今まで気づかずそのままにしていて申し訳ありません。
今のところ、投稿を始めてから一年以内に(9月30日までに)アニメ化された分を書きたいと考えています。
その為、頑張ってペースを上げて投稿します。
次は30日頃に投稿予定です。
キーンコーンカーンコーン
長かった梅雨も終わり、今日は期末試験の最終日だ。
最後の科目である苦手な英語の試験もやっと終わって机の上に突っ伏した。
「ヒバリちゃん、どうだった?」
「まずまずかしら、はなこは?」
「解答欄全部埋められたよ!」
「そう・・あおいくんはどう?」
「赤点は回避してると思う・・多分、体育クラスなら体育のテストもあるらしいからそこならいい結果出せるんだけどなあ・・」
体を動かす方なら大抵のことはこなせるが、頭を動かす方はどうにも苦手で不得意な教科だとたまに赤点を取ってしまう。
「そ、そう・・お疲れさま」
「皆さん、少しよろしいでしょうか?」
その時、隣に座っている牡丹さんが俺たちに声を掛けてくる。
「何?」
「少々気の早い話なのですが・・」
「皆さんお疲れさまでした」
「後で大丈夫です」
「これにて期末試験の基本科目は終了です」
(え、基本科目・・?)
嫌な予感がして頭を上げて先生へ視線を向ける。
「が、お昼休みを挟んで午後からは・・・・
先生はチョークを持って黒板に文字を書いていく。
7組専用特殊試験特別幸福テストを始めたいと思います!」
「先生、そんなの聞いてません!」
「当然です、抜き打ちですから」
すぐさまヒバリさんが手を挙げて抗議するが、先生はあっさりと答えてくる。
抜き打ちだと言われれば俺達学生は文句を言えない。
「体育クラスにも特殊試験あるんだし幸福クラスにもあるよなそりゃ・・」
普段から幸福実技なる謎の授業があるのだから幸福のテストもあると考えておくべきだったのが悔やまれる。
まあ事前に伝えられていても対策なんて何をしていいのか分からないので知っていてたとしても特に意味は無かったと思うので
「特殊試験っていったい何なんですか?」
「学期ごとに皆さんの実技幸運度と心理性幸運度を測るものです、内容は見てのお楽しみですよ、ではこれから体育館に向いましょうか」
俺達は体育館に向い、入学したての頃に乗ったエレベーターに乗り、あの時のように地下に移動を始めた。
「ここって・・すごろくの時に使った・・」
「わぁー久しぶりだ―」
「またすごろくをするのかな・・?」
だとすれば、今度こそ前回のように最下位になることだけは絶対に避けたい。
「いいえ、今回は前より下に参ります」
「あれよりもっと深い所もあるんですか・・」
とっくに分かっていたことだが、相変わらず規格外な学園だ。
先生の言葉通り、前回以上に深い所に向ってエレベーターは地下に進んでいく。
いったい今回は何をやるんだろうか?
俺達の横に萩生さんと江古田さんがいて2人で話をしている。
「くっくっく、いかなるテストだろうと順位がつくならこの萩生響がトップを取って見せる!」
「今更トップは無理だろう、昨日赤点だってへこんでたのに」
「しっー! しっー!」
2人は普段と変わりなく、いつもの調子でテストに臨むようだ。
俺も2人に負けず頑張らなくてはいけない。
「楽しそうですね、はなこさん」
牡丹さんの言う通りではなこさんは目を輝かせながらはっきりとワクワクしている。
「どんなテストなんだろうね、先が分からないのってわくわくするよね!」
「内容も扱う範囲もわからないテスト何て別の意味でドキドキよ」
「そうだね、でもすごろくの時みたいに事前に知ってても意味なさそうだし、知ったところでテスト以外に不安の種が増えるだけになると思うから諦めるしかないよ・・」
「それもそうね・・」
そうこう話をしていると、ついにエレベーターは地下1000mにまで達した。
「さらなる地下帝国!」
「いくらかかってんだこの学園・・?」
エレベータの扉がゆっくりと開き真っ暗な空間が少しずつ露わになっていく。
とにかくこれも形式はどうあれテストであり成績にもばっちり反映されるんだ、気を引き締めないと・・
腹をくくってその空間に睨みつけるように見つめる。
「あれ・・?」
エレベーターが開き終わったがそこには何も存在せずただ空間だけが広がっている。
すごろくの時のような巨大な施設は影も形もない。
「ここが今回のテスト会場です」
「何も・・ないですけど?」
「うふふ、これをどうぞ」
先生は懐からサングラスのようなものを取り出し、生徒全員に配っていく。
「眼鏡・・?」
「かっこいいねー!」
「これってもしかして・・VRってやつかな?」
「幸福テストの計測器です、それを掛けたら右側のボタンを押してください」
先生に言われるがまま、俺もヒバリさんは眼鏡を掛けてボタンを押した。
すると、正面にいたチモシーの姿が見えてくる。
「ようこそ、電脳世界へ・・!」
「え・・!?」
慌てて眼鏡をはずすと、全裸の、いや服を何も着ていないチモシーになった。
「いやん、眼鏡はずさないでよー!」
チモシーはまるで着替えを見られた女の子のように恥ずかしがっているが、そのウサギの姿と妙な仕草で結構うっとおしい。
そういえば、エレベーターで先生の隣にいつの間にか立っていたのを見た。
「立体映像ですか?」
「前々から思ってたけど、完全に学校の施設じゃないわ・・」
「本当だよ、お金いくらかかってんだろう・・」
12
「全員装着しましたね」
先生は全員が装着したのを確認すると壁際のスイッチをいれる。
その瞬間、視界に写っていた殺風景な空間がが少しずつ変化していき、あっという間にいわゆる視界一面にカジノが広がった。
さっきのチモシーのことがなければ、きっと驚いて同じように外していただろう。
「これって・・カジノ!?」
「あくまでバーチャル、国内有数の名門である天之御船学園に本物のカジノを作るわけには生きませんからね、それでは試しに花小泉さん、あのゲームをやってみましょう」
「了解でーす」
はなこさんは言われた通りに、先生が示したゲームに向かった。
「ジャンケンしよー、ボタンを押してねー!」
そのゲームは古いゲームセンターでたまに見かけるもので大抵10円玉かメダルを使って遊ぶゲームが置いてあった。
グーか、チョキか、パーを選ぶだけの極めてシンプルなもので完全に運で勝敗が決まる。
「ジャンケンゲームだー!」
「じゃーんけーんポン!」
「ポン!」
はなこさんが選んだのはパー、画面に表示されたのはチョキ、はなこさんの負けだ。
「ズコー」
「あ、負けました先生!」
「そうですか、残念ながら花小泉さんの持ち点が減ります」
「90点になった!」
はなこさんの計測装置を見てみると確かに先生の言った通り、100の数字が減って90になっている。
「幸福テストは減点方式なんです、皆さんの前に現れた運試しゲームを10回プレイして最後に残った数値がテストの点数になります」
「こ、こんな無茶苦茶なテストがどこに!」
「そうですよ、どうしろっていうんですか、テストが完全に運次第なんて!」
ある1人を除く、俺とヒバリさん以外の全員も戸惑って先生の言葉を受け入れられないでいた。
当然だ、普段の授業ならまだともかく大事なテストがこんなやり方だなんて受け入れられない。
今まで受けてきた幸福実技のことから運が絡んでくることは想定していたが、これでは完全に運次第で結果が決まってしまう。
幸福すごろくの時はある程度ではあったものの、自分達で努力して早く進むことはできたがこのテストではそれすら出来そうにない。
「先生、すっごい楽しいです!」
唯一この場で楽しそうなのは、はなこさんだけだった。
「そうでしょう、そうでしょう、では早速始めましょう、ルーレットにカードゲームお好きなものに挑戦してください、あくまでテストですから他の人へのアドバイスは控えるようにして下さい」
結局、先生に押し切られる形でテストが始まった。
納得はできなかったが、先生が「制限時間内に10回プレイしなかった生徒は自動的に0点になる」と言ってきたので止むを得ずテストに挑むことにする。
俺とはなこさん達はとりあえず別れて色々見て回ることにした。
その辺りを見て回ると既に1回目が終わった生徒もいて、結果によって一喜一憂しているのが見て取れる。
制限時間もあるので俺自身もそろそろどれか1つプレイしてみることに決めた。
「じゃあ、これやってみるかな」
そのスロットマシンは大抵のゲームセンターに置いてある何の変哲も無いものでルールを確認してみても何でもいいので絵柄を3つ揃えれば成功になるらしい。
目押しではなく、レバーを引いて絵柄が揃うのを願うだけなのでこれも他と同じように完全に運次第で結果が決まるようだ。
早速プレイしてみると絵柄が2つ揃ったが最後の右側の所だけ1つ分ズレてしまい失敗となった。
「あーちくしょう・・」
「ふん、全く無様だな」
いつの間にか萩生さんが俺の後ろに立っていて
「今から響が手本を見せてやる、そこをどけ」
と言って、俺を押しのけるように割り込んでくるとすぐさまスロットを回し始める。
結果、俺と同じで最後だけ絵柄が揃わなかった。
「この響きが負けるだと、ありえん! 何か特別なプログラムを仕組んでズルをしているのではないか、もしくはこの萩生響きを恐れてウゴェ!」
「響、うるさい」
俺が止めようとした時江古田さんが萩生さんを一撃で落として黙らせる。
「江古田さん、そこまでしなくてもいいんじゃ・・」
「響は言っても聞かないから、いつもこうしてるし」
「ああ、そう・・」
江古田さんが本気で言えば聞きそうな気がするが、多分こっちの方が楽なんだろう。
次にやるゲームを探して歩いていると
「さあ、キミの幸福の四つ葉を探そうっ!」
耳に残るような甲高い機械音声が聞こえて視線を向けると誰もやってないゲームがあり、
興味が湧いてやってみることにする。
説明を読んでみると、画面に表示された4枚のカードの内、正解を選べば成功になるようだ。
「それ、やってみたけどダメだったわ、オマケに機械にバカにされて正直イラっとしちゃったし、他のゲームの方がいいんじゃない?」
「う・・」
近くを通りがかったヒバリさんに言われて手が止まる。
「まあ、とりあえずやるだけやってみるよ、どうせどれも運次第なんだから」
自分の直感を信じて左上のカードを選択する。
押した瞬間、画面が
「チッ、せいかーい、はいはいおめでとー! でもザンネーン、君はここで運を使い果たしましたーまた今度チャレンジしてねープププのプー」
「俺の聞き間違いじゃ無ければ今舌打ちされたんだけど・・」
「私にも聞こえたわ」
正解したというのにひどい言われようでかなりイラついた。
ヒバリさんの言った通り別のゲームを遊べばよかったかもしれない。
その後、次のゲームを探していると丁度ルーレットをしている牡丹さんの姿があった。
様子を眺めていると、どうやら外れたようでコインを持っていかれていた。
「あら、残念」
「運試しじゃ、対策のしようがないものね」
「もういっそのこと、適当なゲームを連続でやってぱっぱと終わらせようかな・・」
「ねえねえ、みんなはどれ位やった?」
その時、はなこさんが
「俺は2回やって1勝1敗だよ」
「私は1回だけです」
「私も、はなこは?」
「んとね、さっきのジャンケンを6回やって・・残り30点!」
「そんなに、負けたの!?」
「というか、計算が合ってないような・・?」
「ああ、最初のジャンケンの負けも含まれているんですね」
牡丹さんの言葉で合点がいった、ということは、はなこさんは7戦7敗であと3回負ければ0点になってしまう。
やけになって、適当なゲームを8回やって終わらせようと考えていたが、今はとてもそんな気にはなれなかった。
かといって、10回ゲームをしなければ自動的に0点になってしまうのだからやらないわけにもいかない。
「そこの、お嬢さん方、お坊ちゃん」
その時、黒いコートを着てタバコを吸っているチモシーが姿を見せる。
「そんなあなたにオススメのゲームがあるんでゲスよ、失った得点を増やせるとっておきのね・・」
チモシーが言い終わった途端、今まで見えなかった部屋の奥の電気がついて『VIP』と書かれた大きな扉が現れる。
「やる、やるやるやるー!」
「待って!」
一も二もなく、笑顔で扉に向かい始めたはなこさんをヒバリさんが慌てて肩を掴んで止める。
「怪しいわよ」
「うん、絶対何かありそうだよ」
チモシーは増やせると言っただけでちゃんと説明をしていないが、何のリスクもなく点数を増やせるとは思えない。
失敗すれば一気に大量の点数を失ってしまってもおかしくはない。
「でも、このままですとはなこさん、本当に0点になってしまいまうのでは・・?」
俺とヒバリさんと牡丹さんは顔を見合わせ、頷き合い、はなこさんと一緒に行くことに決めた。
「私たちも参加できるのよね?」
「モチロン!」
今の説明は俺たち以外の生徒にも先生から伝えられたようで10人以上の生徒が扉の前に並んでいる。
多分、この場にいる全員が一か八かの勝負をするつもりなんだろう。
「オープンザ夢の扉!」
チモシーの日本語と英語が混ざった一声で大きな扉がゆっくりと開いていく。
開いた先は大きな空間が存在し、俺の知っている言葉で言えば古代のコロシアムのような作りになっている。
「ここは・・?」
「対戦用ゲーム、デュエルのエリアだよ」
「デュエル?」
「やりながら説明するねーまずはキャラクターメイキングだ、さあ雲雀丘瑠璃さん、ステージの上に立って!」
チモシーに言われた通りヒバリさんはステージの上に進んだ。
そして、すぐさま萩生さんもステージに足を踏み入れヒバリさんと相対する形となった。
「萩生さん・・」
「さあ、始めるぞ雲雀丘瑠璃、誇りをかけたデュエルをな!」
まだ緊張しているヒバリさん違って萩生さんはやる気十分で、その勢いに飲まれそうになる。
「盛り上がってるトコ悪いけど対戦の組み合わせはランダムで決まるから、萩生響さんはそこを降りてね」
「な、何いっ!?」
萩生さんはチモシーにそう言われても食い下がっていたが江古田さんに制止され仕方なく萩生さんは降りていく。
チモシーが言うには対戦相手がランダムなのは不正防止のためらしい。
「さあ、早速決めるよ、雲雀丘瑠璃さんの相手は・・・・江古田蓮さん!」
「ん、呼ばれた?」
「おお! 響でなかったのは残念だが、行けー蓮! あの女に正義の鉄槌を喰らわせてやるのだ!!」
何故か選ばれた江古田さんより萩生さんの方がテンションが高い。
江古田さんもステージに進んでヒバリさんの前に立つ。
「さあ2人とも、目の前に表示された四つ葉から好きなものを1つを選んでね!」
チモシーがそう言った瞬間、立体映像の四つ葉が浮かび上がり2人の周囲に現れる。
俺が選ぶ立場ではないがどれも色も形も同じでどれを選んだらいいのかまるで分からない、おそらくだがこれも完全にランダムで運で決まるんだろう。
「分かったわよ、これかしら?」
「じゃあ・・これで」
ほどなく、ヒバリさんも江古田さんもその内の一枚に手を触れる。
すると、2人の体が眩い光に包まれ姿が見えなくなり、驚いて流れを見守っているとすぐに光が消えて2人が姿を見せた。
「あの人を守るために!」
いつの間にか、ヒバリさんはまるで中世の騎士のような甲冑や翼の生えた兜、そして何よりその手に自身の身長の半分の長さがありそうな大きな剣を持っていた。
言ってしまえば、その姿はまるでゲームの世界に出てくるような美少女騎士そのものでよく似合っている。
これがもし本当にゲームの登場人物なら人気投票で断トツの1位となる位大人気になっていただろう。
江古田さんはおとぎ話に出てくるような魔女の格好をしていて、大きなとんがり帽子を被り、怪しげな杖まで持っている。
無口な江古田さんには魔女というミステリアスな格好は正にピッタリに思えた。
「って、きゃああっ! なにこの格好!?」
ヒバリさんは今の台詞を言い終わると急にハッとなって、自分の姿を確認し慌てふためいていた。
あの様子から察するにきっとあの光に包まれて何の説明もないまま気がつけばあの姿になっているんだろう。
「この方が楽しくてハッピーでしょー君のジョブはナイトだね、そして江古田さんのジョブはウィザードだ」
「ちっちゃくなってる!」
ヒバリさんが驚くのも無理はなく、気がつけばチモシーは小さくなって、しかもまるで妖精のような羽までついて当然の如く浮かんでいる。
「世界観に合わせたよ! じゃあ今から詳しく説明するからよく聞いてね」
チモシーの説明ではこのデュエルでは文字通り一騎打ちで、相手に勝てば30点を奪い取えるみたいで、正にハイリスクハイリターンなゲームだった。
しかも、要するに立体映像とはいえ自分の体を動かして戦わなければならないのだから
「戦うの!?」
「さあ、2人とも準備はいいかい? レディーゴー!」
「ちょっと待って、心の準備が全然できてないわよ!」
「・・ファイア」
未だに戸惑ったままのヒバリさんをよそに江古田さんはいきなり先制攻撃を仕掛けてくる。
「危ない、ヒバリさん避けて!」
俺がそう言い終わる前に杖から炎の渦が放たれ轟音を立てて爆裂した。
「きゃあああっ!?」
ヒバリさんは辛うじて炎を避けたものの、炎が直撃した床は人が埋まりそうなほど大きな穴が出来上がっている。
立体映像なのは理解しているが、こんなのを喰らえばすぐ近くにいる心臓の弱い友人だと失神してしまいかねないだろう。
「本当に出た」
「あらかじめ、言っておくとプログラムだから痛くもかゆくもないからね」
「だからって・・!」
「ごめんね、響みたいに1番は目指してないけど、赤点も嫌だし・・アイス」
「くっ、やればいいんでしょう! はああー!」
再び、江古田さんが仕掛けたがヒバリさんは落ち着いてそれを避け、反撃を始めた。
江古田さんに間合いを詰め剣を振るうがあっさり躱され、逆に攻撃を受けてダメージが入り、ヒバリさんの体力を示す四つ葉が1つ減ってしまった。
「行けー蓮、その調子だ!」
「ヒバリさん、頑張って!」
萩生さんが江古田さんを応援するのに負けじと俺も応援をすることにした。
「そこまで、勝者、江古田蓮!」
短い時間ながらも激しい攻防の末、江古田さんがヒバリさんを破って勝利となった。
「雲雀丘瑠璃さんの30点が江古田蓮さんに移動します、お2人は観客席にどうぞー」
俺とはなこさん、牡丹さんの隣にヒバリさんと江古田さんが
チモシーの言った通り、視界にバーチャルで得点が30点分移動したことが表示されている。
確かに勝てば美味しいが、負ければ一気に大量の得点を失ってしまうので
「はあ、何であの展開で負けるの・・?」
「ナイスファイト、楽しかった」
江古田さんがヒバリさんの方に手を置いて励ますように言った。
「楽しんでたのね・・」
「まあ確かに、バーチャルであんなリアルなゲームができるんだから正直俺も楽しみかな」
あんなリアルなゲームを体感できるのは初めての経験でヒバリさんと江古田さんの戦いを見ている間中ずっと見入ってしまっていた位だ。
「これがテストじゃなければね・・負けたら成績下がっちゃうんだから楽しむどころじゃないわよ」
「そうだね・・」
とにかく、絶対に負けるわけにはいかない、ここで勝って少しでも成績を上げなければ体育クラスへの移動はさらに遠ざかってしまうのだから。
「じゃあ次の対戦カード行ってみようか、萩生響さん、江古田蓮さん、さあステージ上にどうぞ!」
「あのーよろしいでしょうか・・?」
「どしたのー?」
「他の皆さんならいざ知らず私のような者があのような格好で現れたら目が潰れてしまうかと・・」
「いやそんなことないって・・牡丹さん」
毎度のことで、激しくネガティブなことを言っているが誰もそんなことは危惧している者はいないだろう。
それどころか、これから牡丹さんがどんな格好で現れるのか楽しみな位だ。
「エントリーのキャンセルは受け付けてないよ、早くはやく―」
「そうですか、気が引けますが仕方ありませんね・・」
「久米川牡丹さん、ジョブはプリースト!」
「神のご加護を・・」
「わあっ、ふわふわ真っ白でかわい~♡」
「かわいい・・けど、神様が怒りそうな服装ね」
「・・・・・・す、すごい格好だな・・」
牡丹さんの姿はチモシーが言った通りでプリーストだったが今までと同じでリアルな格好ではなくよりもゲームに出てくるような格好だった。
だが、今まで見てきたものと比べても露出が激しく、胸元が大きく開き、牡丹さんの豊かな胸と谷間が遠くからでもはっきりと確認できる程で思わず目を離せなくなってしまう。
「ひいいいんっ、恥ずかしさと申し訳なさと自己嫌悪で消えてしまいたい気分ですぅぅ!」
「対戦相手はー萩生響さん、ジョブはアーチャー!」
牡丹さんが悶えている間に萩生さんもステージ上に姿を見せる。
ジョブがアーチャーなだけあって大きな弓矢を持っていて、さらに服の至る所にピンクのリボンが付いてあって、フリルの付いたスカートを履いているその姿は凄くかわいらしい格好だった。
普段はあまり意識することは無いが、萩生さんもはなこさんと同じくらい小柄で、顔立ちもかわいい女の子なので、今のリボンたっぷりな恰好がとてもよく似合っている。
まあ、本人の前でそんなことを言えば激怒されるのは目に見えているので思うだけに留めておくことにする。
「萩生さん・・」
「響が相手とは運がなかったな、一番にふさわしい勝利を見せつけてやる、一撃だ! それで貴様を倒してみせる!」
「・・ごめんなさい」
「・・え?」
牡丹さんがなぜ今謝ったのか分からず
「セカンドデュエルーレディーゴー!」
「先手必勝!」
デュエルが始まった途端、萩生さんがすぐさま弓を構え牡丹さんに向けて勢いよく矢を放つ。
「申し訳ありませーん!」
慌ててそれをよける牡丹さんだったが、床の穴に足をひっかけ転倒し四つ葉が一つ減ってしまう。
「牡丹!」
「今のは自滅じゃ・・」
「あれでもダメージはいるのか・・」
「ああ・・回復しなければ・・聖なる光よ・・奇跡を!」
牡丹さんがそう唱えると、たちまち光が牡丹さんを中心に広がっていく。
「くっ、プリーストだけに回復魔法か・・?」
「回復もできるのか・・ってあれ!?」
「あああああ・・・・!」
何故か、突然牡丹さんを包んでいた光が紫色の禍々しいオーラに変化し、その上回復するどころか逆に四つ葉が減ることとなった。
「なんかダメージ受けてない!?」
「日ごろから地べたを這いつくばり、屍同然に生き恥を晒してきた私には回復魔法は逆効果だったようです・・」
「アンデッド属性か!」
「アンデッド・・?」
「ゲームとかじゃ、アンデット系のモンスターは回復魔法でダメージを与えることができるものがあるんだよ」
「そうなのね・・でも牡丹のジョブはプリーストなのに何で・・?」
「さあ・・牡丹さんだから?」
答えになってないとは思ったが他に理由が見当たらずそう結論付けることにした。
「ふん、とにかく勝負あったようだな・・我が最強奥義で屠ってくれる!」
萩生さんが再び弓を構え牡丹さんにとどめを刺すべく矢を向ける。
「牡丹さん!」
「萩生さん・・なんとお詫びをすれば」
牡丹さんは何故かまた謝罪の言葉を口にする。
「詫びる必要はない、これで終わりだ!」
萩生さんから矢が放たれ、前の矢以上の衝撃がほとばしって牡丹さんのいる地点に直撃した。
その衝撃で牡丹さんの姿が見えなくなるほど煙が舞い上がった。
「ぼたーん!」
「ふっ・・なっ!?」
勝利を確信していた萩生さんだったが煙が晴れると牡丹さんの姿が見えないことに動揺して辺りを見回すがどこにもいない。
「どこへ消えた、姿を見せろ!」
「はい」
いつの間にか萩生さんの背後に移動していた牡丹さんが
萩生さんが驚いて振り返ろうとするが急に貧血でも起こしたかのように床に倒れこむ。
「本当に、ごめんなさい・・」
「蓮・・人が見てるぞ・・」
「寝てる・・!」
「どうして急に・・」
見間違えでなければ牡丹さんは攻撃らしい行為しなかったはずだ。
「睡眠魔法だね、勝者、久米川牡丹!」
「はあ・・」
勝利が決まった牡丹さんが安堵のため息をつく。
「へえ、それも勝ちになるんだ」
「見事な逆転勝利だけど一方的すぎない・・?」
「デュエルはジョブ同士の相性で有利不利が決まるのです、物理主体のナイトがウィザードに不利なように、精神魔法に弱いアーチャーにとってプリーストは天敵なのです」
今のデュエルを眺めていた先生が解説を入れてくる。
「有利不利ねえ・・」
先生は相性で『有利不利』が決まるとは言ったが、『勝敗』がジョブの相性だけで勝敗が決まるとは一言も言ってない。
先生は何気なく解説していたがこれは覚えておくべき情報だろう。
「ああ、だから久米川さん、あんなに謝ってたんだ、いつでも響を瞬殺できることが分かってたから」
荏子田産の今の言葉で俺もようやく理解ができた。
「なるほどね・・これで合点がいったよ」
牡丹さんの性格からして勝利を確信し、萩生さんに申し訳なくなって謝っていたのも
頷ける。
「ちょっとかわいそうね・・」
「でも、なんか幸せそうだよ」
「猫も見てる・・」
萩生さんは夢を見ているようでよく分からない寝言を言っているが、その表情は嬉しそうなのが一目瞭然だった。
まあ、起きて自分の敗北を知ればかなり落ち込むのも容易に想像できるので確かにヒバリさんの言う通りちょっとかわいそうに思えた。
だが、萩生さんに事を憐れんでばかりいられない、自分も負ければ一気に30点も失ってしまうことになる。
(負けるわけにはいかない、誰が相手でも俺は絶対に勝つぞ・・)
改めて気を引き締め、自分の名が呼ばれるのを待つことにした。