絢瀬絵里に出会った   作:優しい傭兵

32 / 51
隆也の秘密・悲劇

「それは一体・・・・・・・どういうことなんですか?」

「高校時代の話なのだけれど、隆也は交通事故に遭ったのよ」

「交通事故・・・・・・」

「高校3年生の時、そのときは高校の部活での全国大会前だったのよ。隆也はその時不運に事故に遭ったのよ」

「なんで、事故が起こったんですか?」

「歩道を歩いているときに車が突っ込んできたの。しかも、人を庇ってね・・・・・」

「庇って・・・・・・?」

利子さんはポケットからスマホを取り出し指を滑らしていく。そしてある程度動き終わると私にその画面を見せてきた。

「これって・・・・・・」

その画面には私より少しだけ幼い女の子が隆也と一緒にピースをしている写真だった。

「この子の名前澤本楓(さわもとかえで)。今は神戸にある隆也が行っていた高校の3年生なのよ」

「可愛い子ですね」

黒髪をポニーテールで纏め、瞳は濃い紅色。写真で見た感じで言うと雰囲気は穂乃果と花陽を混ぜたような女の子である。

「凄くおしとやかで、元気がある良い子よ」

(この子が隆也のお父さんの言っていた、女の子?)

病室で隆也のお父さんが言っていた言葉を思い返す。確か隆也が絶望していた時に励ましてくれた女の子がこの子なのかもしれない・・・・・・。

 

 

「それで、隆也のことが大好きだった子なのよ」

「え・・・?」

「柔道やってる姿や部活やってる姿の隆也を見て惚れちゃったのよ。告白はしなかったんだけどね」

「告白をしなかった・・・・・・?」

「出来なかった・・・かな。さっき言ったわよね。人を庇ったって」

「はい・・・」

「隆也はこの子を庇って事故に遭ったのよ。自分の選手生命と右足を犠牲にして」

「・・・・・・・・・・・・」

言葉が出ない。今まで隆也が壮大な人生を送って来たのはお父さんとの話で理解していた『つもり』だった。けど、まだ私が知らなかった隆也の過去があった、しかも選手生命と右足を犠牲にしてでの過去。

 

 

「これは、隆也が卒業する少し前の話よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、こんなモンかな」

当時18歳だった隆也。卒業間直に部活での全国区での大会があった。今日はその開催場所である横浜に行くために学校で部活で使う必要な物を準備していた。

「おい隆也!こっち終わったで!」

「よしならこの作業やれ翔輝。俺帰るから」

「帰らせるかボケ!」

「イテテテテテテ!!」

翔輝の十字固めをモロに喰らい地べたでバタバタと暴れまわる。

「隆也先輩、翔輝先輩」

「「え?」」

その2人の茶番をゴミを見るかのように見下ろす女の子、澤本楓。

「よう楓。そっち終わり?」

「そっち終わり?じゃないですよ。もう全部終わらせましたよ。お2人が馬鹿やってる間に」

「先輩に向かって馬鹿とはなんだ!」

「翔輝ツッこむのそこじゃない」

「馬鹿でしょ。この前の卒業考査何点でした?」

「50点!」

「留年確定ですね」

「翔輝・・・今まで楽しかったよ・・・」

「俺を見捨てるな!!」

ある程度、全ての準備が完了したので部員全員帰宅の準備をした。明日は朝の8時に学校に集合なので速めに帰って布団に包まって寝よう。

 

「じゃ、また明日な!」

「おう、気をつけて帰れ」

翔輝はこの後家の用事があるからとかで先に車で迎えに来てもらい先に帰っていった。残りの部員も次々と学校から出て行った。

 

 

 

「さてと俺も帰るか」

部室の鍵を職員室に返し、真っ暗な空の中隆也は『ぼっち』で帰ろうとしていた。

そんな時。

「隆也先輩!」

「あれ?楓?」

「一緒に帰りませんか?」

「いや、別に構わないけど、ってかなんで居るの」

「女の子に根掘り葉掘り聞くのはどうかと思いますけど?」

「じゃああえて聞かないようにしておこう・・・」

「先輩はもっと女の子のこと考えたほうが良いですよ」

「・・・それが出来れば苦労はしないんだよ・・・」

「あ、すみません!私・・・無神経な事・・・」

「いや、大丈夫や。楓や他の奴らのお陰で俺も元気になれたから」

「ごめんなさい・・・・・・あ」

楓の頭を優しく撫でてやるとふにゃりと口元が歪んだ。

「ほら、帰るで」

「あ、まってくださいよ先輩!!」

それから駅に着くまで色々な話をした。この頃の柔道の調子はどうですか?とか勉強の方はどうですかなどなど。ちなみに楓は学生トップの学力を持っている。頭が悪い隆也からしたら月とスッポンのような差だ。その頭の中身を覗きたいほどである。

 

「あーあ、もうそろそろ隆也先輩達が卒業しちゃうんですね」

「しゃーないやろ?俺がお前より先に生まれてもうてんから」

「私も同じ年に生まれてれば・・・・」ボソッ

「あ?どうした?」

「なんでもないです。けど先輩!卒業してもちゃんと高校に来てくださいね!」

「ま、時間があればな」

「あればなじゃないです!作るんですよ!」

「えー・・・めんどくせぇ・・・」

「後輩のいう事は聞いてください!」

「それは俺がいう台詞・・・・・・」

「じゃないと、会えなくなっちゃいますよ・・・・・・」ボソッ

「けどなぁ。場所が場所だからなぁ」

「そういえば同期以外に大学の場所言ってないですよね?どこに行くんですか?」

「あー言ってなかったな。神戸にある大学で、併願で東京の大学なんだよ。東京は一応だけどな」

「神戸なら大丈夫じゃないですか。ちゃんと来て下さいね!」

「分かった分かった・・・ったくうるせえな」

「えへへ!やった!」

楓は外だからそんなに激しくは喜ばなかったが、両手でガッツポーズするくらい嬉しがっていた。

(仕方ない後輩だな。たまには見に来てやるか・・・)

 

 

 

 

大学に入学しても、楽しみが減る事は無さそうだな・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

『この時、隆也はそう思っていた・・・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く帰りますよ先輩!」

「はいはい・・・・なんでそんなに元気なんだよ・・・」

「先輩より体力があるから?」

「ぶっ飛ばすぞこの野郎・・・・・・」

「できるもんならしてみろですよーだ!べー!」

「このガキ・・・・・・そんないはしゃいでたら危ないぞ」

「ここ歩道ですよ?そんな危ない事なんか・・・・・・」

 

 

キキーッ!

 

瞬間、歩道に向かって黒色の乗用車が突っ込んできた。

 

「・・・・・・え?」

楓は突然の出来事に反応が一瞬遅れてしまった。

 

 

「楓!あぶねぇっ!!」

 

隆也はいち早く反応し楓に向かって飛びかかった。

 

 

ドガシャーンッ!!!

 

 

 

***

 

 

 

「うぅ・・・・・・いたた・・・」

楓は一瞬何が起こったかわからなかった。車が来た瞬間動けなかった。瞬間スローモーションのようになりすべてがゆっくり動いているように見えた。当たる直後から意識が飛んでしまい今に至る。車が当たった冷たい感触ではなく何かに優しく包み込まれてる感触。視線を上げると額から地を流している隆也が楓の事を抱きしめていた。

「よう・・・楓・・・・怪我ないか・・・・・・?」

「先・・・輩・・・?私、何が・・・・・・」

「まあ、轢かれそうになってただけだから・・・・・・うぐぅ・・・・・・」

「額から血が出てます・・・・・先輩私を庇って・・・・・・」

「あぁ、今は救急車呼んで・・・くれないかな・・・・・・足の感覚が無いんだ・・・・・」

「え・・・・・?」

隆也の腕の中から抜け出し隆也の足を確認する。見ると左足には異常は無かった。『左足』には。そして次に右足に目を移すと、車と地面にサンドイッチにされ大量の血が流れている隆也の右足があった。

 

「先輩・・・・・・足・・・・・・」

「足・・・すげぇイテェ・・・・・・流石に泣きそうだ・・・・・・」

隆也の目からは痛みで涙が出ていた。楓はフラフラとした足つきで立ち上がりすぐにスマホを起動させ警察と救急車を呼んだ。

 

(血・・・足・・・・・・先輩・・・・私を庇って・・・・・・)

除々に頭が覚醒してくる。今起こってる事が理解できてくる。隆也は楓を庇って身代わりになりその代償に足を大怪我した。自分の命よりも楓の命を大切にした。柔道やバスケをするのに大切である足が今は動かないどころか感覚すらない。

 

(私のせいで・・・・・・先輩は・・・・・・)

 

血の気が引いてきてガタガタと体が震えだす。そして目からは涙が流れ出し、口からはあまりの光景に胃の中身が全部出そうだった。

 

 

(いやだいやだいやだ嫌だ嫌だ嫌だイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ・・・・先輩が・・・先輩が・・・・・・・センパイガ・・・・・・)

 

 

 

「いやああああああ!!!センパアアアアアイ!」

 

 

 

 

***

 

 

 

隆也の足は粉砕骨折を起こしていた。骨折と同時に足の靭帯がボロボロになり、すぐには歩けない状態になってしまった。その事故で骨にはボルトなどを手術で詰め込みなんとか元の形にする事が出来た。だが勿論代償はあった。その事故により足の骨は以前のような頑丈なモノではなくなった。粉砕骨折した足の半分は人口骨を入れ、多少走るぐらいなら問題なく歩くことや軽く走る事は出来るようになった。しかし激しく動かしたり骨に衝撃を与えたら二度と歩けなくなる可能性がある。

勿論全国大会では隆也は出場できず観覧状態だった。柔道も止めバスケも出来なくなった。

 

 

隆也の選手生命が絶たれたのだった。

 

 

楓は目立った怪我はなく体に支障は無かったがその事件のせいで隆也を見るとあの事件の光景がフラッシュバックし吐き気が起こるようになってしまった。自分のせいで隆也のモノを奪ってしまった。私がもっと気をつけていればとずっと悔やんでいる。

隆也が卒業する時も楓はその場に姿を現さず、隆也は楓と顔を会わせぬまま卒業した。

 

神戸の大学へは柔道の推薦で入る約束だったが柔道が出来ない体になっているので推薦の話は無しになり、併願だった東京の大学に隆也は入学。

楓は現在は高校3年生として在籍。

 

 

 

あの事件では色々なモノを無くし壊し、不快な思い出となった。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「これでお話しはおしまい。大丈夫・・・・・・?」

「はい・・・・・・大丈夫です・・・・・・」

私はその話を全部聞き終わるとあまりの悲しみに涙が止まらなかった。隆也の過去は辛すぎるものだ。柔道もバスケも出来ぬ体になり、この兵庫県にひどいトラウマができてしまった。

これで全てが繋がった。芝多さんの言っていた足の意味が。隆也は私を助けた時に無理矢理足を動かし柔道技を使った。二度と歩けなくなると分かっていて・・・。

「けどね絵里ちゃん」

「はい・・・?」

「隆也ね。その事故の後こんなこと言ってたわ」

「?」

 

 

 

『俺の足1つで1つの命が救われたなら安いモンじゃない?』

 

 

 

 

「っ・・・・・・」

「柔道もバスケも出来ない事に後悔なんかなかったのよあいつは。むしろ誇らしく思ってたわ。私達の気も知らないで」

「ははは・・・・・・」

話にひと段落着いた時。

 

「ただいまー!!」

「あ、帰ってきたわね。そろそろご飯にしましょうか」

「あ、私も手伝いします!」

「いいのよ絵里ちゃんはお客なんだから。少しここで休んでて。今は無理でしょ?」

「あ・・・・・・はい・・・」

 

そういってペタリと座り込んだ。

 

 

「絵里ちゃん」

「はい・・・」

「私はあの子の事誇りに思うわ。だからずっと隆也の側にずっと居てあげてね?」

「はい・・・・・・」

「じゃ、また後で呼ぶわね」

利子さんはそのままパタパタと走っていきその部屋には私だけになった。

 

「隆也・・・・・・」

フラフラとした足取りで立ち上がった時写真立てが沢山ある棚に手をついた。その瞬間1つの写真がヒラリと舞い落ちた。

 

 

「あ、」

拾い上げてその写真を見るとバイクに跨った隆也の姿があった。

「え・・・?」

けどそれは私にとって奇妙なものだった。隆也が跨っているバイクはYAMAHAのR1Zというバイク。そして隆也の姿は全身真っ黒のバイク用の服を着ていた。そしてヘルメットは白色。この姿はバイクに乗っている人間なら特にめずらしくもない姿だが絵里にとっては衝撃的なものだった。

 

 

 

まだ大学に入学するまえに原付を乗っていた時代。ガス欠とエンジントラブルにより動かなくなった時に困っていた時に私を助けてくれた人とまったく一緒の姿を隆也がしていたのだから。

 

 

この姿、そしてこのバイク。あの頃から忘れたことはなかった。あの誰も助けてくれないというときに私を助けてくれた男の人。私がバイクを乗るきっかけを作ってくれた人物。

 

 

 

 

「ライダー・・・・・・さん?」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

隆也と利子さんが晩御飯を作ってる間、私は横山家の庭で東京にいる翔輝さんに電話をかけた。

『そうか、知ったか隆也の足のこと』

「えぇ、なんで隆也はこれを隠していたのかしら・・・」

『あいつは絵里ちゃんに心配かけたくなかったんだよ。俺もあいつから

口止めしといてくれって言われたから』

「・・・・・・私、この話聞いてる時涙が止まらなかったのよ・・・・・・」

『絵里ちゃん・・・』

「隆也の・・・過去が・・・辛すぎて・・・」

『絵里ちゃん。苦しいかもしれないけど今それを考えてもなんにもならない。運命だったのかもしれないのだから。絵里ちゃんは隆也の側に居てあげて。それがあいつにとってどんなことよりも幸せなんだから』

「私・・・隆也の力になってるのかしら?」

『自信持って。海未も俺もそれはよく分かってるから・・・・』

「うん・・・うんっ・・・・・・」

『そして絵里ちゃん。君に会いたいっていう人がいるんだけど、いいかな?』

「会いたい人?」

『澤本楓だ』

「澤本・・・楓・・・さん?」

『話を聞いたから知ってると思うけど楓は隆也を見ると発作を起こすから会うことは出来ない。隆也が帰ってきたことをあいつに連絡したら隆也の彼女である絵里ちゃんに今の隆也がどんな感じなのかを会って聞きたいみたいなんだ』

「そう、楓さん・・・・・・」

『絵里ちゃんがこれは決めてくれ。君の自由だ』

澤本楓さん。隆也が大好きなのに今では会うことすら出来ない。これは私の予想ではあるが楓さんは隆也に会って謝りたいはずだ。あれは自分のせいだと、自分がしっかりしていればと、私が隆也と『ニセモノ』の恋人になって隆也がリンチされて隆也を突き放した私のように。その気持ちが私にはよく分かる。これは、楓さんを救う事に繋がるはずだ。

 

 

 

「分かったわ。私・・・・・・楓さんに会うわ」

『了解。あいつにも連絡して会う時間とか色々決めるから後々連絡する。今は隆也の実家で休んでて』

「ありがとう・・・翔輝さん」

『大した事はしてないよ。じゃ、あとで』

「えぇ」

 

 

 

 

 

(エリーチカ・・・しっかりやるのよ)

 

自分に喝を入れるために両手で自分の頬を叩く。

 

 

 

 

(これは・・・・・・私にしか出来ない事だからっ!)

 

 

 

 

「絵里ちゃーん!ご飯できたわよー!」

「あ、はーい!今行きます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『こんどは私が、楓さんの心を助けるヒーローになる番よ!』

 

 

 

 

 

 

以前、隆也が絵里を助けたように。絵里はそれを心に秘め横山家に入っていった。

 

 

 

 

 

 




どうもみなさん!久しぶりにシリアスです!隆也の秘密と悲劇が明かされました。そしてかなり前の話で出した『ライダーさん』。絵里は澤本楓さんとどうなるのか、そして写真にあったライダーさんと瓜二つの隆也。これも後々秘密を明かしていきます。
少しの間は絵里が主体のお話になるとおもいますのでよろしくお願いします。


そして今回新しく評価してくださった!
敬称楽さん!ありがとうございます!


では今回はここまで!
感想・評価お待ちしております!


では・・・・・・またな!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。