「ギァァァ!?」
片方の剣を支点にして飛び上がり、落下の勢いを利用したアマネの攻撃。
それはロアルドロスにしっかりとしたダメージを与えることに成功したものの、もう一つ大きな引鉄を引いていた。
「あれ、これはやっちゃったかな?」
小さく体を縮め、猛然とアマネに飛び掛るロアルドロス。それを大きく躱したアマネだったが、その表情はあちゃー、やってしまったかなー、という表情であった。その理由とは、
「ギィアォォォァア!!」
その理由とは、ロアルドロスの怒りの引鉄を引いてしまったこと。ロアルドロスは「狂走エキス」という特殊なエキスを体内に持っており、他のモンスターと比べてスタミナ量が多く、活発に動いていられる時間が長い。さらに怒ったモンスターは動きが活性化し、ただでさえ厄介なモンスターが更に厄介になってしまう。
ましてやスタミナ量の多いロアルドロスだ、疲れ切るまで時間がかかるからこそ怒り状態ではない状態の間に出来るだけダメージを与えておきたかったのだが(ヤマトが慣れるまで、という理由もある)。
「キレたか!?」
「ゴメンね、やりすぎた!」
怒りの咆哮と共に口から時たま零れる水蒸気。完全に怒った証拠だ。
「やっば、剣の片っぽ刺したまんまじゃん!」
更にはアマネは先程の落下攻撃の為に双剣の片方を尻尾に刺したままだ。これでは双剣の持ち味である両手での連続技攻撃も出来ない。
その状況を見てヤマトはまずアマネ寄りに位置しているロアルドロスの注意を引くことを第一に考えた。いくら熟練のハンターと言えど、怒り状態の大型モンスター相手に双剣一本では苦しいだろう。
しかし、「戦う」となるとヤマトが互角に渡り合える自信もない。あくまで「注意を引く」ことだけを考えて。
「俺が前に出る!」
アマネに聞こえているのかは確認せずにロアルドロスに突っ込むヤマト。ロアルドロスもすぐにヤマトに意識を傾け、前脚の爪でヤマトを切り裂こうと前脚を大きく振るう。ヤマトはそれを掻い潜るように前に躱し、攻撃に使わなかった方の前脚を狙って太刀を振るった。しかし、
「っ!?硬ぇ!」
しかし、前脚を覆う鱗は想像を上回る硬度を誇り、ヤマトの鉄刀「楔」では刃を入れることすら適わなかった。大きく弾かれ、体勢を崩してしまう。
それを見逃さずに口を大きく開けるロアルドロス。その口の中には雑食に相応しい、尖った歯、臼のような歯、様々な歯が綺麗に並んでいた。ヤマトはその歯を見て直感的に恐怖を覚える。その無茶な体勢のまま後ろに引こうとした。
そしてその一瞬後、ロアルドロスがヤマトに向かって噛み付こうとその歯をヤマトに突き出し、口を大きく閉じた。無理に回避したヤマトは噛み付かれることは無かったものの、前進する為に前に出ているロアルドロスに軽い頭突きを食らうような形になり、軽く突き飛ばされる。姿勢が悪かったこともあり、受身が取れない。
「ガハッ......」
全身が軋むように痛む。幸いにも勢いはあまり無かった為に、そこまで大きなダメージは無さそうに感じた。しかし、ここですぐに姿勢を正さねばロアルドロスが次突進してきた時に回避が間に合わない。すぐに立ち上がり、ロアルドロスを視界に入れようとした、その瞬間。
「なっ!?」
目の前の視界に入ったのは、巨大な水の塊。真っ直ぐこちらへと向かってくる。予想外のモノが視界に飛び込んできた為に、ヤマトは思考が一瞬止まり、回避が出来ない。
ロアルドロスは鬣に大量の水を蓄える。それは元々水棲であるロアルドロスが地上で生活する際のスタミナ供給源となる。そして、その蓄えた水を発射することによって、敵を攻撃する必殺技にもなるのだ。
その必殺技をもろに受けたヤマト。水球の威力は凄まじく、ヤマトはハンマーか何かで思い切り殴られたのかと錯覚した。思い切り倒れ込み、更に鼻に水が入ったのか、それとも肺の空気を吐き出してしまったのか、思い切り咳き込む。
「ゲホッ!ゲホッ!!……ゴホッ!」
ロアルドロスはそこをチャンスと見たのか、後脚を強く蹴り出し、ヤマトを更に追撃しようと突進した。
「そうなんどもやらせないわよ!!」
しかし、そこに横槍が入った。尻尾の根元に刺さった剣をしっかりと掴み、ロアルドロスに思い切り蹴りを加えたアマネだ。蹴りの勢いで剣が抜け、傷口からタラリと血が流れる。しかし、その傷口は切り傷、刺傷ではなく、火傷に近かった。
横槍を入れられたことに苛ついたのか、ヤマトからターゲットをアマネに変更するロアルドロス。ヤマトはなんとか立ち上がり、応急薬を飲んだ。痛み止めと傷の治癒を速める効果のある応急薬を飲み、痛みを無理矢理止める。
「少し休んでていいよ!私が注意を引くわ!!」
今度はヤマトに代わりアマネが動き始める。ロアルドロスが体をひねろうとしている所に合わせ、ツインフレイムの刀身を合わせて擦る。それはアマネが本気で攻撃する前に行うルーティン。それを行うと目付きが完全に変わり、全身の体温まで上がるような感覚に陥る。双剣使いが防御を完全に捨て、ひたすら斬ることだけを考える、まさに羅刹の戦法、「鬼人化」。
ロアルドロスがひねった体の勢いで尻尾を思い切り振るい、アマネを薙ぎ払おうとした瞬間、アマネの姿が消えた。いや、消えたように見えた。
尻尾と地面の間を超速で通り抜け、ロアルドロスの懐に潜り込んだのだ。鬼人と化したアマネの移動速度はモンスター以上となっている。
「うあああああ!!!」
そして懐に潜り込んだアマネは一心不乱に両手の剣を振り続ける。飛び散る鮮血。ロアルドロスが懐のアマネをなんとか離れさせよう、攻撃しようとしても先程の超速移動でかわされ、ただ切り刻まれるのみ。
「ヤマト!!行ける!?」
しかしこの鬼人化、当然ながら弱点が存在する。物凄く「疲れる」のだ。精神をトランスさせ、目の前の敵を斬り伏せる事だけの為に体中のスタミナを全部使って攻撃する為、鬼人化していられる時間は短く、そして使用後は途轍もない疲労感に襲われる。その為、効果が切れる直前にモンスターの攻撃レンジから外れるか、仲間の援護を受けるのが定石だ。
「ああ、問題ない!!」
「オーケー、任せるよ!」
ロアルドロスの尻尾に上手く吹き飛ばされながら叫ぶアマネ。鎧の部分で攻撃を受け、受身も取りやすい姿勢だからダメージは少ないだろう。
アマネの猛攻の間に体を一度休め、痛みも相当和らいだヤマトは再度ロアルドロスに向かう。ロアルドロスは怒り狂っているらしく、水球を至る所に放ち続けている。
「リベンジだこの野郎……!!」
水を吸って重くなったユクモシリーズをものともせずに走り出し、正確に尻尾目掛けて太刀を振るう。今度こそはしっかりと刃が通り、しっかりとした手応えを感じた。
「せぁぁあ!!!」
先程受けたダメージを返すかの如く、太刀を振るい、攻撃を躱すヤマト。その戦い方はヤマトが得意とする戦法であり、やっとエンジンがかかってきている印象を思わせた。どうやら初めて戦うモンスターだった為、緊張していたらしい。
「慣れてきたならそろそろ同時に攻めるわよ!!」
「ああ!!」
アマネが竜車の上で話していた作戦、それはまずは一人ずつ戦い、ヤマトがロアルドロスに慣れることだった。慣れないモンスター相手に慣れないチームプレイは難易度が高いからだ。そしてやっとヤマトがロアルドロスを相手にするのが慣れてきた所、そこからチームプレイによる攻撃を始めよう、という作戦である。
「行くわよ!」
モンハン始めたばかりの時って、どんな大型モンスターでもビビりましたよね。ヤマトもロアルドロスにビビってた......わけです。
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