とある放課後、小三郎はきり丸の手伝いがてら図書館にいた。委員長が中在家長次先輩なだけにきちんと本が整理されている。
きり丸「よし。図書カードの確認終わり!サブちゃんの方は?」
小三郎「こっちも大丈夫かな?ただ孫次郎がそろそろ返却期限迫ってるね?」
きり丸「またろ組かよ!」
そんな事を言いながらきり丸は何故か薬草の図鑑を見出した。
小三郎「きり丸薬草好きなの?」
きり丸「いやぁ。ほら。この薬草結構珍しいものでね?売ればいい銭になるんだよぉ!アヒャヒャヒャヒャヒャ!見るだけでよだれがぁ!」
小三郎「はい、よだれ拭き。」
小三郎は懐から布切れを出してきり丸に差し出した。
きり丸「あぁ!悪いねぇ!流石サブちゃん!用意周到で!」
小三郎「褒めてくれてありがとう。それにしてもきり丸、銭が好きだね?」
それからきり丸と別れて、図書館を出て自室に戻る。その途中で庄左ヱ門に出会った。
庄左ヱ門「小三郎!探したよ!」
小三郎「庄左ヱ門。何か用だった?」
庄左ヱ門「実はね?」
庄左ヱ門曰く、明日はきり丸の誕生日らしく、みんなでサプライズパーティーをやるらしくその連絡だった。
庄左ヱ門「それでね?みんな各同室でプレゼントを用意する事になったんだ。でも小三郎は一人部屋でしょ?だから僕と伊助の連名でどうかな?って…。」
小三郎「なるほど…あっ…。」
小三郎は先ほどのきり丸の会話を思い出した。
きり丸(この薬草結構珍しいものでね?売ればいい銭になるんだよぉ!アヒャヒャヒャヒャヒャ!)
小三郎は何かを思いついた。
小三郎「庄左ヱ門。僕は僕でプレゼント用意するからいいよ。」
庄左ヱ門「いいの?」
小三郎「大丈夫!お金は問題ないから。」
翌朝、小三郎は用具倉庫から背負いかごとハサミを、図書館で薬草図鑑を借りて外出届けを出して裏山及び裏裏山へと出かけた。目的はきり丸が言っていた珍しい薬草。
小三郎「銭が好きなら銭になる物が一番だよね!」
夜までに帰ってこればいい。小三郎はヘムヘムに見送られ出かけていった。
まずは裏山の入り口の小川でネコヤナギを見つけた。小三郎はふた枝くらい折って籠に入れる。そして山道を登っていくと今度はオウレンの花。小三郎は目的の薬草以外にも様々な薬草を籠に入れる。
小三郎「きり丸、喜んでくれるよね?」
小三郎はどんどん山奥へ、しかし迷わない様に草を結びながら入っていった。
一方で忍術学園では庄左ヱ門率いる一年は組がパーティーの飾りつけをしていた。
伊助「そういえば…小三郎は何処?」
庄左ヱ門「朝ごはん食べた後すぐ出かけたらしいよ?」
伊助「プレゼント買いにいったのかな?」
昼が過ぎ、小三郎は裏裏山まで来ていた。流石にここまで来ると珍しい薬草が多々ある。そして、3時くらいには籠はいっぱいになっていた。しかし、小三郎は浮かない顔、きり丸が言っていた薬草がどうしても見つからないのだ。
小三郎「何処にもないなぁ。やっぱりダメか?」
小三郎は辺りを見回した後、少し開けた場所が目に入りそっちへ歩む。その時、小三郎は目を見開いた。
小三郎「あ、あったぁ!!」
少し行った所、崖の斜面にサンシュユの花が咲き誇っていた。小三郎は籠を下ろし、鉤縄を生い茂った木の枝に引っ掛け、崖を降り始めた。
小三郎「こんなにたくさん!来てよかった。これならきり丸も喜んでくれる!」
小三郎はハサミで枝を切りながら持てるだけ持った……。
バキッ!
花を見つけたことに、舞い上がっていたのかもしれない。だからこそ、早まったのかもしれない。
鉤縄をかけた枝が折れた。
小三郎「えっ?」
途端にふわっとした感覚に囚われた。小三郎は……落ちた。大した高さの崖ではないがそれでも子供にはそれなりの高さ、体中を打ち付け、その瞬間、目の前が真っ暗になった。
カァ…カァ…。
カラスが鳴き、日が傾き夕暮れになる。食堂の飾りつけは終わっていた。しかしながら途中できり丸にバレてしまい、全て水の泡になったが、全員はそれどころではない。小三郎がいつになっても帰って来ないのだ。
乱太郎「どうしたんだろう?」
しんべえ「いつも遅れないのにね?」
一音は組は帰らぬ友を心配する。中でも一番の親友、伊助はかなり心配そうにしている。
そして、日が落ちかける。流石に教師陣も心配し出した。中でも兄である留三郎は落ち着きなくハラハラして、居ても立っても居られなくなり、長次を連れて捜索に向かった。
留三郎「行き先は裏山から裏裏山だ!何しに行ったのか知らんが、あのバカが!何しているんだ!」
長次「ボソッ……逸る気持ちは分かるが、抑えろ。」
留三郎「分かっている!」
二人は猛スピードで裏山へ向かった。その時、長次が何かを見つけた。
長次「ボソッ。待て。」
留三郎「どうした⁉︎」
長次「草が結んである…。」
留三郎はハッとした。小さい頃に小三郎に教えていた。迷わない様にするには草を結んで目印にしろ。
留三郎「これはきっと小三郎だ!」
長次「急ごう……夜はまだ寒い…。」
二人は結ばれた草を頼りに進んで行った。
忍術学園ではもはやパニックになっていた。しんべえ、喜三太は半べそになり、伊助は心配のあまりカリカリしている。
土井先生「大丈夫だ。きっと見つかる。」
山田先生「だから泣くな。怒るな。」
日が沈み夜、留三郎と長次が裏裏山に入り少し行った時、留三郎が足を止めた。
留三郎「ここから、結び草がない……くそっ!何処だぁぁぁぁぁ!小三郎ぉぉぉ!!」
叫ぶ留三郎。その時、長次がまたもや何かを見つけた。
長次「何か……ある。」
長次が指差した方へ進むと、そこは開けた場所…そこには籠が転がっていた。留三郎はその籠に見覚えがあった。
留三郎「これは…用具倉庫の籠だ!そういえば小三郎がハサミと借りて行ったって書いてあったな。」
長次「気をつけろ。少し向こうは崖みたいだ…。」
留三郎「あぁ…ん?」
その時、留三郎は木が目に入った。よく生い茂った木だ。その一つの枝が折れている。まだ新しい。留三郎は顔面蒼白なりながらゆっくりと崖へ歩み寄る。
留三郎「長次…明かりを貸してくれ……。」
長次「あぁ……。」
明かりを受け取り…留三郎は一歩、また一歩と崖に歩み寄る。
思い違いであってくれ…!頼むから……!
留三郎は明かりを崖下へ向けた。その瞬間。留三郎は固まった。そして長次も見た。崖下で倒れている小三郎を。
留三郎「あっ……あっ……こ、小三郎ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
留三郎と長次は崖を滑りおり小三郎へ歩み寄る。
留三郎「おい!おい!嘘だろ⁉︎小三郎!頼むから目を開けてくれ!小三郎ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
取り乱す留三郎に長次が制止をかけ、小三郎の脈を見る。
長次「大丈夫…生きている…だが呼吸がか細い…。」
留三郎「俺が小三郎を背負っていく!長次!お前は一足先に忍術学園に戻り、伊作と新野先生に伝えるんだ!」
長次「わかった…!」
長次は猛スピードで忍術学園へ向かった。留三郎は小三郎を背負った。その時、小三郎の手からサンシュユの花が落ちた。しかし、一輪のみはしっかりと握られていた。
背負いながら山を下り、忍術学園に戻る途中。
小三郎「うっ……うぅぅん……あ、れ?あ、兄者?」
留三郎「小三郎!気がついたか!」
留三郎は少しホッとして小三郎を見る。
小三郎「なんで…兄者が?」
留三郎「お前が中々帰って来ないから迎えに来たんだ。お前、崖から落ちたんだぞ!」
留三郎の言葉に小三郎は思い出した。落ちたこと、そして、手元に籠はなく、サンシュユの花一輪のみ。
小三郎「兄者……戻って……薬草……持って…帰らなきゃ……。」
留三郎「馬鹿野郎!誰に頼まれたか知らんが今はお前の治療が先だ!」
小三郎「お願い……戻って……あれは……きり…丸の……。」
留三郎「お、おい!」
再び小三郎の意識は途絶えた。留三郎は足早に裏山も通過する。そして、しばらくすると複数の明かりが見えた。他の六年生と五年生だ。
伊作「留三郎!」
久々知「小三郎!」
留三郎「早く!早く小三郎を……!!」
小三郎はすぐに医務室へ運ばれた。奇跡的に骨は折れておらず、一種のショック状態になっているだけ。小三郎が怪我をして戻って来たと聞きは組全員が駆け足で飛んで来た。
乱太郎「小三郎ぉぉぉ!」
きり丸「大丈夫かぁ⁉︎」
新野先生「慌てないで!傷に触るから!」
新野先生と他の保健委員会メンバーが慌てて乱太郎達を抑えた。みんな小三郎が寝る布団を囲む。
伊助「あぁぁ!こんな傷だらけに…!」
金吾「目を開けて!小三郎!」
三治郎「嫌だ!嫌だよ!死んじゃヤダァ!」
兵太夫「縁起でもないこと言うなぁ!」
みんながあれこれ騒ぐ、土井先生と山田先生が制止をかける漸く場が収まった。
留三郎「そういえば……薬草を随分気にかけていたな。それに…きり丸。お前がどうとか言っていたな?」
きり丸「お、俺っすか?」
きり丸がキョトンとする中、小三郎が目を覚ました。
小三郎「うっ……あれ?ここは…?」
乱太郎「小三郎!」
しんべえ「よかったぁ…よかったぁぁ……うわぁぁぁん…!!!」
小三郎が目を覚ますと同時にしんべえが泣き出し、他のみんなも泣くものホッとするもの、様々。その時、小三郎はハッとして手に未だに握られていた、サンシュユの花をきり丸に差し出した。
小三郎「はい……きり丸。」
きり丸「えっ……こ、これって……。」
きり丸は驚いた。小三郎の握っていた花は間違いなく、きり丸が見ていた図鑑に載っていた薬草。小三郎はすまなそうな表情を浮かべる。
小三郎「ごめんね?本当は…沢山の薬草を採ったんだけど籠ごと…置いて来ちゃった……こんな一輪じゃ……大した銭にならないけど……売ってお金にして?それが……僕からのプレゼントだよ?……誕生日…おめでとう。きり丸…。」
きり丸「っ!!!!!!」
儚げに笑う小三郎にその場にいる誰もが心打たれた。小三郎はきり丸の一番喜ぶプレゼントを用意しようとしたのだ。そして今でも、すまなそうに謝り、それを差し出したのだ。きり丸は花を握り、大粒の涙を流した。
きり丸「うっ……売れるわけっ…ないじゃないかっ!小三郎は!俺のために!……疲れることも!タダ働きも惜しまずに!こんな……こんなドケチな俺のために怪我までして採って来た花を!売れるわけないじゃないかぁっ!!うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
きり丸は小三郎を抱きしめて大声で泣いた。他の人ももらい泣きする者もいた。
留三郎「そう言うことだったのか…。」
伊作「なんて…友達思いなんだっ!」
三治郎「仏様だ!仏様の何者でもない!」
きり丸「ううっ…ヒグッ…小三郎ぉ…ありがとう…!ありがとう…!!!」
小三郎「あははは……。」
きり丸は泣きながら何度も何度もお礼をいった。
小三郎が採って来たサンシュユの花は教室に生け花にして飾られた。後から留三郎が薬草の入った籠を取って戻って来たが、きり丸はどれも売りはせずに何本か同じように生け花にして残りは全て保健委員会に寄付した。
きり丸「……俺……幸せ者だったんだ……ありがとう。小三郎。」
小三郎「どういたしまして。」
数日後、きり丸はしばらく花を見つめ笑っていた。その横で元気になった小三郎も笑っていた。不思議な事にその生け花は何日経っても枯れなかった。