あんハピ♪ 目指すは7組脱出!   作:トフリ

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今年最後の投稿になります、前回の投稿より約2か月半遅れてしまい申し訳ありません。
アニメの12話分の投稿は1月中に行う予定です。
それが終われば原作のエピソードやオリジナルの話も書いていきたいと思います。
では17話、どうぞご覧ください。



17話 「私たちの夏休み 後編」

牡丹さんの家のプールに来た日から約一か月が経ち、すでに夏休み中盤を迎えていた。

そして待ちに待ったお祭りの日がやって来る。

俺は母親からはなこさんを迎えに行くように言われ、今ははなこさんと2人で待ち合わせ場所の校門前に向っているところだった。

 

「お待たせ―」

 

「皆、お待たせ」

 

時間に余裕を持って出たこともあり、待ち合わせの時間に十分間に合って校門にたどり着いた。

待ち合わせ場所には既に俺達以外の全員が集合していた。

はなこさんを含めた女性陣は皆浴衣を着ていてとてもよく似合っている。

 

「あおい君にはなこ、一緒だったのね」

 

「今日は母さんからはなこさんと一緒に行くように言われたからからね」

 

「うん、だから1回しか川に落ちなかったんだ」

 

「やはり落ちたのか・・」

 

「うん、俺が付いていながら・・面目ない」

 

注意はしていたが、それでも途中であらゆるトラブルが起きて1度だけ川に落ちるのを防げなかった。

 

「そんなことないよ、あおい君がいなかったらもっと落ちていたかもしれないし!」

 

「・・そう? それなら良かった」

 

「じゃあ、はぐれたらここに集合ね」

 

「うん、ここなら分かりやすいしここでいいんじゃないかな」

 

「そうですね、さっそくお店巡りをしましょうか!」

 

「いつの間にイカを!」

 

「あ、ほんとだ・・」

 

萩生さんの驚いた声で気が付いたが、いつの間にか江古田さんが手に焼きイカを持って黙々と食べているのが目に入った。

多分、小腹がすいたからこっそり買いに行ったんだろう。

とりあえず、俺達は一通り屋台を見て回りながら最初に何を食べるか考えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆で屋台を見て回っていると、途中でリンゴ飴の屋台を見つけて全員で買うことに決めた。

お金を払って一人一個ずつ手に持っていざ食べようとしたその瞬間、はなこさんが持っているリンゴ飴の割りばし部分が折れて地面に落ちていく。

 

「おおっと!」

 

だが、何とか反射的に地面に落ちる寸前に片手でキャッチすることができた。

 

「ナイスキャッチ」

 

江古田さんが無表情ながらも少しだけ笑って称賛してくれる。

 

「ありがとう、あおい君!」

 

「ああ、だけど・・どうしようか?」

 

反射的にキャッチしたはいいが、再び割りばしにくっ付けるのは無理そうだし、見た目が悪いが手で持って食べるしかない。

やむを得ず、はなこさんはそのリンゴ飴は諦めて、他の食べ物を探すことにした。

 

次にヒバリさんが輪投げをすることになった。

理由は聞かなかったが、おそらく景品の一つにヒバリさんが好意を抱いている例の看板によく似た人形がありそれを手にする為だろう。

輪投げの輪を受け取ってヒバリさんが真剣な表情で輪投げに挑もうとする様子を俺達は固唾をのんで見守る。

意を決して輪を投げると、うまく狙っていた景品にすっぽりと入って無事に獲得することができた。

手に入れた景品を嬉しそうに眺めるヒバリさん、羽生さんと江古田さんは不思議そうな顔を向けていたが事情を知らなければそうなるだろう。

 

「そういえば、みんなは18日の林間学校に行くの?」

 

屋台を見て回っている途中でふと気になって尋ねてみる。

 

「私はいくよ、ヒバリちゃんと牡丹ちゃんは?」

 

「特に予定もないし、一応行くわ」

 

「私も皆さんと思い出を作るためにこの命が尽きようとも行ってみせます!」

 

「いや、そこまでしなくても・・じゃあ萩生さんと江古田さんは?」

 

「ひ、響はそんな林間学校のような子供じみた行事など微塵も興味は無いが蓮が行くつもりなのなら・・」

 

「私はメンドいから家で寝てようかな・・」

 

「なっ何を言うのだ蓮、せっかくの響との友情を深めるまたとないチャンスなのだぞ・・!」

 

「冗談だって、行くから」

 

「そうか・・やっぱり皆行く予定なんだ・・」

 

「あおい君は来ないの?」

 

「いや、まだ迷っているところ・・実は鷺ノ宮先生の計らいで丁度同じ日程で行われる体育クラスの合宿があるからそっちに行けるかもしれないんだって・・まだ決まっては無いけどね」

 

「そう・・でも行けるのなら絶対そっちに行った方がいいんじゃない?」

 

「体育クラスに行くことは、あおいさんの目標ですからね」

 

「そうだよね、まだ分からないけど決まったら絶対行くよ」

 

その後、わたあめを皆で食べようとする度、はなこさんだけ割りばし部分が折れて地面に落ちてしまい食べることができずに流石にはなこさんも少し落ち込んでいた。

続いてチョコバナナを食べようとしたときも同じように割りばしのところが折れて落ちようとしたが、はなこさんも予想していてとっさにチョコバナナに飛びついたが、そのせいで屋台にぶつかりそうになって慌てて抱きとめて防ぐことができた。

 

「あおい君、ありがとう、また助けてもらっちゃったね」

 

「別に気にしなくていいよ・・うんほんとに・・」

 

抱きとめた瞬間片手に小ぶりながらもしっかり片手で胸に触れてしまい、少し気まずかった。

 

そして今度は金魚すくいをやることにして、俺が一番手となって金魚をすくおうとしたがあえなく失敗した。

次に江古田さんと萩生さんもやることにしたが、例の体質のせいでほぼ半分の金魚が江古田さんに群がり、ある意味入れ食いみたいな状況となる。

 

「散れ、散れー!」

 

そして、そんな状況を萩生さんが放っておくわけもなく手に持ったポイを振って追い払って結局3人共金魚を取れずに終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その後もお祭りの中を歩いて、今は、はなこさんと2人で何故か俺が食べる分しかタコが入っていないタコ焼きを食べていた。

 

 

「あれ、ヒバリちゃん達は?」

 

「まさか・・はぐれたのか?」

 

「本当だ、いつの間に・・」

 

屋台を見ながら歩き回るうちに、ヒバリさん、牡丹さん、江古田さんとはぐれたようで、ここには俺とはなこさん、萩生さんの3人しかいない。

 

「待ち合わせの場所に行ってみようか」

 

「うん、萩生さんもそれでいい?」

 

「あ、そうだな・・」

 

3人全員で待ち合わせ場所の校門前にやってくる。

その場で少し待っていたが、中々ヒバリさん達が姿を見せず、時間が立つにつれ段々と辺りが暗くなっていく。

ここには俺たち以外誰もいない上、さっきまでたくさんの人通りがあったお祭りの中にいたせいか、何となく薄気味悪い感覚を覚えていた。

もし1人だけでこの場で待っていたら、間違いなく怖いのを耐えながら待つ羽目になっていただろう。

 

「どうしたというのだあいつらは、響たちはちゃんと言いつけを守ってここで待っているというのに・・」

 

萩生さんがしびれを切らしたようで、若干不機嫌にそう呟く。

 

「まあまあ、もしかしたら道が混んでいて中々こっちに来れないのかもしれないし、もう少ししたらきっと来るよ」

 

「どうだかな・・雲雀ケ丘達が蓮に迷惑をかけてなければいいが・・」

 

「ん?」

 

ふとその時、はなこさんが校舎の方に目を向けて、つられるように俺も同じ方向に視線を向けると、校舎の中を見覚えのある人影?が走り去っていくのが見えた。

 

「あれは・・」

 

「あ、今の・・チモシー!」

 

「って、はなこさん!」

 

影をチモシーだと認識した瞬間、思った通りはなこさんが脇目も振らずその後をついて校舎走り出す。

 

「ちょ、待て! はぐれるではないかー!」

 

俺と萩生さんは慌ててはなこさんを追いかけて校舎に向った。

 

「おーい、はなこさん、ちょっと待って!」

 

「待てと言うのにー!」

 

やっとはなこさんの姿を見つけると、そこには教室の中を覗き込みながらチモシーを探している最中だった。

 

「チモシー、あれ?」

 

「はなこさん、きっとそろそろヒバリさん達も校門に来てるかもしれないよ」

 

「そうだな、あいつのことは放っておけばいいではないか、さっさと正門へ戻るぞ」

 

「あ、見つけた、あおい君、響ちゃん、こっち!」

 

どうやら今のはなこさんはチモシーしか眼中になく、これでは説得して連れ戻すのは無理なようだ。

とりあえず、チモシーと会って満足すればきっと一緒に校門に戻ってくれるだろう。

 

「おのれ人の話を・・」

 

ヒュオォォォ・・・・

 

とその時、萩生さんの言葉を遮るように何やら生暖かい風がその場を通り抜け、どっと冷や汗が噴き出て急に悪寒が走った。

隣にいる萩生さんも同じ気持ちだったようで、その表情からは怒りが抜け、少しだけ青ざめている。

 

「ひ、1人にするなー!」

 

「ま、待って萩生さんっ!」

 

俺もこんな所で1人にされるのは2人に置いてきぼりにされるのは勘弁だったので見失わないうちに後を追った。

 

「へえー夜の学校てこんななんだね、初めて入ったよ」

 

「そ、そうだね・・小学生の頃からこんな想像してたけど、別になんてことないな・・うん」

 

本当は怖くて早く出ていきたかったが女の子の目の前で男のプライドがある以上、口が裂けても言い出すことはできず何とか平静を装う。

 

「うう・・そうだな、よしじゃあ帰ろう、すぐ帰ろう」

 

萩生さんも俺と同じように怖いのを我慢しているようだが、少しばかり身をかがめて隠れるように歩いている様子から明らかにやせ我慢している。

 

(チモシー早く見つけて帰ろう・・)

 

 

ガシャン

 

 

その時、校舎のどこからか何やらガラスが割れるような音が耳に届き、俺と萩生さんは固まった。

 

「うっ、うわあああああっ!!」

 

そして、次の瞬間萩生さんが一目散に走りだす。

 

「って、どこに行くの萩生さん!?」

 

慌てて声を掛けたが聞こえていないのか構うことなく姿が遠ざかっていく。

 

「は、はなこさん、追いかけるよ!」

 

「うん、待って響ちゃん!」

 

こんなくらい校舎の中、しかも方向音痴の萩生さんを放っておくわけにはいかずはなこさんと2人で後を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、2人とも・・どこ?」

 

萩生さんを追いかけた結果、何故かいつの間に1人だけになってしまい校舎の中を2人を探しながらさまよっていた。

 

「ちくしょう・・早く合流しないと2人が心配だな・・それに俺も怖いし・・」

 

最後の方だけ小声になりながらも辺りの教室を覗き込んで探していたその時。

 

「きゃああああああっ!!」

 

「うわっ、って今の声はヒバリさん!?」

 

聞き覚えのある叫び声が近くの部屋から聞こえて、一も二もなくその部屋に向い、静かに覗き込むと、思った通り部屋の中にヒバリさん、牡丹さん、江古田さんの3人がいた。

安堵して中の皆に声を掛ける。

 

「皆、大丈夫?」

 

「あら、あおいさん」

 

すぐに牡丹さんが

話をしてみると、ヒバリさん達も待ち合わせ場所の校門で待っていたらしいが、一向に来ないため校舎内を探していたらしい。

さっきの悲鳴は懐中電灯をつけた時に、いきなり正面に人体模型を見てしまってつい絶叫したとのことだった。

 

「確かにこんな夜中に人体模型を目の当りしたら誰だって怖いよね・・」

 

「しかし、これは一体・・?」

 

「学園祭の小道具とかかな?」

 

「単なる不用品を置いているだけじゃないかな?」

 

「それより、あおい君、はなこ達とは一緒じゃないの?」

 

「いや、ちょっとはぐれちゃってさ・・俺も今探している所なんだ」

 

「そう・・もしかしたらはなこ達もあっちで待って―」

 

「ぎゃあああああああああっ!?」

 

「うわっ! て今のって・・」

 

「響の声だ、行こう」

 

そう言って江古田さんは1人でスタスタと歩き出し、俺達も声のした方向へ進んでいく。

思っていたより近くの部屋から話し声が聞こえて4人で覗いてみると、やはりはなこさんと萩生さんの2人が話をしている最中だった。

 

「あ、ヒバリちゃん、牡丹ちゃん、あおい君!」

 

「はなこ、ここにいたのね」

 

「はなこさん、ご無事で何よりです」

 

「れ、蓮! 響を置いて今の今までどこにいたのだ!」

 

「いや、響が迷ってはぐれたんだろ」

 

「まあ、これで合流できたね・・それにしてもここ何の部屋なんだろう・・?」

 

部屋の中を見渡してみると奥には何体も人形が、他にも多くの写真が飾っているのが目に入ってくる。

 

「校長先生のお人形さんみたいだよ」

 

「校長先生の?」

 

はなこさんの言う通りで、改めて人形をよく眺めてみると下の名前が書いてあり、どうやらこれは初代校長の人形で、飾ってある写真の方も全員歴代校長の写真みたいだ。

 

「こんなの夜中にいきなり見つけたら絶対怖いわよ・・」

 

つい先ほど似たような経験をしたヒバリさんが気味が悪そうな顔で人形を眺めていた。

 

「そう? みんなちょっとだけ笑ってて可愛いよね」

 

「そ、そうか? 何が可愛いか響には分らんが・・」

 

「えー可愛いよ」

 

「可愛い?」

 

女の子はいろんな物をかわいいということは知っていたが、流石にこれを可愛いと言うのははなこさんだけだろう。

 

チチチ、チモチモチモチモ・・・・・・

 

「あれ?」

 

その時、誰かが歌っている声がほんの一瞬だけ耳に流れ込んできてくる。

 

「な、何だ今の声は!」

 

「どっかで聴いたことがあるような気がするんだけど・・どこだったかな?」

 

「何かこう、懐かしいような心がざわざわするような・・」

 

しかし、その声は非常に小さく、聞こえたのは俺とヒバリさんと萩生さんだけらしく、他の3人は聞こえていないようだった。

 

「え、何も聴こえなかったけど?」

 

「いいや、聞こえた絶対に聞こえた!」

 

「あ、もしかして校長先生たちがお喋りしたのかな!」

 

「そ、そういうこと言うな、頼むから止めてくれえっ!」

 

「そ、そうだよ、校長先生がこんな夜中に歌ってるわけないよ!」

 

以外にもはなこさんが大好きなチモシーを探しているとはいえ、この状況でも物怖じせず逆にそんな怖いことをはっきり言うことが驚きだった。

そして反対に、俺と萩生さんは恐怖を感じていて、冷静さを失いそうだった。

 

チチチ、チモチモチモチモ・・・・・・・

 

と再びさっき聴こえた歌が流れてきて今度は全員が歌を耳にする。

 

「この歌声、怖い上に何だかもやもやしてくるわ・・!」

 

「言われてみると俺も何だか無性に気に障るような気がしてきたよ、この歌ってもしかして・・」

 

「鎧っていえば・・

 

突然、江古田さんが怪談を語り始め歌の正体を思い出しそうになっていたが立ち消えてしまう。

 

嬉しそうに数えるんだって・・」

 

「止めてー! ていうかそれ、元ネタ違うから!」

 

確かによく聞いてみると江古田さんの怪談は何かおかしかったが、こんな時でもそれをはっきりとツッコむのは律儀なヒバリさんらしかった。

 

「あ、私もこんな話を聞いたことが・・」

 

「ぼ、牡丹さんも!? も、もういいって!」

 

「戦国時代、戦に敗れ・・

 

江古田さんに影響されたようで、牡丹さんまで怪談を語りはじめ、怖さの限界に達しそうだった。

 

もももすももももものうち・・もものうち、ももものうちも・・ちもちも・・ちチ、チモチモ」

 

「もう、止めてー!」

 

「はっ、分かった、この歌って!」

 

「まさか!」

 

どうやら、ヒバリさんも歌の正体に気付いたようではっとなってお互いに顔を見合わせる。

どうして今まで気が付かなかったのか、自分でも不思議で夢に出てくる程脳裏に焼き付いていた曲を今はっきりと思い出す。

 

「これチモシーのラップだ、チモシー!」

 

と、その時はなこさんもチモシーのラップだと言うことに気が付いて音源に向って走り出す。

 

「待って、はなこさん、俺も行くよ!」

 

俺だけでなく、全員がはなこさんを追って走り出す。

歌の正体がはっきりしたのでもう怖くはなく、逆にあの歌に怖がっていたのかと思うと情けなくなってくるが、それでもチモシーが歌っている姿をしっかり目にしておきたかった。

それに、はなこさんを一人にしておくと色々危ないのでどの道追いかけないわけにはいかない。

6人全員で走り続けチモシーの歌が流れている部屋の前のたどり着いた。

 

「ここだ! やっぱりこの歌って」

 

「チモシーよね・・」

 

「全くチモシーの野郎・・こんな夜中に人騒がせな、一言文句言ってやらないと」

 

「よし、行くわよ」

 

ヒバリさんが意を決して勢いよく扉を開いた。

そこには・・

 

「え・・・・」

 

バラバラに分解されたチモシーの姿があった。

 

「「「うわあーっ!!」」」

 

つい、かっこ悪い悲鳴を上げてしまったが幸いにも俺以外にもヒバリさんと萩生さんも同じような悲鳴を上げたので目立たずに済んだ。

 

「何で! 何でバラバラなのにチモシーの声が!?」

 

「何ででしょう・・?」

 

「み、皆落ち着いて! ち、チモシーはロボットなんだからバラバラでも歌ってもおかしくないよ、きっとそうなんだよ!!」

 

「あ、ああそれもそうだな、全く驚かせおって・・!」

 

本音を言えば俺もバラバラのチモシーを見たときは心底驚いてしまったが、よくよく考えてみれば機械のチモシーがバラバラでもおかしくない。

そういえば、夏休み初日にも点検を受けるとか言っていたので丁度点検中なんだろう。

 

「あよっこいしょ・・」

 

「え・・?」

 

とその時、チモシーの下半身がむくりと起き上がった。

一瞬見間違いかと思ったが間違いなく下半身だけが動き出している。

 

「「「「うわああああっ!?」」」」

 

全員が悲鳴を上げて一目散にそこから逃げ出したが、チモシーは下半身だけにも拘らず軽快に追いかけてきて本気で恐怖を覚える。

 

「うわあーっこっちくんなー!?」

 

「いやあーっ!」

 

「悪霊退散っ! 悪霊退散っ!?」

 

「追いかけてくるよっ!」

 

俺とヒバリさん萩生さんは軽くパニックになりながら必死に足を動かしているが、相変わらずはなこさんはチモシーのこととなると本当に楽しそうで、今だけはそれが少し羨ましい。

 

「ま、待ってください・・ああっ!?」

 

「牡丹さんっ!?」

 

遅れながらも必死に付いて来ていた牡丹さんが何かに躓いて転倒しそうになったが、瞬時に隣にいた江古田さんがつり橋の時のように抱き起し、おんぶをして助ける。

 

「ああっ、ずるいぞ、響だって!」

 

「今はそんなことどうだっていいだろ、とにかくあれを撒かないと・・怖いし!」

 

今も後ろを振り返るとチモシーの足部分だけが滅茶苦茶な走り方で追いかけ、。しかもよく聞いてみると、下半身だけのくせして「足!足!足!」と狂ったように叫んでいる。

ロボットだから下半身だけでしゃべってもおかしくはないが、それでも言葉にできない恐ろしさを感じていた。

 

「うっ、うわああっ!」

 

萩生さんもそんなチモシーの姿を見てさらに走るスピードを上げた。

 

「ああっ、もうっ、チモシー! いい加減にしやがれ―!!」

 

恐怖がピークに達してやけくそになりながらポケットから取り出した野球のボールをチモシーに向けて渾身の力で投げつけた。

 

「ぐふっ!?」

 

「うおっ!」

 

狙っていたわけではないが投げたボールがチモシーの股間部分に直撃し、チモシーが急所を打ったような声を上げて倒れ込み、こっちまで痛くなってしまいそうだった。

倒れ込んだチモシーにゆっくり近づいて様子を確認してみると完全に動きは無く静止している。

何はともあれ、チモシーを止めることに成功した。

 

「チモシー、大丈夫?」

 

はなこさんがチモシーを心配しているが、できればそのまましばらく寝ていて欲しい。

 

「はあ・・ったく突然追いかけてきやがって・・点検中に暴走したのか?」

 

「全く人騒がせな・・」

 

「もういいわ、さっさとお祭りに戻りましょう、そろそろ花火が始ま——」

 

「今のは・・痛かった・・」

 

「チモシー!」

 

「え・・!?」

 

やたらぐぐもったチモシーの声とはなこさんが嬉しそうな声が聞こえて、嫌な予感がしながらゆっくり振り返ると

そこには下半身だけのチモシーが起き上がっていた。

冷や汗がどっと噴き出してくる。

 

「痛かったよおおおおおおおっ!」

 

「ってまたかよおおおおおおっ!?」

 

結局、再び逃げることになった。

俺達は無我夢中でそばにあった階段を上って逃げ続ける。

 

「バラバラと言えば聞いた話だけど・・」

 

階段を上る途中、江古田さんがまた怪談らしき話を語り始め、すぐさま萩生さんが耳を塞ぐ。

俺もつい耳を塞ぎそうになったものの男として女の子の前でそんな真似はできなかった。

 

「10年ほど前、とある国の羊飼いの男が・・」

 

「えっ、何? 何?」

 

「毎晩1人で鍋を食べていて・・」

 

「鍋ということは冬でしょうか・・」

 

「今そんな話しないで!」

 

ヒバリさんが的確なツッコミを入れるが話に夢中なのか、話をする江古田さんも、それを聞くはなこさんと牡丹さんも聞こえてはいないようだった。

 

「ある日、鍋の肉を全部食べてしまったことに気付いて・・」

 

「きっと食いしん坊だったんだね」

 

「江古田さん! 話の途中で悪いけど今その話する必要あるの!?」

 

「・・特には」

 

と、江古田さんに文句を言った後、江古田さんの横を走る萩生さんが疲れているのが見て取れた。

明らかに目がぐるぐるしていて今にも転んでしまいそうだ。

 

「蓮・・響もおんぶ・・」

 

そう思った瞬間、萩生さんが足を滑らせ転倒しそうになり咄嗟に背中で受け止めおんぶする形となって再び階段を駆け上がる。

後ろを振り返ってはいないが、雰囲気でチモシーが追いかけてきているのを感じる。

 

「っ、皆、屋上だよ!」

 

階段の踊り場を曲がり、上を見上げると次の階段ではなく屋上の入り口が目に入る。

以前聞いたことがあるが、この学園では屋上が自由解放されているそうなので関係者であればだれでも入れるようになっている。

屋上に入ればもう逃げ場はないことは百も承知だが他に逃げ場はないので俺達は一心不乱に屋上に向って走り続ける。

 

「もう、歌止めてー!!」

 

ヒバリさんがそう叫んだと同時に俺達は屋上の扉を勢いよく開けて転がり込むように駆け込んだ。

そして、俺は開けた扉を開けた時以上の勢いで叩きつけるように閉める。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・疲れた・・」

 

この位で疲れる程やわな鍛え方はしてないがあんなものに追いかけられて精神的な疲労が大きかった。

 

「何だったのあれ・・」

 

「バラバラなのにラップなど歌いおって・・」

 

「やめましょう、もう考えたくないわ・・」

 

「でも、楽しかったよね!」

 

はなこさんが一点の曇りもなく満面の笑みで言い切る。

 

「ええ、いい思い出になりますね」

 

「うん」

 

牡丹さんも江古田さんもはなこさん言葉に頷く。

 

「そ、そうかなぁ?」

「ってそんなことあるか!」

 

俺と萩生さんの言葉が重なり、未だにおんぶしたままだということを思い出す。

 

「って貴様はいつまで響にくっついている、早く離れんか!」

 

「い、いやこれは萩生さんが転びそうになったから・・

 

その時、屋上に大きな音が響き、明るい光が暗い夜を照らした。

視線を屋上の外へ向けると大きな花火が打ち上げられていた。

 

「花火が始まったか・・」

 

「綺麗ですね・・」

 

次々と色とりどりの花火が上がっていき、暗い夜を様々な色で染めては消えていく。

 

「今の花火、四つ葉の形してなかった?」

 

「うん、見えたよ!」

 

「変わった花火ね」

 

「でも、幸福クラスの私達にぴったりですね」

 

それからも、花火が上がっていき俺達は何も言わずただ眺め続けた。

 

「・・夏休みって楽しいね!」

 

「うん、そうだね・・」

 

天之御船学園に入る前から目標としていた甲子園には結局いけなかったが、それでもこういう友達との夏休みのかけがえのない物なんだろう。

夜空に上がっては消えていく花火を眺めながら俺は今だけ体育クラスのことや

 

 


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