Happy Birthday
「どうも皆さん、集まっていただいて光栄です」
俺の部屋に中上翔樹、園田海未、東條希、矢澤にこ、そして俺こと横山隆也が集まっていた。
その部屋はいつもの娯楽の空間ではなく、ギスギスとした圧迫感に満たされていた。
「…で?なんで俺らは集められた?」
「いきなりの電話にびっくりしましたよ」
「かなり深刻そうな顔してるけど大丈夫?」
「私が仕事の非番でよかったわね。けどそれなりの話じゃないと怒るからね」
そう、俺はこの人達にある頼みを聞いてもらうために集めた。
今回の頼みは俺のこの生きていく時間の中でベスト3に入るほどの大切な事だ。もししくじれば俺は最悪のトラウマを背負う事になるのだ。それだけは絶対に阻止しなければ。
『男』横山隆也の見せ所だ。
「みんなに集まってもらったのはほかでもない。俺の一生のお願いって頼みを聞いてもらうためだ。今回は俺だけじゃどうする事もできない。だから皆の力を貸してほしい」
胡坐をかいてすわっている俺は、両手をつけ頭を地べたの畳にこすり付けるつもりで下げる。
「隆也の目がいつもよりマジなんだが…」
「見たことないです。こんな真面目な顔…」
「海未ちゃん。それやったら隆也君の顔がいつもアホみたいになってるって言ってるみたいやで」
「駄目よ希。そんな事言ったら失礼でしょ」
ほんとに失礼なんだよ……てめえ
「今はそれどころじゃなくてな。単刀直入に言わせて貰うけどいいか?」
全員ゆっくりと顔を縦に振る。
よし…いくか。
「今回集まっていただいた理由、それは………」
「絵里の誕生日プレゼントどうしたらいいか分からないので助けてください!!」
『自分で考えなさい』
一発でKOされました。
・
・
・
「マジで助けてくれ!どうしたらいいか全く分からないんだよ!」
「こういうのは自分で考えないと意味がないんだよバカ」
「私達が一緒に選んでも良くないかと…」
「自分で選んだ方がエリチ喜ぶよ?」
「まあ?にこだったらもっと凄いプレゼント用意するけどね!」
「あ、そういうのはもういいんで」
「なんでよ!!!」
今日は10月19日。後2日すれば俺の彼女である絢瀬絵里の誕生日である。大学に入学してから絵里には本当に色々とお世話になった。更にいうと初めて出来た心の底から好きだと思っている女性の誕生日。それをどうする?簡単に終わらせたくないのだ。
だからこの4人に助けを求めたのに……やべ泣きそう。
「だって…どうしたらいいのか分からないんだよ。どんなモノあげたらいいか何てわからないし…」
「おぉ…あの隆也がここまで縮こまるなんて」
「あんなに強い隆也さんが弱気…」
「同情しそうだわ」
「見てて滑稽やね」
「うぐっ…」
(((希容赦ない…)))
「まあ結論だがやっぱりお前が自分で選んだ方が良いと思うぞ」
「そうですよ。こういうのは自分の力でするものです」
「自分でやったからこそ意味があるんよ」
「これも自分の試練と思いなさい」
「…やっぱりそうなるよなぁ…」
大きく溜息をつく俺に翔樹が声を掛けてきた。
「確かにお前にとって大事な事なのは分かってる。けどそれは他人の力を借りちゃ駄目だ。自分で成してこそ大きな一歩になる。お前も1人の男ならこんな所で挫けるなよ?これはお前の戦いだ」
「俺の戦い…」
「いつものように勝って来いよ。この大勝負に」
「おぅ…」
「ま、力は貸さないけどちょっとしたアドバイスはあげるわよ」
「にこっち、それって力借りてるような…」
「アドバイスはただの助言よ。そこまで助けてないわ」
((助けてるような…))
「女の子ってのはモノが欲しいんじゃないの。それにどれだけ気持ちが込められてるかが大事なのよ」
「確かにそうですね。自分のことをここまで想ってくれてるんだなって実感できます」
「そこが鍵やね。隆也君がエリチにどれだけの想いが籠めれるモノを用意すればいいかってことが」
「想い…か」
「女の子は想ってくれるだけでもとっても嬉しくなるんよ」
「そうそう。大事なのは気持ち。忘れちゃ駄目よ」
「絵里もきっと楽しみにしていますよ。頑張ってください!」
気持ちか…。父さんも言ってたな。気持ちが込められたものはどんなモノよりも高価でどんなモノよりも強いモノになるって。
俺が絵里に思ってる気持ち。それをどうやって伝えるか…か。
「分かった。絵里の為に俺頑張ってみるよ」
全員笑顔で頷いてくれた。
***
「……とは言ったものの、まったく検討がつかないんだよな」
全員を家に帰した後、俺はベットの上で胡坐をかいて腕を組みうんうんと唸っていた。確かに自分で絵里の為に頑張ると言ったのはいいが、よし考えようと思っても全く駄目だった。
絵里が喜びそうなもの…大好物のチョコレート?いやそれだったらバレンタインの時に渡せる。バイク用品…。いや絵里はそこまでカスタムにこだわる人間じゃないから却下。文房具とか大学で使えそうな物一式…。なんだかロマンチックさが無いから駄目。
「思い切って指輪…とか?いや駄目だろ!!まだ俺ら学生なのに!」
自分のバカな考えを頭から消すために壁に思い切って頭突きをする。
「高校時代にもっとこういうのを予習とかすれば良かった…。いや恋愛に予習も復習もないだろうに」
もっとちゃんとした彼氏だったら前もってよく考えて動くのに、俺と来たら何も出来てない。
「……情けねぇ…」
そんな時枕の近くに置いてあったスマホから音楽が流れた。
何も考えず、そして誰から掛かってきたかも確認せずに電話に出た。
「もしもし?」
『やぁ。迷える少年よ』
「いや別に迷ってないし。それに少年じゃねえし」
『そこは【だ、誰だあんたは】って答えるとこでしょ?』
「やかましい。で?いきなり電話してきたのはいいけどなに?」
『随分上から目線からの物言いやね?ブットバスヨ?』
「すいませんもう言いません」
『よろしい』
「話し戻すけどどうしたん?」
『今頃色々と悩んでるだろうなーって思って電話した』
「エスパーですか?」
『全然違います。で、あんたの為にこの可愛くて素晴らしい私から大事で素晴らしい言葉をあげようとおもってね』
「可愛くて素晴らしいって自分で言うんだ……。ってか素晴らしい二回出た」
『細かい事はいいの。まあ、とは言ってもちょっとした事言うだけだけどね』
「ほう…」
『いい?プレゼントってのはどれだけの気持ちが籠もってるかってのが大切なのは知ってるよね?』
「勿論」
『そこで女の子が喜ぶプレゼントがどんなのがいいか教えて進ぜよう』
「自分で考えようと意気込んでいたのにこいつは……」
『ナンカイッタ?』
「いえ何も」
『そう。けど答えは言わないよ?自分で答えを出しなさい』
「教えてないじゃん……」
いやこれ以上つっこむと面倒だ。やめておこう…。
『ヒント、日常』
「………日常?」
『日常』
「それだけ?」
『これだけ』
「マジか」
『マジだ』
「難易度高くない?」
『イージーモードです』
「んー…日常…」
絵里の日常…。ヒントがこれだけだと全然分からないんだが…。あいつの日常。もしかして何かを使うものとか?いやそれだと筆記用具が一番先にでるぞ。いや…そこじゃないんだろうなぁ…。
ほかで考えよう……。日常…容姿端麗…絵里…金髪…完璧なプロモーション…ポニーテー………。
「あ!」
『分かった?』
「そういうこと?」
『醤油こと』
「醤油……。ってか全然頭の中に無かったわ」
『バカじゃん』
「うるせ」
『では本日はここまで。もう私も寝るから電話してこないように』
「おう…なあ」
『ん?』
「ありがとう…姉ちゃん」
『ん。弟の為にかっこいいところ見せないとね』
「ふっ…。珍しい事もあるな」
『鼻で笑うな鼻で』
「はいはい。じゃ、ちゃんと寝ろよ」
『はいはい。お休み』
「おやすみ」
俺はスマホをもう一度枕の近くに置きベットに横になった。
「……よしっ」
軽く気合を入れ俺は眠りに付いた。
***
10月21日
『絵里(ちゃん)!誕生日おめでとう!!』
「皆、私の為にありがとう!」
絵里の誕生日当日。俺は絵里の誕生日パーティーという事でμ'sがいる音ノ木坂に招待された。今は仲間水入らずで楽しめばいいのに『隆也さんも居ないと駄目です』と言われて連れてこられ(連行され)た。穂乃果と海未と希に。
だが今回の俺は大丈夫。ちゃんと絵里の為にプレゼントは買ってきている。あとは誰かと被らないように願うだけだ。
「穂乃果からはお母さんと一緒に作った特製のおまんじゅうだよ!隠し味にチョコを入れてみました!」
「私からはお洋服!がんばって作ったから絵里ちゃんに着てほしいな!」
「私からはブレスレットです。絵里の瞳の色に似せて淡い青色にしてみました」
「凛からはカップラーメン1週間分!凄く美味しいから食べてみて!」
「わ、私はお米を。家で一杯食べてほしいな」
「私は高級チョコ。ママといっしょに選んだから味は保証するわ」
「ウチからは手編みのセーター。そろそろ冬が近くなるからちゃんと着て風邪引かんようにね」
「にこからはネックレス。少し地味かもしれないけど着けなさいよ」
机の上に大量に置かれたプレゼント達。どれも絵里が喜びそうなモノばかり。
「皆…ありがとう。私凄く嬉しい!」
喜びながらうっすらと涙を流す絵里。所謂嬉し涙。良かったな絵里……。良い仲間に会えて。
「さて!それでは最後のメインイベント!隆也さんのプレゼントです!」
(滅茶苦茶ハードルあげるじゃねえか…)
「隆也も…プレゼントあるの?」
「そりゃあな。絵里は俺の大事な彼女だし」
「っ…もうバカ……」
「隆也さんって不意を突くの上手いよね」
「胸がキュンキュンしちゃうよ」
「うぅ…やっぱり破廉恥です…」
「絵里ちゃん顔真っ赤にゃ」
「これが…恋する女の子…」
「エリーも彼氏の前では可愛い女の子なのね」
「にこっち…ちゃんと撮ってる?」
「勿論よ」
なんか色々と言ってくださってますね。というか希とにこ。後でゆっくりお話ししようぜ…『屋上で』。
「じゃあ…俺からこれを…」
絵里の前に赤と青の色をした小さな箱を差し出す。
「ありがとう隆也。開けてみて良い?」
「おう。どちらからでもどうぞ」
では、と絵里が最初に赤の箱を開けるとそこにあったのは蒼と白の水玉で描かれてあるシュシュだ。更にはそのシュシュにはデニムで出来たリボンが付いている。
「これって…シュシュ?」
「あぁ。普段絵里が日常で使えそうなモノで何がいいかなって思って、考えた結果がそれだ。絵里はポニーテールにする時があるから丁度いいかなって」
「凄く可愛い…。本当にこれ私にくれるの?」
「勿論だ」
「…えへへ…。ありがとう隆也」
「っ…おう」
絵里の笑顔で俺の顔が真っ赤になったが何とかばれないように平然を装う。
「じゃあ、次はこの青の箱をどうぞ」
「うんっ」
青色の箱を開いた。そこにあったのは女性用の腕時計。デジタルではなく針で時間を刺すアナログタイプ。特に珍しくもない数字が書かれてあるシンプルな腕時計。少し明るめの色を意識してオレンジ色を選んでみた。
「腕時計?」
「持っていて困る事はないかと。バイク乗ってる時とか便利だろ?」
「確かに…」
「それと絵里…・・・。持ってた腕時計壊れてただろ?」
「え!?知ってたの……?」
「少し前にな。お前があの時は何も言わなかったけど」
(隆也…そこまで気がついてたんだ…)
「これを機会に新しいのをどうかなと…思いまして…」
「隆也…この2つ、大事にするわね…。本当にありがとう」
「喜んでもらえて何よりです。お嬢様」
「もうっ…誰がお嬢様よ」
「絵里お嬢様?」
「やめて!皆いるところで!恥ずかしいんだから!」
「なら2人っきりだったらいいのか…?」
「うぅ…皆ぁ、隆也がいじめてくる…」
別にいじめてはいない。からかってるだけだ。
『イチャイチャするなら家でしてください』
はいすいませんでした。
満場一致だった。
「あー…その、絵里?」
「なに…?」
「改めて、誕生日おめでとう。これからもよろしくな」
「ふふっ…。私のほうこそよろしくね。隆也」
絵里の頭を撫でると猫のように頭を擦り付けてきた。
(良い1年にしてくれよな…)
***
「本当に俺の家に泊まっていいのか?」
「良いのよ。また皆でどこかに旅行に行ければ良いし」
パーティーが終わった後、俺だけ帰ろうかと思っていたところで絵里が一緒に帰ると言い出した。
いや流石に今日ぐらい仲間と一緒に過ごせよと言ったのにも関わらず俺の家に泊まると言い張ってくる。
μ'sの皆にどうすると聞いたら『遠慮なく』と送り出してくれた。お前らそれで本当にいいのか……。
「いや良かったかもな。絵里の為に作ったチョコケーキが無駄にならずにすんだ」
「え!?あるの!?」
「まあな。ってかさっきのパーティーで食ったのにまだ食うのかよ」
「甘い食べ物は別腹なのよ」
「女の子って怖い」
「むっ…失礼ね」
冷蔵庫から冷やしていたチョコケーキを机に置き食べやすいように小分けする。勿論絵里には多めで。
「じゃ、召し上がれ」
「…………」
「ん?絵里さん?」
「…………」
「まさかおなか一杯だったとか?」
「あ!そうじゃないの……その…」
「?」
絵里が手をモジモジさせながら上目遣いで見つめてくる。
「今日は…私の誕生日だから……隆也に甘えても良いかしら…?」
ん?
え?何?この可愛い生き物。え?甘えて…?いったい絵里どうした?いつもこんな直球には言ってこないのにどうした?
「……絵里が珍しく甘えん坊だ…」
「い、いいじゃない!たまには……甘えても…」
可愛すぎるだろ……。
「………絵里」
「?」
「ほら、あーん」
「ふぇ!?」
フォークでケーキを刺し絵里の口まで運んであげる。
「食べさせてやるよ」
「ん………あーんっ」
「どうだ?」
「んっ…むぐっ……美味しいわ」
「そうか。まだあるからもと食えよ。……あーん」
「あーん…もぐっ…」
なんだろう。凄いこれ癒しを感じるんだが。絵里の口にケーキを食べさせてあげると大きく口をあけて飲み込んでハムスターみたいに頬を膨らませて食べてる。
「……ほっこりする…」
「ん?ろうひたの?」
「なんでもない」
「?」
ステージではあんなに輝いていたクールキャラの絵里がここまで癒しキャラになるとは…。
(写真撮りたい……)
***
ケーキも食べ終わり、お互いお風呂にも入った。後は寝るだけなんだが……。
「なんで当然のように俺のベットに入ってるんですか?」
「一緒に…寝ちゃだめ…?」
「頼む。そんな目で見ないでくれ。ちゃんと一緒に寝るから」
「やった!」
ベットに入るとすぐに絵里が俺の胸に抱きついてきた。
「隆也…あったかい…」
「絵里も暖かいぞ。湯たんぽだ」
「なら…存分に堪能してね…?」
「仰せのままに……」
俺も絵里を抱きしめた。両手を絵里の背中に回して自分の方に引き寄せるようにギュッと力を入れて抱きしめる。
「……今度は」
「ん?」
「今度は隆也の誕生日ね」
「俺の?」
「私も…隆也に何かしてあげたいのよ」
「別にいいぞ?俺は今あるこの時間があれば・・・」
「もう。彼女がしたいって言ってるんだからそんな事言わないの!」
「お…おう…」
「私だって…好きな男の人の為に何かしてあげたいのよ…」
「………なら期待してるよ」
「えぇ。目玉が落ちるくらいの事してあげるから!」
「それはそれで駄目だろ……」
こんな他愛ない話を続けていると心がすごく落ち着く。この人といると自然と笑顔が出る。
「絵里…」
「何?隆也?」
どんどん時間が過ぎて行き、外の世界もどんどん夜の色に染まっていく。
10月…21日……。この日は俺の大事な人が生まれた日。
「……生まれて来てくれてありがとな。俺はお前がいてくれて幸せだ」
君が生まれた事に祝福を……。
絵里…Happy Birthday。
エリチ!Happy Birthday!
ということで絵里の誕生日物語を書きました。
絵里にはこれからもずっと元気でいてほしいですね。
あ、ちなみに新作の希ストーリーですが、まだ少し時間が掛かります。大学の方で色々ありまして……。色々あるのにも関わらず絵里の物語よく書けたなって?
……誕生日なら黙っていないでしょう……!!!
恐らく10月中にはできると思いますので待ってくださる方もう暫くお待ちください!!
では改めて…絢瀬絵里さん!誕生日おめでとう!生まれて来てくれてありがとう!
ではまた会いましょう!……またな!
あ……もしかしたら活動報告で言いたい事書くかもしれないので気が向いたら覗いてみてください。いつになるかは分かりませんが……。