夏終わりましたね。まだまだ暑いです。
それでは本編をどうぞ。
「お話ってなんですか、アマネさん」
ひどくぶっきらぼうなリタ。今の彼女なら轟竜すら倒せるかもしれない。
対するアマネは、二人になった途端いつものあっけらかんな表情に戻った。
「リタちゃん、色々勘違いしてるようだからまず言っとくわね。私彼氏いるから別にヤマトは狙ってないわよ」
サラリと言い切ったアマネ。それを聞いてリタの顔は一瞬ホッとした顔になり、その後すぐに紅くなった。
「別に私も狙ってないですけど!?」
「あら、そうなの?じゃあ彼も頂くわね」
「あっダメッ!絶対ダメです!!」
「……ヤマトと違って貴女はわかりやすいわね」
耳の先まで真っ赤になったリタはきゅうぅぅ、と小さくなった。アマネはその横にドサリと腰掛ける。
「恋ってさ、ムカつくわよねー」
「……はい?」
太陽がかなり高くまで昇っている。小さな雲が漂う綺麗な空を眺めながら、ボヤくようにアマネが話し始めた。
「ムカつかない?惚れた奴のどこがいいんだか、どこに惚れたのか。解んないんだもん」
リタも同じように空を眺める。
「そのクセにさ、「私は貴方に惚れた」っていう事実を認めさせたいのよねー。でも拒絶されたら嫌だから面と向かって言えないのよ」
ふと、昨晩の事が蘇る。
リタも、素直な気持ちが拒絶されるのが怖くて、寝たフリをしながら、寝言のフリをして幾つかの言葉をヤマトに紡いだのだ。
この人、エスパー?
「相手がさ、それとなく察してくれたらどれだけ楽か。ヤマトみたいな鈍感バカは無理でしょうね」
それは私も同感です。心の底で呟いたリタ。
「だからね、リタちゃん」
ふと、空を見ていた視線をアマネに戻す。アマネも同じように、リタを見ていた。その顔は優しく、楽しそうな表情をしていた。
あ、これ。
恋してる人の顔だ。
何故かリタはそう思った。
そしてその相手は……彼女の言うところの彼氏なのだろう。
そうであって欲しいという願望も少しだけ。
「貴女はいつか、自分の素直な気持ちをアイツにしっかり伝えなさいね。じゃないと……アイツは気付かないから」
「…………」
何故かリタはアマネの顔をずっと見ていられなかった。
少し紅くなりつつ、リタは目を逸らしながらアマネに質問を投げかける。
「どうして……彼氏がいるのにヤマトにちょっかい出すんですか」
アマネの表情は変わらない。
空の雲は少しずつ動いている。
「ちょっかい出してるつもりは無いんだけどね……似てるのよ。何か、彼氏に」
リタの顔の色も変わらない。
いや、少し赤みが引いてきているだろうか。
「じゃあ、どうして急に私にそんな話をしたんですか」
「それも似てるからよ。私と貴女が」
リタはハッとしてアマネの顔を正面から見た。
彼女の顔は相変わらず優しそうで楽しそうだ。
まるで、恋愛を、彼氏との時間を心の底から楽しんでいるような顔。
「まぁ、うちの彼氏も鈍感バカだから私ほったらかしてどっか行ってるんだけどね」
それを待つのも楽しいの。
アマネの表情はそう言っている気がした。
私には、まだその気持ちは解らない。
私なんかよりずっと大人で。
私なんかよりずっと恋を知っている。
私と貴女が似ているなんて……きっとないだろう。
今までアマネを嫌っていた理由が解った。
彼女はリタよりもずっと大人で、恋を知っていたから。本当にヤマトが取られてしまうような。幾ら付き合いの差があったとしても、負けてしまいそうな。
そんな気がしていたのだ。
「……まぁ、頑張りなさいな。私も彼氏が帰って来なかったらヤマト貰うけど」
「ダメですって!色情魔ですかアマネさん!」
「ちょっ、色情魔は無いでしょ!」
急に不服な呼び名を付けられたアマネの顔が初めて紅くなる。その表情は、案外リタに似ていた。
あ、可愛い。
リタは不覚にもそう思っていた。
雲はいつの間にか見えなくなっている。
「……彼だってあー言っておきながら、きっとリタちゃんを守ってくれるわよ」
「知ってます。だってアイツ、私には死ぬまで適わないんですもん」
さっきリタが不機嫌になった理由は、嘘でも「守ってやらないと」と言われたかっただけなのだ。
本当にそんな時が来たなら、ヤマトがなりふり構わずにリタを守ってくれる事など、リタが一番よくわかっている。
「アマネさんの彼氏はどうして今いないんですか?」
「んー?仕事」
「何の?」
「ハンターよ」
少しだけアマネの表情が曇る。
彼氏は帰って来ない。
仕事はハンター。
リタは、それが何を意味するのか解っていた。
だから、似ているというヤマトに面影を感じているだろう。
おそらくヤマトは……そんなことにも気付いていないのだろう。鈍感だから。
「ホントムカつく奴だわ、恋って。なんであんな奴が今でも好きなのかわかんないもん」
心底イラついた声音でアマネが呟いた。
それは本当に恋に対してイラついているのか、はたまた何かを隠したかったのか。
そこまではリタには解らない。
「……私、帰りますね」
「あら、ヤマトとお話しなくていいの?」
「今日は、アマネさんとお話出来たからいいことにします。今日は渓流にタケノコ取りに行かなきゃダメだし」
立ち上がり、尻についた砂を払うリタ。その顔に紅さは無く、少し楽しそうな表情をしていた。
恋をしている顔だ。
「……そう。私も良かったわ、貴女とお話出来て」
「はい!じゃあ、また」
リタの背中は、普段より少し女性的に見えた。
「リタちゃん、帰ったわよ」
ヤマトの家に戻り、家の中で待てを食らっていたヤマトに声をかける。ヤマトは何故か少しホッとした表情で水を飲んだ。
「あなた、あんないい子中々居ないわよ?もっと大事にしなさいよね」
「……まぁ、否定はしない」
「何よそれ」
クスリと笑うアマネ。対するヤマトはまたもや水を飲んでいる。
「あー、そうだ。本当の目的忘れてた」
ぽんと手を打ち、ニコリと微笑むアマネ。どうやら掛かり稽古が目的でヤマトの家に来たわけでは無かったらしい。
「緊急クエストの達成、おめでとう。これからはあなたが受けられるクエストの難度も上がるそうよ」
本当の目的は緊急クエスト達成に対するギルドマスターからの報酬。それを伝えに来たのだろう。
クエストには危険度が存在する。ジャギィの狩猟しか行えないハンターがリオレイアの討伐依頼に向かっても無駄死にしかしない。そういった事態を防ぐ為に、一定の実力を持ったハンターでないと一定以上の危険が存在するクエストは受注出来なくなっているのだ。所謂リミッターである。
つまりそのリミッターの上限が上がったのだ。
「ちなみに私は上位ハンターになりました」
「は?」
「ちなみに私は上位ハンターになりました」
「嘘だろ?」
「本当よ」
そして緊急クエストを受けていたのはヤマト達だけでは無い。孤島に出現したジンオウガ、ラギアクルスの狩猟も緊急クエストとして扱われていたのだ。それを受注し、達成したのは、アマネである。
因みにアマネは一人でその危険極まりないクエストに挑み、一度もネコタクシーを使うこと無くヤマト達より早く帰還している。ヤマトはその事を思い出し、目の前の女性が若干恐ろしくなった。
「シルバじゃねえけどアンタは確かに怖いわ」
「え?シルバ君がどうかしたの?」
「……いや、何もねえ」
よくよく考えてみれば、ユクモ村で少し問題となっているハンター不足、ましてや上位ハンターは現在ユクモ村には居なかった。アマネがユクモ村唯一の上位ハンターとなるのはある意味必然だったのかもしれない。
「一応集会所行けばまたマスターにその事を言われると思うけど、報告に来たの。あ、ちなみにリタちゃんは渓流にタケノコ採りに行くそうよ」
「それは別に聞いてないんだが」
「ま、なにはともあれおめでとう。私も帰るわね」
ふらっと家から出ていくアマネ。
コップに目をやると、もう水は入っていなかった。
「女ってのはよくわかんねえな」
そういえばまだ朝ご飯を食べていない。
ムーファのぬいぐるみをベッドに寝かせ、朝食の用意を始めるヤマトであった。
少し短めですね……申し訳ございません。
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