あんハピ♪ 目指すは7組脱出!   作:トフリ

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予定日より10日も遅れて申し訳ありません。
今回は少しだけ原作からタイトルを変えました。
次回は4月末頃に投稿する予定です。
私事ですが色々立て込んでいるので遅れます、気長にお待ち下さい。



8話 迷子たちの登校風景

あんハピ 6話

 

朝の通学路

 

「ここどこだ・・?」

 

今現在、俺は完璧に迷ってしまっている。

幸福実技があった日に自転車が壊れてしまったため、急遽徒歩で登校することになり普段よりかなり早い時間に家を出たが、途中で何の気なしにいつもは通らない道を進んで見たらあっけなく迷ってしまった。

迷ったたことに気づいた時もすぐ知ってる道に出られるだろうと高をくくっていたがむしろどんどん道が分からなくなっていく。

携帯で地図を確認しようとしたが充電を忘れてしまったので現在地すら確認できない。

 

「近くにコンビニとかあれば、何か買ってから道を聞けるんだけど」

 

やがて見覚えのある道に出たと思ったが、それは迷った後ついさっき通った道だったことに気づきため息がこぼれる。

 

「はあ、まいったな・・」

 

通学路で迷った自分が情けなく、これじゃ萩生さんを笑えない。

 

「ん? あれは」

 

道を曲がった先に今考えていた萩生さんがいた。

この前のように辺りを右往左往していて俺と同じように道に迷っているみたいだ。

ただのクラスメートとはいえ知ってる顔に出会って少しだけ安堵する。

 

「ん、お前は!」

 

声をかけるより先に気づいてきて声をかけてくる。

 

「おはよう、萩生さん」

 

とりあえず、自分が今迷っていることを伝える。

 

「お前も迷っているのか、響も不運なことにほんの少しだけ迷っているところだ」

 

「じゃあよかったら、一緒に行かない?」

 

「貴様と? まあいいだろう、ただしこれは貸しにしとくぞ」

 

萩生さんは想像よりはるかにあっさりと同行を認めてくれた。

貸しという形にされたとはいえ、少し驚いてしまった。

今、俺たちは肩を並べて、それでもある程度は距離を開けて歩いている。

かっこ悪いが迷っているのが1人ではなくなったので心に余裕ができた。

 

「ねえ、萩生さん、ちょっと聞いていいかな」

 

「何だ?」

 

「どうして、俺と一緒にのか気になってさ」

 

「どうしてかって? お前に貸しをしてやれるじゃないか、響はお前に宣戦布告をしているんだぞ、そんな奴が響に頼みごとをしてくるなど」

 

いつものようにドヤ顔で自身満々に宣言してくる。

ついこの前、『幸福の花』を探している時に宣戦布告をされたことがある。

しかし、まさかその場のノリで言ったわけではなく本気で言っていたのか・・

確かに俺だって理由はどうあれ争っている相手から頼みごとをされれば聞いてやろうかという気にもなる。

 

「ああ、そうなんだ・・でも俺は別に萩生さんと争いたくないよ」

 

「何?」

 

萩生さんは立ち止まってこっちに鋭い目を向けてくる。

怒ってはいないようだが、今の発言は気に障ったらしい。

 

「だってさ、俺が目立っているのは俺がなろうと思ったわけじゃないし、目立っていることが嬉しいと思ってもいないんだよ」

 

プロ野球選手の息子ということもあり、注目されることは沢山あり幼い頃は別に何とも思わなかったが成長するにつれて嬉しく思うようになった。

しかし段々と恥ずかしさを覚え、いつしかプレッシャーになっていた。

本音を言えば今でも注目されることは全く嫌いというわけではなく、プレッシャーが辛いというわけでもないが今となっては注目されても殆ど受け流すことにしている。

そんなわけで、俺が目立っているから自分が1番目立たないのが気に食わないと言われても

 

「う、うるさい! 貴様にはなくとも、響にはあるのだ!」

 

「それにさ、萩生さんってその・・」

 

「今度はなんだ!?」

 

「その・・女の子じゃん」

 

そう言うと、萩生さんの動きが一瞬だけ止まり表情がわずかに赤く染まる。

いや、勝負の項目がはっきりしているならともかく「目立ちさ」のような抽象的なことをどう競い合っていいか分からない上に、男尊女卑ではないが、女の子相手に勝負を挑まれても一体どうすればさっぱりだった。

 

「そ、それがどうした、響が女だから勝負しないと言うのか!勝負に男も女もあるか! 」

 

萩生さんはそう言い捨てて、そっぽを向き早歩きで進み出す。

 

「あ、ま、待ってよ!」

 

慌てて後をついていき、その後何度も話しかけるが今のセリフで完全に怒らせてしまったらしく、何をどう言っても返事はこなかった。

会話を諦めて歩き続けて気がつけば、学校の近くに道に出ていた。

これで少なくとも学校に遅刻することはないだろう。

ふと、視線を奥の方に向けるとT時路の先にヒバリさんが歩いているのが見えた。

手に何かを持っていてそれに集中していたためか俺たちに気づかない。

記憶が正しければ今ヒバリさんが行く方向は学園のある方向ではないはずだ。

人のことは言えないがこんなに早くどこに行くんだろうか?

 

「奴は・・敵を討つには敵を知れだ」

 

「あっ、萩生さん」

 

萩生さんはヒバリさんの姿を見つけると何も言わずに後をつけ出し、突然のことで自分も取り敢えず萩生さんに続いて後を追って行く。

間も無くヒバリさんはある場所で立ち止まる。

 

「ここは・・そういうことか」

 

遠くから眺めているとヒバリさんは好意を抱いているらしい例の工事現場によく置いてある看板に熱い眼差しを向けていた。

多分、わざわざ早起きし、遠回りしてここにやって来たんだろう。

 

「貴様、そこで何をしている」

 

「ひゃわあっ!?」

 

萩生さんがヒバリさんに声をかけると飛び上がらんばかりに驚いてこっちに振り向く。

 

「あ、え、萩生さん、それにあおいくん?」

 

「お、おはようヒバリさん」

 

ヒバリさんの知られたくない秘密に関わることで、萩生さんのことを止めるべきだったが、別に止めるような悪いことをしているわけでもないので、どうするべきか分からない。

そうこう思案している間に、萩生さんが看板のある方まで足を進める。

 

「何をコソコソと誰かいるのか?」

 

「だ、誰もいないわよ!」

 

ヒバリさんがちょうど看板の前に通せんぼする形で視線を防いだ。

それでも、萩生さんが左から覗き込もうとするのを今度はヒバリさんがわずかに移動して再び防ぐ。

 

「誰もいないのだろう!」

 

「そ、そうよ!」

 

何を見ていたのか確認しようとする萩生さん、そしてそれを何が何でも防ごうとするヒバリさん。

お互い攻防を繰り返し、段々と動きが激しくなっていく。

女子相手に強引に止めるわけにもいかず、それを見ていることしかできない。

 

「なんなのだ貴様は! 何も無いならなぜ隠すー!」

 

「べ、別に理由なんて・・」

 

やがて一瞬の隙を見逃さず萩生さんがヒバリさんの横をすり抜けた。

 

「しまった!」

 

萩生さんはそのまま看板のすぐ近くまで進み辺りを確認する。

 

「何だ、本当に誰もいないではないか」

 

「ち、近いわよ!」

 

「は、何がだ?」

 

看板を眺めていたとは微塵も思わない萩生さんは不思議そうな顔でヒバリさんを見つめる。

仮に俺が萩生さんの立場だとしても絶対に同じように気づかないはずだ。

まあ、要するにとにかく俺もヒバリさんも秘密が知られることについては全くの杞憂だったんだろう。

 

「な、何でもないわ」

 

「おかしな奴だな」

 

「あおいくんと萩生さんこそどうしてしてこんな早い時間に? まだ6時半よ」

 

「俺はまあ自転車が壊れたから早起きしたんだけど、ちょっといつもと違う道進んでみたら迷ってちゃってさ、途中で萩生さんと会ったんだよ」

 

「響はいつもこの時間に登校しているぞ」

 

「そ、そうなの?」

 

「蓮がいつもギリギリまで寝ているのが悪いのだ、1人で登校するなら3時間以上は必要だからな」

 

「3時間!? え、何で・・」

 

俺はすでにそのことは聞いていたので特に反応しないが、聞いたときはヒバリさんと同じように少し驚かされた。

そして、幸福実技の時、幸福の花を探している時の萩生さんの迷いっぷりを思い出すとあっさり納得できた。

おそらく今のヒバリさんも同じように考えているところだろう。

 

「そっか、ごめんなさい」

 

「気を使うな! 全く子供の頃から方向音痴などと不名誉な方が気をつけられているがそこまで重症ではない」

 

萩生さんらしく方向音痴だとは意地でも認めようとはしないようだ。

 

「何で江古田さんと一緒に登校しないんだ?」

 

一緒に登校すれば余計な苦労をすることなく学校に来ることができるのに何故わざわざ別々に登校するのだろうか?

 

「何を言う、そんなことをしたら方向音痴だと認めてしまうようなものではないか! 幼馴染としては一緒に登校したいところだが、1人で迷わず行けるということを証明しなければ蓮と登校などできん!」

 

「ああ、なるほどね」

 

意地っ張りもここまで来るとむしろ感心してしまう。

 

「あ、そうだこの前のお礼言わなきゃね」

 

「ん?」

 

「罰ゲームの宿題、幸福の花のこと分かってたんでしょ、ありがとう萩生さん」

 

萩生さんはそれを聞くと急に表情が少しだけ赤くなり、そっぽを向く。

 

「れ、礼を言うならば響ではなく蓮にすべきだ、あの老婆に植物園の場所を教えてもらえたのは蓮のおかげだったはず」

 

「あの時、急にお婆さんの態度が変わったのってやっぱり理由が」

 

そう言われてみれば、確かに江古田さんの姿を見たお婆さんの様子はおかしかった。

記憶が正しければ手を合わせて「天使様!」とか言っていたのを覚えている。

 

「もちろん、蓮は・・蓮はその異常に女性にモテてしまうのだ・・」

 

萩生さんの言葉を聞いてついほんの少し首を傾げてしまう。

 

「ってことはあのお婆さんは江古田さんに惹かれて話してくれたってことか?」

 

「まあ、確かに中性的でかっこいい感じだものね」

 

「そんな生易しい話ではない!」

 

「見たはずだ、人間はもちろん犬、猫、鳥、牛、トラ、うさぎ、メスに分類される生物はなぜか全て蓮に魅了される! 蓮の幼馴染かつ親友の響きが長年見てきた実体験だ!」

 

萩生さんがこちらに詰め寄らんばかりの勢いで強く言い切った。

 

「・・はあ」

 

「・・そう・・なんだ」

 

俺とヒバリさんはその勢いについ頷いてしまった。

 

「蓮の魅力は種族を超える、さすがは響の惚れ、いや友達だ!」

 

過去の記憶を思い描くと萩生さんの言う通り

幸福の花を探している最中、度々江古田さんに向かって動物が群がっていたがそういうわけだったのか。

 

「・・7組みんなの妙な体質を見ていたら・・無いとは言えないのよね」

 

「そうだね・・俺も人のこと言えないしな・・悲しいけど」

 

自分の人生を振り返ると常識では説明できない妙なことが起きていたのは事実だ。

ここにいる俺達以外にも親や友人の顔や体質を思い浮かべるとそういうことを聞いても納得してしまう。

 

「ただ、その体質故苦労することも多いのでな・・貴様は惚れるんじゃ無いぞ、くれぐれも」

 

「だ、大丈夫よ、あたしはもう・・」

 

「もう? 」

 

「な、何でもないわ!」

 

ヒバリさんは手を振って今の言葉を取り消そうとするが萩生さんは興味津々とった様子で聞いてくる。

 

「ほう・・何だ、既にもう好いている者がおるというのか? 」

 

「ち、違っ!」

 

「誰だ、クラスの男か?」

 

「あなたこそ誰か身近にいるんじゃなの!?」

 

「んなっ!? み、身近にだと・・!」

 

「そうよ、同じ7組の男子とかに」

 

 

 

「ひ、響はそのような者など・・そ、そうだ葵坂! お前はどうなんだ、誰かそういう者はいないのか!?」

 

「え、俺!」

 

「そうだ、誰か好いている女子などいないのか!?」

 

恋話などしたことがないのでこれまで口を挟まず、というより口を挟めず2人の話を聞き流すだけだったが突然飛び火する形で話がこっちに飛んでくる。

しかも、友人とクラスメート相手とはいえ異性相手にはかなり話し辛いを聞かれてかなり困惑してしまう。

 

「お、俺もいないよ、好きな女の子なんて・・!」

 

ここは正直に答えておく。

クラスはおろか、他のクラスはもちろん、今までの人生の中で好きになった女の子はいなかった。

 

「じゃあこの話はお互いにやめに・・」

 

その時、ヒバリさんが急に立ち止まり向こうの道を見つめ始め、自分もつられて視線の先に目を向けるがそこには特に何も見当たらなかった。

 

「っど、どうした?」

 

「今、向こうの道にはなこの姿が見えたような・・」

 

「はなこさんが?」

 

俺が見ない間に向こうの道を通り過ぎて視界から消えたんだろうか?

 

「まだ全然早い時間なのになんで・・あたしちょっと確認してくるわ!」

 

「あっヒバリさん!」

 

「お、おい、待て!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりはなこだわ、何でこんな所に・・?」

 

いきなり走り出したヒバリさんに続いて3人で進むとはなこさんの姿が目に映った。

後ろから付いてくる俺たちには気づかず、何となくいつも以上に楽しそうに見える。

 

「奴の家がこちら側なのではないのか?」

 

「いや、はなこさんの家はこっちじゃないからこの道を通る必要はないはずだけど・・」

 

「あっ路地に入ったぞ!」

 

「一体何を・・」

 

隠れる必要はないが全員でこっそりと路地を覗くと、そこには何匹かの猫が集まっていてそれぞれ自由にくつろいでいた。

はなこさんの目当てはこれだったんだろう。

理由がわかると同時に、嫌な予感がして背筋が冷たくなった。

 

「えへへ〜にゃん、にゃ〜ん♡」

 

はなこさんが1番近くにいる猫に向けて手を伸ばす。

 

「今日こそは1撫でだけ・・〜〜っ!!」

 

猫に手が触れそうになったその瞬間、猫が一斉にはなこさんに飛びかかり引っ掻いたり噛み付き始める。

予想はできていたが、あまりに突然の光景に助けに入ることなくあっけに取られたまま眺めてしまう。

嬉しそうな悲鳴?をあげつつも特に抵抗することはなく一方的に攻撃され、やがて猫達はその場を去っていき、残されたのは傷だらけになったはなこさんだけだった。

 

「もー照れ屋なんだなー猫ちゃん、これがツンデレっやつだね!」

 

(いや、今のはツンデレじゃない暴力系だ・・)

 

姿は痛々しいがはなこさんは至って普段と変わりなくニコニコしている。

 

「このにゃん道に通うのも1000日目くらいになるけど・・みんな顔くらい覚えてくれたかな? だったら嬉しいなー♫ さーて学校いこーっと!」

 

俺達は声を掛けることもできずその背中を見送った。

 

「1000日目って今みたいなことを3年位続けているのか・・」

 

「・・追うぞ」

 

「えっ?」

 

「見つからないよう後をつけるんだ、行くぞっ」

 

「そ、そんな普通に声を掛ければ・・ちょっと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度は萩生さんに続いてはなこさんを追っていくと途中で様々な不幸な目に会っていた。

ある時は、建物のを掃除中のバケツが倒れ、上から水が落ちてきてずぶ濡れになったり、ある時は、花屋の前を歩いているとホースから水が勢いよく飛び出てずぶ濡れになり、ある時は堀の上を歩いているとそこが突然壊れ下に落ちてずぶ濡れになったりしていた。

流石に応えたのかはなこさんの後ろ姿から落ち込んでいるように見える。

 

「あいつは・・水のトラブルが本当に多いんだな・・」

 

「み、水だけじゃないけどね」

 

「さっきみたいに動物に襲われたりとかね・・」

 

はなこさんに会ってからまだ日が浅いがそれでも数え切れないほどの目に合っている。

俺やヒバリさんや牡丹さんが知らない間にもいろんな目に合っているんだろう・・

今更ながら本当に不憫な子だと実感させられる。

 

「あの、とめどなく深い不幸っぷり・・決して羨ましくないが・・たとえどの分野だろうと響より先を行くものが存在するなど・・許せんっ!」

 

「え!? あの不幸ぶりでも1番になりたいのか!!?」

 

信じがたかったが自分の聞き違いではない限り間違いなくそう聞こえた。

 

「花小泉杏!! 今日は貴様に宣戦布告を!」

 

「っておいおいっ! 幾ら何でもあれを羨ましがるのはよしなって・・!」

 

「ってどこ行くの! はなこはあっち・・」

 

萩生さんは俺達が止める間も無く、はなこさんがいない方の道へと全速力で進んで行く。

 

「ああ、くそっ俺が萩生さんを追うからヒバリさんははなこさんをお願い!」

 

そう言って返事を待たずに萩生さんの後を追って走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

萩生さんは自信満々に明後日の方向にで走っていたので危うく見失ってしまいそうになり全力とまでは行かないまでも急いで追いかけ、ある程度の距離を走り続けてようやく足を止める。

 

「はあ、はあ、花小泉め・・一体どこに行った?」

 

「いや、ただ単に萩生さんが道を間違えただけだよ・・」

 

「何だ、お前も来ていたのか」

 

「まあね、はなこさんは別の道に行ったからこの辺にはいないんじゃないか?」

 

「何! 花小泉め・・この響を撒くとは意外とやるな・・」

 

これからどうしようか考えていたその時、携帯が鳴り表示を確認するとヒバリさんからの電話だった。

 

「もしもし、どうしたのヒバリさん」

 

「あおいくん、今大丈夫かしら?」

 

「ああ、大丈夫だよ、萩生さんと合流できたから」

 

「こっちもはなこと合流できたけど・・はなこが途中で片方のカバンと靴をを落としたみたいなの」

 

「え、そうなのか?」

 

「ええ、あと江古田さんと途中で会って萩生さんのことを話したらそっちに迎えに行くことになったから」

 

「ああ、分かった」

 

取り敢えず適当な場所も無いので、2人をさっき通った花屋の前で待ち合わせることに決める。

 

俺達がはなこさんの後をつけていた時は・・カバンと靴を持っていたかどうか記憶が曖昧ではっきりと思い出せない。

いろいろ衝撃的な光景を見てそっちの印象が強すぎて

確か、俺達が後をつけ始めた時はまだカバンも靴も持っていたとは思うが・・

普通ならばあり得ないような落とし方だがあのはなこさんだ、きっとあの後もいろんな目に合って落としてしまったんだろう。

 

「だから、今はなこが通った道を辿ってるところなんだけど何か見てない?」

 

「いや、見てないな・・じゃあ、俺も探してみるよ」

 

「私は牡丹が怪我してるから一緒に学園まで送って行くけどそっちは大丈夫?」

 

「ああ、分かった、はなこさんのカバンと靴を見つけたらすぐに学園に向かうよ」

 

電話を切ってから時間を確認するとまだ余裕はあった。

 

「何の電話だ?」

 

「実は・・」

 

江古田さんがこっちに向かっていること、はなこさんがカバンと靴を落としたのでそれを探すことを簡単に伝える。

 

「ふん、ドジなやつだ・・よかろう響も手伝ってやることにしよう」

 

「え、いいのか?」

 

「ああ、」

 

その後、はなこさんと江古田さんと無事に合流しカバンと靴を探し始めた。

江古田さんもヒバリさんから事情を聞いていたので二つ返事で手伝ってくれることになった。

はなこさんが通った道を辿っていき、江古田さんの声である場所でカバンと靴を発見した。

 

「あれじゃないかな?」

 

「あ、あれだよ、私のカバンと靴!」

 

そこははなこさんが大量の猫に襲われた路地であの時去って行った猫が戻って来ていてざっと確認して見てもさっきよりも数が多い。

 

「にゃんにゃんがいっぱいだー!」

 

「おい、やめろ馬鹿! 貴様には危機感がないのか!」

 

カバンと靴ではなく猫を目当てにはなこさんが向かおうとするのを萩生さんが慌てて止める。

 

「俺がカバンと靴を取ってくるからはなこさんはここで待ってて・・あれ?」

 

猫の約半数が突然俺達に向けて突進してきた。

 

「ってもしかして!?」

 

その猫の集団ははなこさんを無視して江古田さんに飛びつき甘えるような声を出してじゃれつき始める。

 

「何だ、そっちか・・驚かせおって」

 

萩生さんと同じ気持ちで密かに安堵する。

今朝萩生さんから聞かされた、江古田さんの体質でメスに分類される生き物が何故か魅了されてしまう

 

「いいなー蓮ちゃん・・」

 

はなこさんが猫にまとわり付かれている江古田さんを羨ましそうに眺める。

側からみればかなり鬱陶しそうだが、動物好きで普段からろくに触れもしない猫に囲まれている状況ははなこさんからしてみれば文句なしに羨ましいんだろう。

当の江古田さんもいつものことだからか全く動じていない。

 

「ん?」

 

ふと、視線をカバンと靴に向けると残りの猫がこっちに向かって来ていた。

今ここで江古田さんにまとわり付いている猫が全てメスだとすると残りは・・

 

「あっ、 猫ちゃんこっちだよーうわあっ!」

 

気付いた時には間に合わず、はなこさんは猫の集団に詰め寄られてあっという間に

土煙で姿が見えなくなった。

 

「は、花小泉ー!」

 

「はなこさーん!」

 

今回は前回のように傍観せずとにかく助けようと側に向かうが猫を蹴散らするのを躊躇ってしまい動きを止めてしまう。

 

「ええい、貴様ら散れー! ぐへえっ!」

 

俺とは違い萩生さんは猫を蹴散らしたが逆に反撃を受け、俺のいる方向に倒れかけてきた。

 

「は、萩生さん!」

 

咄嗟に背中から抱きしめる形で萩生さんを受け止める。

 

「痛た・・猫め、ふわっ!?」

 

「ど、どうしたの、萩生さん!?」

 

「き、貴様あっ、ど、どこに触っているのだあっ、ふああっ!?」

 

そこでようやく自分の両手が萩生さんの胸を制服の上から鷲掴みする形になっていることに気がついた。

しかも、知らず知らずの内に両手に力を込めてしまいただ触れているのではなく完全に『揉む』行為になってしまっている。

 

(はなこさんと身長はほとんど変わらないけど、ここは結構・・)

 

「あっ、ご、ごめんっ!?」

 

慌てて両手を話し密着していたお互いの体が離れた。

 

「はあっ、はあっ」

 

「え、えーと、だ、大丈夫・・?」

 

萩生さんは顔を赤くしながらも俺を睨みつけてくる。

表情は更に赤くなってきているが、赤くなる理由がさっきまでとはまるで意味が違うのは考えるまでもない。

 

「き、貴様! よくも響にあのような辱めを・・!」

 

「い、いや違うんだ・・今のは・・その」

 

「言い訳無用! 歯を食いしばれー!!」

 

「ぐへえっ!」

 

混乱しきっていたため萩生さんの怒りの一撃が顔面に飛んでくるのを俺は受けることしかできなかった。

 

「いってて・・あ、あれ、何だ!?」

 

引っ叩かれて吹っ飛んだ先で視界が喘ぎられ顔中に何やら言いようのない柔らかいもので包まれる。

 

「あ、あー! 貴様何をしているのだー!!」

 

「え、何って・・」

 

「大丈夫?」

 

「え・・江古田さん?」

 

顔を上げるとそこには江古田さんの顔があった。

自分の顔の位置から考えてるとそこは江古田さんのむね・・・

 

「うおっわうあっ!!」

 

自分でも何を言っているのかさっぱり分からない妙な声を上げてその場から全速で跳びのく。

 

「ご、ごめん!、本当にごめん!!」

 

何を言っても言い訳にしかならないが、今の俺にできることといえば謝ることしかない。

 

「き、きききき貴様あー!! い、い今蓮の胸に顔を・・・!? ひ、響だってそのようなことしたことないのに・・っ!」

 

「響、落ち着いて」

 

「これが落ち着いてやれるかー! 響だけに留まらず、蓮にまであの様なマネを・・!」

 

萩生さんはこれまで以上に怒りで表情を赤くしていて俺をすごい形相で睨みつけている。

分かりきっていたが、江古田さんはともかく萩生さんは怒り心頭でこの様子では到底許してはくれないだろう。

 

(こうなったら土下座でも・・いや、土下座する程度で許してくれるんら今すぐにでもするけど・・いやそれでも何もしないよりは・・!)

 

「ん・・何だ?」

 

「・・え?」

 

ふと気がつくと、いつの間にか萩生さんの表情から怒りが消えていた。

いや、怒りが消えたというよりもあっけにとられた様な表情で視線を俺の真後ろの方に向いていて、その視線を辿ってゆっくりと振り向く。

 

「・・鳥?」

 

どういう訳か10羽以上の鳥の集団が集まっており、じっと鳥を観察している間にもどこからか集まってきてどんどん数が増えていく。

その上、そこにいる鳥全ての視線が俺に向けているような気さえてしてくる。

急に嫌な予感を覚えて、振り向くと正面には犬や猫が集まっている。

更にはその犬猫の1匹たりとも例外なく俺に向けて唸っている。

今に至ってこの状態を説明できる推測を1つ思いついた。

さっき江古田さんの胸に顔を押し付けてしまったこと・・江古田さんの体質・・そして、ここに集まった動物達の性別がメスだと仮定すれば・・・・

その時やっと自分がどういう状況なのかはっきり理解したが、だからといってどうすることもできなかった。

 

集まっていた動物達が俺1人に向かって一斉に飛びかかってきた。

 

「うぎゃあああああああああああああっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

俺達4人が教室の扉を開けると丁度小平先生が朝の点呼をしている最中だった。

 

「あら、葵坂さん、その姿は?」

 

俺の姿を見た途端、先生が少し驚きクラスメート全員がざわざわと騒ぎ出す。

それもそのはず、俺の全身に動物の毛や鳥の羽が大量に取り付いていて、噛まれた跡やつつかれた跡もあるのだから。

俺が逆の立場だとしても絶対驚いてしまうだろう。

 

「ちょっと、動物に襲われまして・・」

 

「そうですか、それは大変でしたね、とにかくみなさん遅刻にはしませんから席について下さい、あ、でも葵坂さんはひとまず顔を洗ってきて下さいね」

 

先生に言われて洗面所で顔をしっかり洗い、教室に戻ると既に朝のHRは終わっていてヒバリさんと牡丹さんを含めた5人で話をしていた。

 

「あ、あおいくん、はなこから聞いたけど本当に大丈夫なの? ひどい格好だったけど・・」

 

「あ、まあ、何とかね・・」

 

肉体的にも精神的にも結構ダメージを負っていたが今日1日休んでいれば問題ない。

しかし、慣れているとはいえ毎日のようにこんな目にあっているはなこさんはもしかしたら俺よりタフかもしれない。

 

「それにしても、どうしてそんな目にあったの? 普段ならはなこが・・そんな目には合わないのに」

 

ヒバリさんは一瞬だけはなこさんに目を向けるがすぐに視線をこっちに向き直る。

きっとヒバリさんが言いたいのは普段ならはなこさんが動物に襲われているのに今日はなぜか俺がそんな目にあっているから不思議に思うのも当然だ。

確証はないが多分、俺が江古田さんにうっかり不埒な真似をしてしまったせいで犬猫達を怒らせてしまったからだろう。

 

「ど、どうしてかな、俺にも分からないや」

 

正直に説明することもできず適当に誤魔化しておくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一限目の授業が終わって休み時間に入ると、まだ怒っているらしい萩生さんの元を訪れて声をかける。

今は1人だけのようで江古田さんの姿はなかった。

 

「ん、何か用か?」

 

未だに怒っているようでかなり不機嫌そうな表情を向けられる。

かなり気まずいが、それでもあの時うっかり萩生さんの胸を触ってしまったことをもう一度はっきり謝っておきたかった。

 

「あの・・さっきの登校中のあのことだけど・・」

 

はっきり言わずとも萩生さんは今の言葉で理解したようでより一層表情を強張らせ、さらにほんの少しだけ赤くなる。

 

「本当にごめん、わざとじゃないなんて言っても信じてもらえないかもしれないけど・・それでも謝ることしかできないからさ・・」

 

そう俺が良い終わってから10秒ほどの時間が流れると萩生さんが口を開いた。

 

「別に・・もう響に対する痴漢行為のことでもお前にはしっかり報いを与えてやったし、蓮に対することも動物達が痛めつけてやったし・・それに蓮がもう良いと言ったのだから特別に許してやらんでもない」

 

「・・えと、その・・ありがとう」

 

許してくれたことにお礼を述べると、萩生さんはそっぽを向いてしまう。

 

「もう良いと言ってるだろう、用が済んだらさっさと行け、響は忙しいのだ」

 

「ああ、じゃあ」

 

「・・あんなところ、蓮にだって触れられたこともないのに・・」

 

自分の席に戻るとき萩生さんが何か言っていたが許して貰えたことが喜んでいる俺には上手く聞き取れなかった。

 


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