと算式が少しだからね?」
金吾「小三郎。この算式どうやるんだっけ?」
小三郎「あぁ。それは先にこの数字とこれを足して…。」
その様子を伊助と庄左ヱ門が見ていた。
庄左ヱ門「喜三太と金吾、ちょっと真面目になったね?」
伊助「小三郎と同席だから移ったんじゃない?」
庄左ヱ門「ふぅ。おかげで僕の荷も軽くなったよ。」
胸をなで下ろす庄左ヱ門に伊助が笑う。
やがてお昼となり、小三郎は普段着に着替えて部屋を出る。
三治郎「あれ?小三郎どこ行くの?」
小三郎「兄者としんべえが言ってた美味しいうどん屋さんに行くんだよ。」
兵太夫「留三郎先輩と?あっ、そういえば乱太郎、きり丸、しんべえもうどん屋さんに行くって言ってたね?」
小三郎「そうなんだ。じゃあ会うかもね?っと、そろそろ行くね?兄者が待ってる。」
兵太夫「あぁ!ごめんごめん。」
三治郎「気をつけて。最近何かと物騒だから。」
小三郎「ありがとう。じゃあ行ってきます。」
三治郎と兵太夫に見送られ、小三郎は忍たま長屋を後にする。
一方で六年生の忍たま長屋。
伊作「留三郎、出かけるのかい?」
留三郎「小三郎とうどん屋さんにな?」
伊作「あぁ!あそこのうどん屋さん。行くのはいいけど、あそこまでの道の途中に森があるだろ?最近、山賊が出るって言うから気をつけて。」
留三郎「あぁ。肝に命じておく。じゃ、行ってくる。」
伊作に見送られ、留三郎は長屋を出て門前に行く。その途中で小三郎と出会い、共に出門表にサインをして出かけて行く。
小松田さん「気をつけて〜。」
ヘムヘム「へ〜ム〜。」
山も大分色んできており、ススキとクズの花が咲いており秋の到来を感じる。
小三郎「秋だね、兄者。」
留三郎「そうだな。栗くらいならもうなっているんじゃないか?」
他愛もない会話をしながら歩いて行くと、道は森の中に入って行く。この先に美味しいうどん屋さんがある。
留三郎「そういえば伊作が、この辺りに山賊が出るって言ってたな。」
小三郎「最近物騒だね?三治郎も言って……あれ?」
小三郎は道に何が落ちているのを見つけ、近寄り拾い上げる。それはどうやら手拭いらしい。
小三郎「あれ?これ乱太郎のだ。そういえば、乱太郎、きり丸、しんべえもうどん屋さんに行くって兵太夫が言ってたなぁ。ん!?」
小三郎のお得意の勘の鋭さが発動し、森の方を見る。
誰か来る。
留三郎「隠れるぞ!」
留三郎も気配に気がつき、共に別々の場所に隠れた。
小三郎「狸がくれ。」
小三郎は木の上に登り身を潜める。
留三郎「木の葉隠れ。」
留三郎は茂みと落ち葉の中に身を潜めた。
山賊A「いやぁ!いい年頃のガキが三人もかかりやしたねぇ!兄貴!」
山賊B「高く売らなきゃな!がっははは!」
やって来たのは一人は大人にしては身長が小さく、もう一人は見るからに悪者そうな男、山賊だった。留三郎は落ちていた枝を拾い、反対方向に投げる。
山賊A「ん?何か音がしやした。」
山賊B「新たな獲物かもしれん!行ってみよう。」
山賊達が去って行くのを見ると、小三郎は木から降り、留三郎は茂みと落ち葉から出て来る。
留三郎「楊枝がくれ、バッチリ決まったな。だが…。」
小三郎「ま、まさか、三人って。乱太郎達じゃ!」
留三郎「その可能性は極めて高い。この森はそんなに広くはない。何処かに小屋から隠れ家的なものがあるのだろう。あの山賊の口ぶれからするに。敵はさっきの2人か…見張りが一人で三人だろう。幸いにも、鉄双節棍を持って来た。救出に向かおう。」
小三郎「武器なら僕も。手裏剣はもちろん。焙烙火矢に忍び熊手にこしころに、草履に飛針。他にも他にも色々……。」
留三郎「お前なぁ。うどん食べに行くのになんでそんなに武装してるんだ!戦に行くわけじゃねぇんだぞ!」
留三郎が呆れながらも小三郎からいくつか武器をもらい山賊が来た方向へ歩んで行く。
一方で乱太郎達は山賊のアジトの小屋の中で縛られていた。
しんべえ「お腹すいたよぉ…うわぁぁぁぁん!」
乱太郎「まさか山賊に出くわすなんて…。」
きり丸「俺たち……どうなるんだろう……うっ。土井先生…。」
山賊C「うるせぇ!泣くな!」
らんきりしん「ひぃ!」
見張り役の山賊が声を上げると三人はすくみ上った。その時、小屋の戸が叩かれた。山賊は戸に歩み寄る。
山賊C「合言葉は?」
山賊が戸の向こう側の相手に声をかけるが返事は来ない。っと次の瞬間!
ドォーーーーン!!!
山賊C「のわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
らんきりしん「ヒェェェ!?」
なんと戸が爆破され山賊が吹っ飛び、柱に後頭部を打ちつけ伸びてしまった。そして誰かが中に入って来た。
小三郎「乱太郎、きり丸、しんべえ!大丈夫!?」
留三郎「三人とも無事か!?」
乱太郎「小三郎!留三郎先輩!」
小三郎「よかった。怪我はないみたいだね?」
しんべえ「小三郎ぉ…。」
きり丸「サブちゃん……。」
らんきりしん「怖かったよぉぉ…!」
小三郎「あぁ!泣くのは後後!今縄を切るからね?」
小三郎はこしころを取り出し三人の縄を切る。
乱太郎「ありがとう!でもなんで山賊に捕まっているって分かったの?」
小三郎「これ乱太郎の手ぬぐいでしょ?落ちていた場所のすぐ近くに山賊がいて、隠れて話を聞いていたらもしやと思ったんだ。」
小三郎が説明していると留三郎が割って入った。
留三郎「話はそこまでだ。サッサっと逃げ……とはいかないか。」
留三郎は小屋の外へと目を向ける。小三郎も見ると全力で走ってくる山賊が目に入った。留三郎は鉄双節棍を持つ。
山賊B「な、なんじゃこりゃ!?俺らの拠点が!」
山賊A「だ、誰だお前らは…(グサッ!)いってぇぇ!!」
なんと小三郎が山賊目掛けて手裏剣を数枚投げつけた。は組のお約束補正がかからない小三郎の手裏剣は見事に山賊二人に命中した。その隙に留三郎、小三郎、食満兄弟が急接近!
留三郎「子供を誘拐するとは……てめぇらの血は何色だぁぁぁ!!」
小三郎「勝負だぁぁぁぁぁぁ!!!」
乱太郎達は留三郎の背後に怒り狂う阿修羅の様な幻影を見た。留三郎は山賊Bを鉄双節棍でボコボコに叩き伏せた。
留三郎「お前はもう……死んでいる。」
山賊B「アベシッ!!!ガクッ。」
山賊Bは変な悲鳴をあげて気絶してしまった。
山賊A「な、なんだこいつら!は、早い!のわ!?」
小三郎は小柄な山賊の背後に回り込み、腰に手回した。
山賊A「い、いつの間に!」
小三郎「おんどりゃぁぁぁ!!!」
小三郎は全力でそのまま背後にブリッジの様に身体を捻った。
小三郎「食満流体術必殺奥義!
ボゴッ!!グキッ。
山賊A「ヒデブッ!……ガクッ。」
小三郎にジャーマンスープレックスを決められ、そのまま山賊Aは卒倒してしまった。
しんべえ「凄い!」
乱太郎「小三郎と留三郎先輩。あんなに強かったんだ!」
きり丸「でも……なんか昔くさい台詞を聞いたようなぁ……。」
その後、哀れボロ雑巾の如くボコボコにされてしまった山賊を役場に連行した後、らんきりしんも含め、食満兄弟は美味しいうどん屋さんでうどんを食べることが出来た。しかし、乱太郎ときり丸は再度心に決めた。
乱太郎&きり丸「食満兄弟は…怒らせない様にしよう。」