今月中に11話分は投稿したかったのですが諸事情により遅れてしまいました、申し訳ありません。
これからできる限り投稿頻度を上げて投稿していきたい所存です。
話は変わりますが、あんハピのBDBOXの予約が始まり早速予約しました。
当時はお金が無かったため買えなかったので、BOX化を首を長くして待ってました。
今から待ち遠しいです。
お祭りの日から数日後、林間学校の日がやって来た。
現在、バスに揺られて約2時間が経ち出発前に聞いていた予定時間を迎えてもうそろそろ目的地に着く頃だろう。
俺は一番後ろの右奥の席に座っており隣から牡丹さん、はなこさん、ヒバリさんの順で座っていた。
ちなみに、前の席には萩生さんと江古田さんが隣り合って座っている。
「はい、みなさん間もなく宿泊所に到着ですよ」
「わー楽しみだね!」
「本当に・・」
「うん、そうだね・・」
楽しみなのは否定しないが同時に不安で仕方がなかった。
このバスに乗る前にもはなこさんが穴に落ちたり、牡丹さんが荷物の重みで倒れてしまっていたので2人がこれからの2日間を無事に過ごせるとは到底思えず中々落ち着かない。
俺の反対側に座っているヒバリさんもそのことを考えているのか、何となく浮かない表情をしている。
「あっ、先生、チモシーは来てないんですか?」
「あの子はメンテナンスが間に合わなくて・・」
「チモシーか・・」
一学期が終わり、夏休みとなって皆でカラオケに行った際、突然現れてその時に点検があるのでしばらく会えなくなると言っていた。
また、夏祭りの日に校舎内で下半身だけのチモシーに追いかけまわされ、軽いトラウマになりかけたのではなこさんには悪いが俺には好都合だ。
確証はないが、あの日にあんな行動をしたために余計な点検が必要になって間に合わなくなったのかもしれない。
「そうなんだ・・」
「でも、終わり次第合流できると思います、それまでの助っ人は・・」
先生が指をパチッと鳴らすと、何処からかバスの中の生徒と同じくらいの人数?が現れた。
しかも、何故か1羽だけはなこさんの頭の上に乗っかっている。
はなこさんだから喜ぶのだろうが、もし自分なら絶対に怒りを覚える場面だ。
「ミニチモシー達にお願いすることにしました」
「確かすごろくの時にいた・・」
「今までどこにいたんだこいつら・・」
「ミニチモちゃん、久しぶり!」
はなこさんがそう言って頭に乗っているミニチモシーを撫でようとしたが、素早くジャンプして見事な着地を決めた。
その後もチモシーの頭を撫でようしてみたが今度は何羽ものチモシーに頭の上に乗られて動けなくなっていた。
「そういえば、はなこさんチモシーさんを撫でられたことありませんでしたね」
「ミニチモシーでもダメなんだ・・」
「止めなくていい・・かな?」
はなこさんは重そうにしているが、触れることは叶わずともこんなに多くのチモシーに纏わりつかれ、むしろ気持ちよさそうな口ぶりで止めていいのか判断に迷っていた。
「しかし、良くできているなー」
萩生さんが自分から一番近くにいるミニチモシーを無造作持ち上げて、しげしげと眺める。
言われてみると忘れがちだがチモシーもこいつらもとんでもなく高性能なロボットでこれを作った人物はかなりの天才に間違いないだろう。
どうしてチモシーをあんなふざけた性格に設計したのかは見当もつかないが。
「結構可愛いよね」
「なっ、目を覚ませ、これはロボットだぞ! 大体蓮はうさぎだけでなく動物全般に甘すぎるのだ、それにもっと優しくすべき相手が近くにいるだろう、例えばもっと優しくすべき相手が近くにいるだろう・・
「は、萩生さん、チモシーが潰れているよ・・」
よくよく聞いてみると告白とも思えるような発言だったが、それよりも興奮しているせいか無意識の内に手に持ったミニチモシーを握りつぶしそうな程の力で揉みしだき、ロボットながらも顔が明らかに苦しそうに見える。
思わず声を掛けてみたが話すのに夢中で聞こえていない様子だった。
例えば、今隣に座っている幼馴染とか・・」
「んっ?」
一瞬ことで、しかも目の前の出来事に集中していたせいではっきりと視認できなかったが、大きな門のような物の横を通り過ぎたような気がした。
「って聞いているのか蓮ーっ!?」
「今やたらと大きな壁を横切ったような・・」
どうやら江古田さんも同じものを見ていたようで、後ろを気にしている。
「気のせいではないのか? こんな山奥に・・」
窓を開けて確認してみようと考えたが、ここの窓は開かない仕組みだったようでビクともせず、バスの中からでは確認することはできなかった。
「チモモーっ」
「ぐはあっ!?」
その直後、萩生さんが仲間の危機を感じ取ったミニチモシーからキックを食らっていた。
ほどなくして、目的地である宿泊所に到着しバスを降り、ロビーに集まる。
すぐに、先生から説明があり林間学校の間は5人1組の班に分かれ、班ごとに泊まる部屋も同じらしい。
自分はクラスでよく話をする男子と同じ班だったのでひとまず安心できた。
当然ながら男女別で、はなこさん、ヒバリさん、牡丹さん、萩生さん、江古田さんは同じ班に割り振られていた。
「何ー、響がこいつらと同じ班だと!?」
部屋割りに納得がいかない萩生さんが早速不満を漏らしている。
「泊まる部屋も同じなのね」
「蓮ちゃんも一緒だね!」
「よろしくお願いします」
「うん」
「くっ、どういう選考基準なのだ・・」
選考基準は不明だが、はなこさん達の班を見る限り基本的に仲のいいメンバーが選ばれているのかもしれない。
「あおい君も一緒だったらよかったのにね」
「いや、はなこさん・・俺男子だからね」
「そもそも班の人数は5人なんだから性別関係なく一緒の班になるのは無理でしょ」
「あ、そうだね」
そんな話をしていると、先生が生徒の前に立って注目を促して話を始めた。
「はい皆さん、部屋に荷物を置いたら、早速幸福実技を始めます」
「いきなりですか!」
「どんな内容なのでしょう?」
「危険なことじゃなけりゃいいんだけど・・」
殆どの生徒は突然の幸福実技に緊張した面持ちになるが、唯一楽しみにしているはなこさんは例外だ。
「まずは小手調べのクラフトです」
先生の説明が終わると施設内のある部屋に誘導され、そこでクラフトを行うことになった。
テーブルの上にエプロンと小さな丸太、そして彫刻刀の一式が既に用意されていて準備はエプロンを着ることだけだった。
皆とは別の班である以上隣同士のテーブルだったため、いつでも話しかけられる場所にいる。
「簡単な木彫りですが、怪我をしないように気を付けてくださいね」
「こういう工作は初めてです・・」
緊張のせいか、牡丹さんの手は彫り始める前からプルプルと震えており、思わずこっちまで緊張してしまいそうになる。
「彫刻刀なんて握るの久しぶりね」
「俺も小学校の頃以来だよ、俺こういうの苦手なんだよなぁ」
野球の試合や練習の時のように体全体を激しく動かす運動なら大得意だが、逆にこういう手を少しずつ動かすような細かい作業は昔から不得意だった。
「好きなもの作っていいんだよね、何にしようかなー?」
はなこさんは本当に楽しそうにクラフトに取り組んでいて、ちょっとだけ羨ましい。
先生から『クラフト』という言葉を聞いた時も『幸福実技』ということもあり一体何を作るのか気が気でなかった。
しかし、今のところは普通に好きなものを作るだけみたいで少しばかり拍子抜けしてしまっている。
「今日のクラフトは小手調べですから、皆さん好きなものを気軽に作ってくださいねー♬」
(今日は・・か)
明日に何が行われるのか気になったが、とりあえずは目の前のクラフトに集中する。
「じゃあ、あれにしようかな」
作るものを決めて早速取り掛かり始めた。
「よし、これで完成だ」
俺の手には削り続けてすっかり丸くなった、木彫りの野球ボールが出来上がっていた。
好きなものと言えばやはり野球であり、そしていつも持ち歩いているボールが浮かんだのでこれを選び、ついさっき時間を掛けながらもやっとのことで完成を遂げた。
「あおい君もできたの?」
「まあね、ヒバリさんも完成?」
ヒバリさんの手には花の形となった木彫りが出来上がっていた。
「うん、あおい君のは野球ボール? あおい君らしいわね」
「そ、そうかな、あはは」
「ヒバリさんも葵坂さんもとってもお上手ですね♬」
「形が分かりやすくて簡単そうなのにしただけよ、牡丹は?」
「それが・・一時間かけてこの有様です」
牡丹さんの手にはまるで作りかけのような、ほんの一部だけ欠けた丸太があった。
そういえば、俺が木彫りを作っている間も何か骨が折れるような音や短い悲鳴が度々聞こえていた。
「無茶はしないでね・・」
「実はもう骨が・・」
「先生ー牡丹さんがー!!」
慌てて先生を呼び、牡丹さんはミニチモシー達によって担架で運ばれていった。
「できたー!」
牡丹さんが運ばれて行ってから数分後、はなこさんも無事に木彫りを完成させた。
「これは・・」
自分の木彫りを作り終わった江古田さんも完成度の高さに目を引かれたようでやって来る。
「えへへ・・チモシーだよ」
「すごい、そっくりね・・」
「上手だね・・」
「本当!」
はなこさんの作った木彫りのチモシーはよく出来ていて、これならチモシーを知らない人でも一目見れば服を着たうさぎだと理解できるに違いない。。
これはおそらく、はなこさんが手先が器用というだけでなく大好きなチモシーを作りたいと一生懸命になって作った証でもあるんだろう。
その出来の良さに惹かれたのか周りのミニチモシー達もロボットながら興味津々のようでどんどん集まって来る。
ピシ・・
と、次の瞬間、何の前触れもなくチモシーの木彫りが爆ぜ、頭部だけが飛び散って反射的にその頭部をキャッチした。
「一体何が・・」
だが、訳も分からぬまま幾度もチモシーの木彫りは爆ぜ続け、もはや破片を受け止める気力すら湧かず俺達は唖然となってその様子を眺めることしかできなかった。
やがて、あっという間に原型が辛うじて認識できる程バラバラになって崩壊が止まった。
「チモシーが・・」
はなこさんは破片の一つを持ち上げ、見つめるが当然元に戻ることは無い。
「さあ皆さんそろそろ完成しましたかー? 出来上がったものはそれぞれ周囲の人と≪良いところ探し≫をしましょうね、この記入用紙に・・
もう時間のようで先生が説明しながら紙を配っているが、俺はこれからのことよりもこの林間学校が無事に終える姿を欠片も想像できず不安でしょうがなかった。
「はい、出来上がったものは同じ班の人と良いところ探しをしてもらいます」
先生が言った通り、これから同じ班のメンバーが作った木彫りの評価をすることになった。
俺の班は自分以外のメンバーがまだ作り終えておらず評価ができないため、それまで隣のはなこさん達の班の様子を眺めることにした。
「・・・・・・」
左から順にヒバリさんの作った花の形をしたかわいい木彫り、牡丹さんの作った・・穴(ほんの少しだけ削れただけの殆どそのままの丸太)、はなこさんの作った・・・・チモシー(原因は不明だがバラバラになったためやむを得ずセロテープを巻き付けで直した)があった。
「ふっ・・」
その木彫りを見て萩生さんが小さく笑う。
そういえば、まだ萩生さんと江古田さんは木彫りを出してはいない。
「大した出来じゃなくて悪かったわね、萩生さんのはどうなの?」
「ふんっ、響の崇高な芸術を見たいか、いいだろう・・これだ!」
「っ!?」
萩生さんが取り出したのは、禍々しいオーラすら見えてきそうな程奇妙な形をしていて、所々に顔や手?があって、しかも全体的にぐねぐねしていてはっきり言って非常に怖い。
「なんか凄い!」
「素敵です」
「テーマは愛と苦しみ、その概念を極限まで落とし込んだ傑作だ!」
苦しみはともかく、愛はどこにあるんだ・・?
家に置いていたら悪夢に苦しめられそうではあるけど・・
「残り十分で良く間に合ったね・・」
「怖くないの!? ねえ、あおい君は怖いわよね!?」
「あ、ああ、凄い怖い!」
怖いと思っているのはこの班の仲だけではヒバリさんだけのようだったが、どう考えてもこれは怖い、その証拠にここの班以外のクラスメートは例外なくこれを見て悪い意味で驚いている。
「ふっふーん」
萩生さんはこれ以上ないほど自慢げに胸を張ってるが、一体その自信がどこから来るのか不思議だった。
「蓮ちゃんは?」
「これ・・」
江古田さんが取り出したのは一見何も手を加えていないそのままの丸太でその場全員で首をかしげる。
それをくるっと反対側に返すとそこには文字が刻まれていた。
「おふとん・・」
「いいのかこれ・・?」
牡丹さんと違って完全に手抜きな上、殆ど違いが無い。
先生が何も言わないことから多分大丈夫なんだろうが・・
と、その時、大事なことを思い出した、自分以外の班のメンバーが作った木彫りの良い所を探さなければいけないことだ。
「ねえ、ヒバリさん、これのいいところを見つけられる?」
はなこさんの『チモシー』はともかく、殆ど素材そのままの牡丹さんと江古田さんの『穴』と『おふとん』、そして萩生さんの作った『愛と苦しみ』、これらを評価しなけばならないヒバリさんが気の毒に思えてならなかった。
「・・・・自信がないわ」
「・・・・頑張って」
それ以外に掛ける言葉が無く、俺は自分の班の木彫りの評価に向った。
木彫りの評価が終わって時間が経ち、夕食の時間となった。
言われた通りに入り口横の大広間へ足を運ぶ。
既に7組の生徒達で溢れていてたが学食などと違い班ごとに席は指定されているので待たされることなく無事に座ることができた。
「あ、おーいあおい君!」
「はなこさん、ヒバリさん、牡丹さん、また隣だね」
木彫りの製作の時と同じようにテーブルが隣同士だった。
「料理って自分で取りに行けばいいんだよね?」
隣の席には料理が置いてあるが、俺の班の席には何もない。
「ええ、そうみたいね」
「ご飯美味しそうだよね♬」
「うん、美味しそうだけど・・おかわり出来るといいんだけど」
個人的にはこの夕食はかなり少ない。
普段は軽くともこの3倍は食べているので物足りなく空腹で眠れなさそうだ。
とりあえず、自分も夕食を受け取りに行って確認すると少しならおかわりはOKとのことで、ひとまず安心し、戻ってきたところ隣のはなこさん達の班も食事を始めようとしていた。
「ねえ牡丹、ナイフ持てる?」
「包帯と一緒に手に縛っていただければ・・」
「そこまでしなくても・・」
「ああ、木彫りの時の・・」
牡丹さんは木彫りの製作中に手を骨折していて未だに両手に包帯を巻き付けていた。
「私が食べさせてあげるよ、牡丹ちゃん、あーん♪」
「ああ、はなこさん、こんな私の底までのお心遣いを・・」
感動の余り牡丹さんは泣きそうな顔になっていたが、確かに泣くまでかともかくはなこさんは友達想いのいい人なのは間違いない。
女の子と、男という違いはあるが自分なら友達とはいえクラスの面前で『あーん』をするのは恥ずかしくてできる自信は無い。
「はい、あーん♪」
「あー・・
バキッ!
牡丹さんの口にエビフライが届きそうに突如フォークが真っ二つに折れてエビフライごと落下していく。
余りに突然のことに俺も呆気にとられたまま落ちていくのを目で追うことしかできず、仮にこの場所から手を伸ばしても間に合うことは無いだろう。
だが、近くにいたミニチモシーが勢いよく現れ床に落とすことなく皿にエビフライをキャッチした。
「ミニチモちゃん、凄い!」
「確かにお手柄だな、やるじゃないか」
「チモモッ!」
その後もはなこさんは予備として用意してあった他のフォークや箸を使って牡丹さんにあーんをしようとしていたがことごとく折れ続け、壊れた残骸の山が出来上がっていた。
「この分だとフォークと箸が無くなりそうだな・・」
「そうね・・仕方ないわね、はい」
ヒバリさんは呆れた顔でフォークを手に取るとエビフライを刺して牡丹さんに向けた。
「ええっ、も、もったいないです! 日頃から迷惑のかけ通しなのにこんな・・!」
「早くしてよ、恥ずかしいから・・」
やはり恥ずかしいようでヒバリさんは少し急かすようにフォークを前に差し出す。
感極まった様子で牡丹さんはエビフライを口に含んで咀嚼する。
「本当にお2人は天使のような方々です・・!」
「大げさよ」
「あはは・・そろそろ俺も食べようかな」
つい隣のテーブルのことを気にしすぎて自分の食事が全く進んでおらず冷める前に箸を手に取って食べ始める。
「うん、美味しいな」
見た目も美味しそうだったが味も申し分なくすいすいと食事が進み、大した時間も掛からず食べ終えておかわりを貰ってくる。
「林間学校といえば、生徒が炊飯するものだと思っていたけど違うのね」
「そういえばそうだね、ちょっと残念・・」
「母さんから聞いたんだけど・・昔、ここの生徒だった頃、別の施設で泊まってるときに生徒で作っていたら火事が起きたらしくて・・そのせいかも・・」
その時は、はなこさんのお母さんの桜さんと一緒の班だったらしく、詳しくは聞いていないが何となく想像はつく。
「ああ・・なるほどね」
「うん、このクラスで炊飯はやめた方がいいな・・」
以前の調理実習のことを思い出すと結果は火を見るより明らかだ。
「皆さん、食事の片づけが終わったら入浴、就寝とします、今日は早めに休んで疲れを取ってくださいね・・・・明日の為にも」
「え・・」
小声だった為、上手く聞こえなかったが先生は最後に『明日の為にも』と付け加えていて、しかも何か含みを感じさせる言い方だった為、妙に気になった。
「ねえ、今の先生の言ってたことってさ・・」
「うわあああああっ!!」
隣にいた3人に話しかけようとした際、急に斜めにいた萩生さんが大声を上げる。
驚いて目を向けると、何やら萩生さんは絶望使用に表情で落ち込んでいたが、隣の江古田さんはいつも通り淡々としながら黙々と咀嚼していてどういう状況なのか訳が分からない。
そのまま入浴の時間を迎えて、聞きそびれてしまった。
まあ、また明日訊いてみればいいだろう。
入浴も終わり班の部屋に入ろうとすると何故か鍵が開かず、ホテルの人を呼んでみた所、どうやら鍵が壊れているようで修理をしないと開きそうにないとのことだった。
しかも、不運なことに俺達の部屋は3階にあり、外から入るのはほぼ不可能だ。
すぐさま修理の依頼を業者に頼んだらしいが山奥のホテルということもありしばらく時間がかかると言われた。
仕方がないので、俺以外の班のメンバーは他に仲のいいクラスメートがいる班に行くことにしたが、俺はこの班以外には普段話をするような間柄の友人はいないのでロビーで待ちぼうける。
荷物も前に入った時に部屋の中に置きっぱなしにしたままなので、時間を潰すこともできず、入浴後ということもあり筋トレすることも気が引けて、ただのんびり過ごすこしていた。
そんな時に、入浴を終えたばかりはなこさん達の班の皆に声を掛けられ、事情を説明すると、じゃあそれまで自分たちの部屋に来るといいと言われ(萩生さんは渋っていたが江古田さんがいいというので)て女子の部屋に足を踏み入れる。
おそらく、男子が女子の部屋に入ってはいけないというルールは無いはずだが、それでも俺も含めて全員彼女がいない班のメンバーにこのことが知られれば、間違いなく班の部屋に戻った後、
「わー、おふとんだー!」
はなこさんは部屋に入ってすぐ敷かれていた布団に飛び乗ってゴロゴロと気持ちよさそうに転がる。
自分も小さい頃は似たようなことをしたことがあったが、この年では恥ずかしくて出来そうにない。
「ねえねえ枕投げする?」
「枕投げ、どんなゲームですか?」
「最後の1人になるまでこいつでしばき上げるゲームだ!」
「物騒な言い方しないの!」
「萩生さんの説明もある意味間違ってはないけどさ、枕投げってのはお互いに部屋の中で枕を投げ合うゲームだよ、別に最後の一人になるまで投げたりしないから」
明確に終わりがないゲームなので、最後までやろうとしたらそうなるだろうが、それ以前にヒートアップしすぎて喧嘩に発展する可能性が高い。
このメンバーなら喧嘩はしないだろうが、枕投げを始めれば約2名の怪我人が出るのは確定的なので絶対にやめた方がいい。
「だめよ、先生に怒られちゃう」
「そっか、じゃあちょっとだけ・・」
そう言って、はなこさんはゴロゴロと好きなように布団の上を転がり、ほんの少しだけ羨ましい。
「私、あんまり布団で寝たことなくて・・」
「そうなんですか?」
「普段はベットだから」
「そうでしたね・・」
「俺もいつもでベットで寝てるけど、布団でも問題なく眠れたから大丈夫だと思うよ」
「そうだといいんだけどね・・」
「と、止まらないよぉ~!?」
勢いをつけすぎたせいか、はなこさんが止まれなくなってる。
慌てて江古田さんと一緒に止めて、幸いにも誰も怪我をすることは無かった。
その後、皆は自分の布団を決めてそれぞれ話をしているが当然俺の布団は無いので、取り合えず窓際の椅子に座り外の景色を静かに眺める。
せっかく同じ部屋に居るのだから何か会話をすればいいのだが、皆が体操着に着替えていて、健康的な太ももがばっちり見えているこの状況では油断するとつい視線が吸い寄せられてしまいそうになり中々落ち着いて会話できそうにない。
体操着姿などは体育の授業の時、必ず目にしているはずだが俺以外女子しかいないこの狭い部屋の中ではどうしても意識がそっちに向いてしまう。
彼女たちは俺のことを心配して部屋に呼んでくれたのにそんな目で皆を見るのは申し訳なくそんなことはできるだけしたくなかった。
「ねえ、あおい君」
「え、何、はなこさん?」
そんなことを考えていると、突然声を掛けられ、できるだけ平静を装って返事をする。
「花火大会の日にね、あおい君は体育クラスの合宿に行くかもしれないって言ってたけどどうなったのかなと思って」
「あ、ああそのことね、体育クラスに断られていけなくなっちゃってさ・・残念だけど」
はなこさんの言う通り、あの日に体育クラスの合宿に行くことになるかもしれないと言っていたが、体育クラスの生徒しか行けないというルールは無いものの、過去に体育クラスの生徒以外が参加したことは無いとの理由で参加は出来なくなった。
まあ、それは建前で実際の理由は幸福クラスの生徒が合宿に参加して何かトラブルが起こっては堪らないという意見が多数出て、そういう意見を組んだ結論だったらしい。
それにもし、自分が体育クラスの生徒だったとしても、やたらと何か予想外の出来事が発生する幸福クラスの生徒が来ると聞けばきっと内心反対していたと思うので不満はなかった。
「そうだったの・・」
「残念ですね・・」
「そうだったのか」
「いや、まあしょうがないよ、元々俺は幸福クラスの一員なんだし、それに林間学校だって行ってみたかったから別に気にしてないよ、いつの日か俺だけ思い出が無いなんてちょっと降下するかもしれないし」
ただ、理由はそれだけでなくやはりはなこさんや牡丹さんが心配で、少なくとも今日一日は比較的何事もなく過ごせたことで一安心だった。
その会話がきっかけで俺も皆と話に加わるようになり、バスの中でのこと、今日作った木彫りのこと、明日のこと等を話して盛り上がる。
話をしていると、はなこさんが髪飾りを外そうとしていたが中々外れず見かねてヒバリさんが手伝い始める。
「えへへ思い出すなあ、ヒバリちゃん家にお泊りした時のこと」
「ああ、うふ、そうね」
2人の会話を聞いて少し前に俺以外の牡丹さんを含めた3人でヒバリさんの家に泊まったことがあったことを思い出す。
「今日もヒバリちゃんと一緒に寝れてうれしいな・・」
「・・あたしも嫌じゃないわ」
そう話している内に髪飾りを外し、ヒバリさんから受け取ったそれをはなこさんは自分の枕元に置いた。
「林間学校の間、髪飾りは身近なところに置いておきなさいってお母さんが」
「確か、大事なものだって言ってたしね」
多分見た目通り幸運のお守りで効果があるかは不明だがあらゆる意味で失くしてはいけない物なんだろう。
「さっきから聞いていればお前らお泊りなんてしたのか?」
「はい、響さん蓮さんも幼馴染ですから、良くお泊りなさっているのでは?」
「え、そ、それは・・」
「子供の頃はあったけど、今は全然、朝よく起こしに来るけどね」
「そうなんだ」
「仲がよろしいんですね」
「へえ、まあ隣同士だと逆に泊まる必要が無いんだろうね」
時間帯を問わなければ、お互いが家にいる限りすぐ会えるのだから。
「と、当然だ!」
「そうだっけ?」
「そんなこと言うな! 小さい頃はあんなに泊まっていたではないか!」
「何だ、何かまずかった・・?」
余りにもそっけない反応に萩生さんは立ち上がってまで否定しているが当の江古田さんはどこ吹く風で全くもって冷静だった。
トントン
その時、先生がふすまを開けて
「消灯しますよ」
「はーい」
「あら、葵坂さんはこちらにいたんですね、もう消灯の時間ですよ部屋に戻ってください」
「え、もうそんな時間ですか!?」
慌てて時計を確認してみると先生の言った通り既に消灯の時間を迎えていた。
いつも寝ている時間より早いとはいえ、あっという間に時間が過ぎてしまうような気さえする。
「うふ、女子の部屋に居たことは内緒にしておきますからね、安心してください」
「あ、は、はい、失礼します、皆お休み!」
先生の厚意に感謝しつつ皆に声を掛けて自分の部屋に早足で戻った。
部屋に戻ると、俺以外の班の皆は全員戻ってきていて、今までどこにいたのかと聞かれたが適当に誤魔化し、会話もそこそこに電気を消して布団に入って目を瞑った。
(明日は何があるんだろうな・・)
林間学校の内容は事前に発表されておらず、当然不安だったものの今日は特に変わったことは無かった。
しかし、先生が食堂で最後に呟いていたことが気になり急に明日のことが心配になってくる。
不安になって別のことを考え始め、この前の花火大会のことや、今朝3人と合流した時にはなこさんが穴に落ち、牡丹さんが貧血で倒れたこと、隣の部屋のヒバリさんは布団で眠れているか等、最終的に数日前に見たホラー番組のことを思い出しまって不安を通り越し怖くなってしまう。
確かあの番組のドラマではどこかの旅館の一室で突然大きな音が壁から聞こえて、それがきっかけで怪奇現象が起こり、部屋で寝ていた男性を恐怖の渦に飲み込んでいく内容だった。
そう、丁度あのあたりの壁から音が・・・・
ドンッ!
「ひっ!?」
そう考えた瞬間、同じように壁から何かがぶつかったような音が聞こえ、全身から冷や汗が噴出し布団を被り耳をふさいだ。
俺1人ではないのがせめてもの救いだったが俺以外全員寝ているらしく無反応で、何か大きな音がしたというだけでは起こすこともできない。
それからしばらく布団を出ることができず、出た後も怖さは中々抜けず深夜まで眠れなかった。