そんな記念すべき今回の戦闘編、長さ的に前中後で分ける羽目になりました。やだ……戦闘シーン詰め込み過ぎ……?
ちなみにスペシャルゲストがいらっしゃってます。
果たしてどんなゲストなのかは本編をお楽しみに!
入り組んだ森を跳ねるようにして疾走する。
忌々しくも自己主張するようにのたくる根や、大小さまざまな石などが地の上で至る所に四散しているため避ける必要があり、どうしても平地よりも移動速度が落ちてしまう。
そんな自分に追い縋ろうとするのは三頭のウルガルムだ。
奴らは悪路など存在しないとでも言わんばかりに難なく横を並走し、粗い息遣いと獣臭を漂わせながらこちらを威嚇してくる。
私が森に入ってまだ1時間も経っていないというのに、温存を心がけていた体力は魔獣との連戦で既に切れかけていた。身体が休息を求めて全身に痛みを発しているが、休んだ時が自分の最後だろう。寒気のする予想を考えながら気力を振り絞って、私は駆ける。駈ける。翔る。
そんな中、焦れた一頭の魔獣が自分の後ろに周り、距離を詰めてきたのを感じた。
そいつは自分の背後を陣取りながら、息を潜め始めたのが分かった。
大方不意打ちでこちらへ体当たりを仕掛け、隙を作り出そうとしているのだろう。
――しかし、それは悪手だ。
背後からなら意表をつけると思ったのか?
自分が今どれだけ怒りに打ち震え、どれだけ集中しているのかが分からないのか?
愚かにも奴が私の予想通りに跳躍して、彼我の距離を一気に詰めてくるのを感じた。
背後の様子を見ずとも察知出来るほどに鋭敏化した感覚でそれを理解すれば、ほぼ同時にその場で前方に跳躍する。瞬間的に時の流れが緩慢になり、跳躍の勢いのまま空中で縦に回れば、反転した世界の中で自分に牙を向ける汚らしい魔獣の全貌が見えた。
視界にはその愚者が大きな口を開けている姿があったが、
向けた掌は即座に光り輝き、そして――
「ガァッ!?」
ギロチンにも等しい切れ味を誇る、私の風魔法が愚かな魔獣を口元から真っ二つに頭を切り裂き、私が再度地面に降り立って駆け出した瞬間、後ろから醜くもくぐもった転倒音が耳に届いたのが分かった。
これでまた一匹。
今まで仕留めたのを合わせれば、合計7匹程度。コレは平時よりもハイペースなのに違いないが、森に潜む魔獣――それが何匹居るかは分からないが――恐らくは全体数の幾ばくかしか倒せていないだろう。これでは明らかに足りない。……だと言うのに、自分の身体は既に苦痛のサインを出している。それが情けなくて仕方がない。
「ふッ……ふッ……ふッ……!」
自然と漏れてしまう、空気を求める吐息。
忌々しくも震えてしまう足。
全身に灯された熱に反応し、止まることのない汗。
脳に発せられるのは痛みと、休息を欲するサイン。
だが、まだ終わらない。終われないのだ。
自分がやらねば誰が妹を救うのだ。
自らを叱咤激励しながら先へと向かえば、鬱蒼と生えた木々の奥から明かりが見える。どうやらようやくこの狭苦しい場所から出れるらしい。
私は早く辿り着けと言わんばかりにぐんぐんと両足に力を送り、先へと進む。
木々が過ぎ去り、枝葉を手で払い、最終的に視界が一気に開けたと思えば――その先に見えたのは広大な空。
そして大森林を一望出来る、小さな崖だった。
「ッ!?」
両足で土を踏みしめ全身で急制動を駆ければ、崖から残り数十cmくらいで何とか動きを止める事が出来た。が、間が悪い事に追随して来た魔物のうち一匹が、動きを止めた私に向けて飛びかかって来ていたのに直ぐ様気づいた。
「っ、る、ああぁぁああ――――ッ!!」
「キャウンッ!?」
その場で跳んで、身体を捻りながら片足を背後へ翻す。
自分の右足はしなるように放たれた回し蹴りとなり、かろうじて魔獣の顔へと吸い込まれ、そいつは蹴られた勢いのまま崖下へと落ちていった。
その直後、何とかその場で姿勢を整える事が出来たが、非常に綱渡りな一瞬だった。
一歩間違えていれば、私もきっとあの犬と同じ末路を辿っていた事だろう。
内心の恐怖を押し隠しながら崖を背後に前を見やると、そこに居たのは二匹の魔獣。……いや、遅れてもう一匹が到着してきた。先程まで確認していたのは三匹、そのうち倒したの二匹だった筈だが、途中でまた合流してきたらしい。倒しても倒しても減ることのない、鼠のように忌々しい存在だ。私は苛立ちまじりに睨みつけると、向こうは唸り声をこちらに浴びせて来た。
「はっ! 同族が大量にやられてご立腹なのかしら。
"ツノなし"にここまでやられるなんて予想できなかった? 犬畜生は群れる事は出来ても、やっぱりおつむの方は足りないわね。
自らの出来の悪さを自覚して、さっさと自害してくれないかしら」
「グルルルルル……!!」
通じるわけはないと知ってるのに、自然と口から漏れた悪口雑言。
犬達はその言葉は理解出来ないだろうが、抵抗を繰り返す獲物に対して怒りが強いのだろう。
今まで以上の敵意、いや、殺意を見せ付けながら一歩、また一歩と自分へと距離を詰めて来る。
背後は崖。前方はウルガルム。万事休すか。
……いや、こんなところで諦めれるほど、妹の命は安くはない。
決めただろう。自分の命に代えても妹を救って見せると。
ならばここで終わってやれない。やられてたまるか。
負けじと殺意を視線に載せて逆に距離を詰めていく。
彼我の距離は既に5mを切っている。もうお互いの攻撃範囲だ。
なけなしのマナを振り絞り、自身の身体から風を放出。両の掌も風を溜め込み、いつでも放出出来るように準備を整える。
「さぁ――来るなら来なさいッ!」
息巻く私が啖呵を切って、まさに戦闘を開始しようとした矢先――ありえぬ事が起こった。
犬達が目の前の敵を放って一斉に森へと振り返ったのだ。
その反応に拍子抜けして、つい攻撃の手が止まってしまう。
自分をここまで追い詰めておいて何故よそ見をする?
思考とともに止まった間の後、犬達はとうとう体ごと向き直り、私から興味をなくしたかのように森の中へと戻ってしまった。
「……一体、何が起こっているの?」
最早唖然とする他ない。自分を始末するよりも優先すべき事が出来たのは間違いないが、一体この森で何が起ころうとしているのか。腕を下ろし、警戒を解いて思考に身を委ねていると……次の瞬間、足元が小さく揺れたのが分かった。
(地響き……? しかも小刻みに……)
頭上を舞うのは何かから逃げるように、大量に飛び立った鳥達。
それを見て震源地はここからそう遠くはない事を悟る。
……何が起こっているのかを見極めねばならない。
息継ぎを一つすると、私は再度森の中へと自らを投じて行った。
§ § §
戦端が開かれたと同時に、エミリアとパックのコンビが放つ殺意に溢れた大量の氷柱が、飛び出してきたウルガルムに容赦なく降り注いだ。
氷柱は抵抗なく魔獣達の体を貫き、一息に絶命する者や、木々や地面に縫い付けられた後、抵抗空しくその冷気に取り込まれて氷像となってしまう者も居た。
その死の雨を運よく避けた犬達は当然ながら術者のエミリアに向かっていく。が――
「たりゃ!」
可愛らしい声と共に彼女の徒手が袈裟に振るう動きを見せれば、魔獣は両断されてしまう。
――いや、徒手ではない。その手にはマナで生成した透き通る氷の剣が握られていた。
だがその同族の死を無駄にしまいと横合いからもう一匹のウルガルムが急速に近寄り、彼女の柔肌へ牙を突きたてようとする。
「はい、ざーんねん」
しかし、彼女の親を自称するパックはソレを許さない。
唐突に地面から鋭い三振りの氷の槍が勢いよく生えれば、避けることも出来ずに魔獣の腹部を貫通。標本のように空中で縫い止められてしまい、苦悶の声を漏らしたウルガルムは直後に追撃の氷の槌がその頭部を粉砕し、命を絶った。
お互いの死角を埋めるコンビネーションに、無尽蔵とも思える火力。
精霊使いの圧倒的な強さを、一人と一匹は魔獣相手にまざまざと見せ付けていた。
「うちの子を嫁入り前にキズモノにさせる訳には行かないからね。
……と言ってもそもそも嫁にあげるつもりがにゃいんだけど」
「? ありがとうパック」
短い会話の応酬の後、攻撃を再開し、その強さを見せ付ける。
ニ対の固定砲台となった二人は鋭い氷の礫を容赦なく犬達へと降り注いでいく。
打ちもらした存在へは氷の剣が、槍が、斧が、槌が、鞭が、ありとあらゆる模造された武器達が獣へと振るわれ、その度に小さな氷の欠片が宙を舞う。
一帯に散らばった欠片は日の光を反射し、きらきらと輝く小規模なダイヤモンドダストとなり、幻想的な光景を見せていた。
「レムの為にも。ラムの為にも。村人の為にもスバルの為にもカリオストロの為にも。……ううん、ひいては国の為にも私はやり遂げて見せるわ。
覚悟してかかってきなさい。今日の私はすごーく、頑張り屋さんなんだから!」
「その意気だよリア。という事で有象無象のキミ達はここで氷像になって欲しいね!」
エミリアの気力とテンションはいつに増しても高く、
二人の息のあった氷雪の嵐は、魔獣達を包み込んで行く――
――その一方、カリオストロも眼前の敵へと無慈悲な攻撃を行っていた。
「――――」
カリオストロは、石の槍を無尽蔵に生成し、時に石壁で叩き潰し、時に凄まじい速度で吹き飛ばし、時に体の半分をそもそも存在しなかったかのように消し去る。
一人と二頭が起こすのは死の暴風。犬達の物量すらも問題にならない凶悪な攻撃の数々。
射程圏内に入る、即ち死。と言う現状。これでは魔獣達も近付くどころの話ではない。
抵抗すら出来ずに死ぬのだ。これを"戦闘"と称するのは相応しくない、最早"粛清"である。
カリオストロの前には瞬く間に死骸と血潮の海が出来上がった。
その屍の山から漂う臭気に眉を顰めた彼女がぱちんと指を鳴らせば、瞬く間に死骸と血潮が分解されてしまい、それらを造作もなくこの世から消し去ってしまう。
「おいおいどーした、もうおしまいかよ?
お前らの事はちょっとは警戒してやったんだ、もう少し本気を出していいんだぜ?」
その力、まさしく圧倒的。
犬達もその実力差を否応なく分からされてしまったのか、戦意こそ消えていないが森の木陰から出てこようとせず、ただ唸り声だけをあげて威嚇するだけになってしまっていた。
二対の竜を傍らに侍らせながら、カリオストロはその中央でつまらなそうな目で獣達を見る。
だがソレも無理はない事だろう。
カリオストロは自身が従える二対の竜に「ウロボロス」と名づけている。
その名前に込められた意味合いは「破壊、創造、永遠」。
その系統こそ彼女の得意分野であり、それに誰よりも精通した彼女の敵となるには、目の前の存在では余りにも力不足だった。
「敵は勝手に寄ってきて、闇雲に動く事なくその場で防衛。
守るキングも1人だけになり、援軍も居るし保険もある。
そして相手は雑魚ばかり――まあ悪くはない、悪くはないな」
1人スバルの作戦についてごちるカリオストロ。
考え込むカリオストロを見てチャンスと思ったのだろうか、意表を突く為に木に登っていた一体のウルガルムが、枝から跳躍。空から奇襲をかけようとするが、
「――ギャイッ!?」
彼女を守る朱のウロボロスの尻尾が瞬時に閃き、愚かな魔獣の体を空中で串刺しに見舞う。
そしてその後、勢いのまま尻尾ごと地面に叩きつけた。
魔獣は小さなクレーターが出来るほど叩きつけられ、口から止め処なく血を流して痙攣しており、どう見ても既に事切れる寸前。だがその直後、カリオストロが一瞥することなく片手を向けて首から上を消し飛ばしてしまった。
「さて、後は魔獣遣いの策次第だな。用心しておくか」
作業染みた虐殺劇、だがカリオストロに油断も容赦もなく。
彼女は冷静に、慎重に、実験を見守るかのように犬達を処分していった。
最後に、ウルガルム達がこぞって殺しにくるほど臭いが素敵な男、スバルはというと――
「……」
特にする事がなく、所在なさげにその場で突っ立っていた。
一応ポーズで剣こそ掲げているものの、振るう間もなくエミリア、パック、カリオストロ、ウロボロス達が瞬く間に犬達を片付けてしまうので、その剣は一度も血に濡れたりはしていない。そもそも本人は剣自体まともに振るった事もなく、振れと言われても上手く出来る自信はないようだが――
(普通、こういうのって男が命がけで戦って、女が後ろで守られるってのがセオリーじゃね……?)
しかし現実はその逆。
スバルは美少女二人に守られ、ただ固唾を呑んで見守るしかない状態。
しかも二人とも自分が予想していたよりも遥かに強いし、容赦がないし。逞しい。
エミリアは飛び道具一辺倒ではなく、近距離戦もお手の物。パックの援護もあってバランスがよく、目の前に次々と出きあがる犬の氷像や、日の光を反射する氷片も相まって美しさを感じる程だ。
カリオストロこそ飛び道具に頼っているが、サポートキャラのウロボロスも本人の魔法も全てオーバーキル気味の威力を誇り、淡々と攻撃して淡々と始末して、目の前に肉片や死骸を大量生成する様子は思わずドン引いてしまいそうになる。
そして当の自分は囮という大事な仕事こそあるが、その現状はただ棒立ちで待機するだけ。
安全安心何よりだが、このまま二人に任せっきりで勝利した時――いや、勝利そのものはうれしいのだが――その時、何してたかと問われたら「二人に守られながら突っ立ってました!」としか言えない事に、スバルは男としての危機を感じていた。
そもそもは自分でそのような作戦提案したのが原因なのは分かっているが、自らのちっぽけな男の沽券がストップ安に差し掛かるのは如何ともしがたい。
手持ち無沙汰にも程がある現状、何かしら二人の役に立ちたいという思いだけが募り、自らが活躍できる場所をちらりと二人を見て探す――が、
「やっ! はっ! ――やぁっ!」
「んーリア、あんまり大きなモノ撃つと視界遮っちゃうから小さいモノを的確にね」
「ん! こう言う感じかしら?」
「上出来! 流石はボクの娘だね!」
「オラオラ、何遠慮してやがるんだ!
折角オレ様が力の一端を見せてやろうっていうのに遠慮してんじゃねえよ!」
「――」「――」
「……」
見渡せども、サポート出来る隙間があるとは到底思えなかった。
逆に足手まといになって邪魔する未来しか見えず、スバルはその場で静かに項垂れた。
「はぁー……異世界転生特典が戦闘系だったらってつくづく思うぜ」
剣を地面に突き立て、柄に腕を乗せるようにして脱力するスバル。
だがそんな彼が項垂れたまま地面を見れば、ある事に気付いてしまう。
何故か、自身の真下が淡い光を放っているのだ。
「……? おーいカリオストロ! 何か俺達がいる地面が心なしか光ってるぞ!
これってカリオストロの全体バフとかそういうアレか!?
――っておわ、何かどんどん光強くなっていくぞ!?」
「あ゛!? なにが光ってるって……? ッ!!」
「へ?」
カリオストロが一瞬振り返った直後、彼女は顔の血相を変える。
と、同時にスバルの体にウロボロスの尻尾が優しくお腹に添えられれば――
「お、ああああああぁあああぁぁぁぁぁぁ――――っっ!!!? へぶぅっ!!」
そのまま尻尾に強く押し出され、スバルは森の片隅、エミリアの近くに
そしてタッチの差でスバルが立つ地面が急速に地割れ、岩石の壁がせり出すようにしてその場に突き立った。
どうやら不利を悟った魔獣遣いは分断策を取ったらしい。
カリオストロは自身らの中心に立つ、明らかな弱者であるスバルを狙った攻撃から咄嗟に守るため、"優しく"彼を吹き飛ばし、結果としてソレに成功はした。だが目の前に聳え立つ高さ3m程、横幅はめいっぱいある壁によってエミリア、スバルとカリオストロとで分断されることとなってしまった。
「はっ! どーやら首謀者はこの近くに居やがるようだな!
――おいエミリア、スバル! 平気か!?」
「てめぇカリオストロ! ぺっぺっ! いきなり、うぇっ、吹き飛ばすな!
お陰で体中土だらけで…口の中も……おわぁっ!?」
「こっちは平気よ! スバルも無事!」
「敵に魔術師でも居るのかな?
ほらスバル、取り合えずそこにいると危ないからこっち来なよ。当たっちゃうよ?」
「だあぁぁ!? あぶねっ、危ないからスレスレだから誤射寸前だから!?」
見ることこそ出来ないが、壁の向こうで行われているであろう光景は容易く想起出来た。心配こそないだろうが、この壁は無くしてしまった方がいいと考えてカリオストロが手を翳した直後――
「っ」
巨大な影が自分を覆ったと思えば、自身めがけて巨大な爪を振りかざす獣が襲い掛かって来ていた。
それは警戒をしていたウロボロスの反応を掻い潜っての一撃。
――間一髪、彼女の眼前で蒼竜の尻尾が甲高い音を立てながらもそれを防ぎ、一方の朱竜はその狼藉者へと追撃をしかける。だがソイツは巨体に反して素早い動きで巧みに躱して、再度踊るように森の中へと消えていってしまった。
一瞬だけ目視できた敵は、ウルガルムより遥かに巨大な獅子に似た姿をしており、その癖動きは俊敏で、ウロボロスの反応が一瞬遅れる程気配を消すことに長けている。戦場から気が逸れたところを見計らって、ここぞというところを狙ってくる辺りは狡猾で、さながら暗殺者のようだ、とカリオストロは思った。
今までの雑魚とは違う毛色の違う敵。
彼女は獰猛な笑みを見せて注意を喚起した。
「おい二人とも、ちょっと厄介そうな奴がきやがったぞ、気をつけろ!」
「うわっ、ちょ、おぉぉ! 今それどころじゃないってのに、更にか!?」
「ウルガルムじゃない大型の魔獣だ! こそこそ隠れて不意打ちするのが得意みたいなようだ!」
壁越しの会話をしていると、呼吸の間をぬって横合いから滑るように先程の獣があらわれ、またもカリオストロを巨大な爪で切り裂こうとする。
しかし更なる警戒を露にしたカリオストロに、不意打ちは通じない。
過剰な程の魔力を盾とした朱竜が一撃を弾き返し、蒼竜とカリオストロが同時に攻撃を放つ。
複数の鋭利な石の槍と、尻尾による凶悪な横薙ぎ。さしもの魔獣もこの一撃で終わりと考えられたが、相手は弾き返された勢いを利用して、ひらりと宙帰り。その巨体から考えられないほど軽々とした跳躍で作られた岩壁に横合いから着地。反撃を躱してしまう。
しかも、驚くべきことに返す刀で自らの長くしなやかな尾を閃かせ、切り裂こうとしてきたではないか。
「くッ!」
咄嗟に反応して障壁で防いだが、その時には魔獣はまたも彼女の攻撃圏内から逃れて、森へと消えてしまう。
……一瞬ではあったが今度こそはっきりその姿を見る事が出来た。それはまるで向こうの世界でも見た「キメラ」のような魔物だった。
獅子の顔に、胴体は馬か山羊のような細くしなやかなシルエット。
四足の両手両足は筋肉で覆われ、その爪は鋭利。
長い尾はさながら蛇のよう。
だが大きな図体に反してその素早さ、反射力、そして機転の良さは非常に厄介。
評するならば、この世界で出会った
(だけどまあ、
あちらの世界で彼女はこのような敵を何度も相手にしてきたのだ。
手段さえ選ばなければ、自らの蓄積した知識さえあれば勝ち筋などトランプが出来るほど存在すると彼女は自負していた。
故に勝つのは最低条件。
ここで求められるのは「誰もが傷つかず、そして自身に最も利となる」勝ち方だ。
カリオストロはその頭脳をフル回転させつつ、時折襲いくる「キメラ」の攻撃を払いのけ、戦闘を続けていくのだった。
(答え:GRTRU)