「帰ってきたぜ!!ユクモ村!!」
「んな大袈裟な……」
ドスジャギィを狩猟し、竜車に乗って集会所へと戻ってきた二人。
「達成報告しとくから休んどけよ」
「まじ?サンキュな」
依頼の達成報告をする為に、ヤマトはカウンターへ。ディンはまだこの集会所の勝手すら解らないので端に避けて壁にもたれかかった。
「おかえりヤマト君。狩猟前にミクを助けたそうじゃない、ありがとね」
カウンターで受付嬢をしていたのはミクではなく、敏腕受付嬢であるコノハだった。恐らく件の山賊で少し疲れてしまったのだろう。彼女もまだまだ新米なのだ。
「助けたのはあそこにいるディンですけどね。依頼の達成報告、いいすか」
「そう、あの子にもありがとうと伝えておいてね。はい、ドスジャギィの狩猟ですね。……はい、証拠となる鱗を確認しました。ギルドの者が只今死骸の回収に向かっています、完全な確認が取れたら報酬金をお渡しします。……多分、夜には帰ってくるんじゃないかしら。夜にまた来てくれる?」
「解りました」
テキパキと達成報告を受理するコノハ。夜まで時間が出来た為、その間にディンにユクモ村を案内しようとこの先のプランを立てた。
「夜には達成確認が済むらしい。それまで村、案内するぜ」
「よし来た!……まずは武器置いて来ていいか?」
「ああ、いいけど……お前家どこなんだ」
「俺は外からのハンターだからな。集会所からすこぶる近いぜ」
五分後。ディンの家に武器を置き(ヤマトも折角なので置いてきた)、二人でユクモ村を回り始める。紅葉がヒラヒラと落ちる道を歩き、まず向かうは農業区。
自然豊かなユクモ村には農場が多い。中にはハンター稼業を行いながら自分の農場を持ち、その農場で狩りに必要なものを作っている同業者も存在する程だ。
「ここが農業区。野菜だけじゃなくてハチミツを採ったり、近くを流れてる川から魚取ったりもしてる。俺らが使う道具の素材とかも作れるからな、ハンターが持ってる農場もあるぜ」
「へえ!ちなみにヤマトは」
「持ってねえ。野菜には困ってないし休みの日は鍛錬に使ったりしてるからな」
ディンはその多種多様な農場を素直に目を輝かせながら見ている。遠くで鍬を振っているアイルーがいる農場はハンターが持っている農場だろうか。
ヤマトはユクモノカサを取り、首に掛けながら農業区を歩く。その後ろに着いて行きながら風景を楽しむディン。農具を直しておいたり、休憩の為にあるであろう小屋も味があるように見える。太陽が沈みかかっている為だろうか、小屋に農具を直したり、小屋の前に腰掛けて茶を啜る村民達をよく目にした。
しばらく歩くと、同じように小屋の前に腰掛けて茶を啜る少女が見えた。足を伸ばし、満足そうに汗を拭きながら茶を飲む少女はヤマトに気付くと立ち上がり手を振る。リタだ。
「ヤマトじゃん!こっちの方来るの珍しいね」
「よう、リタ。暫くユクモに住むことになった同業者の案内でな」
ヤマトのその言葉を聞いて隣のディンに気付くリタ。
「あ、初めまして。ここで野菜作ってます、リタです。ヤマトとは……幼馴染です」
「俺はディン。誇り高き龍歴院のハンターだ!よろしくな、リタ」
ぺこりと礼儀正しくお辞儀をするリタと、誰に対しても快活に自己紹介をするディン。
「さて、次は商業区だな……リタも仕事終わってんなら一緒に行くか?」
「え?どこに」
「お前なぁ、話聞いてたか?ディンの奴昨日からユクモに来て暫くここに滞在するんだよ。だから今村を案内してんだ」
「あー、なるほど。いいよ、私も行く」
こうしてパーティにリタが加わった。
農業区から商業区に行く為には居住区を抜ける必要がある。
ヤマトは当初居住区には特に紹介、案内するものが無いため普通に抜けようと思っていたのだが、リタが汗まみれの服を着替えたいということでリタの家に寄っていくこととなった。
「リタの家……でかいな」
「ここで道場もやってるからな」
そして当然だがリタが着替える間、男性二人は家の前で待つことに。広いのだから何処かの部屋くらいに入れてくれても良い気はするのだが、リタとしてはそれすら許せないらしかった。
という訳でディンは居住区の中でもかなり大きいリタの家を眺め、その大きさに驚いていたのだ。
ヤマトの言う通り、リタの家は道場も兼ねている。ここでリタの母が門下生に武術を教えているのだ。ヤマトとリタも数年前までここで武術を教わっていた。
「へえ、道場!じゃあリタって結構強かったりするのか?」
「まあ、徒手空拳の武術ならかなりの実力だな」
「ヤマトもここで?」
「ああ、武術を習ってた」
成程、ヤマトの強さの原因の一つを見つけられた気がしたディンであった。
「それにしてもさ、」
「ああ、そうだな」
「遅くね?」
家に到着して早十五分。リタの着替えはまだ終わらないらしい。
遠くで鳥が鳴いた気がした。
「おまたせ!」
「おせーよ」
そこから更に五分後。やっと着替えを終えて出てきたリタに対してヤマトは真正面から文句をぶつけた。太陽はもうほぼ沈んでいる。
「んじゃ行くか、商業区」
「おう!」
ユクモ村で一番賑わっている区画は何処か。答えは商業区である。
村で採れた野菜や特産品を買いに来る行商人や観光客、当然ながら村人やハンターも足を運ぶこの商業区は活気があり、夜も提灯に灯が灯り暗闇にはならない。
また、行商人はここに野菜や特産品を買いに来るだけではない。当然ながらここで他地方の野菜や特産品を売ることもする為、ここに来れば大体のものが買える。
そんな商業区に相変わらず目を輝かせながらキョロキョロするディン。雑貨屋においてあるあの髪飾りはガーグァの羽を使っているのだろうか。隣の店で売っている卵は何の卵だろう?
「ここが商業区。まあ大体ここに来れば欲しいものは買えるよ」
いつの間に買ったのか、リタは丸鶏の串焼きを頬張りながら説明した。甘辛いタレと大ぶりの肉が人気の理由だ。
「食料品、狩猟や採集に役立つ物とかもここで買える。まあ回復薬とかは狩猟者区で買った方が安いけどな」
「すげえな、どの道通っても周りが店だらけじゃん!おもしれー」
「私は貴方を見ている方が面白いわ、なんか」
暖簾がかかっている店の中から男達の笑い声が聞こえる。恐らくあの店は居酒屋だろう。アイルーが店番をしている店もチラホラと見える。あれは人が雇っているのだろうか、それともアイルーの個人経営(個猫経営)?
「腹減ったな」
ふと、お腹に手を当ててヤマトが呟いた。確かにディンも空腹だ。
「そう?私割と大丈夫」
「お前は串焼き食ってただろうに……狩猟者区行くか。集会所で飯食えるし」
狩猟者区。ハンターに必要な道具を扱う店と外からのハンターが寝泊まりする場所、そして武器、防具を扱う店とその加工屋。そしてハンターの仕事を斡旋する集会所で成り立っている、最も小さな区である。
しかし当然ながらヤマトもディンもこの区に一番お世話になることとなり、一番この区にいる時間が長くなるであろう場所だ。夜から狩猟に出かけるハンター、夜に村に帰ってくるハンターもいるため、商業区程ではないが狩猟者区も眠らない場所だ。
まずヤマト達がやってきたのは加工屋だ。小柄な竜人がモンスターの素材や鉱石から武具を作り出す。
「ようオッサン」
「あぅ!ヤマトじゃねえか、元気か?……後ろの奴は誰だ?見ねえ顔だ……」
「俺はディン!龍歴院から派遣されてきた誇り高きハンターだ!」
「龍歴院?そーか、オメエのことか!新しくやってきたハンターってのは!武器や防具を作って欲しかったらウチに来な!オイラがイイもん作ってやるぜ!」
どうやらディンのことは狩猟者区の中では少しずつ噂になっているらしい。加工屋は自分の背丈程もあるハンマーをブルンと振りながら肩に担ぎ、ディンと固く握手を交わした。
「さて、次は雑貨屋か」
次にヤマト達が訪れたのは雑貨屋。回復薬やトラップツール等、ハンターに必要なものを売っている。
「あら、ヤマトじゃないの。……そちらは?」
「よう、雑貨屋のねえちゃん。こっちは龍歴院から派遣されてきた、」
「ディンだ!よろしくな」
「あら、さっき買い物していったハンターが言ってたわよ、貴方中々やるじゃない?回復薬とかはうちで買っていきな」
雑貨屋とディンが話をし始めている隣で、リタは売り物を色々と眺めていた。
「ねえヤマト、これ何?」
「んあ?……解毒薬。毒を使うモンスターもいるからな、そういう奴を相手にする時に使えるんだよ」
「へぇー。これは?」
「それはクーラードリンクだな。砂原とか……」
以前ハンター御用達の回復薬の効果について共感出来なかった事が少し嫉妬になってしまったリタ。ヤマトのことが好きな彼女にとって、彼が生きる為に使っているであろう道具等はやはり気になるらしい。
しかしヤマトの説明を聞くのが楽しくなってきたのだろうか、リタは興味津々に様々なアイテムを指差し、ヤマトに説明を求めていた。
「……雑貨屋のねえちゃんって、ここの村の人だよな?」
「ええそうよ、どうしたの?」
「リタってもしかして……」
「ええ、ヤマトに恋心を抱いてるわ」
その光景を見て気付いたディンは雑貨屋に聞く。そして予想通りの答えが返ってきた時、チラリと二人を見た。その顔は少しニヤニヤしている。
「成程な……だからあんなに着替えに時間が」
恐らくリタはディンを案内するという用事のためであっても、ヤマトと出掛ける(と言っても村の中だが)ことが嬉しかったのだろう。その為にどの服を着るか悩んでしまい、時間が掛かったのだとディンは結論づけた。
「ちなみにヤマトのやつは」
「気付く訳ないでしょ、あの子ハイパーストイックだもん」
溜息を付きながらそう答える雑貨屋。まだ出会って数時間であるが、ヤマトの性格がなんとなく掴めてきたディンであった。
「ま、私らが出来ることなんて見守るだけだからねぇ……ディン君もそっと見守ってやんな」
「何の話してるの、二人共?」
ひとしきり説明は終わったのだろうか、満足そうな表情をしたリタが立ち上がっていた。後ろにはヤマトもいる。
「いや、別に大した話じゃないぜ!後は集会所だな!」
急に話しかけられ、少し驚いたディンは少し早口になりながら次の場所へ促す。雑貨屋はブラブラと手を振りながらディンにウインクをかました。
「ありがとな、ねえちゃん!また頼むぜ」
「あんたこそ、近くにいてなんかあったら報告しな!」
二人の同盟が組まれた瞬間であった。
流石にそろそろ帰らないと親に怒られる、という理由でリタと別れ、再びヤマトとディンの二人。二人は集会所へ足を運んでいた。
「ここが集会所……って、知ってるよな」
「まあそりゃな。中がどうなってるかはあんま知らねえ」
「んじゃ、飯食ってから案内するさ。とりあえずなんか食べようぜ」
空いてある席に腰掛け、ウエイトレスを呼ぶ。注文をとりにやってきたウエイトレスはなんとミクだった。
「あっ、ヤマトさん!ディンさん!お昼は助かりました、ありがとうございます!!あっ、クエスト報酬、届いてますよ!後で取りに来てくださいね!」
「ミク、もう大丈夫なのか?」
「はい!おかげ様でもう大丈夫です!」
「良かったな!」
「ディンさん、本当にありがとうございますね!」
そのまま料理を何品か頼み、ミクは注文をしっかりとメモすると受付へと戻っていく。
「いい村だな!」
「そう言ってもらえると光栄だ」
先に運ばれてきたビールを合わせ、グイッと喉に流し込んだ。
食事も終わり、腹を満たした二人。ヤマトはディンに集会所内を案内していた。
「まあ、解ると思うがここが集会所のメインになってる場所だ。飯食えたり、受付でクエスト受注するのはここだな。多分ここは他の集会所と変わらんはずだ。あ、あそこで回復薬とかも買えるぜ。次は……」
ヤマトは受付の隣にあるドアを指さす。
「あそこから狩場に行くための竜車に乗れる……それも昼に乗ったから知ってるか。あとは……」
扉の横を通り、細長い廊下に差し掛かる。そこを抜けると、広い、倉庫のようなものがあった。
「ここが準備場。自分のボックスがあって、そこに狩猟道具とか入れとけばわざわざ家で準備しなくてもここで出来るってことだ。多分、お前のも近いうち置かれるだろ。んで最後が……」
準備場を後にし、集会所中心部に戻る二人。そしてディンが少し気になっていた、仕切りの部分にやってきた。
「温泉」
「温泉!?集会所に温泉があるのか!?」
ユクモ村集会所名物、温泉。通称、集会浴場。
「ここが」
次回は温泉回です!温泉回です!!
時間がありましたら感想、評価等、宜しくお願いします。