忍たま乱太郎〜食満留三郎の弟〜   作:誰かの影

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今回はからくりコンビ+小三郎です。


気分転換の段

食満小三郎が忍術学園にやって来て早数ヶ月、山も色んできた。小三郎はすっかりは組の人気者になり同時にある噂が立っていた。それは小三郎は絶対にへこたれないし弱音も吐かないという事。そして以外にも歌が好きな事。

 

小三郎「〜♫〜♬〜♪〜 。じょ〜だん混じりで〜、ウィンク投げたら〜♬」

 

今日も授業が終わり、昼過ぎ、小三郎は忍たま長屋の近くで歌っていた。

 

団蔵「上手だね?」

 

加藤団蔵が近くで聞いていたその時、笹山兵太夫が近寄って来た。

 

兵太夫「小三郎。」

小三郎「♬〜。あぁ、兵太夫。どうしたの?」

兵太夫「実はね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

団蔵と別れ、兵太夫に連れ立って井戸の側まで来ると、そこには項垂れた夢前三治郎がいた。何時もはニコニコしているが、今日はニコニコしてなかった。寧ろ泣き腫れが見えた。

 

小三郎「ど、どうしたの!三治郎!」

三治郎「…小三郎…ねぇ。どうして小三郎は何があってもへこたれないの?」

小三郎「へ?……あっ、もしかして今日の徒競走?」

兵太夫・三治郎「ど、どうしてわかったの⁉︎」

 

今日の実技の徒競走の時に三治郎は乱太郎と走っていた。二人ともは組の中では足が速く良きライバル同士であるが、小三郎は見逃さなかった。あの時、三治郎が凄く悔しそうにしていた事。

 

小三郎「やっぱり悔しかったんだね?」

三治郎「うん……いつもいつも練習しているのに…成果が出なくて……やっぱり…走る才能ないのかな……ぐずっ…。」

兵太夫「だから、そこまで暗くならなくても!」

 

兵太夫がフォローを入れるがあまり効果はない様子。小三郎は三治郎の肩に手を置いた。

 

小三郎「三治郎。成果なんて今すぐ出さなくても僕いいと思うよ?それに……たまには息抜き、ガス抜きしなきゃ。」

三治郎「……どうしたら小三郎みたいにへこたれないの…?」

兵太夫「うん。実は、小三郎はへこたれないってみんな噂してるんだ。」

小三郎「なにそれ。まぁいいや。でも僕だって落ち込む時はあるよ?……そうだ!まだ日が高いし三人で裏山にハイキングでも行こうよ?気持ちの切り替えになると思うし、三治郎も学園外の空気を吸うべきだよ?」

 

 

 

三人は裏山へ行く事に決めた。三治郎も乗り気ではなかったがきっと気持ちに整理もつくと思い行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外出届を提出し、三人は裏山に向かった。三治郎は相変わらず俯いていたがせっかくの三人初めてのハイキングだから笑顔は難しいが楽しもうとする。

 

小三郎「……みんなは僕のこと、へこたれない奴って噂しているみたいだけど、僕はそこまで強くないよ?僕だって成果が出ない時あるし、出来ないこともあるもの。」

兵太夫「へ〜意外。なんでもできる奴だと思ってた。」

三治郎「そういう時…小三郎はどうするの?」

 

三治郎が立ち止まり聞く。小三郎も立ち止まり、しかし背中越しに語る。

 

小三郎「まずはジダバタする。練習して、やって、やってやりまくる!」

三治郎「でも…それでもダメだったら…?」

 

三治郎が今にも泣きそうになり、兵太夫が慌てるが、小三郎はそんなの御構い無しにあたりを見回す。そして、アケビの実を見つけた。小三郎は道具袋から鉤縄を出し、投げて木に引っ掛け登り、アケビの実をもぐ。その様子に二人ともぽかーんっとしたが三治郎が怒った。

 

三治郎「答えてよ!僕は真剣に悩んでいるのに!!!」

 

三治郎が目に涙をためて叫ぶが小三郎は慌てずに穏やかに答えた。

 

小三郎「練習はやめる。」

三治郎「へ…?」

小三郎「乱太郎達と遊んだり、昼寝したり、他の委員会の手伝いやったり、何もしなかったり。そうしているとね?気持ちが楽になるし、また違った答えも見えてくるものなんだよ?はいよ。」

 

小三郎は木の上から二人にアケビの実を落とした。三治郎と兵太夫は慌ててキャッチした。そして小三郎も木から飛び降りた。

 

三治郎「………本当にそうなの?」

小三郎「僕の場合はね?あん。美味い!ぺっ!」

 

三人はアケビの実を食べ、再び歩き出した。道中、花を愛でたり、鹿を見たり、きのこの群生地を見たりと小三郎ペースで山を登っていった。不思議な事に、三治郎も最初こそ、浮かない顔だったが次第に少しずつであるが笑顔が戻って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして頂上。頂上は花畑みたいになっているため、今の時期は満開。その中で、三人は追いかけっこをしたり、虫と戯れたり、楽しい時間を過ごした。三治郎も楽しそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして遊び疲れ、休憩している時に、小三郎はまた三治郎に語りかけた。

 

小三郎「僕ね?忍術学園に来る前はよく兄者に体術を教えてもらってたんだ。筋がいいって褒められたんだよ?でもね?ある時全然ダメになっちゃった。やってもやっても兄者の方が強い、勝てないって思っちゃったんだ。あれが俗に言うスランプなのかな?」

 

三治郎と兵太夫は黙ったまま話を聞いている。

 

小三郎「それからジダバタして、練習やりまくってね、無理が祟って足やらかしたんだ。父さんにこっ酷く怒られたよ。そしてね?「今のお前ではきっとやってもダメだ。だからよく休み、よく食べて、足が治ったら違う事を始めなさい。」って言われてね?治ったら庭や森で遊んだり、母さんの手伝いをやったんだ。そうしていく内に少しずつだけど気持ちも落ち着いて、そして分かったんだ。」

 

兵太夫「何が分かったの?」

三治郎「……。」

 

二人が聞くと小三郎は立ち上がり、そして少し歩み、くるっと二人の方を向く。

 

小三郎「兄者は兄者。僕は僕。だから、違って当たり前だし、それに今すぐ出来るようにならなくてもいい、焦らなくても良かったんだってね?だからね三治郎。」

 

風がさぁーーって吹き、タンポポの綿毛が飛び交う。

 

小三郎「今は走るのやめて、よく遊んで、よく食べて、よく休みなよ?そうすれば三治郎も何かわかるはずだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばしの沈黙。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、三治郎がふっと優しく笑った。

 

三治郎「やっぱり小三郎は強いね?」

兵太夫「ってか本当に10歳?僕たちより達観して見える。」

小三郎「強くないよ。弱くもないけどね?」

 

小三郎がニコッと笑うと、三治郎が立ち上がった。

 

三治郎「なんだか楽になった!ありがとう、小三郎。僕しばらく休憩してみるよ。」

小三郎「やっと笑顔が元に戻ったね!良かった良かった。」

三治郎「うん!兵太夫もごめんね?暗くなっちゃって。」

兵太夫「いいよいいよ。同室じゃない。」

 

 

三人はとびっきりの笑顔で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れ、忍術学園の門では山田先生と土井先生、そしては組のみんなが三人の帰りを待っていた。

 

山田先生「遅いですな?」

土井先生「裏山にハイキングってありましたがね?」

乱太郎「ハイキングなら誘ってくれれば良かったのに。」

きり丸「裏山なら薬草取り放題だったのに!」

団蔵「金儲けから離れなよ〜。」

喜三太「大丈夫かな?」

金吾「まぁ、小三郎も一緒だから心配はないと思うけどね?」

 

 

みんなが心配する中、庄左ヱ門が何かを聞き取った。

 

庄左ヱ門「あれ?」

しんべえ「どうしたの?庄左ヱ門。」

庄左ヱ門「なんか聞こえてこない?」

 

みんなが一斉に耳をすませる、すると…。

 

 

小三郎「つ〜きが〜、しず〜んで〜、ほしかげも〜な〜し〜♬や〜みが〜、せま〜れば〜、おいらのせ〜か〜い〜 」

 

何処からとも無く小三郎の歌声が聞こえて来た。さらに歌声が聞こえる。

 

兵太夫「走れ、走れ、飛べ、とべ、お〜と〜も〜なく〜♬」

三治郎「四方、六方、八方〜、しゅ〜りけん♪四方、六方、八方〜、や〜ぶれ〜♫」

 

 

三人「「「じょ〜だん交じりで〜、Wink投げたら〜、打ちか〜え〜されたよ〜〜、肘鉄砲〜〜〜♫♪♬」」」

 

 

 

 

 

 

 

そして夕日をバックに小三郎と兵太夫と三治郎が笑顔で歌いながら帰って来た。

 

虎若「あっ、帰って来た!」

 

全員が駆け寄る。

 

小三郎「あっ、みんなただいま!」

伊助「ただいまじゃないよ!心配したんだから!」

金吾「それにハイキングなら誘ってよね!」

みんながやいのやいの言うなか山田先生と土井先生が割って入った。

 

山田先生「まぁまぁまぁ、無事に帰って来たからいいじゃないの?」

土井先生「そうだぞ?それにしても……三人とも、なんだか幸せそうだな?」

 

土井先生は小三郎と兵太夫と三治郎を見る、三人とも笑顔だが、特に三治郎は憑き物が取れたように晴れやかな笑顔だった。それを見て、土井先生も山田先生もふっと笑った。

 

山田先生「ハイキングは楽しかったか?」

三治郎「はい!とっても!ね?兵太夫、小三郎。」

兵太夫「うん!」

小三郎「今度はみんなで、先生方も一緒に行きましょうね?」

土井先生「ハハハ!そうだな!」

 

 

小三郎はみんなに笑いかけた。みんなそれ以上何も言えず、終いには小三郎につられて笑った。

 

 

 

それからみんなで夕食を食べ、お風呂に入り、小三郎は部屋で明日の準備をしていた時、部屋の戸が叩かれた。

 

小三郎「はいどうぞ?」

三治郎「こんばんは〜、小三郎。」

小三郎「三治郎。どうかした?」

 

小三郎は三治郎を部屋に招き入れた。

 

三治郎「今日のことでお礼が言いたくて、ありがとう。連れ出してくれて、あのままじゃきっとジダバタしすぎて怪我してたかも知れない。」

 

三治郎のお礼に小三郎はニコッと笑う。

 

小三郎「どういたしまして。また悩んだら相談してね?どんだけでも聞いてあげるからね?」

三治郎「うん!ありがとう!」

 

 

小三郎と三治郎は堅く握手を交わした。

 


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