時系列的には王選開始2ヶ月前くらいの話になり、内容は原作三章から完全に逸脱したオリジナル展開となります。
オリキャラも登場するので苦手な方は注意をお願いします。
(そして多分プロット的にボリュームは二章を遥かに超える内容になりますん…30話くらいで終わるかな…(震え声))
【前回までのあらすじ】
エミリアに誘われロズワールの別荘に転がり込んだスバルとカリオストロ。
二人は屋敷内で繰り返される悲劇を死に戻りしながらも推理し、原因である森の魔獣を屋敷の面々と共に助けあい、撃退する事に成功する。
そしてようやく安寧を手に入れる事が出来た二人だったが、直後にロズワールはカリオストロから頼まれていた「こちらの世界に送り込んだ張本人」である鎧の魔物の目撃情報を伝えてくるのだった……。
第三十三話 招待状
日差しが少しだけ差し込む、崩壊した部屋の中。
ひとつの声が椅子に縛り付けられた彼に語りかけた。
「スバル、人間を悪たらしめる原動力が何なのかを知っているかな?」
声をかけられた少年、スバルは荒い息を吐きながら怯えた目つきで相手を見やると、声の主は正気を逸した笑みをたたえた顔のまま、ゆっくりと近づいていった。
――その手に、鈍色に光るナイフを持って。
「それはだね――」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……ふむ」
「……」
屋敷のとある一室。客用の椅子に座ったスバルは現在、ある人物と向かい合わせになっていた。
その人物は彼と同じく椅子に座り込んでおり、その位置は非常に近い。手を伸ばせばすぐにでも届く距離だ。……いや、事実その人物は手を伸ばし、彼に触れていた。
どこを?
それは勿論スバルの肌にだ。
なんと現在、スバルは服を肌蹴させており、その前面からは生肌が見えている状態だった。
腹部に押し当てられた皺だらけの手は時折撫で回すように動き、触れられる側は自分の服をめくりあげた状態で緊張した様子をただ見せていた。
「……ふむふむ。なーるほどのぅ」
そしてそんな状態が1分程続けば、目つきの鋭い老婆がようやく手を離す。その雰囲気は未だに重い。雰囲気に当てられたかスバルは思わず唾を飲み込んだ。
白衣に身を包んだ彼女は瞑目したままスバルの前で腕を組むと、重々しい口調で告げる。
「よーく分かった、お前さん――」
「朝は胃腸が弱いタイプじゃろう? 腹がきゅるきゅる鳴いておるぞ」
「いやそういう事聞きたい訳じゃねーから!」
予想外の検診結果を突きつけられ、スバルの軽快な突っ込みが飛んだ。
§ § §
「あ。スバルどうだった?」
「当たり前だけどなんともなかったぜ。
マナのめぐりが悪い訳でもなし、腹部に炎症や後遺症がある訳でもなし。
一事が万事、全部無事。コンディションオールグリーンの問題ナッシングって感じだ!」
スバルが先ほどの一室から出てくると、ソファに座して待っていたエミリアが迎えた。
同じくソファにはカリオストロが隣に座り、その後ろにはレムが心配そうな顔をしていたものの、彼の返答を聞いてほっとした顔にすぐに変わった。
「はっ、当たり前だ。何せオレ様が治療したんだからな。
後遺症なんて残すものかってんだ」
当然だ、とカリオストロが鼻を鳴らしながらお茶を飲んでいると、同じく一室から出てきた女医がカリオストロの言葉に追随するように繋げた。
「事実見事なものじゃったぞ。話を聞かねば傷があった事にも気付かなかったじゃろう。
丹念に調べてようやくマナの残滓が見えた程度じゃからのう。
……ま。先ほども言ったがこの坊主は全く問題ないじゃろ」
「スバル君……良かったです」
「レムは心配しすぎよ、ここに来てからバルスは見苦しい程無様にもがいていたじゃない」
「人の労働を足掻きみたいに言わないでくれますぅ!?」
ラムのいつもの弄りと軽妙に突っ込むスバルのやり取りに部屋に笑いが漏れ、年老いた女医も「カッカッカッ」と大口を開けて笑った。
その最中、一室にさらなる来訪者が現れた。
「お~やおやフラグラ先生、スバル君はどうだったかい?」
ロズワールである。
彼はいつもの道化師の出で立ちで一室に立ち入り、『フラグラ』と呼ばれた女医に歩み寄る。
女医は彼の姿を視界に収めると顔の皺を更に深くして、投げやりに返答しだした。
「はん。ようやくおでましかいロズワール。
唐突に連絡を寄越したと思えばお前さんは……坊主は見るまでもなく健康体さ。
全く、命に関わる腹の傷を1ヶ月後に医者に見せるなんて一体何考えてるんだい」
「先生はどうにもお忙しいようですかーらねぇ。
今回は事後診断という形にさせて貰おうと思いまして」
「予定は未定だよ。命に関わるかもしれないんだったらすぐ呼びなと何度も言っているだろう」
何故スバルが唐突に検診を受けて居るのかと言えば、それは屋敷に来た当初にカリオストロと交わした約束のためだった。スバルは腹を切られて、直後に精神的に不安になった経緯があった。そのため医者に診てもらうことをエミリアもロズワールも約束していたのだ。
……しかして、呼ぶと言ってから既に一ヶ月も経ってしまったのは、高位の治療師であるフラグラのスケジュールが合わなかったという理由もあるが、ソレ以上にスバルの健康状態がすこぶる良好だという理由が大きかった。
ただ今回の診察、スバルはおまけでしかないと言う事は誰しも気づいていた。
もう一人、
その細い目を更に細めてロズワールに詰め寄る老婆が、ロズワールの手紙の文面、王都での仕事上の立ち振舞、しまいには服装や話し方が気に入らないと、くどくど文句を言う中、文句をつけられた側はその全てをのらりくらり、持って回った言い方で躱し……本題を切り出した。
「積もる文句はあーるかもしれませんが、それよりも……スバル君だけでなく私の大切な従者、ラムの話も聞きたい所ですが?」
「ふん……そこの鬼娘かい」
フラグラの鷹のような目線が逸れ、ラムへと向く。
ラムはその目線を澄まし顔で受け止めたが、妹のレムは自分のことのように体をこわばらせた。
「……ゲートがイカれかけてるのは違いないね。
あんなズタズタなゲートじゃ無意識に取り込むマナの量も極端に減っておるじゃろう。
普通の奴なら魔法が使い辛い程度で済むかもしれんが……コイツは鬼族。マナをバカ食いする種族の癖して角が折られておる。平然としておるが実際は生命維持に必要なマナまでギリギリ賄えるレベルなんじゃ、結果としてオドを削るハメになるだろうから毎日倦怠感や頭痛、目眩に襲われておる筈。
魔法を使うなどもっての他だし、あるいは激しい運動でさえ死にかけるじゃろうよ」
強靭な肉体と扱えるマナの質・量が他種族のソレとは圧倒的な差を開く鬼族。
そんな彼らの強さを支えるのは鬼族独特の特徴である『角』にあった。
鬼の角は大気中のマナを集める強力な吸気口のような役割を持っており、他種族以上にマナを必要とする彼らにとって生命線でもあった。
つまり角がないラムは少し暴れるだけでもすぐにへばってしまう状態なのだ。
そんな状態だと言うのに、全ての種族が持つ自分の体の中と外にマナを通す門、ゲートが損傷しているとしたらどうなる? ゲートからマナを取り込む事が出来なければ普段自然に取り込んでいる生命力に直結するマナを必要十分量賄う事も難しくなる。……つまり、ラムがまた激しい戦闘や魔法を行使すれば瞬く間にマナは干上がり、死に至る可能性が高いのだった。
老婆の声に、重苦しい沈黙が降りる。
ラムは先ほどと同じ澄まし顔を変えることはないが、腕の中のお盆を持つ手に力が入り、残りの面々はあの戦いが残した唯一の傷跡に、顔をしかめる他なかった。
「ちょっと待て。マナを確保する手段がないってんなら、何でラムはまだ生きてるんだ?」
そんな中頬杖を突きながら冷静に指摘を入れるのはカリオストロだ。
空気を読まない彼女の質問に妹のレムが少し強い目線を送る中、老婆は答えた。
「その理由は接触によるマナの譲渡で賄えるから、じゃよ」
「ゲートが壊れかけてるって言うなら送れる量もたかが知れてる。
仮に接触するとしても四六時中ラムに触れておく必要があるだろう?」
「なぁに、接触する場所が肝要よ」
「場所……? ……あぁ、そう言う事か」
「? ……つまりどう言う事だ?」
事情を知るエミリア、レム、ラムの面々はカリオストロの察しに追随するように頷くが、一人話についていけないのはスバルである。彼女の納得に疑問を浮かべ、つい口を挟む。そんな彼に助け舟を出したのはエミリアだった。
「スバル、ラムは角を介してマナを補充して貰ってるのよ」
「でもラムの角は……」
「既に折られて自発的に集める力はなくても、取り入れるためのゲートは開いてるという事よ。
そして、角にあるゲートは他より大きい――そんな事よりも先生。私のゲートを治すことは……?」
話を継いだラムが口早く説明を終わらせ、老婆に問いかける。
老婆はそんな彼女をしばし見つめたかと思うと、瞑目するように顔を俯かせ……呟くように答えた。
「これでも名を馳せた治癒術士さね。ある程度のゲートの損傷なら時間はかかるが治してやれない事もない。ただ……ここまでズタズタのゲートじゃ、もうあたしの手には負えんよ。
残念だがボッコの実を食べて死ぬ寸前までゲートを酷使したのが仇になったね」
「そんな……」
魔獣達との戦いにおいてドーピングに次ぐドーピングをした結果、ラムのゲートはそのほとんどが機能していないのと同様なくらい貧弱な物に成り代わっていた。悲観的な言葉に思わずレムの口から悲しみが漏れる。スバル、エミリアもレムと同じく突きつけられた現実に顔を曇らせるしかなかった。
しかし、そんな重い雰囲気にそぐわぬ声が横合いから投げかけられた。
「でーも、それは先生が難しいというだけで治せないという意味じゃあなーい。
――そうですよね? フラグラ先生」
「……気に食わんねロズワール。間接的にあたしを無能となじりおって」
「とぉーんでもございません。人に出来る事など皆たかが知れている。
蛇の道は蛇とも言いますかーら……先生が治せないなら、別の治せる人に頼む他ない」
「利いた風な口を聞くじゃあないか。……だが、その通りさ。
あたしが治せないなら、更なる凄腕に頼むしかないだろうね」
「……凄腕?」
スバルが口を挟むと、老婆は彼を見やってぴんと右手の人差し指を立てた。
「フェリックス・アーガイル。
ルグニカ王国の『青』にして王国、いや世界に名を馳せる治癒術士。
あの子に頼めば何とかなるかもしれないね」
曰く『水の加護』を持つその人物は、死者蘇生の手前であればどんな重症、難病すら治す事が出来るらしい。スバルやカリオストロは興味深そうにその言葉の前に頷き、レムもホッとした様子を見せる。治る見込みはまだ残されていた。コレに勝る喜びはないと言えよう。……だが、レムと同じく真っ先に喜びそうなエミリアは言葉を聞いて少し首を傾げていた。
「フェリックス……?……えっと先生、もしかしてですけどその方って……クルシュ・カルステンの騎士の?」
「よく知ってるね。……と、言うより知ってて当然かい。
そりゃあこれからあんたのライバルになるだろうからねぇ」
クルシュ・カルステンはエミリアが参戦している王選の有力候補の1人である。まだ公式のお触れこそ出ていないが、候補者の情報は一部の人間にまことしやかに広まっており、エミリアもそのライバル達の名前は耳に入れていた。
カリオストロはその情報こそ知ってはいなかったが、ライバルと聞いてすぐさま候補者であると推察をしていた。……しかしながら何の因果か。よもや治療を頼みたい相手がライバルの手下とは、と彼女は続けて考える。ただでさえ種族というハンディキャップを背負ったエミリアが、ライバル相手に貸しを作ってしまうのだ。金を積んで治療を頼んでも、恐らく向こうは無償でやると言い出すだろう――表向きは善意で。しかして裏向きは敵陣営に大きな貸しを作るが為に。
「エミリア様。と言ーう事でしてラムの治療をフェリス様にお願いしてもいーいですかねぇ?」
そう考えているとロズワールが大仰に腰を曲げてエミリアに問いかけた。
試しているのだ、と即座にカリオストロ、それにラムは気づいた。
『自分の従者を助けるか』『陣営を不利にするのを避けるか』
王に相応しい判断が出来るかを自分の従者を駒にして試しているのだ。
「えぇ、お願いしましょう!」
だがこのエミリア、生憎ながら横に出る人がない程の重度のお人好しだった。
彼女はロズワールの問いかけにも寸分の躊躇もなく返答した。
「……」
「……」
「……」
その見事なまでの即答ぶりにラム、ロズワール、カリオストロは思わず口ごもることしかできず。特にそんなロズワールの意外な反応が面白いのか、フラグラは口の中から溢れる笑みを抑えようと咄嗟に手を当てるが、それすらもやめてかんらかんらと爆笑し始めた。
「え? 何? 何でそんな反応するの……?
だってラムが治るのはそれしかないでしょう? だったら頼むしかないじゃない」
「く……っ、くくくく……っ! ろ、ロズワール。お前さん中々いい娘を推薦するじゃあないかい、ええ?」
「……えーえ。どうやら私の目に狂いはなかったよーぅですねぇ」
「???」
皮肉への返答は普段のものよりも疲れが強いものだった。
そんな彼を見て溜飲を下げたのかフラグラは機嫌良さそうにエミリアに近づき、肩に手を置いて話しかける。
「お嬢ちゃん、お前さんは無意識かもしれないがその気持ちは大切にするんだよ。
えぇそうさ、大事な物を救う、いや、傷つく存在や助けを求める存在を救おうとしないで何が王様だい。その気持ちを持つ限りあたしはお前さんを応援してるからねぇ」
「……? うんっと、ありがとう先生。よろしくお願いします」
ぺこり、と頭を下げるエミリア。フラグラはそんな彼女の頭を優しく撫であげると白衣を脱いで帰り支度を始める。
レムが彼女を手伝いながら支度をすませると、一行は見送りするために玄関までついていった。
「それじゃ、そこの鬼娘の治療の口添えはあたしの方からもしておくよ。
……ただ優先治療とまでは行かないかもしれないねぇ、あの子も王選でごたごたしてるだろうから。すぐにとは行かないよ」
「えーぇ。心得ていますとも。幸いにも大人しくしている限りは命に別状はないですから。
その日が来るのを心待ちにさせて頂きましょう」
「「ありがとうございました先生」」
「先生ありがとう」「ありがとな、先生!」
そうして一同に見守られながら女医は竜車で来た道を戻っていく。
駕篭が完全に見えなくなるまで玄関に佇んでいた一行だが、ロズワールがふと顎に手を当てながらエミリアへと問いかけた。
「エミリア様。そーう言えばあの
その席にこそ居ませんがクルシュ殿も王都に居る事です、一度直にお話でもしてはどうでしょうか?」
「そう言えば……えぇ。ソレが良いかもしれないわね」
「ん? ん? 招待状、催し? 一体何の話だ?」
「……バルス、慎みなさい。使用人が主人の話に口を挟むなんて言語道断よ」
スバルが耳ざとく言葉に反応すれば、ラムがぴしゃりとソレを払いのける。
……が、主人である二人がちらりと目を合わせれば、示し合わせたかのように頷き、スバルに告げた。
「実はね、このお話スバルにも関係ないとは言えないの」
「さるお方から、キミにも是非ともこの催し……懇親会に参加して欲しいとの事だーよ」
「へ? 懇親会……何で俺!?」
「……」
何故この世界の懇親会で自分が名指しされるのか皆目分からず、挙動不審になるスバル。
一方で怪訝な目をしたのはカリオストロだ。スバルをわざわざ呼び立てる人物とは一体誰だ? いや、誰であろうとも少年を死に戻りさせる魔女という存在を鑑みると、碌でもないイベントが待っていると思わざるを得ない。屋敷での前例があるのであながち考えすぎとも言えないのだ。
「まじかよ、まさか森での戦いが知らず知らずのうちに知られた!?
多数の魔獣を退けた無名の新人、ナツキ・スバルを見初めた高名な騎士のスカウト!? はたまたとある貴族の令嬢からの誘い……とかか!? やっぱり隠し持った力を見抜いた人ってのは居るもんだな……だがしかし! 俺の心は既にエミリアたん一筋! 安心して欲しいエミリアたん。例え仕えろ言われても秒で断るのがこの俺だ!」
「姉様姉様、またスバル君が気…ハッスルしてます」
「レムレム、またバルスが気持ち悪い反応しているわね」
「スバルったら、本当調子がいいんだから」
すぐ隣で謎のポーズを取りながらいつものように面々に揶揄されるスバルに、カリオストロが参加を断らせようとした――その時、ロズワールが口を開いた。
「そこで良ければなんだけどねーぇ、カリオストロ君。キミも一緒に懇親会に出てみないかい?」
「……折角だが今回はスバル共々屋敷で――」
「実は鎧の魔物について、また追加で情報が手に入ったと言うのさ。
発見地点も、その懇親会が行われる場所から少し離れた場所。
先方もスバル君以外の身内の来場を許可しているし、キミの調査のためにもなるし……何よりスバル君も守れる、丁度いいと思わないかい?」
「――」
その全てが自分にしか聞こえない声量で伝えられる。どうやら断らせようとする事を悟っていたのかタイミング良く被せ、更に行かざるを得ない状況を作り上げたロズワールにカリオストロは重圧を伴う敵意と共に威圧的な目をぶつける。ぶつけられた側は涼しい表情でニコリと笑うだけで応えた様子はない。
ロズワールには自分らをどうしても行かせたい理由がある。
しかしてその理由が見えない以上断りたいのがやまやまだ。
だが、ソレ以上に
カリオストロはしばし視線を交えたまま数秒思考を巡らせ……その後重圧を解いた。
「……ヴァシュロンの件に、嘘はないだろうな?」
「本当ですとも。実はその件についての報告も、今回の懇親会を開いた方からの物でしてね」
「あ゛ぁ?」
スバルを指名した人物と自らが追い求める魔物の情報を知っている人物が同じ?
そんな偶然があってたまるかとカリオストロは吐き捨てたくなった。
真っ黒も真っ黒過ぎる状況、これはついていくとしても付かず離れずじゃないと不味いな、と苦虫を噛み潰したような顔で彼女は考えに没頭する。……その一方、隣ではスバルとエミリア達が懇親会の準備話で盛り上がっていた。
「――それでね、レム。スバルの懇親会用の服とか用意出来るかしら?」
「お任せ下さいエミリア様。スバル君、多分前測ったものと同じで大丈夫だと思いますけど、後で寸法を再度図らせてくださいね。タキシードを用意するので」
「おぉ、レム頼むぜ! しっかしタキシード……タキシードかぁ……。まさか初めて着るタキシードが異世界でだなんて、誰が想像出来たか……? そう言えば、俺ってテーブルマナーとか無いにも等しいな……何か今更ながら不安になってきたな!?」
「スバル君スバル君、大丈夫ですよ。テーブルマナーはレムが手取り足取り教えてあげます」
「お、おぉレム頼むぜ! あとは……あれだよな、そう言うパーティだったらダンスとかあるかもしんないよな。異世界で地味に必須になるダンススキルは残念ながら俺には……!」
「スバル君スバル君、大丈夫ですよ。ダンスもレムが手とり足取り教えてあげます」
「お、おぉぉレム近い!! 近いよ!? やや柔らかあったか!?」
「レム、恐らくダンスはないから暴走しないで帰ってきなさい」
頼られて嬉しく、更に頼って欲しいレムがスバルにくっつき、ラムはソレを諌め、スバルは赤面して離れようとする平和な一幕。そんな中ちらりちらりとエミリアはカリオストロに視線を送っていた。何かを期待するような、それでいて何かを言おうとして躊躇っているような素振りを込めて。カリオストロはしばらく、あえて視線を合わせる事を避けていたが……やがて観念したのか、頭を少し掻き、
「エミリア。……オレ様もその懇親会、ついていくからな」
「!! う、うん。勿論よカリオストロ!」
喜色満面とはまさにこの事だろうか。
満開の花のように嬉しさを全面に出したエミリアは、次いでレムへとカリオストロの服も用意するように言い含めるのだった。
「ところで、エミリアたん。
この俺をわざわざお呼び立てするお目が高い方って一体誰なんだ?」
「そいつはオレ様も気になる所だな。と言うか、懇親会ってのは一体どう言う事だ?」
「あ。ごめんなさい二人とも。でも安心して、ふたりとも知ってる人なのは違いないから。
……それと、懇親会っていうのは便宜上の話。本当はお披露目会みたいな感じみたいよ」
「……俺達が知ってる?」
「……お披露目会だぁ?」
二人の疑問を一身に受けながらも、エミリアは勿体ぶったかのようにふふんと胸を張り……そうして応えた。
「差し出し人はラインハルト。ラインハルト・ヴァン・アストレア。
お披露目会の内容はね、多分だけど……盗品蔵で出会ったフェルト、あの子の王選候補入りを参加者に知らしめる事だと思うわ」
《フラグラ》
フラグラ=クルエスティ。拙作オリジナルキャラクター。
医者のお婆ちゃんで当年取って75歳。
ルグニカ王国高位の治癒術士であり、ロズワールと永い交友を持つ存在。
人当たりは良いが言いたいことはビシバシと言うタイプ。目付きも鋭くて怖がる人も居るとか。
《マナ・オド・ゲート・魔法について》
・マナは大気中に存在する力の源。マナは体内に蓄積される事が可能。
・オドは体内に存在する魂の力。マナの代わりに消費して魔法を使う事はできるが、使う=魂を削ると一緒なのでやばい。
・ゲートは体内と体外を結ぶマナの通り道。
魔法は普通待機中のマナを集めて行使するものだが、ゲートが壊れてると必要十分量のマナを確保出来ず、魔法の行使が出来なくなったりする。
《ラムのマナの供給》
いつもはロズっちが直々に供給している。
そのやり方は膝上に載せて持たれかけさせて、折れた角の部分に指を這わせて、角からマナを供給するとか。ポルノい。
マナ供給はくすぐったいらしくて、ラムは蠱惑的な声が時々漏れたりするらしい。ポルノい。
《フェリックス・アーガイル》
後述するクルシュ・カルステンの一騎士。通称「フェリにゃん」。
水の加護によりどんな怪我でもたちどころに治すスーパー治癒術士。
猫耳猫尻尾持ちでいつも雰囲気朗らかでスキンシップ多めで可愛いって言う隙のない存在。でも男。クルシュを溺愛している。
《クルシュ・カルステン》
エミリアと同じ王戦候補の一人。
長い深緑の髪を持つ凛々しい女性。
真面目一辺倒で嘘をついても加護で見破ってくる。戦闘力も高い。