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お題は【悲恋】です。
因みに設定ですが、まだ二人は付き合っておらず、友達以上恋人未満関係です。
「やっぱり…でしょうか」
「そうですね。右はともかく、もう左は……」
「手術でどうにかならないでしょうか」
「先天性の色覚異常は今のところ、治療法はありません……。もう片方の目を大事にするしか方法がないかと」
「最悪のケースになるときも、あると?」
「……はい」
「そうですか…」
「なので、身内の方、大事な人にはこの事実を必ずお伝えください。そして、私共の力が及ばず…申し訳ありません」
身内…、母さん、父さん、姉ちゃん、信也、じいちゃん。
絵里……。
「悲しいなぁ……」
心の準備なんかできてねえよ。
・
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「んん………」
「最近よく目を抑えているけど、大丈夫なの?」
「あぁ……見えにくくてな。眼鏡も付けてるのに…」
「眼科は?」
「二日前に行ったんだが、どうもな。薬も効いていないみたいだし」
ここ最近、目の調子が良くない。眼科の先生によると、目の中にある瞳孔が小さくなっているらしい。光を上手く捉えられてないのか、又は先天性のものか。流石にこのまま裸眼だと講義のホワイトボードすら見えないから眼鏡は付けている。他にも……症状はでるらしい。
先生から今は様子を見るしかないらしいと言われたんだよな。
頼むぜ本当に。明日は絵里とのデートもあるんだから。
出来ればその時に……【告白】も、したいって考えてるし。
あーー!考えると顔熱いわ!冷静だ!冷静になれ!これからまたプラン考えないといけないんだから。
「なんでそんなに四面楚歌状態になっているのかしら?」
「はっ!?い、いやなんでもねえよ!本当に何でもねえよ!?」
「全力で否定してくるあたりが怪しいのよね。なに?デートの事でも考えていたのかしら?」
「べ、べべべべべべ別に考えてねえしぃ!?」
「もう、私の荷物持ちなんだから当日遅れるんじゃないわよ」
「え?俺荷物持ち?」
「それ以外に貴方の役に立つことある?」
「ご、護衛とか…護衛とか…」
「私を何だと思ってるの」
「金髪狂暴極悪兼最恐無敵スクールアイドル様」
「殴られたいようねぇ?」
「う、嘘嘘ごめんなさい!」
「もう、いくら私が賢い可愛い優しいエリーチカだからって生意気よ」
(……一つ増えてるような…)
「っ!」
「あっぶね!?」
鼻先に飛んできた裏拳を間一髪でよける。
「次は……ないわよ?」
「お…おう…」
そして荷物を纏める絵里。
「じゃ、私は帰るから」
「あ、あれ?もう帰るのか?」
「……察しなさいよ…バカッ」
「へ?」
「~~~~っ!!じゃあね!」
「え?お、おい絵里!?」
耳を真っ赤にさせながら帰っていった。
***
「もう、本当に隆也は……デリカシーって言うか…なんというか」
帰ってきて早速行ったのはデートの準備。ただでさえ大好きな男の人とデートに行くのだ。ちゃんとお洒落の準備をして体調も整えて赴きたい。
「さ、最近は隆也の眼鏡姿がカッコいいって思ってるのは……気のせいかしら?」
ただでさえ素面の時でもクールでカッコいいのに、眼鏡なんて掛けたら賢い優等生って感じが出てて好きだし。あの人は私が好きだって思ってるところで追い打ちらしきものをかけてくるから本当にズルい。
「できるなら……恋人同士に……早くなりたいのよね」
偽物の恋人をこのまま続けていたら……悲しい…。
ベットにある枕をギュッと抱きしめる。
「隆也も……私と同じ気持ちならいいのに」
隆也が好き。隆也と離れたくない。ずっと一緒に居たい。どんな時でも一緒に居てくれる彼を愛している。
「隆也の…ばかっ…鈍感……」
枕をベットに叩きつける。隆也の事で頭が一杯なのでどうにかして発散しないと爆発してしまいそうだ。
「がんばるのよ…絵里っ」
「お姉ちゃんごはんできたよ~」
「きゃあああああああああああ!!?」
爆発した。
・
・
・
翌日。
「………」
「………よ、よう」
「唐変朴念仁」
「なにその単語!?」
集合時間に絵里を待たせるのは悪いので30分前には駅前でスタンバっていようと思ったわけだが、なーぜか暗い顔をしている絵里が先に待ってた。悪口付きで。
「一体どうしたんだよ…」
「一体!誰の!せいで!こう!なったと!思ってるの!!」
「理不尽!?」
マジでわからない。何の話だ。
絵里の服は白色のブラウスに淡い水色のカーディガンとジーンズのパンツ。絵里のお姉さんの雰囲気を全開に引き出している服装…うん。すごく可愛い。
「なあ絵里」
「なによ…」
「その服、凄い似合っててかわいいぞ」
「っ!?」
率直な感想を言うと絵里の顔が茹蛸みたいに真っ赤になった。すげえ手品みたいだ。
(こーゆー所なのよね……本当に)
「絵里さん?」
「ふ、ふんっ!そ、そんな事言ったって嬉しくないんだから!」
「あ、そ、そうか…」
一応勇気を出して言ったんだが、ダメか。何がいけなかったんだろう。来た時にすぐ言わなかったからだろうか。
悶々と考えていると俺の右手を握ってきた。
「へ?」
「ほら、行くわよ。今日はコキ使ってやるんだから!」
「ちょ、ちょっと待って絵里さん!?腕抜けるるるるる!!」
凄い勢いで右腕を引っ張られ俺は引きずられるかの如く絵里に連行された。
お、俺今日告白できるのか?
・
・
・
それからというもの、絵里の笑顔が絶える事は無かった。ショッピングモールに入ってからはずっと手をつないでいたんだが、絵里はずっとニコニコしていて一層強く手を握ってきたり、指を絡ませたりとまるで恋人のように接してくる。
絵里が俺の名前を呼ぶときの笑顔、服を選ぶときの動作、食事をしているときの表情、髪を耳にかけるしぐさ。どの動きも俺にとっては微笑ましいものだった。
こんなにキラキラとした少女と共にいる俺は相当な幸せ者だろう。出会いが最悪とはいえ、今こうして居られるだけで俺は嬉しい。彼女の事を離したくない。
絵里が好きだ。絵里の笑顔が好きだ。絵里のしぐさが好きだ。絵里の綺麗な金髪が好きだ。絵里の一生懸命なところが好きだ。絵里を守りたいくらい好きだ。
【
このまま彼女の事を見ていたい。何度も、何度も何度も見ていたい。その靡かせる綺麗な金髪をずっと見ていたい。このまま時間が止まればいいのに。
現実は残酷だ。俺がどれだけ願っても現実は思い通りにはならない。嬉しい事は短く辛い事が長く感じる。どれだけなりたくなくても神様は見向きもしない。たまにしか与えてくれない奇跡をこんな時に限って与えてくれない。
たくさん家で泣いた。胸が苦しくなって、頭がぐちゃぐちゃになって、涙が洪水のように止まらなかった。
覚悟は決めたはずだ。立ち止まるな、歩き続けろ。
『今の俺には、もう時間がないのだから』
・
・
・
「ありがとう隆也。色々と付き合ってくれて」
「気にするな。俺にとってもいい時間を過ごせた」
「なんだかんだ言いながらちゃんとエスコートしていたのは私にとってポイント高いわよ」
「お?仮恋人にそんなポイント与えていいのか?」
「仮恋人だからでしょ?」
「よく言うぜ」
ショッピングモールの上階にある展望台で夜に映る夜景を眺めていた。
そう、ここはデートする前に調べておいたカップルおすすめスポットである。絵里に夜景…うん。すごい似合う。
「綺麗だ…」
「へっ?」
「………あ」
「り、隆也?今のは…」
「あ!いや!その、口が滑ったというか!いや滑ってないけど!心の声がというか…出たというか…あの、その…」
「ふ、ふふっ…」
「え?」
「焦りすぎよ。私は可笑しいとは思ってないから」
「お、おう…」
「焦る貴方もかわいらしいわ」
「可愛くねえわ。どこが可愛いねん…」
「関西弁出てるわよ」
「あ」
「ド~ジ」
「ぬぐ…」
は、恥ずかしい。
バカやろう、今から告白するんだろ。気を引き締めろ。
「なあ絵里。大事な話があるんだ」
「ん?」
「俺は、絵里の髪が好きだ」
「…へ?」
「絵里のしぐさが好きだ」
「ちょ、ちょっと!?」
「絵里を誰にも渡したくないと思ってる」
「そ、そう…なの…?」
「お前と恋人のフリをするたびに、この恋心はどんどん大きくなってきたんだ。もう抑えることはできないと思うんだ」
「うん…」
顔を真っ赤にしながら俺の目を見つめてくれる絢瀬絵里。流石にこれ以上言ったら俺がなんていうかわかるはずだ。
「絢瀬絵里さん。俺はあなたの事が好きです。これからずっと護らせてください」
ポケットから出した手のひらサイズの箱。その箱を開けて中に入っているネックレスを見せる。
「俺と付き合ってくれますか?」
「ぁ…………」
手のひらにあるネックレスを見た後、俺の顔に視線を移す。そしてそのまま俺の手を握る。
「私も隆也が好きです。不束者ですが……よろしくお願いします」
瞳に涙を貯めながら、満面の笑みで答えてくれた。
「はぁぁぁぁ…」
「ど、どうしたのよ隆也」
「フラれるかと思ってヒヤヒヤしてたぁ…」
「だ、大丈夫よ!私も隆也の事大好きだったから!!」
「それ聞けて本当に安心…」
「もうっ…体格良いのに打たれ弱いわね」
とにかくよかった。これで第一関門は無事クリア。
次だ。
「絵里」
「ん?」
「このネックレス、受け取ってもらえるか?」
「えぇ、勿論」
「絵里に似合うと思ってな綺麗な
「何言ってるのよ。綺麗なぎんい……ろ……」
俺の言葉を聞いた絵里の端切れが悪くなり、ネックレスを掴もうとする手が止まる。
そして、次の瞬間、俺の目を見た。
「隆也、今……なんて…」
「白色…だ。それに付け加えると」
「俺は、絵里の髪は白色に見えるんだ」
絵里は俺から少しだけ離れた。
「隆……也…?」
絵里から涙がこぼれた。
***
【全色盲】
人間の網膜は赤、青、緑の光を感じる三種類の細胞があり、物を見るとその細胞に刺激が起こり、網膜や脳に伝わって色として感じる働きをする。全色盲という病気はその細胞が起こす反応『色覚』がなくなり、すべての色が白、黒、灰色に見える病気だ。
今の俺の目、正確には左目はもうこの症状が反映されており、視界に写る絵里の髪の色、肌、服装など全部モノクロに見える。まだ右目は色を識別出来ているが、それも時間の問題だというのが医者の判断だ。
全色盲、又は先天性の色覚異常と言われるこの病気の治療法は今のところ存在しない。このまま色を識別できなくなると、最悪のケース、目が見えなくなる。
できることなら絵里には伝えたくなかった。余計な心配を掛けたくなかった。だが、絵里の傍に居続けたら、バレるのも時間の問題なのだ。
絵里には悪い事をしたと思う。愛の告白と同時に悲しい事実を告白したのだから。
「折角、告白したのに……ごめん。これを言わないと、いけないんじゃないのかって思って」
「目が………」
「もうすぐしたら俺は今まで見えてきた世界が見えなくなる。その前に絵里にこの心にある想いを伝えたかったんだ。卑怯……だよな。折角の告白を…潰してしまったんだ…」
「…………」
「まだ、間に合う。こんな……目がに見えなくなる俺に付き合う必要はないんだ。さっきの俺に言ってくれた言葉は撤回してくれて構わない」
なんて最低な男なんだ俺は。こんな事言って嬉しいと思っているのか。
大好きな人の目が見えなくなるかもしれないんだ。そんな事実、どう受け取ればいいってんだ。
「ごめ……んな」
俺の目からも涙がこぼれた。
右手で涙でぐしゃぐしゃになりそうな顔を覆う。こんな顔を絵里に見せれるわけない。
「隆也」
覆っていた手を払いのけられ、目を開けた瞬間、絵里の顔が目の前にあり、唇には暖かい感触があった。
「隆也が好き。隆也と離れたくない。私は貴方がどんな姿でも愛している。例え目が見えなくなったとしても、貴方を好きになってはいけないっていう理由にはならない」
涙でぬれているその瞳はどんな宝石よりも輝いていた。
「目が見えなくなって、貴方が暗黒の世界に落ちてしまっても、私は貴方を離さない」
「絵……里…?」
俺の震えている手を両手で握って、俺に微笑んでくれた。
『私はずっと傍にいるから』
貴方の見える
大変お待たせいたしました。
リクエスト回最後をようやく飾ることができました。
リクエストしていただいたニックネームは忍者さん!ありがとうございます!
自分の中で考えついた『悲恋』を頑張って描いてみました。
ちゃんとできているのかとても不安です……。\(゜ロ\)(/ロ゜)/
初めて取り組んだ内容でしたのでとても遣り甲斐のある執筆になりました。
そして、この『絢瀬絵里に出会った』ですが、また番外編は投稿します。
今は、別に執筆している方へ力を入れようと思いますのでよろしくお願いします。
今回はここまで!
感想・評価お待ちしております!
では……またな!