RE:世界一可愛い美少女錬金術師☆   作:月兎耳のべる

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第六話 永き一日の収束(前編)

 硬く閉ざされ人気を感じさせない古びた盗品蔵。スバルとカリオストロは目標となる場所に夕方になる前に辿り着く事が出来た。

 

「まだこの時間帯はフェルトは居ないとは思うけどよ、これなら先に交渉を終わらせることも出来そうだな」

 

「フェルト……あぁそう言えばフェルトってあの黄色髪の盗人の事か?」

 

「知ってるのか雷電。あぁあの手癖の悪いガキンチョだよ。って言うか素で答えちまってるけど、もしかしてカリオストロも……」

 

「誰の事だ。あとお前も餓鬼に変わらないだろが。……あぁ、ここまでくれば流石に言わなくても分かるだろ?」

 

「俺より小さいカリオストロに言われたくねえよ!?」

 

 結局チンピラが来て最後に言おうとした話はうやむやになってしまったがカリオストロが何を言いたいのか、スバルは理解していた。「そうか、まさか同類が居るとは……はっ、もしやこの世界の俺のメインヒロインはカリオストロ!?」と聞こえるくらい勢いよく独り言を言うスバルに、カリオストロは喧しいキモイと膝裏を蹴る。

 

 ……二人は知る由もなかっただろう。この時彼らは非常に綱渡りな会話をしていた事を。もしこの時に起こる事を知っていれば、2人はまた違った道を歩んでいただろう。

 

「しかしスバル。あいつが何盗まれたかは知らないがお前交渉って……大金でも持ってるのか?」

 

「いーや、残念ながら俺はこの世界では天下御免の一文無し……あーやめてそれやめて! 違うから! 金はないけど代案はあるから!」

 

 笑顔を湛えたカリオストロがすっと指先をある場所に向けようとして、慌ててスバルが涙目になって弁明し、懐からあるものを取り出した。スバルが取り出したものは薄い板のようなもの。そう、ガラケーである。

 

「何だぁそれ?」

 

「ふっふっふ、良くぞ聞いてくれた。これぞナツキスバルの最終兵器……時を切り取るミーティアだ!」

 

「ミーティア?」

 

 初めて聞く単語である。しかしそれ以上に目の前の不思議な物体に興味を惹かれた。彼女でも知らないものがあると得意げになったスバルはカリオストロへそれを手渡し、彼女はまじまじと観察する。恐らく見たことのない材質で出来たそれは、不思議な手触りをしていた。

 

「見たことねえ代物だが、これが本当に値千金なのか?」

 

「おおとも。この世界では絶対にお目にかかれないレア物だ。それじゃよく見ておけよ――スバル・フラーッシュ!」

 

「うわっ!」

 

 スバルは「ミーティア」を再び手に取ってカリオストロへ向けると、不思議な音ともにその薄い物体から眩い光が一瞬またたき、彼女は眩しさに手を翳してしまう。

 

「さて、こちらを――いたっ。こちらをご覧――痛いって! いきなり悪かったって! だから蹴るのはやめてくれ!!」

 

 まばゆい光を浴びせられたカリオストロが無言でスバルへと鋭いローキックを見舞う中、スバルは痛みにこらえながらミーティアの裏面を見せると、そこにはこちらを覗き込むカリオストロの姿がはっきりと写されていた。

 

「写真か」

 

「よくご存知で。そう、これは小型の写真機だ。俺の世界じゃこういうのがよく出回ってんだよ。更に言えばこの世界にはそういう物は無い、らし……い」

 

「へぇ、へぇ、ほう。中々どうして……うん、うん、やっぱりオレ様は世界一可愛いな!」

 

「あっハイ。存じ上げております」

 

 自分の美しい顔が鮮明に移る機械が気に召したカリオストロは、その後何枚かスバルに写真を取らせてその画像を見て悦に浸っていたが、思い出したかのように咳払いをする。

 

「……ごほん。なるほどな、好事家なら確かに大金を出しそうな代物だ。しかし、お前が返そうとする盗品……オレ様は知らないが、それに釣り合う価値なのか?」

 

「ん? あ、悪いカリオストロは知らなかったか。交換する商品は竜の紋章入り、そして宝石入りの徽章だ。ぶっちゃけ言えばそれについても問題ないぜ。前にこの盗品蔵に居る爺さんに太鼓判を押して貰ったからな」

 

 スバルなりに考えた内容にカリオストロもふむ、と頷く。どうやら二週目の時、彼は盗品蔵でこれと徽章の交換を持ちかけたらしい。ただそれはあの殺人鬼の機嫌を損ねる結果となり、結果として殺される羽目になったようだ。

 

「しかし前も同じことしたんだろ? それで同じ目にあってちゃ意味ねえだろうが」

 

「それに関しては……エルザの野郎が来る前にさっさとフェルトと交渉して徽章自体を取り戻す。それだけしかない」

 

「エルザ……あぁ、あの殺人鬼の女か。その案、お前の目的を達成するだけならいいだろうけどよ。結局はお前もフェルトも目当ての子も殺されるぞ」

 

「――は?」

 

「は?ってお前……普通に考えたらそうだろうが。あの女の狂気は見ただろ? アイツが依頼した盗品を受けとれませんでした。はいそうですか。で済ますと思うか?」

 

「あ」

 

 スバルは何回もの死に戻りで視野が狭くなっていたせいか、ひとつの目標しか見えていなかった。カリオストロから見ても、スバルから見てもあの女は快楽殺人者であり、依頼を成し遂げられなかったあの少女は見せしめに殺され、それに関わったスバルも、エミリアも一人ずつ殺していく事だろう。

 カリオストロはその発想までに至れなかったスバルにイラついたが、仕方ないとばかりに唖然としていたスバルの背を叩く。

 

「だが、それはオレ様が居なかったらの話だ」

 

「……!」

 

「大サービスだ、本来ならこんな事無償でなんてしてやらねえからな。さっさと交渉すませるぞ」

 

 目の輝きを取り戻したスバルが気を取り直して入り口に向かい、カリオストロはその後に追随していった。

 

(ったく、以前に比べたら考えられないほどオレ様も甘くなったもんだぜ。お前のせいだからな、グラン)

 

 お前が探し出すまでにこっちから戻ってやるから待っていろ。小さく呟いた声は空に溶けて、誰にも聞こえなかった。

 

 

 § § §

 

 

 カリオストロはそういえば盗品蔵の符丁を知らなきゃ入れないと思い出したがスバルが既に知っていたようで、軽々と、ふざけながら符丁に回答していく。

 そのふざけた符丁に怒りながら中から現れたのは、浅黒い肌を持つ筋肉質で大柄な老人だった。

 最初はこれから交渉があるから帰った帰ったと袖にしようとする老人だったが、フェルトに用があって来たと言う言葉とお近づきの印だとスバルが薄い手提げ袋から取り出した謎の菓子を手渡しして、中でフェルトを待つ事に成功した。

 

「お爺ちゃんありがとう☆」

 

「フェルトの客なら一応ワシの関係者じゃからな。あとお主、ワシに渡した菓子なら勝手に食うでないわ!」

 

「持て成す茶菓子のひとつもないなら皆でお菓子をわけあえばいいじゃない。みんなは一人のために、一人はみんなのために。OK?」

 

「明日の食い扶持にも困るこの貧民街でそんな博愛的な言葉投げつけられて自分の飯を手放す奴がおるか! 言葉じゃ腹は膨れんのじゃぞ!」

 

 さまざまな盗品が置かれた蔵のバーカウンターのような場所で三人は思い思いに座り込み、カリオストロはまるで年頃の少女のようにきょろきょろしながら出されたミルクを飲み、ロム爺は貰ったコンポタチップスを食べ、スバルはそのコンポタチップスを何個かつまんで時間を潰していた。 

 

「しかしお主が持ち込んだこの品は確かに価値がある代物じゃな。ワシも長いことこの稼業をしてきたがミーティアを見たのは初めてじゃ」

 

「だろ? だろ?」

 

 スバルはその説明にしたり顔をし、カリオストロはミーティアの意味を聞いてなかったので可愛らしく首を傾げると、優しい笑みを浮かべて老人が説明する。

 

「魔法の才能がないものでも、それを使うだけで魔法を行使出来るアイテムの事じゃよ、お嬢ちゃん。ミルクのお代わりはどうじゃ?」

 

「ありがとう☆ お爺さん優しいんだね☆」

 

「何か露骨に俺との態度が違うんじゃねえのか!?」

 

「見た目も中身もお主とは天と地の差があるわい、当然じゃろう」

 

「爺さん、見た目に騙されたら痛いっ!? あ、あぁぁぁー、きゅ、急におなか痛くなってきたなぁぁぁー……」

 

 老人からは見えなかったが震えた声で机に突っ伏すスバルの腹にはカリオストロが持つ分厚い本がめり込んでいた。何じゃ藪から棒に、拾い食いでもしおったか。と訝しむ老人を置いてカリオストロは盗品蔵の至るところを眺め続けた。

 

(やっぱりあの気配が無いな、こりゃ盗品蔵そのものに何かがあると考えるのはよしたほうがいいだろう。って事は別の条件か。その鍵は間違いなくスバルが握ってやがるのは違いないが……)

 

 情報そのものはだいぶ集まってきたがまだ真相は見えてこない。残る怪しむべき点はお目にかかっていない徽章そのものぐらい。それ以外に自身の知らない要因があればお手上げだが、多角的に分析してもカリオストロは恐らくはそれ以外の要因はないと考えていた。

 

 老人が酒を飲み、スバルが戯言を述べ、カリオストロが笑顔を絶やさず相槌を打つ時間が少々続き、そろそろ話題が消えそうになった所で、コンコンとノックの音が響く。

 

「来たな」

 

 老人が符丁の確認をしに行く。スバルの顔が緊張に引き締まり、カリオストロも体を入り口のほうへ向き直し、現れた少女を視界に入れた。

 

「……ロム爺。こりゃ一体どういう事だ?」

 

「どういう事も何も、お前さん目当ての客だ。何でもお前さんが今日盗んだ品が欲しいんだと」

 

「は? 何でそれを知ってるんだ? まああたしは金が貰えれば何でも良いんだけどよ」

 

 勝手知ったる我が家に居るかのようにスバルの横に座ったフェルトは彼女がロム爺と呼んだ大男からミルクを受け取ると、一気に飲み干し、味に愚痴を零した。

 

「それでアンタ達はアタシが盗んだものに幾ら出してくれんだ? 言っとくけどアタシも結構苦労したし、先約もあるんだ。いい値を出してくれないと応じてあげないからな~」

 

「金はねえ。が、その代わりになる超絶レア物を用意した。なんとその価値聖金貨20枚!! 中々いい条件だろ?」

 

 鼻高々にミーティア…ガラケーをフェルトに突きつけるスバル。フェルトは訝しみながらそれを見つめ、そのあとロム爺を覗き込んだ。

 

「……へぇ。ロム爺それって本当か?」

 

「こいつを調子に乗らせるのは癪だが、嘘ではない。これは時を切り取るミーティアよ。ワシは20金貨程だと見込んだが、それ以上出す輩はごまんとおるじゃろうな」

 

 その言葉にフェルトが目を見開き、スバルはそうだろうそうだろうと満足そうに頷く。カリオストロはじっとフェルトを見詰めて、口を開いた。

 

「ねぇねぇ、それで盗んだ物はちゃんと持ってきてるの?」

 

「ったりめーだろ? ほら見ろよこの徽章をよ。宝石入りだぜ?」

 

 フェルトが懐から取り出した黒く三角形の徽章は、確かに竜の紋様が入っており中心には宝石が埋め込まれていた。カリオストロはしばしその徽章をじっと見詰めていたが、やがて興味を無くしたのか視線を別の場所に移した。

 

(……こいつも、違う)

 

 徽章からはあの雰囲気が微塵も感じられなかった。となると何が要因なのかが皆目分からなくなってくる。発動の鍵となる行動が必要なのだろうか? とするならばスバルが鍵であることは間違いないが――考え込むカリオストロをよそに、取引は進んでいく。

 

「ふぅむ。このような徽章も見たことはないが……なるほど、これも中々価値のありそうなものじゃろうな」

 

「だけど、俺のミーティアより価値は?」

 

「……ないとは言わんが、まあ、お主のミーティアの方が価値はあるじゃろうな」

 

「よっし! よしよしよし!! じゃあ決まりだな交渉成立ゥ! 早速このミーティアと徽章を交換――」

 

(この馬鹿。急ぎすぎだ)

 

 カリオストロは表情を変えずに内心で舌打ちした。スバルは繰り返した世界で彼女がたどった末路を忘れている。彼女はエルザ相手に欲を出し、殺された。であれば性急な結論を出せば間違いなく――

 

「ちょーっと待った。慌てんなよ兄ちゃん、アタシにも依頼人が居るんでね。実際の交渉は依頼人としてくれよな~」

 

 スバルが伸ばした手は空を切る。片手に徽章を掲げたフェルトは唖然とするスバルを見て意地悪そうに笑っていた。

 

「え、いや……聞いただろ!? このミーティアの方が価値があるって……それで満足しておけよ!」

 

「勝手に交渉してアタシが依頼人になんて説明すればいいんだよ。それに……お前はなんで損する交渉をそこまで喜んでするんだ? もしかしてソイツに隠された価値があるんじゃねーだろうな」

 

「おまっ、その欲を掻きすぎるのやめろよ! それじゃいつか、っつーか今日絶対痛い目にあうぞ!」

 

「はぁ?」

 

 喧々囂々と交渉ともいえない口喧嘩が二人の間で勃発する。ただし喧嘩の形勢はスバルの不利。ただ早く交渉を終わらせたいという気持ちが先立つスバルには、フェルトを納得させるカードが少なかった。

 

 やれやれと言わんばかりにロム爺が酒を飲み、カリオストロも頬杖を突いてその様子を眺めた。

 

 時々ちらちらとこちらを見て助けを求めるスバルの視線を感じたが、彼女はそれを意図的に無視する。勿論彼女がスバル側に立てば交渉を早く終わらせてやることも出来たが、そのつもりは()()()()()()。逆行現象を拝見するためには、当時と可能な限り同じ状態にする必要がある、つまり、カリオストロはエルザやエミリアを意図的にこの場に呼び込もうとしていたのだ。

 よって彼女は傍観に徹する。交渉が長引けばよし、早く終わるならその時はその時だ。勿論エルザにみすみすとフェルトやロム爺、スバルを殺させるつもりは毛頭ないが。

 

 互いに妥協出来ずにだらだらと時間だけが過ぎていく。我関せずといった体でいたカリオストロが、飲んでいた自身のミルクをそろそろ飲み干しそうになった頃、新たに扉を叩く音が転がり込み、スバルが文字通り飛び上がる。

 

「誰じゃ?」

 

「お、噂をすればなんとやら。依頼人の登場だ。兄ちゃん、話は依頼人とゆーっくりしてくれ。あたしは高く買ってくれるほうを取るかんな」

 

 アタシが出る、と椅子から降りて入り口に向かうフェルトをスバルが悲痛な表情で叫ぼうとする。

 

「やめろ。殺――んごっ!?」

 

「……あ、ごめんねスバルお兄ちゃん☆ 本が落ちちゃった☆」

 

 が、カリオストロが落とした本の角がピンポイントでスバルの小指に直撃し、スバルは悶絶してそれを行うことが出来なかった。足を抱えて倒れるスバルに近寄ったカリオストロは鈴の音のような声で囁く。

 

(な、何するんでしょうか……!)

 

(いいから黙ってろ。それ以上自分を不利にすんじゃねーよ)

 

(でもエルザが……!)

 

(オレ様が居るって言ったろ? ……後はオレ様の出番だ、大人しくしていろ)

 

その様子に肩をすくめたフェルトは止めた足を再度入り口に向けて、扉を開く。倒れ伏したスバルがその様子にごくりと喉を鳴らし、扉から漏れた明かりが、その人物を照らす。

 

「げっ」

 

「えっ……?」

 

 

 

「とうとう見つけた、観念しなさい」

 

 

 

 そこに居たのはまさしく怒ったぞと言わんばかりに眉をひそめる雪の少女、エミリアだった。




話の展開が一気に遅くなりました。
それもこれもスバル君弄りが楽しいのがいけない。



《ミーティア》 出典:Re:ゼロから始める異世界生活
魔法を使えない人でも魔法を行使出来る道具の事。
ただしバルスのそれはただのガラケーなので、正確にはミーティアではない。

《エルザ》 出典:Re:ゼロから始める異世界生活
黒髪ロング、黒ドレスのむちむちお姉さん。 CV能登。
ナイフで人のお腹をかっさばくのが大好きな殺人鬼でありバトルジャンキー。
捌くのも捌かれるのも大好きらしい。

《フェルト》 出典:Re:ゼロから始める異世界生活
黄色髪の快活盗賊少女。エミリアから徽章を盗み出した張本人。
貧民街から抜け出すために、お金は少しでも多く手に入れたい欲張りガール。
ロム爺を大事に思ってる。

《ロム爺》 出典:Re:ゼロから始める異世界生活
巨人族の褐色老人。盗品蔵の主。
いざとなったらでかい棍棒を振り回して敵を倒すパワーファイター。
フェルトを大事に思ってる。カリオストロも孫のように思い始めてる。

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