「あれ、ここは……」
ディンが目を覚ますと、そこは渓流のベースキャンプであった。ベッドの上にいるらしいディンは、マッカォ装備を脇に置かれ、包帯まみれの体となっている。
「ディン君?ディン君!目が覚めました!?」
ふと声がした方を見る。そこには顔をぐしゃぐしゃにしたリーシャがぴょんぴょん飛び跳ねていた。そのリーシャの声と仕草を見て、視界の外にいたであろうヤマトとシルバもディンの視界に入ってくる。
ここでディンはここに運ばれるまでの記憶を思い出した。シルバが危険になったのを見て、ほぼ反射的に飛び出し、そしてリオレイアに……
「痛って!」
思い返した途端、噛み付かれた左肩が痛んだ。それを見てシルバがディンのベッドの上にぽん、と何か小さな袋を置く。
「ハンター御用達、秘薬だ。回復力は回復薬の比にならない。使ってくれ」
「ああ、サンキュ。……シルバ、無事か?」
「無事かどうか聞きたいのは俺達だよ」
横から言葉を挟むのはヤマトだ。確かに、今のディンの様子を見ればそう聞きたくなるのはディンではなく他のメンバーだろう。頭をかいてディンは少し場違いな質問をしたな、と笑ってしまう。
「俺は大丈夫だ、心配かけてすまん」
「そうか、じゃあ歯を食いしばれ」
「「「え?」」」
突如そう言い、いきなり拳を振りかぶるヤマト。あまりに予想外過ぎたその言葉に、ディンだけでなくリーシャとシルバも唖然とした。
そして次の瞬間放たれる、綺麗に直線を描くヤマトの右拳。武術の嗜みがある彼の拳は正確に、怪我をしていないディンの右頬を貫いた。その威力にディンは思い切り左を向くこととなり、少し遅れてじんじんと響く熱い痛みを感じ始めた。
「お前馬鹿か!?どこに飛竜相手に武器捨てて飛び込むハンターがいるんだ!」
「でもシルバが危険だったし、あそこで俺が飛び込んでなきゃ……」
「その結果お前が危険になってどうする!お前死ぬ所だったんだぞ!?」
本気で怒っている、直感でディンはそう感じた。ヤマトは本気で怒っているのだ。
何か言おうとしたシルバも、止めようとしたリーシャも同じ雰囲気を感じ取ったのか、何も言わず見守ることにしている。ヤマトはその剣幕のまま続けた。
「お前死なない為の理由作って、誇り高きハンターとして生きてるんだろ?自分から死にに行くやつが誇り高いなんていつの時代の話してんだお前は!!」
「……でも、生きてた」
「結果論だ!」
「いや、皆の力があったからだよ。……サンキュ」
ディンは秘薬を飲み干しながら笑った。それを見てシルバが溜息をつき、同じように笑った。
「すまない、元を辿れば僕がヘマしたせいで怪我をさせてしまって。本当に傷は平気?」
「ああ、本当に大丈夫さ。サンキュな」
「良かった。じゃあ僕も」
「え?何が……ふごっ」
いきなりディンの右頬を殴りつけるシルバ。流石にそれもまた予想外だったディンはまたもや左を向くこととなった。
「生きてたから良かったものの、あんなこと続けていたら君本当に死ぬからね!少しは僕の生命力を信じてくれたっていいじゃないか!!」
「あの……イマイチ意味がわかりませんが……」
ぼそっと呟くリーシャ。
「……とにかく、さっき君も言ったけど、ここのメンバーは皆、力を持ってる。それを信用して欲しいんだ。君が全て痛みを受ける必要はないんだよ」
シルバはいつものくしゃっとした笑顔を浮かべる。その真後ろでぴょんぴょん飛び跳ねる少女。
「あの!私からも……いや、パンチはしないですよ!?」
話し出した途端に身構えるディンを見てすぐに弁明するリーシャ。
「私、一緒に狩りする人が危険な目に合うの、すごく怖いんです。実はさっきまでかなりパニクってて……えっと、すごく自己中な話なんですけど、怖い思いをしたくないからディン君も危険な事しないで欲しいです」
至極真剣な顔で少し的外れなことを言うリーシャ。まだ少し混乱しているのだろうか。
しかし、そのリーシャの言葉に、他の三人は笑ってしまった。
「悪い。俺も皆に迷惑かけた」
そして改めて深々と頭を下げるディン。
彼は自分が思い描く「誇り高きハンター」に憧れ、そしてハンターがしてはいけない無謀な行為を行ってしまった。
それは彼の心に大きく残る出来事から生まれたものであるが、それに今固執する必要は無い。
このチームメンバーなら、俺は誇り高きハンターになれるはずだ。
シルバはディンの傷がもう少し癒えてから再度出発することを決めた。ペイントの匂いもまだ微かに追える。
その出発までの時間、シルバは自らを責めていた。
シルバが危険になった瞬間、誰も反応できないスピードで動き出し、シルバとリオレイアの間に入ったディン。
ディンが拘束された途端、パニックになりながらもすぐにこやし玉を投げ、最前線で真っ先に注意を引いたリーシャ。
そして見たこともない動きでリオレイアのサマーソルトを躱したヤマト。
三人が稀に見るタイプの天才型であることは解っていた。しかし、一番狩猟の経験があり、今回のリーダーでもある筈のシルバの一つのミスのせいで結果的にここまで打撃を受けることとなったのである。
凡人は天才に勝てないのか。
「……いや、そんなことはないさ」
一人そう呟くシルバ。第二ラウンド開始まで、あと一時間である。
ディンの過去の話は......そのうちやれたらいいな。
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