RE:世界一可愛い美少女錬金術師☆   作:月兎耳のべる

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昼更新。エミリア視点。


第八話 そして一日は歩みを進める

 スバルがエルザの凶刃によって倒れ、エミリアは必死に少年へと治療を試みる。しかし自身の治癒力に比べて対象の傷は大きく、治癒が追いつかなかった。

 だが駆けつけたカリオストロが代わりに傷を見るといって患部に手を当て始めると、その彼女から一瞬、冷たい雰囲気が感じられた気がした。

 

「……カリオストロ?」

 

「……」

 

 言葉に反応こそないが、彼女は思い出したかのように手から癒やしの光を放ち、スバルの傷を治療していく。その力は見事というほかなかった。

 彼女の治療魔法によってこぼれ出た内容物が逆戻しのように腹に収まり、傷は最初から無かったかのように癒着していき、時間にして一分、下手すればもっと早くにスバルの治療は終わっていた。

 治療後のスバルは傷を受けた当初より全然マシな顔をしていたが、抜け出た血の分だけ青白い気がした。

 

「凄い……ありがとうカリオストロ」

 

「……礼はスバルに言え。本来ならこうなるのはお前だったんだ」

 

 治療が終わったというのに喜ぶ雰囲気もなく、カリオストロはさっさとスバルから離れてしまう。その様子にエミリアは困惑する。ついさっきまで感じられたどこか柔らかい雰囲気が微塵も感じられないのだ。

 ひょっとして自分が居ながら守れなかった事を悔やんでいるのだろうか。エミリアは募る気持ちを抑えられずカリオストロに声をかけようとしたが、背後に感じた新しい気配に振り返らざるを得なかった。

 

「――何か、あったようだね」

 

 そこに居たのは赤髪の騎士だった。彼は崩壊した盗品蔵の戸口に立って、当事者達を見ていた。

 

「貴方は……」

「お主……剣聖か」

「ゲッ、剣聖かよ」

 

 多種多様な反応を貰っても剣聖――ラインハルトは表情を変えることなく近づく。彼が真っ先に近づいた先は……カリオストロだった。何故ラインハルトが彼女に?と疑問を浮かべる前に、肝心のラインハルトが反応すらしない彼女へ声をかけた。

 

「大きな音に駆けつけて見れば……スバルは無事かい?」

 

「あぁ」

 

「済まない、まさかこんな大事に君達が巻き込まれていたとは……気付けなかったのは、僕の不徳だ」

 

「真っ先に協力を断ったのは私達だから、気にしなくていい」

 

 取り付く島もないといはこの事だ。ラインハルトの問いかけにもカリオストロはぴしゃりと言葉で跳ね除けてしまう。彼もその様子に流石に言葉を続けるつもりはなく、悔しそうに顔を下げると今度はエミリアの元へ近づき、跪いた。

 

「エミリア様、ご無事で何よりです。危機に巻き込まれた貴方様を守れず、尚且つ遅れて到着するという愚挙。申し開きようもありません。この処分如何様にも」

 

「いいわ。この件は自分の甘さが招いたようなものだから」

 

 剣聖が白銀の少女に傅く光景。フェルトとロム爺は二人の関係性を見抜くことができず、表情こそ変えずにカリオストロもその様子を横目で見ていた。ラインハルトとエミリア二人は、残りの面子を置いて話を進めていく。

 

「……何があったか、説明を頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「えぇ。まずは、私が――」

 

 フェルトに徽章を盗まれた事。

 フェルトを追いかけ、盗品蔵にたどり着いた事。

 そこでカリオストロとスバルにも出会った事。

 徽章を狙うエルザに襲われた事。

 それをカリオストロが撃退した筈が、

 不意打ちで斬られそうになった事。

 その不意打ちをスバルが身を呈して守ってくれたこと。

 

「そうですか……腸狩り。それをスバルが――」

 

「えぇ。見ず知らずの私を、彼は命がけで助けてくれたわ。それで気になったんだけど、貴方はどこで二人と出会ったの?」

 

「彼らとは貧民街で出会いました。これもまた騎士として恥ずかしい話ですが、出会ったのも彼らに襲いかかった追い剥ぎをカリオストロが撃退した直後に」

 

 エミリアの脳裏にノリノリで追い剥ぎを吹き飛ばすカリオストロと、スバルが後ろから応援する姿が容易に想像出来た。その時には既に貧民街に向かって居たのだろう。しかし、何故彼らは自分が徽章を盗まれた事を知っているのか。何故出会った事のない自分にここまで尽くしてくれるのか。そしてスバルとカリオストロはどういう関係なのか。何故一緒になって手伝うのか。エミリアにはさっぱり分からなかった。

 しかし間違いようのない事はエミリアには彼らには大きな恩が出来た。という事実だけ。この恩、絶対に忘れてはならないとエミリアはふんと両手を前に出しぐっと拳を握りしめて決意を新たにした。直後、ラインハルトが倒れるスバルを見てエミリアに提案する。

 

「エミリア様、スバルは我が家で介抱しましょうか」

 

「あっ、い、いいえ。それには及びません。大恩ある彼は、メイザース領で介抱させて貰います。返しきれない恩だけれども、それに報いない恥知らずにはなりたくないわ」

 

 そしてちらりとカリオストロを見たエミリアが言葉を連ねる。

 

「カリオストロ。貴方にも是非とも恩を返したいわ。良ければスバルと一緒に、私が懇意になってる領地に招待したいのだけれども――」

 

「……」

 

 カリオストロはラインハルトとエミリアをそれぞれ一瞥すると、一言「行く」と呟いた。ほっと胸を撫で下ろしたエミリア。ラインハルトは少し残念そうな顔をした後に「畏まりました」と告げ、踵を向けフェルトへと近づいた。

 

「な、何だよ」

 

「分かっているとは思うが、キミの盗んだその徽章はとても大切な物だ。抵抗は出来るならして欲しくはない。そのままエミリア様に返して頂きたい」

 

「言われなくても返すよ! アタシ達も命助けられた口だかんな……ったく、ほらよ」

 

 フェルトは懐から竜の紋様が入った黒い徽章を取り出すと、ラインハルトにそれを手渡そうとする。が、ラインハルトが受け取る前にフェルトの腕を掴んだ。

 

「なっ…! ん、んな事しなくてもにげねーよ!」

 

「あ、待ってラインハルト!スバルにその子達の罪を問わないでって言われてるの。私もちゃんと返して貰えたから罪は問わないつもり、だから……」

 

「……」

 

 動揺するフェルトとエミリアをよそに、ラインハルトは依然として腕を掴み続けてフェルトの手にある徽章を睨みつけていた。その態度は今までのラインハルトからは考えられない程で、思わず一行は言葉を無くしてしまう。カリオストロもその様子を観察し、ロム爺は一触即発のムードを出しつつあった。

 

「……フェルトと言ったね。すまないが、キミは当アストレア家までご同行願おう」

 

「は!?何だよそりゃ!」「おい、貴様!」「ラインハルト!」

 

「お怒りも最もだが、譲る事は出来ない。……エミリア様。決して捕縛して罪に問うわけではございません。彼女は”候補者”である可能性が非常に高い、という事です」

 

「!」

 

 三者がその発言に揃って驚く中、ラインハルトは険しい表情を変えずにフェルトを見据え次にエミリアへと伝えた。エミリアはその発言を聞いて思わず口を手で抑えた。

 

「訳わかんねー事言ってんじゃねーぞ! アタシがなんでお前の家に行かなきゃなんねーん……ふにゃ」

 

 首筋に手を添えられたフェルトが途端に意識を失いラインハルトにもたれ掛かると、ラインハルトは徽章を落とさぬようにしっかりとその手で徽章を受け取る。それに怒ったのがロム爺だ。孫のように思っていた少女が貴族に攫われようとしている、思わず獲物を手に取って襲いかかろうとしたが、瞬く間もなくラインハルトによってフェルトと同じ運命を辿らされた。

 

「済まない」

 

 優しく気絶したフェルトを自身のマントを敷いて横たわらせると(ロム爺は地べた)、ラインハルトは改めて手にした徽章をエミリアへと返却した。

 

「……それって、本当に?」

 

「この徽章が指し示す者ならば、間違いなく」

 

 彼は強い眼差しでエミリアへと頷くと、「大変失礼になりますが、私はここで下がらせて頂きます。すぐに竜車と部下をこの場に向かわせますのでしばらくお待ちください」とフェルトを抱えてその場を去っていった。

 

 そしてその場に倒れたスバルとロム爺、先程から何一つ喋らないカリオストロと唖然とするエミリアだけがこの場に残るのだった。

 

「……」

「……」

 

 エミリアは思った。気まずい、と。

 瓦礫の1つに座り込み、膝に頬杖を突いてそっぽを向くカリオストロはどこからどう見ても不機嫌そうで、迂闊に話しかけられない雰囲気が出ていた。彼女に一体何があったのか分からないが、こんな事で尻込みをしてどうするのと気合を入れたエミリアが口を開く。

 

「あの……っ」

 

「――なぁ、候補者ってどういう事だ?」

 

 その直後、エミリアの目論見を知ってか知らずかカリオストロの質問が被せられ彼女の出鼻が挫かれた。だがそれでもめげずに、その質問に対して丁寧に答えようと意気込んだ。

 

「今、王都が騒がしいのは分かってる?」

 

「あぁ、そう言えばラインハルトがそんな事を言ってたな」

 

「今ルグニカ王国では王選が始まろうとしているの。この国の竜の巫女であり、この国の王を決めるための活動。一度は聞いたことはあるかしら?」

 

「いや、生憎オレ様もスバルも全く違う所から来たからな。この国の詳しい話も常識も知らない――それで?」

 

 凄く遠い所から来たのね。と内心思いながらエミリアもカリオストロの隣に座り、促す彼女に続きを話す。

 

「王は5人の候補者から選ぶ必要がある。その候補者は自薦でも他薦でもないわ、相応しいとする者を竜殊……この竜の徽章が選ぶの。さっきラインハルトが驚いてたのは、多分フェルトに徽章が反応してたからだと思う」

 

「ふん、そう言う事か。つまりアイツがエミリアに傅いたってのは……」

 

「――えぇ、私もその王候補の一人よ」

 

 懐から取り出した徽章をカリオストロに見せる。その徽章は確かに淡く光を放っており、カリオストロの手に移すと光が消えた。徽章を手で弄ぶように観察した後、すぐにエミリアへと返却したカリオストロは一度考え込むと……。

 

「メイザース領って結構でかいのか?」

 

「え? えぇ……とても大きいと思うわ」

 

「領主は……メイザースっていうのか? そいつはお前の後見人か? 有名人か?」

 

「領主の名前はロズワール・L・メイザース。それで……うん、後見人……みたいなものかしら。それに、ロズワールは結構有名な人なのは間違いないと思う。王国の頂点に立つ魔法使いよ」

 

 矢継ぎ早の質問にたじたじになりながら答えるエミリアに、ふんふんふんと、一つ一つ咀嚼するように何かを考え込むカリオストロ。剣呑な雰囲気が先程よりも薄まったせいか、エミリアはそんな彼女の愛くるしさを再認識し始め、「撫でていいかな、でも何か怒りそう……」と葛藤をしていると、再び彼女が口を開いた。

 

「――ねぇ、エミリア☆ 恩を返してくれるってのは~、本当?」

 

 打って変わって、可愛らしい声色での問いかけ。どこか試されているようなその言い方に、エミリアはノータイムで力強く頷いた。

 

「本当よ。私に出来る事ならなんでも言って、力になるわ」

 

「……そっか☆ 言質は取ったからねエミリア☆」

 

「う、うん。取られても平気。任せて! ……それで何をすればいいのかしら?」

 

 にっこりと微笑むカリオストロに、エミリアは少しドギマギしながら聞き返したが、カリオストロは「それは領地についてからのお楽しみに☆」とはぐらかした。

 曰くスバルと話しあってから決めるつもりであるとか。その言葉にエミリアは口を閉ざすしかなかった。そして、その二人の会話が終わった直後。待っていたかのようにエミリア達の元に竜車が到着するのだった。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 王国からロズワール領への道中、竜車内に隣り合って座る二人。(スバルは別の竜車で移送中)二人の間での会話は散発的で、会話は続かず、ソレ以外の時間は気まずいか、エミリアがちらちらとカリオストロを盗み見て(カリオストロ撫でたい)、カリオストロがその視線を無視する(ちょっと視線が鬱陶しい)ぐらいだった。そんな苦境の中でもエミリアは健気に、めげずに、話題を振り絞って話かけ続けていた。

 

「そう、えっと……そ、そう言えばスバルとカリオストロって一体どういう関係なの?」

 

「あ。そう言えばそこはボクも気になってたね。キミの実力といいスバルの実力といい、二人で組むにはあまりにも歪過ぎるや」

 

 それはエミリアがあの日に浮かんだ疑問だった。パックも同じ事を考えていたのか、興味深々な様子でカリオストロを見つめた。カリオストロは長い道中でのエミリアの雑な話題の振り方に若干うんざりしながら、それでも律儀に反応した。

 

「……姉弟関係☆」

 

「嘘だね」

 

「うん、嘘っ☆ というか~答える義理はないよね?」

 

 即答でバレる嘘をついても尚動じないカリオストロは、至極正論で返すが、う、ごめんなさい……と素で縮こまるエミリアに対し、リアが傷ついてる! コレは真実を伝えないと癒やされないよカリオストロ! と同情誘いと煽りのダブルパンチをパックが被せてきて、仕方なく二の句を告げた。

 

「んーっと、詳しくは言えないけど~そうだね、強いて言えば一蓮托生の腐れ縁かな☆」

 

「腐れ縁?」

 

「うん、しかもこれからなる予定っ☆」

 

「??」

 

「……今度は嘘じゃないみたいだよリア」

 

 より疑問が深まったエミリアが首を傾げている間に竜車はロズワール領へと入っていた。そして竜車の窓から一望できる長い長い道のりの先には、立派な屋敷が見えて来ていた――




《治療魔法》
エミリアは擦り傷切り傷を回復させるのが限度。
天才錬金術師のカリオストロは色々出ててもすぐに治せるくらいすごい。

《候補者》 出典:Re:ゼロから始める異世界生活
徽章を手に持つと光らす事が出来る、王様候補の事。
エミリア、フェルトを除き他に三人候補者がいる。
実はラインハルトは候補者を探す役目を賜っていた。


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