モンスターハンター 〜舞い踊る嵐の歌〜   作:亜梨亜

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そういえばモンスターハンターワールド、あれヤバイですね(語彙力が来い)

PS4持ってないんで出来ないですけど。


渓流激戦

 四人の狩人の全力。

 

 四人の狩人のチームワーク。

 

 それを常に出し続けることで、人は、やっと一体のモンスターと互角以上に戦うことが出来る。

 

 渓流エリア7で繰り広げられる四人の狩人と雌火竜の戦いは加速し始めていく。

 

「ギャオァアッ!!」

 

 叫びながら尻尾を振り回し、周りを駆け回るリーシャとヤマトを振り払おうとするリオレイア。しかし二人共そう簡単にその尻尾にぶつかる事はなく、時にはわざと姿を見せ、時には草木に紛れ姿を隠し。狙いの的を一人に絞らせない、撹乱を実行していた。

 

「ヤマト君、右からお願いしますっ!」

 

「解った!」

 

 草木に隠れていたリーシャがリオレイアの目の前に飛び出し注意を引くと同時に、足元を駆け抜けざまに太刀を滑らせる。痛みにリオレイアが顔を顰めた瞬間にリーシャは再び草木に紛れようと全力で走り出す。

 

「グォォァァア!!」

 

 しかし、逃がさない、という意思表示だろうか、リオレイアは雄叫びと共に翼を広げ、空へ飛んだ。そして口から零れる赤い炎。次に繰り出されるのは……ブレス。

 次の瞬間、リオレイアの口から放たれる火球。リーシャはそれに気付き全力で横に飛び、回避を試みた。幸い火球はリーシャに掠ることも無かったが、周りの草木は燃え、隠れられそうに無くなってしまった。

 

「うわっ、もしかしてちょっとマズイですか!?」

 

 隠れる場所が無くなり、リオレイアから丸見えになっているリーシャは格好の的でしかない。リオレイアはまたもや息を吸いこみ、口の中に高熱の塊を作り出す。

 

「させないっ!」

 

 それを妨害するかのように放たれるシルバの矢。数発放たれた矢はリオレイアの首や腹にしっかり命中した。

 しかしリオレイアは構わずに火球を吐き出す。隠れる場所がないリーシャに対して、三発狙い撃ちだ。

 

「下がれっ!」

 

 その時にすぐ後ろから聞こえるディンの声。リーシャは反射的に声の通りに後ろに飛び退き、せめてダメージを減らそうと体を縮こませる。

 するとその小さな体躯を後ろから飛び越え、盾を構えたディンが火球とリーシャの間に割って入る。そしてそのまま空中で火球を受け止め、リーシャが火達磨になるのを防いだ。

 

「痛ってぇ!」

 

 しかしそんな空中で火球を受け止めるという曲芸じみた動きをしたのだ、地面に足がついていない以上踏ん張ることも出来ず、勢いよく背中から地面に落ちるディン。それでも、ブレスが直撃するよりはマシだろう。

 

 リオレイアは標的を地面に伏しているディンに変更。尻尾を後ろに引く。仰向けに倒れる形となっているディンにも、その動きが見えた。

 

「ディン君!!」

 

「心配すんな!」

 

 立ち上がって回避や防御をしようにも圧倒的に時間が足りない。ならば、とディンはガンランスを構え、上体だけ少し起こした。

 そしてその瞬間に放たれるリオレイアのサマーソルト攻撃。その巨体から繰り出される尻尾の一撃は相当な重みと回転も加わり、一撃必殺とも言える迫力を生み出す。

 

 ディンはそのサマーソルト攻撃が当たる直前にガンランスの引鉄を引き、地面に向かって砲撃した。

 

 普通、ガンランスやボウガンは砲撃、狙撃を行うとその威力に相応の反動が身体にのしかかる。その反動を抑える為、ハンターは地面に足を付け、踏ん張ってその場に踏みとどまるのだ。

 しかし、今ディンは踏ん張るために地面に足を付ける暇が無かった。するとどうなるのか。

 

 砲撃の反動で、「無理矢理後ろに吹き飛んだ」のだ。

 

 結果、リオレイアのサマーソルト攻撃をすんでの所で回避することに成功した。

 

「ムチャクチャだ……」

 

 ディンはそのまま吹き飛んだ勢いで地面を転がり、その転がった勢いで立ち上がる。そしてそれと同時に顔を顰めた。

 よく見ると、左脚に棘で引っ掻かれたような傷がついている。どうやら完全に回避できた訳ではなかったらしい。

 

「ディン君、助かりました!一回下がってください!」

 

 ディンと入れ替わるかのように前に飛び出すリーシャ。リオレイアは一度地面に降り、リーシャに向かって突進した。

 しかしリーシャはこの狩猟中、常に前線で暴れ、リオレイアの突進を何度も見ている。何度も見てきたそのスピード、迫力に、リーシャは慣れ始めてきたのだ。

 

「当たりませんっ!」

 

 兎のように軽やかな動きで突進を躱し、ハンマーを構えるリーシャ。狙うはただ一点、標的を見逃すまいと頭をこちらに向ける瞬間。

 

 しかし、その瞬間は訪れなかった。

 

「あ゛っ!?」

 

 リオレイアは目で敵を追わず、適当に尻尾を振り回したのだ。しかしそれが攻撃のみに意識を傾けていたリーシャにヒットし、大きく吹き飛ばされる。

 

「リーシャ!!」

 

 そこでやっと頭をリーシャに向け、息を吸い込むリオレイア。

 

「させるかよ!」

 

「ナメんなっ!」

 

 その首元に全力で滑り込み、太刀を振るヤマト。その太刀筋で一瞬リオレイアが怯んだ隙にディンも首元へ入り込み、顎に向かって砲撃。必然的にリオレイアの頭は上を向くこととなり、火球は明後日の方向へと飛んでいった。

 

「ゲホッ!ゴホッ……助かりました!」

 

 そして更に背中に突き刺さる矢。シルバは草木に紛れつつも的確に矢を当てていた。

 

「グォォァァッ」

 

 流石に少しここで戦うのは厄介と考えたのか、翼をはためかせて大きく上昇したリオレイア。エリア7を離れるつもりなのだろう。

 

「あの方向、エリア2か!?」

 

「多分間違いないです!」

 

 シルバの矢も到底届かない高さを飛ぶリオレイアが向かった方向はエリア2。ヤマト達は武器を納め、エリア6からエリア2へと向かう為、移動を始めた。

 

「シルバ!次はどうする!?」

 

 ヤマトが駆け足になりながらシルバに次の作戦を求める。ディンとリーシャもシルバの方を向き、作戦を求めていた。

 シルバは頷きつつも頭を必死に回し、作戦と言葉を探していた。

 

「やっぱりあのブレスは脅威だ、水場のないエリア2で戦うとこっちに分が悪い。となると当初の予定通り、こやし玉でエリア移動を促すのが一番いいと……」

 

 そこでシルバの足が止まった。自然と前を走っていた三人の足も止まる。

 

「いや、待てよ……さっきエリア2を通った時に…………駄目だ、アイテムが足りてないか?いや、エリア4か5にもしかしたら……」

 

 そしてブツブツと独り言を言いながら頭をフル回転させる。三人は一体どうしたのか、という表情のままじっとリーダーを見つめていた。

 

「でもそれが通じるのか?僕の……の技術も怪しい、でももし成功したら……」

 

 静かになったエリア7に風が吹く。

 

「……いけるかもしれない。でも……」

 

 バッ!とシルバが顔を上げた。

 

「作戦変更だ。2番で戦おう」

 

「おう!」

 

「解った」

 

「了解です!……ちなみに、どうして?」

 

 風がシルバの髪を揺らす。深く深呼吸したシルバは、意を決して作戦を説明し始めた。

 

「先に言うけど、これは「賭け」だ。それも僕が失敗したら状況はかなり悪くなる。それでも、それでも乗ってくれるかい?」

 

「おう」

 

「勿論!」

 

「当然ですっ!」

 

 ノータイムでのレスポンス。三人に迷うような素振りは一切無かった。

 

 普通、ちょっとは悩む所だと思うんだけどなぁ。この天才三人は、凡人である僕が考えた安定しない「賭け」に自分の命すらベットするのか。全く……とても馬鹿で、とても素敵なチームだよ。

 

 シルバの目が輝いた。

 

「じゃあ説明するよ。まず、今から十五分でいい。君達三人でリオレイアと戦って欲しい」

 

 凡人は天才には勝てないのか。

 

 シルバの答えは「経験と知識、努力次第では負けない」。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 息も絶え絶えになってきている。

 

 渓流エリア5は鬱蒼と茂った木々に囲まれたエリアだ。巨大な切り株や新鮮なハチミツがあり、アオアシラが度々このエリアで発見される。

 

 シルバはそのエリア5で草の根を掻き分けていた。

 

「クソッ、付いてないなぁ……!こっちでは収穫無しか!」

 

 薬草、どくけし草、ネンチャク草。様々な草が顔を覗かせるが、今シルバが求めているものはそれらではない。

 

「ダメだ、無い!あとはエリア4か、急がないと!!」

 

 全力で走り出し、エリア4を目指すシルバ。しかし、眼前にブルファンゴが二頭、こちらへ向かって突撃して来ていた。

 

「リオレイアに比べたら……遅いよっ!」

 

 速度を落とさずに前転し、ブルファンゴの突進をすり抜けるように躱す。武器を構えることもなく、そのまま走って逃げるようにエリア4へと向かっていくシルバ。

 

「君たちの相手をしてる暇は無いんだよ!」

 

 鼻の頭に土が付いているのもお構い無しに全力で走る。早く、少しでも早くヤマト達と合流しなくては。

 

 普段かかる時間の半分以下の時間でエリア4へ到着し、草が伸びているポイントを探す。荒い息を抑え、目に全神経を注ぎ、めぼしい場所をひたすら探す。

 

「あそこか!?」

 

 岩陰に隠れて草が伸びているポイントが少し先に見えた。確認するや否やそこに駆け寄り、草を掻き分け目当てのものを探す。

 

「無い……無い………ん?あっ!」

 

 そして、ようやくシルバは目当てのものを見つけることが出来た。

 

「あったっ!!」

 

 すぐさまそれを採取し、ポーチからとあるアイテムを取り出す。噴き出す汗を拭い、頭と手先に集中力を注ぎ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギィァアァアォォッ!!」

 

 エリア2にこだまするリオレイアの咆哮。

 

「嘘だろオイ!さっき涎垂らしたと思ったのに」

 

「もう怒ってるんですかっ!?」

 

 シルバと分かれ、三人でリオレイアの相手をしていたヤマト達。エリア2に到着してすぐにリオレイアは口から涎を垂らし、目に見えて動きが鈍っていた。が、そんな時間も束の間。今は口から炎を覗かせ、目は爛々と輝いている。

 更に状況が悪いことに、ディンの動きが少し鈍ってきている。秘薬を飲んだとは言え、ダメージが完全に引いたわけでは無いのだろう、少し疲れが見えてきていた。

 

「リーシャ、ディンのカバー頼む!俺が前に出る」

 

「ナメんな!まだまだやれるぜっ」

 

 尻尾を斬りつけ、リオレイアの注意を引くヤマト。リオレイアは先刻リーシャを襲った尻尾を大きく振り回し、なぎ払おうとするも、それをヤマトはいなすことで回避。体は疲れを感じ始めているが、少しずつ集中力が増している感覚がヤマトにはあった。

 

「ハァッ!」

 

 そしていなす際に納めた刀を抜き、そのままもう一度尻尾を斬り付ける。そしてすぐさま後ろにバックステップしながら尻尾の射程圏内から外れ、再度来る薙ぎ払いから逃れた。

 

「あれ、ヤマト君もヤバイのでは……?」

 

 リーシャはえも言われぬ不安に襲われた。彼は最初から異常なまでの集中と運動をしている。今はアドレナリンが出ているから疲れをそれほど感じていないが、幾ら何でもあの運動量では何処かで糸が切れると動けなくなるのではないか。

 

 状況は思った以上に良くない。

 

 リオレイアは今日何度目かのブレスを繰り出す為、息を大きく吸い込む。頭の向きからして狙いはディン。本人もそれを理解しているのか、盾を構え腰を落とした。

 

「ガァァア!!!」

 

 そして繰り出されたブレス攻撃。しかし放たれたのは先程まで見ていた火球では無かった。

 

 空気中の酸素が爆発したのか、と思われるような熱量と範囲。先程までのブレスより飛距離は無いものの、放射状に広がる炎はディンだけでなく、ヤマトとリーシャも巻き込んだ。

 

「うわっ!?」

 

「熱っ!」

 

「大丈夫か!?」

 

 盾で防いだディンにダメージは無かったものの、リーシャとヤマトは少しダメージを受ける。リーシャの防具に熱が溜まり、リーシャは体内を焼かれるような熱に襲われた。

 

「熱いっ!熱いっ!」

 

 リーシャは防具から少しでも熱を取ろうと転げ回り、風と地面に防具を晒した。

 その隙を逃す程、陸の女王は甘くはない。リオレイアはターゲットをリーシャに変更し、突撃の姿勢を取る。

 

「クソッ……やっぱシルバの遠距離攻撃は欲しいな!」

 

 

 

 

「そう言ってもらえると光栄だよっ!!」

 

 

 

 

 

 その瞬間、リオレイアの鼻先に数発の矢が突き刺さる。リオレイアは急な攻撃に怯み、突撃が止まった。

 

 

 

 

 

「ごめんみんな、少し遅れた!!」

 

 そこにいたのは息を切らしたシルバ。顔には笑みが浮かんでいた。

 

「シルバさん!!」

 

「ごめん、早速だけど作戦に移るよっ!」

 

 そう言いながらリオレイアに向かって全力で走り出すシルバ。リオレイアもシルバに気付き、ターゲットを変更する。

 

「フォローします!」

 

「安心して突っ込んでくれ!」

 

 そのリオレイアのターゲットを無理にでもこちらに向けようとフォローに入るリーシャとヤマト。リオレイアは鬱陶しそうに尻尾を振り回し、頭を振る。

 しかし恐ろしく集中しているヤマトとリオレイアの動きに慣れたリーシャはそう簡単にリオレイアの攻撃に当たらない。

 

 その隙にシルバはリオレイアの懐に入ることに成功した。すぐさまポーチからあるアイテムを取り出し、リオレイアの足元に設置する。

 

「みんな離れて!」

 

 足元に置かれた「それ」は、シルバが離れると共に「爆発」した。

 

 爆発したものから噴き出したのは、濃い桃色の煙と刺激臭。リオレイアはその煙の中心となった為、臭いがこびり付いた。

 

 その瞬間。地面からボゴボゴボゴ、と何かを掘り進むような音が聞こえてきた。それと同時に地面から土煙が起こり始める。その土煙は真っ直ぐ、リオレイアに向かっていった。

 

「……成功だ!」

 

「ニャニャー!?」

 

「ニャー!!」

 

 突如地面から大量に現れた猫型モンスター、メラルー。メラルー達はハンター達には目もくれずにリオレイアに向かって一斉に突撃を始めた。

 

 シルバが使ったアイテムは「マタタビ爆弾」。アイルーやメラルーがひどく好むマタタビの臭いを撒き散らす爆弾だ。

 シルバは最初にエリア6を目指す途中でエリア2を通った時、メラルーが多数いた事を覚えていた。

 そしてマタタビ爆弾の素材となるマタタビは渓流のエリア4か5に生えていることを「知識」で知っている。

 更にそのマタタビを加工し、小さなタルに入れて調合することでマタタビ爆弾にすることが出来る。その調合は失敗することもあるが、シルバはそれを「経験」で補った。

 

 凡人は天才には勝てないのか。答えはノーだ。

 

 マタタビの臭いに取り憑かれたメラルー達は、たとえ相手がリオレイアであっても嬉々として飛び掛る。予想外に敵が増えたリオレイアはたじろぎ、ただ暴れ回るしか出来ない。

 

 シルバの考えた作戦。それは本人曰く「メラルーを味方につけよう作戦」だった。

 

「よっしゃ!シルバやったぜ、成功だ!」

 

 メラルー達はリオレイアに薙ぎ払われ、次々と倒れていくも、リオレイアは想像以上にダメージを受けている。シルバの作戦は大成功と言えた。

 

 メラルーに紛れてリーシャが突撃する。狙うタイミングは、リオレイアが薙ぎ払った直後。

 

「ギャアォォア!」

 

 そしてリオレイアがメラルー達を薙ぎ払った。その瞬間、リオレイアの視界は吹き飛ぶメラルー達で遮られる。

 

「ようこそぉ!!」

 

 その死角を利用し、渾身の一撃を頭に叩き込んだリーシャ。リオレイアの頭が下がった。

 

「そこだっ!!」

 

 そこに横一文字に振り抜かれるヤマトの太刀。リオレイアは確実に怯んだ。

 更に追い打ちをかけるようにメラルーが飛び掛る。リオレイアは確実に大きなダメージを負っていた。

 

「グギャァァアオアァァア!!!」

 

 怒り心頭、といった叫び声をあげ、目の前のヤマトに食いつこうと口を開け、牙を剥く。

 しかし、その瞬間がヤマトの最高級の「集中」だった。

 

「おおおお!!」

 

 牙に向かって刃を滑らせ、体を頭よりに入れ替える。左脚を軸に体を回し、右脚で踏み込む。それと同時に滑らせていた太刀を引き、軸にしていた左脚を前に。体のすぐ横でガチン!という牙の音が聞こえ、更にもう一歩踏み込む。そのまま太刀を斜めに振れば……カウンターで尻尾を斬りつけることが出来るだろう。

 

「ハッ!!」

 

 全力で振り抜かれた太刀。それはリオレイアの強靭な尻尾を斬り飛ばした。

 

「グォァァア!?」

 

 急に尻尾が軽くなったリオレイアはバランスを崩し、大きく体をブレさせる。それが幸か不幸か、最後のメラルーを吹き飛ばした。

 

 しかし、そこでヤマトの集中が「切れた」。

 

「あ?体が……動かねえ」

 

 へたりとその場に尻をつけるヤマト。リオレイアはそれを見て再度食らいつこうと突撃の姿勢を取る。

 

「やべぇ……!」

 

 必死に脚に力を入れようとするも、思うように身体が動かないヤマト。それを嘲笑うかのようにリオレイアはヤマトに向かって一歩目を踏み出した。

 

「ヤマト君っ!」

 

 二歩目。

 

「逃げてくださいっ!!」

 

 三歩目。

 

「畜生、動けよ……!」

 

 あと三歩。リオレイアの顔が心なしか嬉しそうに見える。

 

 あと二歩。ヤマトはあの日の目を思い出していた。

 

 あの大嵐の日の、古龍の赤い目。ヤマトの全身を寒気が襲う。

 

「ヤマトっ!!」

 

 あと一歩……という所でヤマトの視界に別のものが映った。

 

 それは、最初にシルバを守る為に後先考えずに飛び出した、誇り高きハンター……ディンだ。今度は、ガンランスと盾を、携えて。

 

「やっぱり一、二発はミスると思ってたぜ!俺がいて良かったな!!」

 

 必死の表情でリオレイアの突進を止めながら、しかし心底嬉しそうにディンが叫ぶ。

 

 寒気は引いた。今は仲間がいる。そしてコイツは……リオレイアだ。古龍ではない。

 

「流石だよ、ディン。……助かった!恩に着るぜ」

 

「気にすんな!……んぎぎぎ、うおぉらぁぁあ!!」

 

 ディンはリオレイアの頭にガンランスを叩きつけ、無理矢理相手の力の向きを変える。そしてそのままガンランスの引鉄を思いっ切り引いた。

 その砲撃の威力は、先刻の一撃より遥かに重い。残った弾を全て一気に爆発させるガンランスの必殺技、「フルバースト」。その一撃はリオレイアの鱗を剥がし、大きなダメージを与えた。

 

 堪らずリオレイアは距離を取り、ハンター達に構わず覚束無い足取りで逃げ始める。もう自分の体力が残っていないことをハンター達に知らしめつつも、それでも巣に戻って体力を回復させたいのだ。

 

「あっ!」

 

「逃げる気か!?」

 

 リーシャとディンは慌てて追いかけようとする。しかし、ディンは先程のフルバーストの反動が少し怪我に来たのか、フラリと足元が覚束無くなった。

 

「大丈夫!……逃がさない!!」

 

 そう言いながら矢を番え、一直線に放ったシルバ。飛んでいく三本の矢はリオレイアの首に刺さり……リオレイアは動きを止めた。いや、体が痺れ、動けなくなった。

 

 弓にビンを装着し、矢に特殊な効果を付与させ、モンスターの状態異常を引き起こす。弓でしか出来ない芸当だ。シルバはエリア2に移動する直前、麻痺ビンを弓に装着していたのだ。

 

「リーシャちゃん!」

 

「わかってますとも!!」

 

 そして全力で走り出していたリーシャ。兎のように勢いよく飛び上がり、一撃を振り下ろす。

 

 

「おやすみなさいっ!そして……」

 

 着地と同時に、左脚を軸にクルクルと回転し、遠心力を乗せた最強の一撃をアッパーカットのように振り上げる。

 

 最初の一撃もアッパーカットだった。しかし、最初はリオレイアの重みに負け、振り抜けなかった。

 

 しかし、今は。

 

「さよならっ!!!」

 

 今は振り抜ける。

 

 その渾身の、最強の一撃がリオレイアにぶつかった瞬間。

 

 ゆっくりと。

 

 ゆっくりと、リオレイアの巨体が地面に沈んでいった。

 

「やった……」

 

「やりました、」

 

「俺達の、」

 

「うん。……僕達の勝ちだ!!」

 

 






雌火竜戦、決着。

珍しく少し長めに取りました。

お時間ありましたら、感想、評価も宜しくお願いします。

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