貴方に好きと言いたくて【完結】   作:puc119

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指導

 

 

 身体が重い。どうにも体調が優れない。

 きっと昨晩見た夢が原因だと思うが、集会所へ向かう俺の足取りは重かった。

 

 期待と不安が半々……にもならない。てか、不安しかない。いや、だってアイツの姪だぞ? どう考えたってこれはダメだろう。

 そんな美味い話あるわけないって分かっているし、例え姪っ子ちゃんがどれだけラージャンだろうが、ちゃんとヘビィの使い方を教えるつもりだが……テンションは下がりっぱなしだ。

 

 現在の俺が担いでいる武器は、ガララアジャラの素材を用いた“バイティングブラスト”なんて呼ばれるヘビィボウガン。撃つことのできる弾や装填数、反動やブレなども優秀。攻撃力も高く、ヘビィを使うハンターなら誰でも持っていると言って良いような武器。

 そして、そんなバイティングブラストだが、通称は“バイブ”と呼ばれている。俺が決めたんじゃない。皆がそう呼んでいるんだ。

 さらに、装飾品を使って、貫通弾撃てるように改造したバイブの通称は“貫通バイブ”。これも俺が決めたわけじゃない。

 

 んで、俺のバイブも貫通バイブだ。

 名前はどうにも頼りなさそうだが、これがかなり強い。貫通バイブ大好き。ただ、女性の前でバイブバイブ連呼していると必ず引かれるのは考えものだ。

 

 さてさて、そんじゃそろそろ腹括って行くとしようか。

 

 

 

 

「あら、やっと来たのかい。全く……女性を待たせるなんて失礼だろうに」

 

 集会所へ着くと直ぐに、その巨体が目に付いた。威圧感がパない。

 確かに、女性を待たせるのは失礼だが、お前は……いや、もう何も言うまい。ああ、今日も今日とてすごくラージャンだ。

 

「どうにも寝られなくてな。それで、ラージャンのゴリラが姪っ子ちゃんなんだっけ?」

「落ち着けよ」

 

 すまんな、寝不足なんだ。

 とは言え、周りにコイツ以外の牙獣種は見当たらない。はて、これはどういうことだろうか。

 

「あの子なら今、ギルドストアで弾を買っているよ。そろそろ帰ってくると思うけど」

 

 ああ、そっちにいたのか。全く、モンスターを見つけたら直ぐにペイントボールを投げろとアレほど……え?

 

「ちょっと、待て。お前の姪っ子ちゃんって……」

 

 そんな言葉を言いかけようとしたが、とてとてと此方に走ってくる少女の容姿を見て、言葉は消えた。

 

 まずアレだ。4足歩行じゃなかった。ケルビステップもしてこない。

 そして何より――

 

「なにあの子、超可愛い」

「だから言ったじゃないか、姪っ子は可愛いって」

 

 生命の神秘万歳。なるほど、これが突然変異か。

 どうやらアイツの兄の方ではなく、母親の血を多く引いてくれたらしい。予想外。しかしこれは嬉しい誤算だ。

 

「……あ、貴方が私に教えてくれる人?」

 

 とてとてと此方に走ってきた姪っ子ちゃんは、その緊張を隠そうともせず、おっかなびっくりそんな言葉を落とした。あらやだ、かわいい。

 

「ああ、そうだよ。今日はよろしくな」

「……うん。よろしく」

 

 その顔にはまだあどけなさが残るものの、顔立ちはかなり整っている。以前、一緒にブラキと戦った少女も可愛かったが、この姪っ子ちゃんはそれ以上。あと数年もすればバルバレギルドの中でも一番になりそうだ。

 そんな子が俺のお嫁さんに……

 

「ほら、ニヤけてないで、さっさと出発するよ」

「あ、ああ。失礼。それで、今日はなんのクエストへ行くんだ?」

 

 姪っ子ちゃんの装備は、ウルク防具一式にネルスキュラのヘビィであるネルバスターガン。HR1にしてはかなりの装備。ウルク装備マジ可愛い。

 

「この子はまだ大型種と戦ったことがないからねぇ」

 

 まぁ、そうだよな。

 そうなると、ドスジャギィやアルセルタス。あとはイャンクック辺りが無難か。

 

「だから、とりあえずリオレイアに行こうと思っているよ」

 

 ……予想以上のスパルタ教育だった。

 大型種経験無しでいきなり飛竜種は流石にどうかと思う。

 

「いや、流石にソレはキツいだろ。もう少し楽な相手にしてやれよ」

 

 下位だしレイアなら流石に勝てるが、姪っ子ちゃんには厳しい。下手したら姪っ子ちゃんのトラウマになる。

 

「何言ってんのさ。あたしなんて最初からリオレウス亜種だったよ」

 

 お前と一緒にするな。

 姪っ子ちゃんはお前と違ってか弱い人間なんだ。それに何より姪っ子ちゃんだって、レイアは怖いだろ。

 

「……やた。リオレイア楽しみ」

 

 あい、分かった。よーし、俺も張り切って行ってみようじゃないか。

 

 ……流石はコイツの姪っ子で、あの兄の娘ってだけある。

 これは色々と疲れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「よし、そんじゃ早速だが、ヘビィの基本的なことから教えていくぞ」

「……よろしくお願いします」

 

 場所は遺跡平原へと向かう飛行船の上。

 最初は戦いながら教えていこうと思ったが、相手が相手ってこともあり、多分そんな暇はない。飛竜種の中でもレイアは危険度もそれほど高くない相手だが、手を抜けるような相手じゃない。

 

「まずだが、ヘビィは主に通常弾を使うか貫通弾を使うかに分かれるんだ」

 

 正確に言うと、そうではないが、どちらかに特化した方が絶対に強い。

 俺のバイブも普通は通常弾ヘビィとして使われる。まぁ、そこを改造して無理やり貫通弾特化ヘビィにしているわけだが。

 また、通常弾と貫通弾だけじゃなく、散弾や属性弾をメインに使う場合もあるが……アレはちょっと特殊。

 

「……私はどっちのがいいの?」

 

 んー……正直、今の段階でネルバスターガンならどっちでも良い。装填数は少ないが、反動が小さいから貫通弾を撃つこともできるし、通常弾も普通に使える。

 それに弾強化系のスキルがないからどちらかに特化する必要もないだろう。

 

「とりあえず、通常弾と貫通弾の両方使ってみようか。それで自分に合っていると思う方を使えば良い」

 

 通常弾なら、モンスターの弱点をピンポイントで狙う必要が、貫通弾ならできるだけヒット数を稼ぐように撃つ必要がある。また、弾に一番力が乗る距離も通常弾と貫通弾で違う。

 

「ガンナーって面倒くさいのね」

 

 俺と姪っ子ちゃんの話を聞いていたアイツがぽそりとそんな言葉を落とした。まぁ、俺やお前みたいに、力でゴリ押すハンターに遠距離武器は似合わないだろう。

 昔、ガンナーの力の8割は知識。と言われたこともあるが、その通りだ。何も考えず適当に撃ったところでガンナーは力にならない。ガンナーには深い知識と経験が必要なんだろうさ。

 

「あと、これが一番大切なことだが……」

「うん」

 

 ガンナーは剣士と違い、身軽になる必要があるため、どうしても防御力が落ちる。だから、剣士なら耐えられるような攻撃が致命傷となりかねない。

 

 だから、ガンナーはとにかく――

 

「逃げることを覚えてくれ」

 

 それが大切。

 剣士と違い、ガンナーは遠距離から攻撃できるが、すごく脆い。そして、リロード時などはかなりの隙ができる。スコープを覗いていれば視界は狭まるし、ヘビィは特に納刀時の動きが遅い。

 手数を出すことは大切だが、攻めすぎないようにとにかく気をつける。相手の動きをしっかりと見て、少しでも危ないと思ったら全力で逃げる。

 

「だから今回は攻撃なんてほとんどしなくて良い。とにかく安全な立ち回りを覚えるように」

「……うん、わかった」

 

 ガンナーは確かに強いが、本当に脆い。

 攻撃したくてうずうずしてしまうこともあると思うが、慎重になりすぎるくらいで丁度良いんだ。それだけは忘れないでくれ。

 

 

 

 

 それから、姪っ子ちゃんにそれぞれの弾の特徴や、しゃがみ撃ちのことなども一応、教えておいたが……多分、半分も理解されていないと思う。ガンナーは覚えることが多すぎるんだ。

 最初は苦労すると思う。でも、焦らず少しずつ覚えていけば良いさ。

 

「教えるのは苦手って言っていたくせに、なんだい。ちゃんとできるじゃないか」

 

 そろそろ遺跡平原へ着くくらいの時間。

 姪っ子ちゃんにカッコイイところを見せてやりたいが、久しぶりのヘビィなんだ。俺も安全に行こう。

 

「ああ、俺も驚いているよ」

「なんだい、それは」

 

 独り言のように溢した言葉にアイツは笑った。

 ヘビィは使えると言ったくらい。決して上手く使えるわけじゃない。それでも、そんな俺がこうしてちゃんと指導することができるのは……まぁ、アイツのおかげなんだろう。

 

 本当に色々あった。

 色々あって……色々失くした。

 

 それでも、あの時の経験とかそういうのが少しでも活きてくれているんじゃないかと思う。

 

「さて、そろそろ着く頃だろうし、気合入れて行くか」

「もちろんさ」

「……了解です」

 

 いくら口で教えたところで、実際に身体を動かしてみないと分からないことは多い。

 未来のお嫁さんのため、少しばかり頑張ってみるとしようか。

 

 

 


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