「本当にここでいいの?」
「はい、今日は色々とありがとうございました」
隆也からの声を聞き終わり、大泣きした楓さんを慰めて落ち着かせていると気付いたらあともう少しすると日を跨ぐ時間帯となっていた。公園で楓さんの今の気持ちを落ち着かせるためにちょっとした雑談をした後、今日集合した駅まで楓さんを送り届けた。
家まで送ろうとは言ったのだが・・・。
「それは絵里さんに悪いので大丈夫です。早く帰らないと隆也先輩が絵里さんのこと心配しますから!」
と押し切られてしまった。
けどさきほどと比べて楓さんの顔色が良くなってるので心配はなさそうだ。
「絵里さん明日東京に帰ってしまうんですか?」
「大学もあるからそんなに長い間いれないのよ。向こうには私の妹もいるから」
「そう・・・ですか。あえなくなるから寂しいです」
「そんな顔しないで楓さん。また会えるから」
「・・・・・・っ」
「楓さん?」
顔を俯かせたまま私に抱き付いてくる。背中に手を回し、胸に顔を埋めてすがり付いてくる。なんだか亜里沙を抱きしめてるような感じがする。
「・・・・・・楓さん」
「絵里さん、今日は本当にありがとうございました。絵里さんのお陰で救われた気がします」
「私は何もしてないわよ。助けてくれたのは隆也よ」
「そんなことないです。今日絵里さんが会いに来てくれなかったら私ずっと苦しんだままだったと思います・・・。だから、今日私を救ってくれたのは・・・絢瀬絵里さんです」
「・・・・・め、面と向かって言われると恥ずかしいわね・・・」
「えへへっ。絵里さんもかわいいところあるんですね」
「それ以上言うともっとぎゅっと抱きしめるわよ?」
「そ、それならもっと言います!絵里さんかわいいです!」
「もう!そんな子にはこうよ!」
「あ!なら私もぎゅー!ってします!」
傍から見たら凄い仲が良い姉妹に見えるかもしれない。お互い力強く且つ優しく抱きしめ合っているのだから。
「まるでお姉ちゃんが出来たみたいです。絵里・・・お姉ちゃん?」
「そ、それはそれで恥ずかしいから出来れば遠慮してほしいわね・・・」
「むーっ・・・絵里お姉ちゃんがいいです・・・」
「そんな顔しないの」
「はーい。わかりました」
そう言って抱きつくのをやめてくれた。
「それじゃ、私もそろそろ帰るわね。隆也が待ってるから」
「はい、その何度もしつこいですが本当にありがとうございました。今度なにかでお礼をさせてください」
「そうね。そのお礼期待してるわね」
「はい!東京には気をつけて帰ってくださいね!」
「ありがとう。楓さんも気をつけて家に帰ってね」
「はい。では今日はお疲れ様でした!」
楓さんはそのまま駅の改札口まで走っていき、切符を改札に入れる直前に私の方に振り向いてきた。
「絵里お姉ちゃん!また会いましょう!」
それだけを言い残し改札口を通っていった。
結局最後の最後にお姉ちゃんと呼ばれ私の顔は少し真っ赤になっているだろう。
(やられたわね・・・)
顔を片手で隠しながら駅を背中にし隆也の家まで歩き出す。
「今日は楽しかったし、楓さんとも仲良くなったし、ちょっと疲れたわね速く家に帰らないと」
「そうだな・・・こんな遅くまで居る悪い子にはお仕置きが必要だな」
「ひっ!きゃああああああ!」
いきなり肩を掴まれ、さらには耳元で声を掛けられたので、私は反射的にその男に向かって平手打ちを食らわしてやった。
***
「別に叩かなくていいじゃねえか・・・」
「あんな風にいきなり喋り掛けられたら誰でもびっくりするに決まってるじゃない!」
私は今隆也の運転する車に乗っている。そう、さっき声を掛けてきたのは私を心配になって迎えに来てくれた隆也だった。いくらまっても帰ってこない私を迎えに行くために家にあった利子さんの車を借りて来てくれたのだ。ついでに自転車も回収済み。
「こんなに遅くまで出かけていたのはどこの誰なんでしょうね?」
「うっ・・・そ、それは・・・」
「ったく、気をつけるんだぞ」
「ごめん・・・なさい・・・」
「分かればよろしい」
確かにいくら楓さんのことが会ったとしても隆也たちが心配するかもしれない、それでもせめて連絡一つは送っておけばよかった。
「絵里」
「ん?」
「楓は・・・どうだった?」
「大丈夫・・・よ。多分」
「多分?」
「あとはあの子次第だと思う。私も出来る限りのことはしたと思ってる。ま、隆也の手を借りてだけど」
「俺の声を聞いてあいつはどうだった?」
「喜んでたし・・・・・・泣いてたわ」
「・・・・そうか」
「あの涙は喜びの涙よ。隆也に助けてもらったから」
「俺は何もしていない。今回あいつを助けたのは絵里だ」
「私こそ何もしてないわよ。特にこれぞと言った事もしていないし」
「もしそうだったとしてもだ。絵里が楓と会わなかったら、今頃あいつはどうなっていたか分からない・・・。ヒーローはお前だ絵里」
「ヒーローね・・・。実感沸かないけど」
(私はヒーローなんかじゃない。客観的に見てこれは言いくるめたらおせっかいな手助けに見える。あくまで私のヒーローの概念は、隆也のような人間のことを言うのだと思う・・・・・・。私は
ナデナデ
「ふぇ?」
「今日はお疲れさん。絵里のお陰で助かりました」
「なにいきなり・・・キモチワルイ・・・」
「お前は真姫か。褒めてるだけだよ。嫌だったか?」
「いやじゃないわよ。ちょっとびっくりしただけ・・・・・・」
「そんなこと言いながら頭擦り付けてくるところって本当にツンデレだよな」
「ツンデレじゃないわよ・・・。頭撫でられるのが好きなだけ」
「そうか。なら今日頑張った絵里にはご褒美として頭を撫でてやらないとな」
「そ、そうよ。ちゃんと頭撫でないといけないのよ」
「はいはい・・・。ウチのお姫様は我侭だな」
そして隆也は私の頭を撫で続けてくれた。その手が私は好き。ゴツゴツしてて大きくて、優しさを感じるその手を。
「じゃ、家に帰るか。明日の東京に帰る準備もあるからな」
「そうね。亜里沙に早くお土産かって買ってあげないと」
「それなら母さんが絵里の必要だと思った分買ってくれてるぞ」
「え!?いつの間に!?」
「絵里ちゃんの驚く顔が見たいからだってさ」
「もう・・・隆也といい利子さんといい、横山家の人達は優しい人ばかりね」
「これが普通な気がするが」
「いいえ、異常よ。とても」
とてもという部分を強調する。私の周りには優しい子や優しい人は沢山いる。けど隆也やそのご家族の人達はそれを上回るほどの優しい人達だ。
(貴方を好きになった理由もその優しさに惚れたから・・・なのよね)
「速めに家に帰って準備して寝ましょうか」
「それに同意。今日は家の庭の芝刈りしてて肩が痛い・・・。家ですぐ寝よう」
「じゃ私もすぐにお風呂いただくわ。隆也お風呂は?」
「まだだ。お爺ちゃんと母さんの風呂長いから結局俺が最後になるんだ」
「長風呂なのね。じゃ一緒にお風呂入る?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
「じょ、冗談よ冗談!そんな間に受けないでよ!」
隆也は顔を赤くしたまま車を運転する。けどその目は鋭く光っていた。
「隆也・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・絵里」
「は、はい!」
赤信号で止まった瞬間、隆也が私の耳元でボソッと呟いた。
「風呂上がったら覚えとけよ・・・」
青信号となり、シン・・・とした空気のまま隆也は運転を再開する。
私は家に着くまでずっと顔が真っ赤のままであった。
***
―翌日―
「ちゃんとご飯食べるのよ。洗濯も掃除も怠らないように!」
「分かった分かった!ちゃんとやるから!」
「絵里ちゃんも東京では気をつけてね!これ私の携帯電話番号とLINEのID!隆也が怠けてたら連絡してきてね!隆也の家に父さん呼ぶから!」
「ごめんなさいご飯も食べます洗濯もします掃除もしますだからそれだけは勘弁してください」
「よく噛まずに言えたわね」
「感心するところそこじゃねえよ!」
「あはは・・・」
私達は今、新幹線乗り場の西明石駅にいる。私達の前には利子さんと芝多さんが来てくれている。利子さんは隆也にあれでもかこれでもかという具合にガミガミと隆也に言葉を投げつける。けどそれは隆也を心配しての言葉だという事がよく分かる。
「絢瀬絵里さん。隆也に事よろしく頼むわ」
「はい。ちゃんと面倒見ますね」
「あいつのことだからこれからまた無茶するやろうからな。また柔道技しそうで怖い」
「そんな事態にならないように願います。もう誰も傷ついてほしくありません」
「そうやな。またなんかあったら連絡してくれ。仕事の休みぶんどって東京いくから」
「そ、それは少しやりすぎかと・・・・・・」
そんなことにならないに越した事は無い。東京に帰ったら神田明神にお祈りしに行こう。
先ほどから駅の中にいる人混みを見るが私の目当ての人はやはり居なかった。
(やっぱり・・・楓さんは来なかった・・・わね・・・・・。仕方ないかな・・・)
荷物を手に取り、駅の奥へ進む準備をする。
「じゃ、東京に戻るわ」
「色々とお世話になりました」
「えぇ。気をつけて」
「またここに帰ってこいよ」
「「いってきます」」
一歩。歩き出そうとした瞬間、背後から待ち望んでいた人の声が聞こえた。
「隆也先輩!絵里さん!」
振り向くと、その人は息が荒く肩で大きく呼吸しており、額には大粒の汗を流していた。私は来ると信じていた。私はこの人を待っていた。やっと、救われたこの人を。
「・・・楓・・・・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・」
楓さんは息を上げながらも隆也の目をジッと見つめている。今まで、目が合っただけで発作が起こるはずだった。だけどそんな事は起こらなかった。克服したのだ。トラウマを。やっと・・・。
「やっと・・・・・・会うことが出来た・・・。あれのお陰で私はやっと・・・ここまで・・・戻る事が出来ました・・・。絵里さんのお陰で・・・私は這い上がる事ができた・・・。やっと・・・隆也先輩を『見る』事ができました!」
「楓・・・・お前・・・治ったのか・・・」
「まだ・・・完全じゃありません・・・。けど・・・これぐらい大丈夫です!」
「そっか・・・よかったな・・・」
「はい・・・絵里さん」
「うん・・」
「ありがとうございました!また・・・きてくださいね!」
「うん。絶対また来るから・・・」
「俺もまた帰って来るからな」
「待ってます!!」
本当によかった。ずっと苦しんで、悲しんで、辛くて、今まで助けてもらえなかった。
そしてやっと・・・助けてもらえる日が来た。
「いってらっしゃい!
私達2人は微笑み返し、手を振りながら駅の中へと進んでいった。
『いってきます』
・
・
・
「よかったわね隆也」
「あぁ。本当によかった」
新幹線の中の座席に座り込んだ。座ったと同時に安堵感と感動による涙を流していた。
「絵里お前泣きすぎだぞ」
「そういう隆也こそ。うっすら涙目よ」
「そんな事ない。これは汗だ」
「へぇ~・・・じゃ、汗という事にしておきましょう」
「そうしてくれ・・・」
私が目を離した時に服の袖で目をゴシゴシと拭いていること知ってるんだから。
「東京か・・・」
「東京に帰るのはいや?」
「嫌じゃない。けどあんな事あったから余計な」
「また一緒に行きましょ?こんどは海未たちも連れて」
「あぁ。翔輝もな」
この兵庫での旅は私にとって大切な思い出になるものだった。隆也の家族に会い、隆也の過去を知り、その過去によってトラウマを抱える女の子に出会い、隆也の友達に出会い、人を助けることがどれだけ大きな事なのかを知った。隆也の人を守ることや救うことは伊達ではなかったのだ。
「ねぇ隆也」
「ん?」
「ちょっと今回の旅で気になったことがあるのだけれど」
「気になったこと?」
「気になったことというか、隆也の部屋に会った写真なんだけれど。1つだけ気になった写真があったの」
「そんなのあったか?ほとんど高校時代のモノだから無いと思うけど・・・・・・」
この旅で1つだけ心残りがあった。隆也の部屋にあった写真の1つ。YAMAHAのR1Zに跨った隆也の写真。あれは私を助けてくれたライダーさんと瓜二つの写真だった。
もしかしたら・・・隆也は私を付けてくれたライダーさんなのではないかという疑問に至った。
「何かあったのか・・・?」
隆也が心配そうに私を見てくる。
いや、そんなに焦って詮索しなくてもいいかもしれない。すぐに今答え合わせをしても変わることはないだろう・・・。
「ごめんなさい。なんでもないわ」
「なんだよ気になるから言えよ」
「女の子は秘密が多い方がかわいいのよ」
「なんだそりゃ!そんなこと良いから言えよ」
「それ以上しつこく聞いてきたら家に帰った直後海未たちに隆也に襲われたって言いふらしてやるんだから」
「この野郎ズルいことしやがった!はいはい何も聞いてませんよ」
「ふふっよろしい!じゃ、私は東京に着くまで寝るわ。起こさないでよ?」
「起こさねえよ。俺も寝るから・・・ふぁ~・・・」
そうして私達はお互いアイマスクとイヤホンを身につけ東京に着く約3時間眠りについた。
(隆也・・・もし貴方が私を助けたライダーさんだったら・・・・・・ちゃんとしたお礼をさせてね・・・)
そんな言葉を心の中で呟きながら私は深い眠りについた。
(またね・・・兵庫県・・・・)
そして、新幹線は東京に向かって走り出した
読んでいただきありがとうございました。今回は絵里に頑張ってもらいましたね。こんなヒーローがいたら自分必死に助けを求めるでしょうね(笑)
そして今回で兵庫県編は終了です。次の話では話でも出てきた絵里とライダーさんの過去話を短いですが執筆しようと思っています。何文字いくかな・・・・(ボソッ)
その話の次に最終話に向けて書きます。勿論シリアスぶち込みますので!←(言ってはいけない事である)
そして今回新しく評価してくださった!
フリュードさん!煉崎さん!ありがとうございます!
いつも評価やお気に入り、感想などありがとうございます!見ていて元気になれます。
たまに感想読んだりしてニヤニヤしていたり・・・(ボソッ)←嘘です
これからもお待ちしております!
それでは今回はここまで!
感想・評価お待ちしております!
では・・・またな!