誤字脱字あると思うので随時訂正していきたいと思います。
私事になりますが今回の投稿日の9月30日は私が書き始めて丁度一年目の節目を迎えます。
当初の予定ではアニメ化された分は終わらせるつもりだったんですがまだ9話目の上所々で飛ばしている話もあって申し訳ないです。
今年中にアニメ化された範囲は終わらせたいと考えています。
次回は10月15日前後に投稿予定です。
翌日、プールの授業の時間になり4人で更衣室まで移動している時だった。
「プールの授業も他のクラスと合同なのかしら?」
「そうだと思います、ほら」
牡丹さんが指で示した先に体育クラスの女子で同じように更衣室に向っている。
「ああ・・あのスカーフの刺繍ね」
ヒバリさんの言うように、勉学クラスはペン先、体育クラスは炎、そして俺達幸福クラスは四つ葉の刺繍となっておりこれを見るだけでどこのクラスかを判断できる。
「最初はクラスごとにモチーフが違うなんて知らなかったから、登下校中とか廊下で何で注目されるか分からなかったわ・・」
「分かるな・・俺も部室に行くと俺以外の全員体育クラスだから余計に違いを見せつけられてさ、授業の話も全然合わないんだよ・・」
そのせいで俺が部室に入ると露骨に今日の授業の話をやめてしまうという気の使われ方をされていて、今は慣れたものの最初の頃は余計につらかった記憶が残っている。
「私はこの四つ葉一番好きだなーだってかわいいもん♬」
「そうですね♡」
「かわいいのはいいんだけどね・・」
「かわいいとは思うけど俺は炎の方がかっこいいな」
更衣室にたどり着き、はなこさん達と別れ、ぱっぱと着替えてプールに向かう。
プールには体育クラスの4組と幸福クラスの7組の生徒が集まっており、おそらくはこのプールの大きさからほぼ定員の
本来ならば全体育クラスと幸福クラスの女子でプールの授業だと聞いていたが、ある事情で男女合同でプールの授業となったため、
少ししてはなこさん達もプールにやって来て、それからすぐに生徒と同じように水着姿の小平先生と鷺ノ宮先生が姿を見せる。
2人ともかなりスタイルが良く、その上豊満な胸の持ち主なだけあって水着姿ともなれば当然自分も含めた男子の殆どは視線を吸い寄せられてしまう。
「あれ、体育の授業の時は体育クラスの先生じゃないんですか?」
「ええ、ですが・・」
「水泳時に関しては幸福クラスがいる時は幸福クラスの担任が付き添いする必要がある、何かあってからは遅いからな」
「ああ確かに・・」
ぐうの音も出ない理由だった。
授業が始まり、準備運動をしっかり終えてプールに入りまずは全力で泳ぎ始める。
小平先生が「最初の1時間は自由行動」と言っていたが、プールとはいえせっかくの体育の授業だ。
遊ぶのもいいがトレーニングとして泳がないのは損だろう。
ある程度泳いで少し休憩しようとするとすぐ近くにはなこさん達がいた。
牡丹さんはこれから水中に入るらしく眼鏡らしきものを付けようとしている。
「牡丹さん、それって眼鏡?」
「はい、度入りの水中眼鏡で目が弱いのでこれがないとすぐ充血して何も見えなくなってしまいますから」
「本当に大丈夫?」
ヒバリさんの心配ももっともで普段の様子だけに当然と言える。
第一、このプールの授業が始まる前にもこっそり物陰に隠れてやり過ごそうとしてた位だ。
「ええ、少し浸かるだけでしたら、きっと・・おそらく・・たぶん・・」
「声が段々小さくなってるんだけど・・」
ともかく、しばらくは牡丹さんを注意してみておくことにしよう。
「じゃあさ! 牡丹ちゃん、私と勝負しよーよ!」
「勝負、何のでしょう?」
「あのね、水中に潜ってどっちが長く息止めてられるか―」
「「だめ!!」」
図らずしてヒバリさんとハモってしまったが、そんなことを気にする余裕もなく止めにかかる。
「・・だめ?」
「絶対だめ!」
「危ないって絶対!」
よりにもよってこの2人がそんなことをするのは考えるまでもなく無謀な行動だ。
「危険から遠ざかるばかりが幸福の道とは限りませんよ、先生がちゃんと見てますから」
そこに小平先生が現れてはなこさんに助け舟を送って来る。
「分かりました・・」
それでも不安は収まらなかったが先生の言うことも一理あり、ひとまず見守ることに決めた。
牡丹さんも了承したようではなこさんと並んで息止め勝負を始めようとしている。
「じゃあ測りますよ、せーの」
先生の言った瞬間、はなこさん、牡丹さんは水中に沈んで息止め勝負を始める。
そして、すぐに牡丹さんが浮かび上がる。
「ぼたーん!」
「牡丹さーん!」
急いで牡丹さんを助けに2人で向かう。
幸いにも、軽く揺さぶるとすぐに牡丹さんは意識を取り戻した。
「予測はしてたけど、しっかりして牡丹!」
「だ、大丈夫です・・す、すいません、やっぱり息を止めるのって難しいですね・・」
(1秒もなかったけど・・)
「永遠に止めることならできそうですけど・・」
「やらなくていいから!」
「あれ、そういえばはなこさんは・・」
咄嗟に水中に潜って探すと牡丹さんのように気を失っているはなこさんを発見し慌ててプールサイドに上げて助け出す。
「だからだめだって言ったのに・・!」
「だいじょうぶだよぴゅー、おぼれたんじゃなくてちょっとおみずおんじゃってぴゅー」
「いやいや、どう見ても大丈夫じゃないよ! そんなに水飲んで!」
水を飲んだせいで、はなこさんのお腹はまるで身ごもっているように大きく膨らみ、ヒバリさんが必死に押し出そうとしてはなこさんの口から水が吐き出されている。
「牡丹さん、調子はどう?」
はなこさんのことはヒバリさんと先生に任せ牡丹さんの様子を確認する。
「はい、なんとか・・息を止めるなんてことすらできない私なんて今すぐこのプールの藻屑となって消えてなくなってしまいです・・」
「ま、まあともかく・・無事でよかったよ・・今度は気を付けてのんびり泳ごうか」
その後は時折横目で皆の様子を確認しながら再び全力で泳ぎ始めた。
水中だと水の抵抗があるせいでかなり体力を使うがその分トレーニングにはうってつけだ。
ふと、体育クラスのいる方に視線を向けてみると1人の例外なく全員が泳ぐなりプールサイドでストレッチするなりでト鍛錬に励んでいる。
それとは逆に幸福クラス側は俺を除いた全員が各々好きなように過ごしている。
別にそれが間違っているわけではなく、将来プロの道や大学の推薦を狙っている体育クラスと単なる1つの授業として過ごしている幸福クラスの間では過ごし方が異なるのも当然と言えるだろう。
俺自身も将来はプロ野球選手、いづれはメジャーへの進むという夢の為にこのクラスの中で唯一本気で泳いでいるのだから。
「よく泳いでいるな、葵坂幸太」
「やあ」
「萩生さん、それに江古田さん」
2度目の休憩をしているとそこに萩生さんと江古田さんが声を掛けてくる。
こうして間近で水着姿の2人を眺めてみると、萩生さんははなこさんと同じくらい小柄だがそれでも何かスポーツでもしていたと思える引き締まった体つきで、江古田さんは牡丹さんとまではいかなくもかなりのスタイルのプロポーションの持ち主だ。
「ん、どうしたじっと見て?」
「ああ、いや何でもないよ、ただ萩生さんって中学の頃とか何か部活にでも入ってたのかなと思ってさ」
「よくぞ聞いてくれた、中学時代は陸上部で長距離走のエースのだったのだぞ!」
「へえ・・そうだったんだ」
普段の方向音痴ぶりを見ていると協議の途中で道を間違えてしまいそうな気をするが・・
「走るのは早かったけど、響途中でいつもコースを間違えてたから記録には残らなかったけどね」
「ち、違うぞ! あれは何者かが響を貶めようと卑怯な手を使っていたせいだ!」
「・・そう、それは気の毒だったね」
どうやら予想した通りだったらしい。
「それにしても、今日は響の華麗なる泳ぎで体育クラスの奴らもあっと言わせてやるつもりだったのに、初日から自習とは・・」
「むしろ初日だからじゃないか? それに体育クラスとじゃ勝負にならないだろ、ましてや相手は特に優秀な4組なんだし」
「ふふん、案ずるなこの萩生響が幸福クラスにいる限り無様な負けなど起こりえん! しかし、女子は響がいるからいいとして問題は男子だ、例え男子とはいえ響が所属する7組が無様に負けるなど我慢ならん、葵坂! いずれ体育クラスとの勝負の時が来れば死ぬ気で泳げ!」
「あ、ああもちろん、全力で泳ぐよ、勝負だっていうならさ!」
俺に声をかけてきたのは今の言葉をたきつけるつもりだったのかもしれない。
萩生さんの言うように体育クラスとでは勝負にならないのだろうが、それでも負けて当然だとあきらめて手を抜くつもりなど全く無い。
「・・てあれ、江古田さんは?」
いつの間にか江古田さんの姿が見えなくなっていてあたりを見回すがどこにも見当たらない。
「!? 蓮ー!」
萩生さんの悲鳴じみた叫びに驚いて視線の先を目で追うとそこには江古田さんが水の中に沈んでいる姿が目に入り、萩生さんと協力して引っ張り起こす。
「・・ごめん、水の中が気持ちよくてつい寝ちゃった・・」
「毎年のことではないか、水の中で位起きていろー!」
「これだと江古田さんもプールじゃ危険だな・・」
はなこさん、牡丹さんに続いて江古田さんもプールでは目を離せなくなりそうだ、いやらしい意味ではなく。
萩生さん達と別れてまた力強く泳ぎ続けていると、突然小平先生が笛を吹きプールサイドに並ぶよう呼びかけ、言われた通り生徒全員が並んだ。
「皆さんそろそろ水にはなれましたか? この辺で1度クラスごとにチームを組んで軽く競泳してみましょう♬」
「今日は自習だったんじゃ・・」
ヒバリさんの言うように今日は自由時間とだけ聞かされていたため、7組が少しだけざわつく。
「その予定だったんですけど、鷺ノ宮先生がどうしてもというので・・」
そう言って、小平先生は鷺ノ宮先生を見やるが、その表情はいつものように毅然としていて真意が読み取れない。
多分ではあるが、昨日先生が幸福クラスを潰すと言っていたことに無関係ではないんだろう。
「クラスごとにってことはクラス対抗ってことですよね?」
確認のため先生に尋ねてみる。
「はい、4組と7組の対抗競泳です」
「競争するの、楽しそう!」
「まあ先生も軽くって言ってるしそんなに真剣なものじゃ・・」
「いや、先生が言っただけだし、それにほら」
体育クラスの生徒を見てみると明らかに勝負と聞いて闘志を燃やしていてすさまじいオーラを発している。
誰がどう見ても手加減や勝つだけでいいなどとはみじんも頭にないのは聞くまでもないだろう。
「天之御船の体育クラスだものね・・」
「ああ、全員が泳ぐのが得意ってわけじゃないんだろうけど・・」
そう言う俺自身も不幸を見出されなければあっち側の生徒なので自慢になってしまうのでそこから先は口には出さなかった。
「臆するな者ども! 幸福クラスに響がいる限り、無様な敗北などありえん」
萩生さんが一歩前に出て幸福クラスの生徒達を鼓舞するかのように宣言する。
「水泳得意なの?」
「いや、別に・・」
「・・まあ萩生さんだからね、彼女らしいよ」
ともかくは体育クラス、しかも4組が相手とあれば勝つのは相当難しいだろう。
俺も水泳はそれほど得意と言う訳ではなく、タイマンでの勝負だとしても勝てる自信はない。
まずは男子からスタートで俺は3組目の一番手で出ることなった。
「準備はいいですか、行きますよ」
先生の笛が鳴らされた瞬間、1組目の一番手となった4組、7組の生徒が水中に飛び込んで泳ぎ出す。
しかし、すぐさま体育クラスの生徒がリードしはじめ差があっという間に開いていく。
最終的には人数遅れまで差が広がって7組の負けとなった。
特段7組が遅かったという訳ではなく4組の生徒が凄すぎた結果と言えるだろう。
「すごい・・・・」
ヒバリさんが体育クラスの泳ぎを見て驚きつつ呆然とした声を上げた。
「さすが体育クラスの方々ですよね、もはや私などと同じ人類とは信じられません・・」
「いやいや、そこまで違いを感じなくても・・」
体育クラスだって俺達と同じ人間には違いないのだから絶対に勝てないなどとあり得ないはずだ。
そのまま2組目も1組目以上の差をつけられ、完敗となった。
クラスメートの泳ぎを見る限りだと勝つことは最初から諦め、本気で泳いでいない様子でこれでは勝つ可能性は完全に0だろう。
次は自分の番となる3組目が行われる。
「では行きますよ」
先生が笛を吹いた瞬間、勢いよく水中に飛び込んで力の限り泳ぎ出す。
どれほど勝つ望みが薄くても俺は終わってもいない勝負を捨てる気などさらさらなかった。
競争している体育クラスと比べてリードしているか、それとも遅れているか判断する余裕もないまま次の泳者にバトンを回す。
「お疲れ様です」
「お疲れ様!」
「やっぱり速いわね」
泳ぎを終えてプールサイドで休んでいると牡丹さん、はなこさん、ヒバリさんが声を掛けてくる。
「ありがとう、どうだったかな俺は体育クラスと比べて遅れてなかった?」
「私が見た限りじゃギリギリで2番目位でゴールしてわよ」
「そう、惜しかったな・・」
既に3組目も終わり、結果的には負けていたが1組目と2組目ほどの差はついておらず、俺が泳いだ分を考慮してみても他のクラスメートが奮起して泳いでくれたのかもしれない。
負けはしたが、それでも
「残念だったな、葵坂」
「あ、響ちゃん、それに蓮ちゃん!」
「お疲れ様」
「あなたたちも見てたのね」
「ああ、だが1位ではなく2位とはふがいない・・この響の出番の際には輝かしい1位を手にしてくれゴハッ!」
「響、うるさい」
江古田さんが手刀の一撃を萩生さんの頭に打ち付けて黙らせた。
あのすごろくの時も同じようなことがあった。
そしてそのまま、失神した萩生さんを担いで戻っていく。
「どうして萩生さんはあおいくんにあんなに突っかかって来るのかしら?」
「俺がほら、有名人の息子とゆう理由で注目されているのが気に食わないからだって」
「萩生さんらしい理由ね」
「でもあのお2人、相変わらず仲がよろしいですね」
「うん、まるで私達みたい!」
「うふふ、そうですね」
その後、男子のレースを眺め続けたが全て結果は最下位に終わり、女子の番となった。
最初競泳では、はなこさんが一番手として出場するみたいだ・・嫌な予感を覚える。
「では行きますよ」
先生が笛を吹き一列に並んだ女子が一斉に飛びだすが大きな音が辺りに響く。
「完璧な腹打ち!」
「痛そう・・」
その音ははなこさんがプールにお腹を強かに打ち付けたせいで発した音だった。
運動神経は悪くないはずだが、持ち前の不運さゆえなのかもしれない。
残念ながら最下位でおそらくはなこさんが最初の腹打ちで出遅れたものの、それが無くとも結果は変わらなかっただろう。
続いて、牡丹さんが出場する番になったが緊張の余り失神してしまい棄権となった。
さらに、江古田さんが泳ぐ番では立ったま眠りこけてしまい、だいぶロスしてしまう。
そして、ヒバリさんが泳ぐ番となった際は特に問題なく泳いだが、それでも身体能力の差は如実に発揮されいづれも最下位の結果だった。
俺の友人でまだ泳いでいないのは萩生さんだけとなった。
「体育クラス、やっぱり強いな全員・・」
「本当ね・・忘れがちだけど天之御船ってすごい名門校で相手は体育クラスの4組が相手なんだから無理もないのかもね」
「でもでも、競争楽しかったよ!」
「私はお役に立てませんでしたが、皆さん本当に一生懸命泳がれていて尊敬しちゃいます」
俺達幸福クラス側は連戦連敗だが、それでも気を落とすことなく、既に泳ぎ終わった生徒もまだ泳いでいない生徒も和気あいあいと談笑して過ごしている。
一方の体育クラスは全員がストレッチを行っていて油断せず勝利に向けて最善を尽くしている。
まだ女子の競泳も終わっていないが、この分だと相手側に何かトラブルでも起きない限り勝つことはまず不可能だろう。
ゴロ・・ゴロゴロ・・・・
何やら不穏な音が聞こえて空を見上げてみると気が付かない間に空が分厚い雲に覆われ、辺りが暗くなりその上雷の音が聞こえてくる。
この様子だと時間が立てばこの一帯にも落雷するかもしれない。
「皆さーん! 競泳中ではありますがちょっとお天気が心配です、今日の水泳はココで中止しましょうねー」
思った通り、小平先生が生徒全員に呼びかけている。
一般的に落雷する確率は低いものの、プールという場所ゆえ水辺では水中に落雷すると危険だと聞いたことがある。
「えっ!?」
小平先生の言葉に萩生さんは驚きの声を上げて抗議するが先生は極めて冷静に、尚且つ落雷の危険性を一つ一つ説明し、萩生さんは言葉を詰まらせる。
しかし、それでも諦めきれないようで涙目になりながらも先生に詰め寄っていた。
これ以上見ていられず止めるために萩生さんの元へ足を進める。
「響は・・っこの時間中に一度位蓮に――い、いや皆の者に華麗なる泳ぎとは何たるかを!」
「今日は・・もういいだろ響」
「蓮っ・・」
どうやら江古田さんに自分の泳ぎを見せたかったことが理由らしいが天気がこの様子では続けるのは危険でしかない。
「萩生さん・・またプールの授業はあるから今日はひとまず諦めようよ、江古田さんだって帰りたがっているみたいだしさ」
「葵坂っ・・!」
様々な感情が絡み合った表情でこっちを睨み付けてくるが、その両眼には涙が浮かんでいることもあってか少しも迫力がない。
「響、今日はもう戻ろう」
「・・・・・・分かった、蓮がそう言うのなら」
しぶしぶと言った感じで萩生さんは引き下がり更衣室に向って歩き出す。
「っ!?」
だが、向き直って歩き出そうとしたとき足を滑らせプールに頭から落ちてしまった。
「は、萩生さんっ!」
咄嗟にプールに飛び込んで萩生さんを抱き起しすぐさまプールから引っ張り出した。
「萩生さん、しっかりして!」
意識を失っている上に呼吸もしておらず素人目でも危険な状態だ。
「とりあえず更衣室に運ぼうか」
「ああ!」
江古田さんの言葉で萩生さんを背負い、急いで女子更衣室へ走り出す。
「し、失礼しました!」
萩生さんを急いで更衣室へ運んだのはいいが、すぐに自分がいてはいけない場所にいることに気が付いて無我夢中でそこから逃げ出した。
「あーまたやってしまった・・あれ?」
ふと、プールの方に目を向けるとそこには何故か未だにプールに入ったままのはなこさん、ヒバリさん、牡丹さんの姿があり、そしてそのすぐ近くに鷺ノ宮先生がいた。
何やら嫌な予感がして駆け足でそこに向う。
「どうしたんですか!?」
「葵坂! 仕方がない、お前も手伝え!」
「せ、先生!? これは一体・・どういう」
「説明している時間は無い!」
先生はそう言って自分もプールに飛び込みはなこさんを引っ張りだす。
事情は分からないが、はなこさん達が危険な状況なのは間違いない。
自分もプールサイドからはなこさんの手を引っ張って力を込めて引き上げようとしたがそれでも助け出せなかった。
あり得ないことに4人で力を合わせて1人を引き上げようとしているのにも拘らず少しも動く気配がしない。
そうこうしていると、再び大きな稲光が空を走り、轟音が耳に響く。
明らかにさっきまでと比べて雷が近くに落ちたらしく全員に緊張が走る。
「くそっ、このままじゃ・・・・」
「もういい、お前達は早く非難しろ!」
「でも・・」
「はなこさんを置いていけません」
「水の中がどれだけ危険か分かっているのか!」
先生の言った通り、いつこのプールに落雷してもおかしくない状況なのは理解している。
「分かっています、でも友達を残して逃げるなんてできません!」
「そうです、はなこさんを置いていけません!」
次の瞬間、先ほど以上に激しい轟音と同時に目がくらみそうな程強い光が辺りを覆い雷が落ちる。
もしかしたら校庭に落ちたのかもしれない。
「校庭に落ちたようだ、やはりお前達は・・」
「っごめんなさい!」
突如牡丹さんが先生の眼鏡を外して遠くに飛ばし、そして牡丹さん自身の水中眼鏡を取り外し同じように遠くに投げ飛ばす。
「何を!?」
「皆さん水に潜ります!」
その場にいる牡丹さん以外の全員がその行動の意味が分からず戸惑う。
「時間がありません、私を信じてください!」
「「「分かった!」」」
「おい、どういう・・!」
「先生、ごめんなさい!」
友人同士の俺とはなこさん、ヒバリさんは一も二もなくその言葉を信じることができたが先生は戸惑って動てないでいた。
説得する時間などなく、やむを得ず先生を無理やり押し倒すように水中に引きずり込む。
そして、次の瞬間俺達のいるプールのちょうど真上に凄まじい稲光が走り雷が落ちた。
「平熱だ、葵坂、花小泉」
「まさか、外れたコースロープが足に絡みついてたなんて・・普通はあり得ないけどはなこだしね」
「道理でいくら引っ張っても動かせないわけだ、あの時は皆少しパニック状態だったから仕方ないけど」
最後の落雷の後、俺達は感電することも無く無事だったが念のため保健室で休んでいた。
あの落雷の直後、空は先ほどまでの天気が嘘のように雲が殆どない快晴となっている。
「久米川はべらぼうな高熱・・と」
「貧弱で役立たずのグズですいません・・」
「そんなことない」
「え?」
その場にいた全員が驚いた表情で鷺ノ宮先生を見た。
俺もあれほど7組の存在意義を疑っていた先生がそんなことを言うとは夢にも思わなかった。
「水に潜れなかったお前があの状況で的確に知識を応用し、努力による挑戦心を見せた・・評価に値する」
「先生・・」
「雲雀丘、葵坂、お前も級友を信じ良く実行した」
「あ・・はい!」
ただ少しだけ褒められただけなのに、今の言葉が7組を認められたかのような意図を感じた。
「・・葵坂、少し話がある・・保健室の外に来い」
「!?・・は、はい!」
だが、そんな感覚は先生の次の言葉で砕かれる。
あのプールの時、先生を無理やり水に沈めた際に勢い余って胸に顔を埋めてしまっていた。
そのことで叱責を受けるのではないかと身がすくむ。
むろんわざとではなかったが、どさくさにまぎれてした行いではないかと判断されていればどう言い訳しようが通じないだろう。
覚悟を決めて保健室から退出し先生に向きなる。
「葵坂、何の件で呼びだされたか分かっているか?」
「はい・・」
「先ほどお前がプールの女子更衣室に侵入したと言う話を聞いてが事実か?」
「え!?・・はい、そうです」
覚悟は決めていたが予想外の言葉を聞かされ動揺してしまう。
さっきまでの騒動で忘れかけていたがその件もあり、実際に7組、4組の女子に目撃されている。
それに関しては言い訳のしようもなもない事実だ。
「それは溺れた萩生を運び込むためだったがこれも本当か?」
「・・本当です」
「そうか、なら何も問題は無い」
「え・・いいんですか!」
てっきり叱責されると思っていたがあっさり許されてむしろ拍子抜けしてしまった。
「更衣室に侵入したのは事実だが、それは溺れたクラスメイトを助けようとしたからだ、どこにも叱責する理由は無い、この件に関しては私が処分しておく何も心配するな」
「で、でも先生・・あのプールの時に・・」
「では聞こう、あれはわざとやったのか、胸に顔をうずくめたのは?」
「・・わざとじゃないです」
「なら結構だ、お前がそんなことするような生徒ではないと信じているからな、これでも教師だ、生徒を見る目は持っている」
「先生・・ありがとうございます!」
信じて貰えたことがうれしくて大げさに頭を下げる。
「それに、今までに散々見てきた幸福クラスの不運、それにお前の資料を見ていれば信じないわけにはいかないからな」
「あ・・そうだったんですか・・あはは」
それを言われると乾いた笑みしかでない。
「・・葵坂、お前に謝らなくてはならないが幸福クラスについてはしばらく様子を見ることにした、お前の体育クラス行きも保留となった」
「あ・・そうなんですか・・」
先生から驚くような一言を聞かされすぐに理解はできなかった。
だが不思議と悲しみや怒りはあまり無く、むしろ喜びの感情の方が大きかった。
「思っていたより落ち着いているな、てっきり驚くかと思っていたが・・」
「あはは・・自分でも不思議ですね・・何だかんだできっと7組が好きなんだと思います」
「そうか・・戻るぞ」
「はい」
先生と2人で目の前の扉を開け小平先生と皆の前に戻る。
「あら話は終わりました?」
「ああ」
「何の話だったんですか?」
「もしかして、葵坂さんが萩生さんを助けた件ですか?」
小平先生が皆に俺が溺れた萩生さんを助けたこと、一先ず寝かせるために女子更衣室に入った件についても簡単に説明する。
「だから勘違いしたうわさが広がらないように我々が手を打っておく、クラスメートを救った行動で非難されることになるなどあってはならないからな」
「そうだったんですか、ご立派ですあおいさん! 私にはとても溺れた方を助けるなんてできません!」
「い、一番近くにいたのが俺だったからそうしただけだよ・・」
牡丹さんに真っすぐな目を向けられてこっちが恥ずかしくなってしまう。
「先生、そういえばチモシーはどうしたんですか、プールの時は姿が見えなかったけど?」
「チモシーですか? ここにいますよ」
「やあみんな!」
先生がカーテンを開くとそこには黒焦げになって黒うさぎのようになっているチモシーの姿があった。
「チモシー! どうしたのその恰好!?」
当然はなこさんはそんな姿のチモシーを見て驚きの声を上げる。
はなこさん以外の俺達も予想だにしないその姿に事を失う。
「これはチモシーが皆さんを庇って落ちてきた雷を受け止めたからなんです」
「つまり名誉の負傷ってわけだよ、えっへん!」
黒焦げながらもいつもの如く偉そうに胸を張って主張するチモシーだった。
でも今回ばかりは本当に助けられたのは間違いない。
「そうか、ありがとうなチモシー」
「チモシーありがとう!」
「助かったわチモシー」
「チモシーさんありがとうございます」
「えへへー照れるなー」
チモシーはロボットの癖に何故か顔を赤くしている。
しかし、見た限りではボロボロにはなったものの雷の直撃を受けて何事もなかったかのように動作しているこいつは俺達の思っている以上にとんでもなく高性能なんだろう。
「でも、あの時牡丹さんが水の中に潜るよう言ってくれたのも助かった要因の一つなんだろうね」
「そうね、牡丹、本当にありがとう」
「うん、ありがとうヒバリちゃん、牡丹ちゃヒャアアアアアアアッ!?」
突然はなこさんの体から正体不明のビリビリとした黄色い光があふれ出した。
「な、何だ!?」
自分の記憶の中から一番近いものを上げれば、正しく静電気が当てはまる。
とすると、これは雷の一部なのか・・?
「花小泉お前・・!」
「やはり蓄電されてましたか、いくらチモシーが身を挺して防いだといっても雷があんな近くに落ちて無事なのは不思議でしたから」
「すごーい! 牡丹ちゃん、指先からビリビリが出てるよほらー♬」
自分の体からすごい量の放電が起こっていながらはなこさんは相変わらず楽しそうだ。
俺とヒバリさん、牡丹さんは身を庇いながら会話を続ける。
「・・もしかして私達が助かったのははなこさんのおかげだったんでしょうか?」
「普通なら考えられないけど・・そう考えるしかないわね・・はなこだし」
「そうかもね・・いつ収まるんだろうこれ・・」
でも個人的には牡丹さんの知識とチモシーが庇ってくれたお陰でもあるような気もしていた。
ともかく天之御船で初のプールの授業も無事?終わりを迎えた。
そして、あと一週間後には天之御船に入学して初の夏休みを迎える。