ご要望のスバカリだコラァ!
※※注意!!!!!!!!!!※※
著しくカリオストロのキャライメージが壊れるシーンがあります!!!!!!!
覚悟した上で読み進めてください。今回のお話は本編とは全く関係ありません。
「……ん、ぁ……?」
意識が浮上する。
視界に入るのは土色をした木目のある天井と、狭い部屋。
覚醒しきれない意識のまましばらく微睡んでいれば、自然と言葉が漏れ出した。
「知らない天井だ……」
ここはどこだろう? 俺は屋敷で過ごしていたのでは?
ぼーっとしながら、不規則に広がる天井の木目を眺めていると、部屋の扉越しにノックの音が聞こえてきた。
「おい……おい、起きてるのか?」
そして間髪入れず聞こえてくる声。……カリオストロの声だ。
無視をする選択肢はもとよりない。
ただ靄がかかった意識が邪魔となり、「うぇーい……」なんて気の抜けた返事しか出来ない。
扉向こうに居る彼女は返事が聞こえたのか聞こえてないのか、扉を開けて顔を覗かせて来た。
「……いつまで寝てやがるんだ」
「あー……昼とか」
「あ゛!?」
「ごめんなさい調子に乗りました! ……ってか今何時?」
「ったく……大よそ朝7時回った辺りだな」
「7時かー――――……やばぃっ!?」
一気に意識が覚めると同時に全身を冷たい汗が伝い出す。
朝7時!? それはまずい、既に朝食の準備の時間だ。
さっさと着替えて食堂に行ってレムとラムの手伝いをしないと、レムはいいがラムに死ぬほど冷たい目で見られる!
急いで布団を弾き飛ばして起き上がれば、箪笥に手を突っ込んで執事服を探し出す。
「あれ!? あれ!? ちょ、執事服どこいった!?」
慌てふためきながら箪笥をほじくり回すが、肝心の執事服は見つからない。
もうこの際ジャージでも着てさっさと土下座かますしか、と思っていた所で背中に軽い衝撃を受ける。どうやらカリオストロに叩かれたみたいだ。
「スバル、何寝ぼけてやがる」
「もうさっぱり覚醒したよ!? 執事に土曜も日曜もないんですよ奥さん!?」
「だーかーら、ソレが寝ぼけてるって言ってんだ。
――ここはもう屋敷じゃねえだろうが」
「えっ。…………あ」
カリオストロに指摘された内容の意味が分からなくて、動きが止まってしまう。
だが次いで言葉を反芻するうちに、その意味を理解し、そして腑に落ちた。
本当に一体何を勘違いしていたんだろうか。
俺は手に取っていた余所行きの服を取り出すのではなくしまい込んだ。
そう、俺たちは現在、屋敷には居ないのだ。
騒動の後、あくる日までは屋敷での労働に勤しんでいたのだがカリオストロが求めていた魔物を探し出すと言い出したので、二人で屋敷を出ていく事にしたのだった。
エミリアたんと離れることになったのは正直惜しい気持ちもあるが、それ以上にこの小さな錬金術師には世話になりっぱなしなのだ。ここらで一役買って、カリオストロに少しでも恩返ししようと思って一念発起をしたのだ。
旅立ちの日に、エミリアたんが涙をぽろぽろ流しながら引きとめまいと気丈に振舞う姿は、未だに忘れられない。
その後ロズワールから貰った少なくない軍資金を手に宿を取りながら転々と場所を移動する俺達。お金の節約の為に、時に労働や依頼に勤しみ、ひたすら魔物を追い求め――早三年が経過していた。
今、俺たちはとある街のはずれにある、小さな空家に二人で住んでいる。
旅の途中で何でも屋家業を続けていたら意外にも好評だったため、そこで居を構えて、依頼を受けれるようにしたのだ。魔物も闇雲に旅して探すのではなく、情報を呼び込もうと俺から提案した結果でもあるんだが。
そんな内容を思い出せば「ようやく思い出したのかよ」と言いたげな顔で、唯一無二の相棒が鼻を鳴らした。
「はぁ、それよりもだ。ちょっと手伝えよ」
「ん? こんな朝から依頼とかあったっけ」
「依頼は昼からだ。手伝えってのは……分かるだろ」
「……あー」
今まで気付かなかったが、カリオストロの姿を見てぴんと来た。
今のカリオストロは自身の金髪を後ろで纏め、服は余所行きではないラフなカットソーと膝丈までのスカートを身につけ、そしてその上からエプロンを纏っていた。
その格好を眺めていると、カリオストロは何も言わずにぷい、と体を背けて部屋を出ていってしまう。
どうやらいつもの『アレ』をして欲しいらしい。
俺はさっさと行ってやらないと機嫌を損ねるなと、いつものジャージに着替えるのだった。
自分の部屋から出て、そこそこ掃除された廊下を通って居間まで行けば、システムキッチン……いや、家そのものが小さい為に、居間とキッチンが合体した間取りが見える。
そのキッチンの前に立つのは当然ながらカリオストロである。
彼女は腕を組みながらこちらを待っていた。
「遅いぞ」
「悪い悪い、箪笥の中引っ掻き回しちまったから着替えにも手間取って」
「ふん、朝っぱらから馬鹿やってんじゃねえよ」
再度ぷい、と背を背けてキッチンに向かうカリオストロ。
態度こそ悪いが、今の彼女は特に機嫌が悪いという訳ではないのは俺は知っている。
これは恥ずかしい時のカリオストロの反応なのだ。
彼女は台所床に無造作に置かれている、少し作りの悪そうな台に乗るとちらりとこちらを向いてきた。なので、俺は彼女に応えるように
「んっ……」
「それで? 今日の朝食は何作るんだ?」
「サンドイッチ」
「おっけー。具材は昨日の依頼報酬で貰った鶏肉だな?」
「もう茹でてあるから後は切って挟むだけだ」
「おーらい、楽しみに待ってるぜ」
俺がわざわざカリオストロに抱きついてるのは、別に朝セクハラがしたい訳じゃあない。
あくまでカリオストロが台から落ちないように支える為である。
この手伝いの経緯はこの家を借りたときに彼女は身長が低いためキッチン用の台が居るな。という話から発展した物だ。
正直家事全般は俺がやるつもりだったんだが、「オレ様も料理くらい作れるわ」という主張から、交代制で料理を作ることになり、また、お金を無駄にしたくないために俺自慢のDIYスキルで、少しみすぼらしいが専用の台を作った。……「台もオレ様がつくりゃ一発だったのに」と突っ込まれ、しまったと嘆いた物だったが、何だかんだでカリオストロは俺の作った台を使ってくれている。優しい。
そうしてこうして1年くらいその台を使い続けている内に、壊れてしまった事があった。
最初は修理しようと思っていたのだが、そこで俺が冗談交じりに後ろから支えれば修理要らずじゃね?と抱きしめたら、本人が気に入ってしまった……という訳だ。
ちなみにだが、この台とは別にもう一つ、カリオストロが作った立派な台がある。
彼女は普段そっちの台を使って料理をしているが、機嫌が良いときや甘えたい時はいつも朝に手伝えと言って、俺の台を使って支えて貰う。そのせいか、俺の台は未だに修理すらしていなくて壊れたまんまだ。
「それで、今日は何の依頼だったっけ」
「三軒隣のダーントっていう男性が、猫を探してるんだとよ」
「あー猫探しか」
「またスバルに走り回って貰うからな? ま、覚悟しておけよ」
「うげ。……失せ物を探す魔法とかないのかよカリオストロ先生」
「そんなのあったら今頃ヴァシュロンだって見つかっとるわ」
「ごもっとも」
カリオストロの言う手伝いは、料理の手伝いというよりかは彼女を支える事と、ひたすら彼女を構い続ける事だ。
頭を撫でたり体を密着させたりする事も手伝いの範疇にはなるが、いやらしい手つきは厳禁だ。前やったら股間を蹴られて朝飯抜きになった。解せねえ。
「あ。マヨネーズ! マヨネーズは忘れてねえよな!?」
「うぜえ。頭を顎でぐりぐりすんな。ちゃんと用意してあるぞ、ほら」
「サンキュー、やっぱマヨがないと始まらないんだよな~。
カリオストロ、愛してるぜ!」
「っ!? ……ふ、ふん。まあ精々オレ様に感謝しろよな」
今の自分からじゃ顔は見えないが、耳が赤い事から今の台詞が結構キたみたいだ。
更に嬉しさを表してるのか、体から力を抜いてこちらに持たれかかってくる、さりげなく見せる信頼に俺もついつい顔をニヤけさせるしかなかった。
さて。朝のイチャイチャ料理が終われば実食となる。
手作りのサンドイッチを皿に盛り付ければ小さな机に載せ。二人で向かい合うような形で食事に勤しむ。
……え? 実食もイチャイチャしないのかって? ところがどっこい、しないのである。
カリオストロは物事を明確にしたがり、言うべきことは物怖じせずに言うし、切り捨てる程の理論屋だが、事が色恋になれば結構な恥ずかしがり屋なのだ。表立って甘えてくる事は滅多にない。
だからそもそも外でイチャつくなんてまず無いし、家の中でイチャつくのも何かしらの理由がないとしてこない。つまり、台の話はカリオストロにとって丁度いい甘える口実になるのだ。
――こう云う"いじらしさ"が、正直堪らない。今すぐに抱きしめたくなる。
こんな関係になってから初めて知った彼女の一面だが、もっとおおっぴらに甘えて来てもいいのにといつも思う。まあ彼女のプライドがソレを許さないのも分かるけどな。
だからその分は俺の方からと、いつも甘えているのだが。
「美味い!」
「当たり前だ。このオレ様が作ったんだからな」
事実、美味しい。
錬金術を生業にしているせいかは分からないが、カリオストロの料理の手際はレムの水準一歩手前まで来ている。
そして俺はカリオストロが作ってくれた時は欠かさずに毎日美味いと言っている。
正直言う今更必要もない程言ってきたし、向こうも聞き飽きたかもしれないが、欠かさない。何故ならそうするとカリオストロはいつもの尊大な台詞を吐きながら笑ってくれるからだ。
それはもう朗らかに、嬉しそうに。幸せそうに。
もう見ただけでお腹いっぱいになるレベルの笑顔を見せてくれるのだ。
「やべえ、毎日サンドイッチ主食にしていいレベルで美味い。
鶏マヨってやっぱり正義だ……ちょっぴり辛子っぽい味も入ってんのがいいな!」
「食いながら口を開くな。わかったから味わって食え」
そう言いながら気分良さそうに鼻を鳴らすカリオストロ。麗し可愛い。
だがソレだけじゃ物足りないので、俺は調子に乗って馬鹿な要求をしてみる事にした。
「後ついでに言えばあーんしてくれるともっと美味しい」
「阿呆か」
即答かよ。もう一度だ。
「後ついでに言えばあーんしてくれるともっと美味しい」
「だからなんだよ、やらねえよ」
二回目の攻撃も通用していない。もう一度だ。
「あーん」
「やらねえっつってんだろうが!」
本丸は硬いな。もう一度。
「あーん」
「……っ!」
怒ったか? いやまだいける。もう一度だ。
「あーん」
「……(←顔を真っ赤にしながら葛藤中)」
敵は陥落寸前なり。
ここで押しても堕ちるかもしれないが、念のため引いて反応を伺うべしだな。
「ちぇっ、残念だなー。まぁ今日の所はカリオストロの激うまサンドイッチを一人で」
「……~~~~っ! ……くそっ。お、おいスバル……」
「ん?」
「…………く、…………口、開けろよ」
ちょろい。
そうして幸せを朝から噛み締めた後はお仕事の時間になる。
さっきも言ったが俺達の仕事は何でも屋だ。依頼の内容はその名に恥じない雑多っぷりを誇る。
猫や人探しもあれば、配達もある。掃除依頼なんてのもあったし、揉め事も仲裁もあった。時には暗殺阻止なんてのも舞い込むことだってあった。
当然依頼内容に隔たりがあれば報酬にも隔たりが出てきて生活なんて安定しないのでは、と思うかもしれない。だがコレでいて結構安定している。
その理由はオレ達の依頼成功率がほぼ100%だからだ。
必ずやり遂げるその有用性をひたすらアピールしていったお陰か、今やこの街で俺達の名前を知らないっていう人物は少ないほど名前も売れており、依頼も毎日舞い込んでくる程になった。……まあ主に名前が売れてるのはカリオストロだ。仕事における依頼成功率の由来が彼女の力に起因しているから当然かもしれない。いや、錬金術マジ応用性が半端ないって言っていいほど便利過ぎて困る。困らない。
今日の依頼も街中を探し回った挙句達成する事は出来たが、結局解決したのはカリオストロの力だった。駆けずり回って追いかけ回した俺の労力はほぼほぼ意味がなかったと言っていいかもしれない。
「は~~、無事に解決出来てよかった~~……」
「スバルお疲れ様~☆」
依頼を終えて再度家に戻ってきた俺達。
俺はへとへとになった体をスプリングの軋むソファに投げ出して、一息ついた。
「まさか風呂場の中に紛れ込んでたなんて思ってもいなかったぜ……」
「女風呂に喜々として入ってった時は●してやろうかと思ったけど、まさかあんな場所をたまり場にしてたなんてね~☆」
「え、今日俺さりげなく死にかけてた? ねえ?」
疲労感が全身を襲う中、ぴとりと冷たい物が頬に当てられたので見ると、陶器製のコップに入れられた水だった。俺はサンキューと仰向けになってから受け取り、飲んでいく。
「っぷはぁ! しっかし、相も変わらず役に立てたか立ててないのか……。
今日の所もほぼカリオストロ無双だったなー……」
「ふふーん☆ カリオストロの偉大さ、身に沁みてるでしょ?」
「いや、マジで身に沁みてます。
これじゃいつになったらカリオストロの恩に報いられるのか」
「あん? ……何だ、そんな事考えてんのかよ。なら気にすんなよ」
「いや気にするって。さんざっぱら今まで助けられて来たんだから――せめてもの少しぐらいはなー。正直、俺抜きでも仕事回せそうだったし、こんなんじゃ着いてきた意味gげぶっふ!?
げほっ、けほっ……あ、あの~……カリオストロ様。
何故に貴方様はわたしめのお腹に乗って――――…………ぅん!?」
「……」
勢い良く俺のお腹に馬乗りになったカリオストロ。
今その顔を見たのだが、これは怒ってる。間違いなく怒っている顔だ。
頬がぷっくら膨らんでいたりはしないが、眉を顰めて怒りの眼差しでこちらを睨みつけている。マジ怒りのパターンだ。
だが怒りの原因が掴めない、俺は何か不味いことを言ったか!?
「……え、えーっと「おい、スバル」は。はい!!」
「じゃあお前はただ恩や義理で、オレ様に着いてきたって――そう言いたい訳か?」
「……」
「恩や義理を返したら、それで終わり。オレ達はそんな関係だって言いたいのか?」
「……」
真剣な表情でこっちの目を見つめるカリオストロに、俺はようやく自分の発言を迂闊さを悟った。
……一体何を言ってるんだ、馬鹿か俺は。
確かに最初は恩や義理だったかもしれない、だけど今はそれだけじゃない筈だろう。
もう今の偽れない程心酔してると、俺はきちんと言葉に出したじゃないか。
「……悪かったカリオストロ。恩や義理なんて関係ないよな俺達は。
既に持ちつ持たれつの一蓮托生なんだから。
迷惑かけるの当たり前。貸し借りなしのツーカー関係だ」
「そうだ。忘れてんじゃねーぞ馬鹿」
「本当にすまん。ついつい役に立とう、立とうと思ったら焦っちゃってさ。
彼女を不安にさせるなんて、彼氏失格だ」
「ばっ!? お、お前彼女とかそんな……んぅっ」
跨った彼女の背に手を回し強めに胸に抱き寄せると、彼女は幼い猫のような甘い吃音を漏らす。
並大抵の魔獣など相手にすらならない程強い彼女だが、その体はこんなにも華奢なんだな改めて思いながら、俺は優しく頭を撫であげた。対してカリオストロは文句は言わず、ただ俺の体の上で大人しく、成されるがままになっていた。
「……第一な、オレ様はお前の事を……ん……役立たずだなんて思った事なんてねえよ」
「……本当か?」
「嘘じゃ、ねえ……ちゃんと、オレ様の為に真剣に行動してくれてんのは分かるからな……ただ、その行動が結果に結びついてないだけだ……」
「結びついてたら、完璧なんだろうがな……」
「焦るんじゃねえよ……オレ様が常に活躍するのは……それはオレ様が天才だからだ。凡人はな……至らないことを自覚して、ただただ積み重ねるしかねえんだ……ん、ふ」
頭の感触に目元を蕩けさせながら、か細く、今にも溶けてしまいそうな声で俺を励ます姿は、あまりにも愛しく。
髪を撫でる手を自然と頬に移し、その張りある肌を撫でても手を振りほどく事はなく。逆に自分から擦りつけて来る程で……もう我慢は出来なかった。
気付けばお互いの位置を反転させていた。
それでも彼女は何ら抵抗することはない。
ソファの上には彼女の金糸のような髪が散らばっており、
潤んだ瞳と紅潮した頬で、俺を見つめ返していた。
「……出来ない分は、オレ様が支えてやる。
だから、もっとオレ様に寄りかかれよ……スバル……」
そしてゆっくりと両手を広げるカリオストロに、俺は静かに覆いかぶさり――
「……うへ、うえへへへへへへ……」
「……」
「姉様? スバル君はもう起きて――!? あの、姉様。なんで目を隠すのですか?」
「見ちゃ駄目よレム。穢れるわ」
「またスバル君が呪われたんですか!?」
「違うわ、獣に襲われたんじゃなくて、獣になったのよ。
布団越しに分かるほど――本当、汚らわしいわ」
「???」
「良いから行きましょう、あんなの起こしたくはないわ」
その日から数日間、ラムの見る目が氷点下の物へと代わり。
そして、スバルは何故あんな夢を見たのかと苦悶しながら、カリオストロを見るたび顔を赤くする事になったとか。
どっとはらい。
……まあ、グラカリ小説なんで夢落ちなんですけどね!
甘々な文章書いたの初めてだけど、
書いて思ったのはただ一つ。スバルがキモい。
《マヨネーズ》
『異世界にないもの第一位』
『異世界で作られるもの第一位』を誇る大人気調味料。
原作リゼロでもスバルによって再現されている。
ちなみにスバルの家族は一家揃ってマヨラーらしい。