絢瀬絵里に出会った   作:優しい傭兵

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最低で最悪

「元…彼氏?」

「ごめんなさい…隠してた訳ではないの…」

「別に彼氏がいた事は気にしてない。けど、『嫌い』ってどういうこと?」

「それは……」

 

 

「それではこれで連絡事項は終わりです。では皆さんしっかり考えて講義を取る様に。お疲れ様でした」

 

はっと気がつけば教授の話が終わっていた。各々友達と行動する者や一人で行動する者が次々と教室を出て行く。少し過ぎれば教室に残ったのは俺、煉、絵里。そして今日俺たちの学部に来た男、青山匠だけとなった。

 

 

「やっぱりここは綺麗な学校だね絵里。俺との大学と比べたら綺麗だし広いし開放感があって良いところだよ」

 

まあ案の定、すぐさま青山が絵里に話しかけてきた。

 

「ねえ匠。貴方いつロシアからこっちに来たの?」

「えっと、去年からかな?まだ日本に来て1年も経っていないんだ」

「そう…なんでか、聞いていいかしら?」

「いいけど今でいいの?これから講義は行かなくていいの?」

「私達は今日は特に出ようと思っている講義は無いから時間はあるわ」

 

絵里は先ほどと違っていつもの強気を出して青山に話しかける。更には『私達』というのを強調して。

 

 

「えっと…私達?そこにいる二人のこと?」

「そうよ。私の『大好きな』彼氏の横山隆也と私の『良き』友の神崎煉君よ」

「お、おい隆也!絢瀬から良き友って言われたんだけど!?」

「少し黙れ煉。今そんな空気じゃない」

「あ、はい」

 

「へぇ~…君絵里の彼氏なんだぁ…」

 

彼氏だという言葉を聞いた青山が俺の体中をを舐めるように見つめてくる。だがその目は鋭く俺の目を離さなかった。

 

「あぁ、絵里の彼氏だ」

「ふーん…あっ、そう。別にいいけど」

 

(別に…ねぇ…?)

 

明らか俺だけ態度が違う。だがそれを見せたのもほんの一瞬。すぐさま笑顔を見せて俺に近付いてきた。

 

「よろしく!少しの間だけど仲良くしてくれ!」

「お、おう!よろしくな青山!」

「……よろしく」

乗り気ではないが俺と煉は青山と軽く握手を交わした。

 

 

「ねえ絵里!ちょっと2人で話しがしたいんだけど良いかな?」

「…別にいいわ。隆也、煉君。ちょっと外に出ててくれない?」

「おう、分かった」

「手短にな」

「えぇ」

 

俺と煉は自分の鞄を持って教室に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ隆也」

「ん?」

「あいつ、良い奴には一応見えるんだけどさぁ…」

「やっぱりお前も分かったか?」

「どう考えても俺たちの事はオマケ扱いだ。ありゃ絢瀬目的だ」

「元彼女だからっていう理由だろ」

「それだと思うけどな。後この大学を選んだのも偶然じゃねえ。絢瀬がいるからこの大学に来たんだと思うぞあいつ」

「その心は?」

「あいつの言葉1つ1つ聞いたけど、あいつはこの大学に何回かこの大学に来てる口ぶりだ。やっぱりこの大学はとか良いところだよって普通言わないだろ?これは仮説だけど下見みたいな感じでこの大学に来て絢瀬を見つけた。なんらかの情報を得てだ。だからこの大学に決めた。学力とか大学施設関係無しにだ」

「お前よくあれだけでそこまで推理できるな」

「趣味人間観察の俺を舐めんなよ?」

「それ俺の前以外で言わないほうがいいぞ」

「………やっぱり?」

 

こいつは人を見るのが本当に上手い。観察眼があるとかそんなレベルじゃない。日頃から色んな奴を見たり聞いたりして身に付いたスキルだ。更には語彙力もそこそこ。頭の回転も俺より早い。もしなにかしらの二次元などの世界に行ったらこいつほど頼りになる男は居ないと俺は思っている。

 

「隆也、これらを全部纏めて単語にしたものを何ていう?」

「ストーカー」

「大正解。絢瀬の事を諦めきれないと言ってもこれは引くレベルだ。日本に来たのもあいつにとっちゃ故郷を離れた事がラッキーって思ってるだろうな」

「関西人の俺からしたらフルボッコしたくなる奴だな」

「いやこれは誰でもだろ」

「まあ、この2週間いつのより絵里に気を………」

 

「配ろうとするか」と言おうとした瞬間、教室から。

 

 

「もう私に近付かないで!貴方の事は嫌いって言ったはずよ!」

 

絵里の怒号が飛んできた。

 

 

 

***

 

 

 

 

「それで?話って?」

「分かると思うけど、あんな男とは別れて俺ともう一度付き合ってくれよ絵里」

「お断りよ。隆也と別れるつもりはないわ」

「ロシアでお互い愛し合った仲じゃないか。考え直してくれ。な?」

「昔の話を掘り返してこないで。女々しいわよ」

 

断ってもこの男は私についてくる。ロシアの時もそうだ。どれだけ離しても近付いてくる。私はこの男とは確かに付き合っていた。けどそれも短い日々だった。周りから見たら逞しい、カッコイイ、優しそう、などの大層な褒め言葉が出るだろう。けど私は違う。生理的にも受け付けない、嫌い、情けない、女々しい。そんな言葉しか出ない。

 

 

「変わったな絵里…ロシアでは俺たち仲が良かったのにな」

「そうね。けどこれが私の中での正解の道だったわ」

「俺は諦めきれない。絵里ほどの綺麗で強くて凛々しい女の子は他に居ない。君が好きだ。君がいれば俺はなんでも出来る。だから合気道も覚えた。強い男になれば絵里に振り向いてもらえると思ってた。けど………なんだありゃ?横山隆也だっけ?あんな男と付き合ってるのかよ。やめとけよあんな奴。俺の方が君に相応しいんだ」

「貴方に隆也の何が分かるの?それに私の前で彼をバカにしないで。気分が悪くなるわ」

「絵里の目も随分曇ったよな。俺を嫌いになってあんな男を好きになるなんてさぁ」

「貴方に決められる筋合いは無いわ。私の自由よ」

「ずっとロシアで一緒に居た俺よりあいつの方がいいと?」

「そうよ。だから私にもう関わらないで」

「そんなつれないこと言うなよ。またロシアの時みたいに仲良くさ…………」

 

 

 

 

「もう私に近付かないで!貴方の事は嫌いって言ったはずよ!」

 

 

 

我慢できなくなり匠に怒鳴りつけた。気持ちが悪い、嫌い、顔も見たくない、会いたくない、近くに居て欲しくない。心の中から不快感しか出てこない。もう、あんな思いはしたくない。好きだと思っていた人が『こんな人』だったと思うことが。やっと私を心から好きだと言ってくれた隆也(ヒト)が現れたのに……。

 

 

 

 

 

 

「それが……絵里の本音か?」

「そうよ…お願いだから目の前から消えて」

「………はぁ」

 

匠の口から大きな溜息が出た。その溜息をつきたいのは私のほうだというのに。

 

 

「わかった。けど俺は諦めないからな。『どんな手を使っても』君を手に入れる」 

「早くどこかへ行ってくれないかしら?」

「ふふっ。強気な絵里もいいな。じゃまたね」

 

それだけを言い残して匠は教室を早歩きで出て行った。

やっと緊迫した空気から開放されそのまま椅子に座り込んで頭を抱えた。

 

 

「どうやら終わった感じだな」

「隆也……」

隆也を見ると横に居た煉君が居なくなっていた。私と隆也を2人にさせるために気を使ってくれたのだろう。また後でお礼を言わないと……。

 

「途中からしか聞こえなかったけど、いつもの絵里じゃなかったな」

「私…いつもより感情的になっちゃったかしら……?」

「完全にな。音ノ木坂以来じゃないのか?」

「そう…ね…。素直になれなくて意地を張ってて色々なモノを拒絶してきたあの頃に戻ったみたい………」

「まぁ…いまは大学だから詳しい話を聞かないけど、どうする?」

「ねえ隆也…」

「ん?どうし……おっと」

 

 

 

顔を上げた絵里が俺に抱きついてくる。いつもなら恥ずかしがってしてこないが今はそれどころじゃない。顔を擦り付けていつもより腕に力を入れて抱きついてくる。

 

 

 

「今日、夜時間あるかしら……?」

「あるぞ」

「匠について、話しがしたいの」

「………分かった」

「ありがとう…悪いけど今日はもう家に帰るわ。少し気分が優れないから」

「その方がよさそうだな。家まで送ろうか?」

「いえ、大丈夫…今日は希と会う約束もあるから……」

「あいよ。希によくしてもらえ」

「今はそうしておくわ……ふぅ…」

「そうとうなダメージだな。じゃ、気をつけてな」

「えぇ、また今夜」

 

 

絵里は軽く俺に手を振り教室を出て行った。そして教室内は俺1人になり椅子に深く腰を下ろす。

 

 

「めんどくさい事になっちまったなぁ……」

 

 

まさか絵里の元彼がここまでの奴だとは思ってもいなかった。青山が俺に向けてきた鋭い目付き、完全に殺意籠もってた。まあ自分の好きな人が別の男と付き合ってるなんて見たらそりゃ怒るのもわからなくもないが、異常すぎる。表面は優しい男を演じてるけど裏面が黒すぎる。この2週間なんとかして過ごすしか今は無さそうだ。

 

 

 

 

 

 

「…………………痛み止め貰わないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

病院行かないとな。

 

 

 

 

 

***

 

―夜―

 

 

 

「まぁ、そういう事があったわけだ」

『なんかまたトラブルが起こってるみたいだな。な?トラブルメーカー』

「叩いて被ってじゃんけんポンしててんぷらにして食うぞコラあぁん?」

『こいつもこいつでどんどん口が悪くなってる……』

 

絵里の家に向かっているついでに電話を掛けた。一人でグチャグチャ考えるより誰かに話でも聞いてもらったほうが良いと考え同じく東京にいる中上翔輝に連絡を取った。

 

 

『けど、別にこれぞってぐらいに迷惑を掛けに来てはないんだろ?大丈夫だと思うけど』

「それで終われば1番楽だけど青山の言葉が妙にひっかかる」

『どんな手を使ってもって言葉か?』

「霧生の時と同じ匂いがする」

『……多分その予想は外れては居ないと思う』

「まあ可能性は低いけどな」

『……やれやれ、出来る限り無理はするなよ?俺も海未も力は貸すからさ』

「ありがとな。お。絵里の家の前に着いたから電話切るな」

『了解。くれぐれも無理はしないように』

「くれぐれの処を強調してくるな」

『またな』

 

スマホをポケットに入れ絵里の扉の前に立つ。少し深呼吸をしてインターホンを鳴らす。するとすぐにその扉は開かれた。

 

 

「あ!隆也さん待ってました!」

「よう。久しぶりだな亜里沙」

「お久しぶりです!兵庫県ではお姉ちゃんがお世話になりました」

「いやいや、あっちでは俺の方がお世話になったぐらいだ。感謝してるよ」

「えへへっ。そう言ってもらえたら嬉しいです!」

 

天使としてのレベルが着々と上がってきている亜里沙。良きかな。

 

 

「2人とも!扉の前で話してないで早く入ってきなさい!」

『はーい』

 

絵里は立派なお姉さんである。

 

 

 

 

 

 

 

 

椅子に座り、俺の前に絵里と亜里沙が隣同士で座る。俺の分も入れてくれた紅茶を一口飲み絵里は軽く溜息をついた。

 

 

 

 

「家に戻って少しは楽になったか?」

「だいぶね。希に介抱してもらったから尚更ね」

「希にも今から俺に話すことは教えたのか?」

「えぇ…。怒られたけどね。なんで私に教えてくれなかったの!って……」

「そうだろうな。3年も一緒に居たのに隠されてたからな。希のこと大事にしろよ」

「勿論よ。今度焼肉でも一緒にたべにいってくるわ」

「それがいいな」

 

俺も一口紅茶を飲み込む。香りが鼻孔を刺激し気分が良くなっていき体を温めてくる。

 

 

 

 

 

「じゃ、青山の事について教えてもらうえるか?」

「そうね…。匠と会ったのは4年前のロシアよ」

「その頃私は小学生6年生でお姉ちゃんは中学3年生でした」

「日本に来る前になるのか。出会いのきっかけは?」

「ごく普通よ。同じクラスで仲良くなって付き合ったっていう流れよ」

「特別な理由とかなにかがきっかけとかではないんだな」

「そう。とても楽しかったわ。いつでも私を楽しませてくれて、側にずっといてくれたのよ」

「ほぉ…聞いた感じでは完璧な彼氏だな」

「私もロシアで何回も会った事があります。優しくてずっと私やお姉ちゃんに気を使ってくれました!」

「最高だねそんな男は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けど…それが全部…全部が嘘で偽りで最低で最悪な『演技』だったのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「演技……だと?」

 

 

 

「隆也、貴方は私を自分の男としてのランクを見せびらかすために私を利用したりする?」

「あ?何言ってんだよ。どうゆうことだよ」

「いつの日か忘れたけど、私に付きまとう別の男が居たのよ。そこで匠はその男をやっつけてくれたの」

「ほう」

「けど、その日の放課後に廊下を歩いてたときなんだけど、匠が別の男たちと話し声が聞こえてきたの。趣味が悪いけど聞き耳を立てたのよ」

「そしたら?」

 

 

 

『絢瀬絵里?あいつなんか全然興味ねえよ。あいつを俺の横に置いてたらどいつもこいつも羨ましがって俺の事褒め称えるんだよ。女なんかちょっと優しくしてやればコロッと落ちちまう。面白かったぜ。ニコニコしながら頭なんか撫でてやるとすぐに大好きだって言ってきやがる。『暇つぶし』には最高だったぜ!ははははっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………へぇ。なるほど」

「その後私はどうなってたか覚えてない。うっすら覚えてるのはその次の日に匠に別れるって話をして、家でおもいっきり泣いて……それで…それで…うっ…ぐすっ…ひぐっ……」

「絵里、もういい」

「大好きだった人に裏切られて…利用されて…なのに今でも私を自分の女だって言ってくる……」

「大丈夫だ。今はあいつは居ない」

 

 

絵里は自分の服をぎゅっと握り締めその綺麗な碧眼からどんどん大粒の涙がこぼれる。その口はギリギリと噛み締めて怒りを露にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのに貴方は!!どれだけ私を苦しめれば気が済むのよ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は……今まで聞いた事がないぐらいの絵里の心の叫びを聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の事だ。

絵里は疲れてそのまま自分のベットに横になり泥のように眠った。亜里沙は絵里の頭を抱きしめながら一緒に寄り添って寝てくれている。今絵里を1人にしたらダメだという事が長年の勘で分かった。

今日でかなりのストレスとトラウマが出てきたのだろう。絵里の精神が完全にやられている。絵里の今の気持ちが痛いほど分かった。好きな人に裏切られ利用される。これほど心に傷を負わせるほどのモノがあるだろうか。人それぞれ違う考えや価値観、概念などはあると思う。

 

 

(だけどよぉ……)

 

 

 

 

 

 

 

「それが人を・・・ましてや絵里のことを傷つけていい理由にはならないよな?青山匠」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これ以上手出しさせてたまるか。

 

 

 

 

 

 




どうも皆さん。完ッ全なゲス野郎が出来てしまった。一体どこを間違えてこうなってしまったのだろうか…。自分が聞きたいぐらいです←(ダメじゃねえか)



そして今回新しく評価してくださった!
狩る雄さん!GON@絵里推しさん!jishakuさん!霧エヴァンさん!
ありがとうございました!



これからまたシリアス且つ黒ーい展開が続いていきますのでよろしくお願いします!


それでは今回はここまで!
感想・評価お待ちしております!



では……またな!

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