「はあ、はあ・・」
落ちた先は水中で結構深さもあり怪我することはなかったが、水中にワニの姿を見つけた為に全員必死になって泳ぎ、なんとかあがって今に至る。
よく見ると、一応ワニは口を縛っているようで少なくとも食われる心配はなさそうだったが水中にいる時はそれどころではなく着衣したまま死に物狂いで泳ぐハメになった。
しかも、水中というより沼に近くてかなり泳ぎづらくかなり体力を削られた。
体力のない生徒ならここで動けなくなっていたかもしれない。
「お、思わぬ大冒険だったぞ・・」
「ワニとか沼とか・・」
「うん、これでかなり時間をロスしちゃっただろうし急がないと・・」
「だが、ここから響たちの大逆転が始まるのだ!」
萩生さんが勢いよくサイコロを振ると1が出る。
「いちぃ!」
萩生さんが素っ頓狂な悲鳴を上げてがくんと落ち込む。
「い、いや気にすることないよ、とりあえず進まなきゃ」
俺に反論する元気もないようで萩生さんは江古田さんに手を引かれて俺たちは元の場所に戻り1マスだけ進む。
すると、再びチモシーが現れ「本日2組目のコスプレルーレットだよ」と告げてくる。
「コスプレルーレットだと!」
確かコスプレって漫画やアニメのキャラクターみたいな格好をすることだよな?
出てきたルーレットにはそういったキャラクターではなく様々な動物の絵が描かれていて、ウサギや虎に馬、イカなどもある。
さっきのお題のようにクリア特典などはないのだろうが少なくとも穴に落ちたり一回休みにはならないはずだが何とも言えない嫌な予感を覚える。
「さあっ、これはチーム全員参加だよ、最初は誰かな?」
「よしっ、ならば響からだ!」
萩生さんは
「来いっバニー!」
勢いよくボタンを押しルーレットの光の移動が段々と遅くなりやがて・・熊に止まる。
「はい、君は熊にけってーい!」
地面が開き床が開きそこから熊の着ぐるみ、しかもやたらとモフモフして巨大なぬいぐるみと間違えてしまいそうなほどのボリュームがある。
「な、なんだと、響はうさぎを狙ったのに、や、やり直しだこんなの!」
「ダメだよー、どうしても嫌だってなら失格にするよー?」
「うっ、お、おのれー」
萩生さんは渋々といった様子でその熊の着ぐるみに着替え始める。
後ろ姿だけならば巨大なぬいぐるみと見間違えてしまいそうだ。
「なっ、なぜ響がこんな格好を・・屈辱だ・・」
「次は誰が行くのー?」
「・・・・」
江古田さんが黙って前に歩み出て少しもためらうことなくボタンを押す。
「はい、君はトラだよー」
再び床が開きトラの衣装が・・
「あれ?」
出てきたのはさっきの熊の衣装とはまるで異なり全身タイツのようなものが出てきた。
よく見ると猫耳、いや虎耳みたいなものも一緒においてある。
「何で熊とは全然違うんだ?」
「さあねー僕にもわからないや」
分からねえのかよ・・
江古田さんは何も言わずに衣装に淡々と着替えた。
タイツが体に密着しボディラインがしっかり見えて体の凹凸が強調されている。
江古田さんは中性的な美人だがこうしてみると意外と女性的なスタイルなのがはっきりと分かった。
「・・?」
ついじっと見ていると江古田さんから不思議そうな目で見られ、慌てて視線を逸らした。
幸いにも萩生さんには気づかれなかったようで誤魔化すようにルーレットを回しに行く。
「はいじゃあ君が最後だよ、ルーレットスタート!」
ついに自分の番になったがなかなか踏ん切りがつかない。
しかし、序盤で痛いタイムロスをしている以上これ以上モタモタしている場合じゃない。
変な衣装が出ませんように・・
意を決してボタンを強く押す。
ルーレットが止まったのは・・馬の絵だった。
床が開いてきてそこには馬のマスクだけが出てくる。
マスクといっても、萩生さんと江古田さんのようにデフォルメされたものではなくたまにネット上で被っている人を見かけるようなリアルに造られているものだ。
「また変なのがきたな・・」
これを被った自分を想像すると情けなさで乾いた笑いが出そうになる。
とはいえ萩生さんの熊の着ぐるみよりはまだマシかもしれない。
「ふっ、なんだその変なマスクは、全く滑稽だな」
相変わらず萩生さんは俺に対して辛辣だった。
仲の良い友人だけのチームに突然見知らぬ男が入ってきたからなんだろうが別に俺のせいではないので困る。
それにクマの着ぐるみを着た今の萩生さんに言われたくはなかった。
ともかく、目の前の馬のマスクを持ってゆっくりとそれをかぶった。
思ったほど窮屈ではなく特に匂いもしない、少し視界が狭いがすごろくが終わるまで我慢すればいいだけだ。
再びサイコロを投げて次のマスに進む。
『チーム全員で合計100回腕立て伏せ』
コスプレルーレットの次に止まったマスで出されたお題はそういうものだった。
「3分以内に終わらせれば6進む・・か」
「よしっ一気に進む大チャンスだ、早速始め・・あれ?」
萩生さんは前のめりになって腕立て伏せを始めようとしたがクマの着ぐるみのせいで手が届かなかった。
「くっ、くそっ、このおっ!」
じたばたと手足を動かすが無駄な抵抗で、その姿はかなり面白く我慢できずに吹き出してしまった。
「・・ぷっ」
「き、貴様っ、今笑っただろう!」
萩生さんに聞かれてしまい、顔を赤くして怒鳴ってくる。
「ご、ごめん、でも面白くて、あははははっ」
「こ、このおー!」
「響、うるさいよ、さっさと始めるよ」
江古田さんがいまにも飛びかからんばかりの萩生さんをなだめてくれたのでやっと彼女は落ち着く。
「ごめんごめん、萩生さん、江古田さん、お詫びにここは俺1人でやるから」
「・・いいの?」
「分かっているのか? 1人で100回も、しかも3分以内に終わらせるんだろう、出来るのか?」
「まあ一応鍛えてるから、多分大丈夫だよ」
それにちょうど良い筋トレになりそうだし。
「じゃあいくよー、よーいスタート!」
「ぜえ・・ぜえ・・」
腕立て伏せ100回はなんてことなくクリアすることができた。
しかし、その後に腹筋100回、スクワット100回、懸垂30回等、制限時間内のクリア特典による移動後のマスのお題が似たようなものになっていたので疲労が取れないまま連続で続けてかなり体力を消耗してしまっていた。
どうやら、筋トレマスをクリアすると自動的に似たようなお題のマスに止まるようになっているみたいで頑張ってクリアするとノーリスクで進める代わりに体力をあっという間に消耗していく仕組みになっている。
制限時間内にクリアできなくともペナルティはないが何も考えず張り切ってクリアしていった結果がこれだ。
しかも、本来は3人で分担でやることになっていたのだが俺がついつい安請け合いしてしまったので全部1人でやる羽目になってしまった。
それでも何とか最後の懸垂を終えて次のマスに進む。
「よし、終わったなじゃあ次に行くぞ!」
萩生さんは相変わらず俺のことなど微塵も気にかけることなく進んで行く。
正直もう限界なので、次に同じようなマスが来たら大人しく手伝ってもらうことにしよう。
「・・大丈夫?」
「あ、ありがとう、江古田さん」
萩生さんはともかく、江古田さんは気にかけてくるのが有難い。
「次は私と響でやるから、葵坂くんは休んでて」
「ああ、じゃあよろしく」
「蓮、何をやっている、早く行くぞ!」
その後は特に妙なマスに止まることもなく今までと比べれば順調に進んでいった。
しかし、もう大半の生徒がすでにゴールしているので残っているのは一握りのチームだけだろう。
「ん、あれは?」
道を進んで行くと、前方にはなこさん達の姿が見えてくる。
しかもよく見ると3人とも動物のコスプレをしている。
はなこさんはうさ耳だけ、牡丹さんはイカの格好、ヒバリさんはバニーガールの格好をしていた。
「くっくっく、ようやく捉えたぞ、予め言っておくが響の仮の姿には決して触れるな」
それだといわゆる『フリ』だと勘違いされるよ萩生さん。
「くまさんにお馬さんだーかわいいー」
「だ、だから触れるなと・・」
「トラさんもとっても素敵です」
「・・ありがとう」
「ひ、ひばりさんその格好・・」
ヒバリさんはいわゆるバニーガールの格好をしていて、うさ耳こそしていないが足は網タイツ、上半身はしっかり胸元が見えていて、お尻の所には丸い綿毛が付いている。
テレビや漫画はともかく生で見るのは初めてので顔見知りである友人の女の子がこんな色気のある格好をしていて視線を向けずにはいられなかった。
「み、見ないでっ!」
視線を向けているとヒバリさんは顔を赤くして胸元を隠す。
ヒバリさんからしてみれば恥ずかしい格好を友人の男子に見られているのだから当然の反応だろう。
「ご、ごめん!」
慌てて視線をそらしたが、進路の方向に3人がいる為自然と正面を向くことになり同時にヒバリさんの姿も視界内に入る。
「そ、そっちもコスプレルーレットのマスに止まったんだね、だからそんな格好を」
話をそらすためにはなこさんと牡丹さんに話を振る。
「うん、このうさ耳、ひばりちゃんに貰ったんだ」
「あおいさんの馬のマスクもとてもお似合いです」
「あ、ありがとう・・」
こんな変なマスクに似合ってるも似合ってないもあるかは分からないがし似合っていると言われても複雑だが、話をそらすことには成功した。
「ふっ、どうやら無限ループエリアにはまったようだな、哀れな奴らだ」
「心配してくれるの? 優しいな響ちゃん!」
「誰がお前達の心配などするか! いいか、見ていろこれで逆転だ!」
萩生さんはサイコロを放り投げゆっくり落ちて4が出る。
「どうだ、響の辞書に敗北の文字はない!」
「その辞書、欠陥品じゃないのか?」
「じゃ、じゃあ悪いけど先に行かせてもらうね」
俺たちが道を進むとはなこさんも小走りで横を追い抜いて通り抜けざまに話しかけてくる。
「響ちゃーん、クマさん可愛いね」
「呼ぶなって言ってるだろう!」
「あ! そっちは・・」
萩生さんは怒ってそのまま道を曲がってはなこさんの後を追いかける。
「先生、萩生さんが物凄く道を間違えたんでこっちへ・・」
「無理です♡」
ですよねー
「蓮ーどうして響の行く道を止めなかったのだ!?」
「いや、妙に彼女達に絡むから一緒にいたいのかと思って」
「響が一緒にいたいのは蓮だけだ!」
ピンポンパンポーン
萩生さんが誤って無限ループエリアに入り込んだことに気づき自分を止めなかった江古田さんを問い詰めていたところ、突然、大きなチャイムの音が聞こえ先生とチモシーがゴンドラに乗って現れる。
「業務連絡だよー」
「もうあなた達以外のチームはゴールしましたよ」
まじか・・確かにもうかなりの時間が立っている頃だ。
「みんなすごろく上手なんだね」
「そういう問題じゃないと思うわよ」
「というか、俺たちが時間を掛けすぎてるんだよ」
「このままでは2時間目が終わってしまいます、すごろくで最下位を決めるのは難しいようですね、対抗戦に移りましょう」
「「「「「「対抗戦!?」」」」」」
ここにいる6人全員が同じ疑問の声を上げる。
先生が指を鳴らして
以前の経験からとっさにその場をジャンプして離れたが穴は開かなった。
じゃあ何がこれから起こるんだ・・?
「大丈夫、怖くはありませんから、さあ参りましょう最後のステージへと・・」
突然、壁が開きUFOキャッチーのようなアームが出てきてこっちへ向かってくる。
その数はここにいる人数と同じちょうど6本だ。
「う、うわわっ!」
逃げようとしたが、あっさり捕まってまるで景品のように移動することとなった。
「よっと」
無抵抗で連れてこれらた先は暗くてどんな場所なのか分からなかった。
アームが静かに開き落ち着いて着地し衝撃を和らげる。
続いて江古田さん、ヒバリさん、はなこさんが落ちてくる。
「あー楽しかったー」
はなこさんは今の状況でもしっかり楽しんでいて少し羨ましい。
「あたりめっ!」
そして、牡丹さんもアームから離されてうまく着地できずに地面に叩きつけられる。
怪我はないようだがすっかり怯えてしまっている。
「私あのアームがいつ壊れたり折れたり砕けたするんじゃないかと恐ろしくて寿命が40年は縮まってゲッソリです・・」
「持ってかれすぎでしょ!」
「デ◯ノートの死神の目じゃないんだから・・」
まあ牡丹さんの性格を考えればそう言うのも妥当に思えてしまう。
そういえばまだ萩生さんが来ていない。
その時最後のアームと萩生さんがその場に姿を現した。
「プッ」
「まあ」
「かわいい!」
その姿を見た途端、江古田さんを除く全員が噴き出した。
「笑うなー! そこー!」
萩生さんは着ぐるみの尻尾の部分を掴まれていた。
当然逆立ちしているように頭が下になっていてさらには本人が悔し涙を浮かべながらジタバタ動いているのだからなんとも可笑しかった。
でもそんなに激しく動いてたら落ちるんじゃ・・?
「響、そんなに暴れたら」
ガタンっ!
「うああっ!?」
予想通りアームが外れ萩生さんはそのまま落ちていく。
とっさに真下へ駆け出すが間にあいそうない。
しかし、俺がたどり着く前に既に江古田さんが移動していた為に萩生さんは床に叩きつけられることはなかった。
「ほら、だから言ったのに」
「れ、蓮・・プギュ!」
「ごめん、やっぱり重かった」
不意に江古田さんが萩生さんから手を離して床に落とす。
「ダイエットする」
「頑張れ」
「いや、別に体重が重いわけじゃないって、普通の女の子の力じゃ同じ歳の人間の体重なんて重くて当たり前だから」
フォローするが萩生さんの耳には届いていない。
突然照明が付き、視界が一気に広がる。
そこはかなり広い場所でしかも周りにはマラソンのコースが俺たちを覆うように360度敷かれていた。
「ようこそ、クラス1不幸な生徒を決めるステージへ!」
「あなた達にはチモシーから出される3つの運試しゲームに挑戦してもらい、その合計で勝敗を決めます、なお、あらかじめ言っておきますが最下位のチームにはスペシャルな宿題が待ってます」
「では始めましょうか、始めの競技は・・」
「もぐもぐパン食い競争ー!」
壁の扉が開きそこから10体近く小さなチモシー達が現れ、あっという間にコース上にパン食い競争の用意を終える。
チモシーが言うにはチモシータウンのスタッフらしい。
「ちょっと待ってください、先生」
「何ですか、葵坂さん?」
「パン食い競争ってことは全員でこのコースを走って順位を決めるんですよね?」
「はい、そうですが」
「これだと、男子で運動部所属の俺がいるこっちのチームが有利すぎるんじゃないですか? この競技は運より身体能力の方が間違いなく勝敗を左右とすると思うんです」
萩生さんと江古田さんの身体能力は知らないが今までの立ち振る舞いを見ていると2人とも運動神経は良さそうだし、少々傲慢かもしれないが勝負は見えていると言っても過言ではないのだろうか?
申し訳ないが、むこうのチームの牡丹さんは最後まで走り抜けるかすら疑わしい。
「言いたいことはわかりました、しかし勝負はやってみなければわかりません
もしかしたら葵坂さんが転んで怪我したり、思っていた以上ヒバリさん達が早く走るかもしれない、それも『運』なんです。 それにあなたは幸運になって体育クラスに行くのでしょう?」
「そ、それは・・」
確かに、俺は入学初日にそれを目標にしている、ここで最下位になれば一層遠のくかもしれない。
それに先生の言う通りで絶対に勝てるとは限らないのも事実だ。
3人に目を向けて様子を伺うとはなこさんと牡丹さんはよく分かっていないようだったがヒバリさんは緊張した面持ちでこちらを見ている。
勝手も負けても恨みってなしではないが少なくとも手加減して負けるわけにもいかない。
はなこさんとヒバリさんと牡丹さんには申し訳ないが、目標のためにも最下位だけは絶対に避けなければならない。
「分かりました、すいません時間を取らせて」
「いえ、今のは少しかっこよかったですよ、そのマスクがなければですが」
褒められたと思ったら直後にけなされる。
忘れかけていた今の自分の姿を思い出し少し悲しくなった。
「では早速始めましょう」
その後、全員で一列に並んでスタートを待つ。
「よーい、スタート!」
全速力で走り一気に最高速まであげて1番に躍り出る。
その勢いのままジャンプしパンを咥えてゴールに向かう。
ちなみに、アンパンだった、おいしい、できればこしあんの方が良かったけど。
「ちなみにひとつだけわさび入りのパンが混ざってるよ」
先生の声が聞こえたと同時に後方から人が倒れる音が聞こえたがそれが一体誰が倒れたのか振り返るまでもなかった。
俺はそのまま1位でゴールし2位は江古田さん、3位はヒバリさん、4位は萩生さんとなり俺たちのチームに1点が入りひとまずリードを得た。
ちなみに、牡丹さんはパンを咥えたさいに歯が砕けたために、はなこさんと牡丹さんの2人は棄権となった。
「2つ目のゲームはチョコスティックゲーム!」
チモシーの説明によると制限時間内にチョコスティックを両端から食べ始め最終的により短くした方の勝ちらしく、また折れたらその時点で負けで、用意されたスティックのうち短い方と長い方の2つがあるようだ。
あ、これワン◯ン物語で見たことあるな、あれはスパゲッティだったけど。
ヒバリさんと萩生さんが引き、俺たちは長い方を引いた。
早速、ヒバリさんとはなこさんが始めようとしているが、ヒバリさんが躊躇っているのでなかなか始まらない。
「じゃあここは私と響でやるから」
「あ、うん、よろしく」
ここは男の俺とやるよりも同性で友人同士の2人の方でやる方が成功率が高いのは考えるまでもないだろうし、特に反対しない。
まあ、それ以前に俺がやると悲惨なこと(主に女性側にとって)が起きかねないこともあるのだが。
江古田さんは萩生さんが持っているスティックを持って咥えてそのまま萩生さんの口元に近づける。
「れ、蓮」
「集中して」
江古田さんは萩生さんを抱き寄せスティックを咥えさせるとそのままゆっくりと食べて進んでいく。
会ってまだ数時間だが知り合いの女の子がゲームとはいえ口を近づけていく光景に思わず見入ってしまう・・
パキッ
だが、途中でスティックが真っ二つに折れてしまった。
「ごめん、勢いつけすぎて折れた」
萩生さんはそのまま両手をついて嗚咽するように声をあげて嘆く。
「うああああっ、れ、蓮の、蓮の馬鹿あ、うあああっ」
「どした?」
「た、多分勝負に負けたからだよ、きっと」
絶対違うと思うが正直に江古田さんに伝えるわけにもいかないのでとっさにそうごまかしておく。
一方のはなこさん達を見てみるとはなこさんがうっかりチョコスティックを飲み込んでしまい、結果的に引き分けとなった。
これで一勝一引き分けで次で負けない限り俺たちのチームの勝利となる。
「これは・・クイズですか?」
「うん、もう2時間目終わっちゃうから問題はひとつだけだよー」
「ここで、雲雀丘さん達が勝っても同点ですからお約束でポイント10倍にします」
「ありがたい提案ですけど、そっちはそれで良いの?」
「ふん、全くもって構わん、だいたいそっちが不甲斐なさすぎるのだ」
「なんで怒られてるのかしら・・?」
「まあ、不甲斐ないというよりこっちの運が良かっただけだから、勝負はまだわからないよ」
とにかく、この勝負は絶対に勝たなければならない。
「では皆さん、この箱に注目してください」
「この箱の中にはどちらかのチームに有利な問題が入っています、これが最後の運試しです」
なるほど、この競技でも運が重要視されるということか。
さて、こっちに有利な問題が出ますように・・・・
「あら、ついてませんね、雲雀丘さん、問題です、あなたの『好きで好きでたまらない人』の名前を大声で叫んでください」
この問題は・・!
とっさにヒバリさんの方に目を向けると明らかに動揺している。
「さっき萩生さん達が答えられなかった以上、なんだかんだで雲雀丘さん達にはラッキー問題かもしれませんね」
いや、事情を知ってる側にとっては最悪の問題だこれは・・
ヒバリさんの好きな人といえば、あの看板なのだから。
「・・・・・・・・」
ヒバリさんは押し黙ったまま静かに考え込んでいて、その表情は葛藤しているのが手に取るように見てわかる。
ここで言えばヒバリさんは誰にも言いたくない秘密を言うことになってしまう。
言わなければヒバリさんは秘密を知られず、俺たちは勝つには勝つが、一体どうすればいい。
ヒバリさんは覚悟を決めたかのように手を伸ばす。
味方ならともかく今は敵チームの俺にできることって・・そうだ!
「先生! 好きな人を言うのは誰でも良いんですか?」
特に考えは無かったがそんな適当な質問をしてみる。
確証はないが別に誰がやるとは決めてないはずだ。
「はい、誰でも構いませんよ」
「はい、私、イリオモテヤマネコが大好きです!」
・・・・・・・・・・・・
「人だって言ってるだろこの野郎」
「最下位は雲雀丘チーム!」
「あれ?」
「まあ」
勝った・・か・・
はなこさんが介入してきてうやむやになったが一応は目的は達成できたようだ。
何の根拠もない憶測に過ぎないがヒバリさんの好きな『人』は人ではないので言っても不正解なんじゃないかと思うのだが。
隣を見てみると、大きなクマもとい萩生さんが「ワースト2位・・」とかなり落ち込んでいるのが目に入った。
なんとなく予想できていたが最下位とは言え一応ワースト『1位』を狙っていたことが何とも萩生さんらしい。
こうして、最初の幸福実技は終わった。