モンスターハンター 〜舞い踊る嵐の歌〜   作:亜梨亜

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割と早めに投稿できたのではないでしょうか(自画自賛)

それでは本編をどうぞ。

 


生きよ乙女

 いつだっただろう。

 

「やっぱ私もハンター目指そうかな」と考えたのは。

 

 あの時はとても不純な理由で考えていた気がする。

 こんな大きくて、恐ろしいバケモノみたいなモンスター達と命のやりとりをするなんて、あの時は考えてもいなかったんだろうな。

 

 コイツもハンターなんかじゃなければ、今こんな大怪我を負う必要は無かっただろうに。……私が代わりにその傷を受けて、ただ野垂れ死んでいただけだろうに。

 

 ヤマトが持っていた刀は重い。両手でしっかり持っていないとまともに振れる気すらしない。

 手の震えが止まらない。目の前にいるモンスターの輝く眼が怖くて仕方が無い。いつ、その大きな刃のような翼で斬られるのか、いつ、その大きな口で食いちぎられるのか、怖くて仕方が無い。

 身体が重い。命の危機を感じているのだろう、自分の体が自分のものですら無い気がする。

 

 いつもヤマトは、こんな重圧に耐えて戦っていたんだ。

 

「ギャオオオォォ!!!」

 

 怖い……けど、私にだって重圧に負けないだけの理由がある。

 

 バケモノが飛び掛るようにこちらへ突っ込んで来る。幸いにもコイツは目の前の私にしか興味が無い。倒れたヤマトのことなんか考えていないように私に突っ込んできた。

 

 ヤマトが身を呈して繋いでくれた、信じてくれた「生」だ。このバケモノなんかにくれてたまるもんか!

 

 足を動かし、バケモノの視界の外へ逃げる。耳元で風を切り裂くような音が聞こえた。それはつまり……私の全力疾走でやっとあの距離からの突撃をギリギリ躱すことが出来る程度、ということだ。

 すぐに振り向き、バケモノが次にどうして来るかを見極める。バケモノは左の方に体の重心を移動させていた。つまり……

 

「右っ!」

 

 予想通り、バケモノは右へ勢い良く跳んだ。その動きは見えない程に速い。けど、両眼の赤い光が残光のように追いかけていくのは見える。

 

 私はヤマトみたいなトンデモナイ身体能力は持ち合わせていない。狩りのノウハウも知らなければ、知識も無い。経験も無い。でも、ヤマトと同じモノを持っている。

 

 私は……集中力だけはヤマトに負けないと思ってる。

 だって、こんなに一途なんだもん。ずっと一人の人に集中してるんだよ?

 

 神経を研ぎ澄ませて、赤い残光を追うんじゃない。赤い光そのものを追いかけるイメージ。

 光だけじゃない。音も聞くんだ。ミシミシ、という木の枝を勢い良く踏み潰した音。パシャン、という水を叩いたような音。ヒュン、という風を切るような音。

 

 徐々に感じていく、黒いバケモノの気。今どこを、どのように動いているのか……何となく解る。

 

 気付けば、刀は少し軽くなっていた。震えと怯え。私の中の「死」が、刀を重くさせていたのだ。

 

「グギャァァォッ!!」

 

 飛び回り、私を翻弄していると錯覚したバケモノは背後から私を切り裂くようにブレード状の翼を突き出す。それを私は……当たるか当たらないかのギリギリで躱し、横をすり抜けるかのように全力疾走した。

 

「うあぁぁぁぁああっ!!」

 

 そしてヤマトの刀を振り上げる。人生で初めて、生きたモノに殺意を向けた攻撃を加えた。初めての攻撃は尻尾に吸い込まれ、バケモノは一瞬、怯んだ。振りすぎた勢いで私は勢い良く転がった。

 

 既に息は切れそうだ。集中力は研ぎ澄まされているけど、だからといって体力も増えるわけじゃない。当たり前なんだけど、正攻法で戦って勝てるとも全く思わない。

 

 だけど負けるわけにはいかない。

 死ぬわけにはいかない。

 死なさせるわけにもいかない。

 

 もう二度と、友達を失いたくないから。

 

 そして、好きな人を失いたくないから。

 

 刀を低めに構える。バケモノの気はまだまだ感じ取れる。よく見ると、瞳に宿った怒りの光は消えていた。だけどまだまだ元気そうに見える。……出来ればそのまま帰ってほしいんだけどな。

 私はアイツの気を感じ取りつつ、必死に今までの人生で役に立ちそうなことを思い返していた。お母さんとの稽古、ヤマトとの稽古、組手……

 

 そうだ、今まで私はお母さんやヤマトみたいな自分より強い人と組手で戦ってきたじゃない……コイツだって同じよ。自分より強い、組手の相手っていうだけ。

 

 やることは決まった。

 

「来なさいっ!」

 

「グェァァアアァ!!」

 

 またもやバケモノは飛び掛るように突撃してくる。バカね、同じ技を何回もやったって当たりゃしないのよ!

 さっきやったのと同じ要領。ギリギリまで引き付け、生と死の刹那に身体を捻って全力疾走。水辺に足を突っ込み、軸足を使って身体を回し、正面にバケモノを捉える。バケモノも、丁度私を視界に捉えた所だった。

 

「やぁぁぁっ!!」

 

 その瞬間、私は水を切り裂くように刀を振り上げた。ザッパァン、という音と共に恐ろしい程の水飛沫があがり、一瞬、私とバケモノの間に壁を作り出す。バケモノは一瞬私を見失い、私はその隙にその壁を突っ切って、刀をバケモノの鼻先に振り下ろした。頬を温かい何かが撫でる。その感覚はひどく不快で……ひどく甘美的でもあった。

 でもそんな感覚を気にしている暇は無い。

 

「ぁぁぁあっ!!」

 

 振り下ろした勢いそのままに刀を手から「離し」、鼻先の傷に驚いたバケモノの、文字通り目の前で……思い切り柏手を打った。

 所謂、猫騙し。

 

 生物は目の前で何かしらの衝撃が発生すると、反射的に目を閉じてしまう。それは「目」を持つ生物なら目を守る為にどのような強者であっても反射的に行われる行為だ。

 つまりそれは……このバケモノだって例外じゃないはず。

 

「ギャウッ!?」

 

 一瞬目を閉じたバケモノの隙を見て右足で思い切りバケモノの傷口を蹴る。その勢いで後ろに飛び、左足で刀を引っ掛けて後ろに放る。バケモノが目を開けた瞬間には私は奴から離れ、両手で刀をキャッチした所だった。

 

 自分より強い相手と組手する時の戦い方。それは手段を選ばないことだ。

 昔、ヤマトと組手をしていた時は真っ先に股間を狙い、悶絶した所をボコボコにしていた。

 それが対策され始めると、今度は真っ先に猫騙しをかけて、目を閉じた瞬間に股間を狙い、悶絶した所をボコボコにしていた。

 

 なりふりなんか構っていられない。出来ることは何だってする。女だから、人間だから、自分より強いバケモノに勝つ為にはどんな方法だって使ってやる。

 

「グギャァァォァァア!!」

 

 またもや右へ左へ飛び回り、私を翻弄しようとし始めるバケモノ。しかし集中力を持ってしてコイツの気を感じ取っている私は常にどこを飛んでいるのかが理解出来ている。そんなことしたって……

 

「あうっ」

 

 足が、もつれた。

 あれ?

 アイツが今何処にいるか解らない。

 とにかく立たないと。

 

 今までこんなにも集中したことは無かった。

 だから気付けなかった。

 私の精神力は、とっくに限界をすぎていたんだ。

 

 その瞬間、異様な恐怖心が蘇ってくる。

 アイツは今どこ?

 気を全く感じ取れない。

 ヤバい、私今ちゃんと立ててる?

 

 死ぬかもしれない。

 

 

 

 

「バカかお前……勝手に戦って死ぬんじゃねえよ」

 

 

 

 

 

 え?

 

 今の声、誰?

 

 反射的にヤマトの方を振り返る。

 

 あいつは……うっすら目を開けて、確かに、確かに私を見ていた。

 

 震えが止まった。

 

 ヤマトと私を遮るように、バケモノがフッと現れる。

 

 

 

 

 

「リタ……!腰引け!」

 

 

 

 

 

「うっ……あぁァァぁぁあぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 何も考えられなかった。

 ただ、思うがままに刀を振り下ろし、同時に腰を思い切り引いた。

 

 その一撃は吸い込まれるように……バケモノの片目を斬り裂いた。

 

「グゥァギァァアォァッ!?!?」

 

 そして精神力の限界の、さらに限界を越えた私は……そのまま倒れ込んだ。

 

 嘘でしょ。

 

 身体、全く動かないんだけど。

 

 感覚だけが研ぎ澄まされていく。でも身体は動かない。

 水がいやに冷たい。いつの間にかずったずたになった服も重い。

 バケモノがブレード状の翼を引く予感がした。

 

 ダメだ、死ぬわ私。

 

「おい、リタ?」

 

 何でだろう。ちっとも怖くない。

 

「おい、リタ……逃げろ」

 

 無理だよ、体動かないんだもん。

 

「聞いてんのか、リタ……おい!」

 

 あんたもそんな声出しちゃダメだよ……傷開くよ?

 

 今思うと後悔まみれの人生だったな。

 お母さんのタケノコ料理ももう少し食べたかった。

 アマネさんともう少し話してみたかった。

 

 

 何より……

 

 

「おい、リタ?リタっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きって、言いたかったな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だったら生きてそれを言いなさいっ!!」

 

 研ぎ澄まされていた感覚が、死が遠のいた事を教えてくれた。

 

 二度目の助け。それは……二本の剣が空を飛んでいるように見えた。

 

 

 

 

 いつもの様に踏みつけ、いつもの様に飛び上がり、いつもの様に上から斬り付ける。

 いつもと違うのは状況。上位ハンターになったアマネの最初の仕事はナルガクルガの討伐及び、ヤマトとリタの救出だった。

 いざアマネが来てみれば状況はほぼ最悪。ヤマト、リタ共にまともに動けそうな状況ではない。しかし驚く事にナルガクルガの片目は潰され、二人共なんとか生きていた。必死に、二人共生きたのである。

 ネコタクシーはベースキャンプに到着した時点で手配してある。もう間もなくここに現れ、すぐにヤマトとリタを連れてベースキャンプまで離脱してくれるだろう。

 

 何はともあれ、二人は生きていた。アマネは、ただそれだけで安心していた。

 

「リタちゃん、よく頑張ったわ。……本当に、本当に。あとは私に任せて」

 

 出来るだけ優しく、安心させるように。アマネはリタの目の前に立ってそう言った。しかし顔は見せない。背中しか見せることは無い。今の彼女の顔は……血を求めるモンスターそのものだから。

 

 ガラガラ、という慌ただしい音が聞こえる。ネコタクシーがこのエリアまで到着したのだろう。

 

「乗って!」

 

 ビクッとしたリタ。なんとかして立ち上がり、ネコタクシーに崩れるように乗り込む。そしてネコタクシーはヤマトの元へ向かい、二匹のアイルーがヤマトを持ち上げて無理矢理荷台に載せた。

 そして慌ただしくエリア6を離れようとするネコタクシー。ナルガクルガの目線がそちらに移動し……飛び掛った。

 

「ヤバッ!ヤマト!リタちゃ……」

 

 しかしその攻撃がネコタクシーに届くことは無かった。

 

 その途中で、ナルガクルガが怯んだのだ。

 

「え?」

 

 飛竜刀『翠』は斬った相手を毒で蝕む。

 

 アマネはそれが今になって効いてきたのだと思った。

 しかし……本当にそうだったのだろうか。

 

 ネコタクシーの荷台で、余りに恐ろしい、古龍種すら怯ませるような迫力の瞳で……ナルガクルガを睨み付けるヤマトの姿があったのだ。

 

 毒か、気迫か。どちらにせよ、ナルガクルガが怯んだお陰でネコタクシーは離脱に成功した。

 

「……助かったわね。さて、黒猫ちゃん……」

 

 ターゲットを逃がしたナルガクルガは、イライラした表情でアマネを睨む。対するアマネは……不敵に笑っていた。

 

「代わりに私が遊んであげる」

 

 その瞬間、ナルガクルガの視界からアマネが消えた。

 そして刹那、ナルガクルガの頭を凄まじい衝撃が襲った。

 

「私ね、他の人と狩りをするのって苦手なのよね」

 

 ナルガクルガは本能的に何かを感じた。

 

 こいつはヤバい。

 

「だって、こんな私……モンスターと変わらないじゃない?」

 

 アマネの眼が、異常に充血し始める。溢れ出る殺気。羅刹のような気迫。

 歪み切った表情は血を求める獣のようで。溢れ出る殺気と闘気は、空腹の獣のようで。

 

「ゴメンね、私こうなったら……止められないから」

 

 二本の剣が、血を求める。それに従うだけの、殺意を唄う人形。

 

 

 獣宿し、餓狼。

 

 

 迅竜の名を持つナルガクルガが、ただの人間に恐怖を感じる瞬間だった。

 





 めっちゃどうでもいいんですが、新しいニチアサも面白そうですよね!

……はい。ヒーローは好きです。

感想、評価等、宜しくお願いします。

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