RE:世界一可愛い美少女錬金術師☆   作:月兎耳のべる

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2022/04/11
文体、表現修正。


第ニ話 白銀の少女との出逢い

 混乱と不快感に支配された頭を振って、深呼吸をひとつ。

 和らいだのを見計らって立ち上がったカリオストロは、脳内で状況を整理し始めた。

 

 誰しもが夢を見る「世界の歩みを巻き戻す」という力。

 カリオストロも一度はその事について思考、研究した事があった。だが時間を巻き戻す範囲、力の源、巻き戻した後の問題点と何一つとして解決策が見出せず、研究はすぐさま暗礁に乗り上げる事になった覚えがある。

 

 しかしカリオストロは完成系に出会ってしまった。

 ありえないと笑って切り捨てた逆行を、実際に体験してしまった。

 

 体験して感じたのは2つ。

 

 是が非でもこの力を突き止めたい、という真理を追究する者としての好奇心と。

 

 そして二度とこの力を使わせてたまるかという、激しい怒りだった。

 

 巻き戻しの犯人が何の目的で逆行したのかは分からないが、自分の意思だけ除いて世界が巻き戻る感覚は筆舌に尽くしがたい。咀嚼したものが口内で再形成される感覚、流した汗が体内に戻る感覚、それこそ全身から感じる逆行が、神経を悪戯に刺激し眩暈や吐き気を催し続ける。

 目の前で平然と歩く町の人々からはそのような素振りは全くといって良いほど感じられないことから、「自分だけが」逆行中に意識を保っているようだ。

 

 何故そんな無駄に器用な真似をする! 

 自分だけこの感覚を味わう必要はないだろうに! 

 

 考えれば考えるほどカリオストロは憤りを隠せなくなかった。

 

(あの黒い手の奴はぶっ飛ばしてやらなきゃすまねえぞ……)

 

 自他ともに認める超絶可憐な美少女が笑顔を浮かべれば、自ずと人を引き寄せるものだろうが、あいにく今の彼女は超近寄りがたい負のオーラを出して歩いている。ゆえに道行く人々は一瞬美貌に見蕩れた後、慌てて視線を逸らし、道を空けるという奇妙な行為をしていた。

 

 ――しかし、ただ一人の例外がその少女のオーラに気付いていなかった。

 

「あでっ! わ、悪ぃ、大丈夫か? 完全無欠に、全くもってこっちが前方不注意だったへごぶ!!?」

 

 その黒髪の少年は一触即発の彼女の後ろから走り抜けようとしてぶつかるという、とんでもなく空気の読めない真似をして見せた。哀れ虎の尾を踏んだ少年はたたらを踏んだカリオストロから即座に人体の急所に向けて蹴りを受けて悶絶。その光景を目撃した通りすがりの男性たちは自身の一部を守るように手で庇ったとか。

 

「気をつけてねお兄ちゃん☆」

 

「あ゛。あ゛がぁぁぁぁ……ちょ、今のは俺も悪かったけどさ……いくら美幼女と言えど流石に犯した事案に対しての罰が見合ってな……」

 

「気 を つ け て ね ☆」

 

「す……すいませんでし……た……」

 

 少年は股間を押さえたままへたり込んで轟沈した。

 この界隈にしては珍しい服装で、珍しい髪色だ。カリオストロはふん、と鼻を鳴らして後にしようとする。しかし足を踏み出そうとした矢先にほんのりと、あの()()()()()()()が鼻をくすぐった、気がした。

 

「……」

 

「ぐおおお……ぶ、無事かマイサン……!まだ役目を果たす事なく終わるんじゃねえぞ……そうなったら全俺が泣き喚く…、じぇろにもっ!?」

 

 独り言の気持ち悪さからもう一回少年を蹴飛ばすと、カリオストロは気のせいと断じて先を急ぐのだった。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 確固たる足取りで先へと進むカリオストロ。

 その行き先は1回目に向かった詰め所だった。

 

 危なげなく辿り着けば1回目と同じ手口で若い兵士に地図を見せて貰い、ラインハルトの家から異変の大体の発生地点と方角と距離の予測を立てる事が出来た。熟達の錬金術師であるカリオストロはあの世界の侵食がどこから発生したのかをおぼろげに把握していたのだ。

 前回と違って寄り道をしなかったせいか、今回はラインハルトと遭遇することはなかったが、必要な情報は手に入れる事が出来た。あとは純情な兵士を自分の魅力で軽く弄んだ後、すぐさまその場を後にしていた。

 

「気をつけてねお嬢ちゃん~」

 

「ありがとう兵士さんっ☆ まったね~☆」

 

 デレデレになった兵士に軽く無邪気に手を振り返した後、カリオストロは人通りの少ない細い道へと進んでいく。

 

(確かこっから先は貧民街だったか……オレ様の美貌に目がくらんで、襲い掛かってくる馬鹿が居そうだな)

 

 でもそうなるのも当然だよな~、と髪を手で流しながら驕るカリオストロ。そんな彼女が直感と予測の赴くままに路地の角を曲がった先に出会ったのは、まさかの予想通りのチンピラと思しき大中小の男性3人だ。

 

 しかも待ち構えるどころか、既にぶっ倒れてしまっていた!

 

「……オレ様が迷惑を被る前に誰かが倒してくれたってか?」

 

 目の前の光景に素で呟いてしまうカリオストロ。どうやら三人とも息はあるが、完全に伸びてしまっている状態だ。

 どうして? という気持ちもあるが今は助ける義理もない、無視だ無視と跨いで先に行こうとするが……その足がピタリと止まる。カリオストロは急速に接近する影に気が付いていた。

 

「……」

 

「うわっ、ちょっ、わわっ!?」

 

 小気味よく指を鳴らした直後、細い路地いっぱいに膝丈程の高さの土が隆起。黄色髪の少女が足を引っ掛けそうになる。しかし少女は咄嗟に飛んで土壁を避けると、何とか転がりながら着地した。

 

「なにすんだよ!」

 

「てっきり物盗りかなって☆」

 

「ただ急いでるだけだよ! いきなり攻撃すんじゃねーよ姉ちゃん!」

 

 敵意をむき出しにして睨む少女に対して、カリオストロは悪びれもなく返す。

 

「ったく、本来ならいきなり攻撃した落とし前を付けさせてもらうけどよ……本当急いでんだアタシは。邪魔すんなよ!」

 

「えー、こっわーい☆ 私か弱いから、そんな事されたら泣いちゃうゾ☆」

 

「……何だよそのぶりっ子、あんな事咄嗟に出来る魔法使いの台詞じゃねーぞ。実力ありありじゃねーか。っつかこの惨状もあるしよ」

 

「ん?」

 

 少女の視線の先には伸びている男性3人が居た。

 

「……これは私のせいじゃないよ?」

 

「信じられるかっつーの!」

 

 無理もないかもしれないが、先ほど少し見せた実力からカリオストロがこの三人をのしたと勘違いされたらしい。思わず弁明するカリオストロ。しかしそこに別の足音が新たに加わる。

 

「げっ、そうこうしてたら……」

 

「?」

 

 

「見つけたわよ!」

 

 

 新たに現れたのは一回目にすれ違った、雪色の少女だった。

 

 彼女はこの惨状に目を見張った後、変わらぬ強い意志を目に宿らせ、仁王立ちで二人を指差し始めた。

 

「人の物を盗んだだけに飽き足らず、他人を襲うだなんて……! 返してくれたら謝っただけで許してあげようと思ったけど、もう見逃せません。さぁ観念して盗んだ物を返しなさい! さもないとひどいんだから!」

 

「え、えーっと、あ、私はただ通りすがっただけで~☆ 無関係だから後は二人で……二人で……?」

 

 気付けばすぐ側に居た少女が忽然と姿を消しており、カリオストロは辺りを見回す羽目になる。すると路地上の家の屋根に飛び乗ってこちらを見下ろす黄色髪の少女が視界に入った。

 少女は清清しいほどの笑顔でこちらを見ると、

 

 

()()()()()()()()、後のこと頼む! じゃあな!」

 

 

 凄まじい威力の爆弾発言を放り投げて、そのまま姿をくらました。

 

 

「……え~っと。違うんだよ?」

 

「何が違うのかしら。あなたもあの子の仲間なんでしょう?」

 

「違うよ、なすり付けられただけなんだよ?」

 

「じゃあこの惨状はいったい何なのかしら」

 

「この人達は最初から倒れてたんだってばっ! それに、ほら。盗んだ人がどっか行っちゃうよ!?」

 

「それもそうだけど、悪い人を見逃す事も出来ないの。観念して」

 

「……」

 

 運と状況の悪さにカリオストロは頭を抱えたくなった。仕方ないとばかりに一つため息をつくと、その手に自分の魔道書を持ち、

 

「悪いけど、相手してる暇ないんだよ。ちょっと大人しくしてくれ」

 

「! リア!」

 

 雪色の少女の足元から現れた土の手がその足を掴もうとする。しかし少女の髪から顔を出した小動物が、その手から氷を射出。掴もうとした土の手は氷によって粉砕されてしてしまう。

 

「ちっ、何だテメーは」

 

「自己紹介してないから知らないのも当然だね。そんな事よりボクの娘にそう言う事するのは親として見過ごせない事なんだよ」

 

 ふよふよと少女の横に浮かぶ子猫のような存在が腕を組んでこちらを睥睨してくる。カリオストロもそんな子猫の「格の高さ」を一目で見極め、下から睨みつけ返した。

 

「なぁ、証明できねーがこの惨状はオレ様のせいじゃないし、あの小娘の仲間でもない。更に言えばオレ様は急いでるんだ。ここはお互い会わなかった事にして素通りするって所で手を打たねえか?」

 

「ボクとしてもリアのことを思えばあの盗人を追うべきかなって思うんだけど、大事な愛娘に手を出してしまった”ツクリモノ”には少し罰が必要かなって思うんだよ」

 

 またしても自分の本質が見抜かれた。出くわす奴全てが面倒そうな奴だなと舌打ちをすると、油断なく両手をこちらに向ける銀色の少女が尋ねていた。

 

「ツクリモノって?」

 

「言葉の通りだよリア。あの子の体は人間そっくりだけど人間じゃない。ただの容器みたいなものだよ。そしてその容器に魂が入ってるようだね。……兎に角、普通じゃない。警戒して当然の相手だよ」

 

「オレ様の体の事なんかどうでもいいだろうが。とっとと引くか――ここで捕まるかしとけッ!」

 

 マイペースに話をする二人に敵意を向けると、細い路地の地面から、壁から、少女と子猫を拘束しようと土の手が一斉に伸びる。少女はその様子に驚いた様子を見せたが、咄嗟にその場を飛んで避け、狭い路地に氷の樹を作り上げて手から逃れる。その間、子猫が巨大なつららをこちらに飛ばし、カリオストロへと殺意の溢れた牽制を行っていた。

 

「なーに、悪いようにはしないよ。ただ暴れると、ちょっと痛いのが増えるかもしれないけど」

 

「さっきから痛いどころじゃ済まねー攻撃ばっかりだろーが」

 

「大丈夫よ。私擦り傷とか切り傷くらいの怪我なら直せるから。あ、でもパックやりすぎないでね。治せなくなるから」

 

 大丈夫に済ませる攻撃が見当たらねえよ、と文句を言いながら土と氷の打ち合いを続けるが、埒が明かないと判断したカリオストロは初めて自身の手に持つ本を開く。開かれた本は持ち主の命令を待つかのようにカリオストロの側で浮遊し始め、

 

「《捕らえろ(seiz)》」

 

 ある言葉を唱えれば自動的に捲られた頁の中の一つの単語が光り輝き、巨大な石の壁が瞬く間に雪色の少女の周りを囲うように隆起する。それは堅牢な牢獄だ。それが恐るべきスピードで作り上げられているのだ。

 

「うーん、似たようなのは見たことあるけど聞いたことはない呪文だね。攻撃する意志を見せないのが嬉しいと思うべきか……リア」

 

「えぇ」

 

 彼女たちは脱出することなく、そのまま石の檻に閉じ込められ――そしてすぐに路地裏に重たげな破砕音が響き渡った。

 

 見れば無数の巨大な氷の槍が石壁を貫いて檻を破壊しつくしており、こじ開けられた隙間から何事もなかったかのように彼女らが出てきていた。

 目の前の少女は依然としてやる気満々。カリオストロ自身も一筋縄で行かない相手に業を煮やし、本気を出してやろうかと考え始めるも――とある理由からその気が失せた。

 

「なぁ」

 

「なぁに?言っとくけど諦めろって言っても無駄よ。あなたは悪い事をしたんだもの、ちゃんと償う必要があるわ」

 

「だ、か、ら。誤解だって言ってんだろ。世界一可愛い俺様が、こんなちまっこい悪事の片棒なんて掴む訳ないってんだ。それよりも、そろそろ止めねえか?」

 

「そ、そうね確かにすごーく可愛いのは認めるけど……止めるのは私が貴方を拘束させて貰った後よ」

 

「平行線じゃねえか……じゃあ、ほら。まずは後ろ見てみろよ」

 

「後ろ? ……はっ! そんな手には乗らないわ。悪い人はそうやって隙を作って悪さするって、この前読んだ本に書いてあったんだもの!」

 

「あー、リア。これは言葉の通り後ろを向くべきかな」

 

「え、パックまで何言ってるの。駄目よ言うこと聞いちゃ! こう言う所で隙見せたらすごーく大変な事になって……大変……――――大変!!」

 

 

 パックと呼ばれた子猫にまで促されて少女が見たのは、戦闘の余波で傷だらけ&凍りかけていた、絶賛気絶中の三人だった。少女は三人の元に急いで駆け寄り、カリオストロも頭を掻きながらソレに追随するのだった。

 




戦闘描写好きだけど嫌い。



《ツクリモノ》
 カリオストロの素体の事。
 カリオストロは自らが作った空の器(素体)に魂を定着させる手法を取って、生きながらえている。

《パック》 出典:Re:ゼロから始める異世界生活
 大精霊。すごく格が高いらしい。
 エミリアがどんなものよりも大事で、手を出す相手は絶対許さない。17時以降になると眠くなって帰る。

《Seiz》
 おっさんオリジナル、というよりこの小説のオリジナル魔法。
 石の壁の中に相手を閉じ込める。
 今思えば痛々しいからなかったことにしたい。(2022/4/11現在)


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