貴方に好きと言いたくて【完結】   作:puc119

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依頼

 

 

「なんだい? またそんな湿気たツラして酒なんて飲んで」

 

 簡単な採取系のクエストを終わらせ、辛辣な受付嬢から報酬を受け取り、いつものように酒を飲んでいると、そんな声をかけられた。

 その声をかけてきた主は、背中にラージャンのハンマーを担ぎ、背は俺より高く横幅なぞ俺の2倍はあるんじゃないかってくらいの巨体。

 そして、信じられんことだが生物学的分類によると雌になるらしい。コイツを見る度に生物の神秘を感じる。

 

 一応、言っておくが、俺はハンターの中でも小さな方じゃない。むしろ、平均よりは大きいだろう。

 つまり、コイツがおかしいのだ。

 

「おい、皆大変だ。集会所にラージャンが紛れ込んでるぞ。こやし玉投げろ、こやし玉」

 

 ぶん殴られた。

 

 なるほど、これが極限化個体って奴か。

 

 

 

 

「全く……どうしてアンタはいつもいつもそんな馬鹿なんだい?」

 

 殴られた右頬が痛い。

 防具がなかったらホントどうなっていたのやら……そんなこと想像したくもない。

 

「んで、今日はどうしたんだ? どすこいどすこい」

「……次は左側か」

 

 冗談です。本当にすみませんでした。

 なんだって、コイツはこうも乱暴なんだ。そりゃあ、ラージャンなんて呼ばれもする。呼んでいるのは俺だけだが。

 

「いや、悪かったって。んで、どうしたんだよ」

 

 コイツはその見た目からも分かるように、ハンターとしての実力はかなりのものだ。多分、素手でもジンオウガくらい倒せる。それこそ上位のさらに上――G級クエストだってコイツならなんとかなるだろう。

 そして、コイツは俺と同じように特定のパーティーを組んでいない。そのため、高難度クエストをコイツと一緒に行くことがあった。

 前回は確か、ラージャンの討伐だったと思う。どっちが本物のラージャンか分からず、苦労したものだ。そんな時の見分け方は簡単。こやし玉を投げて怒った方がコイツで、怒らなかった方がラージャンだ。

 そんなことしたらまたデンプシーが飛んでくるから、やれたもんじゃないが。

 

「アンタにお願いがあるんだ」

 

 まぁ、声をかけてきたってことはそうだろうなって思っていた。

 ってことは、どうせ高難度クエストだよなぁ。これで、卵の運搬クエストとか言われたら驚く。これは古龍やそれクラスのモンスターが相手となりそうだ。

 

 ただ、面倒なことにコイツには色々な恩がある。

 だから、まぁ、どんなクエストだろうと、受けるつもりだ。

 

「内容は?」

「あたしの姪っ子がね、ハンターになったばかりなんだ。だからアンタにはその姪っ子に武器の使い方を教えてもらいたいのさ」

 

 これは予想外。

 てっきり大連続クエストみたく高難度クエストを頼まれるかと思っていた。

 

 しっかし、俺に教えてもらいたい、ねぇ。自分で言うのもアレだが、そういうのに俺って向いてないと思うんだが……

 それに、他人に狩りの仕方を教えたことなんてない。

 

「いや、どう考えても人選ミスだろ」

 

 そりゃあ、俺だってそれなりの時間ハンターを続けているのだし、経験はそこそこ積んでいるが、それを他人に教えられるかとなれば話は別だ。

 いくら自分でできようが、言葉にするのは難しい。基本、感覚で戦っているし。

 

「あたしが言うのもアレだけど……姪っ子は可愛いぞ」

「何故それを先に言わない。あい、分かった。その願い喜んで引き受けよう」

 

 大丈夫、大丈夫。感覚だろうがなんだろうがきっと教えられるさ。そして、狩りのことだけとは言わず、他にも色々と俺が教えてあげようじゃあないか。

 

 先日のあの少女との件は残念だったが、流れは確実に俺の方へきている。大丈夫、俺の未来は明るい。

 

「……アンタが馬鹿で助かったよ。あたしも一緒に行くけど、それじゃ早速明日からお願いするよ」

 

 お任せ下さい。一生大切にしてみせます。

 とは言え、まだ聞かなきゃいけないことがある。教えるとなれば色々と準備をしなければいけないのだから。

 

「幾つか質問良いか」

「もちろんさ」

 

 ハンターになったばかりってことはまだHR1だろう。多分、狩りの経験もない。そして、可愛い。

 今考えられるのはそれくらい。

 けれども、流石にそれだけじゃあ情報が少なすぎる。

 

「姪っ子ちゃんの年齢は?」

「最初にする質問がそれってアンタ……」

 

 バカヤロー、こちとら必死なんだ。しかも最近、失恋したばかりなんだぞ。俺はお前みたいに、諦めてないんだ。

 きっと俺は素敵な嫁さんと幸せな生活を送ってみせる。

 

「確か、14とかそのくらいだったと思うよ」

 

 ふむ、思ったより年齢は上なんだな。

 それじゃあ、スリーサイズは? なんて聞きたいところだが、そんなことを聞けばデンプシーは避けられないだろうから止めておいた。命は大切にしたい。

 14、か。結婚するには少々早いができなくもない。ただ、焦るな俺。出会って直ぐに結婚できるわけじゃないんだ。その姪っ子ちゃんが成長するまでゆっくりと時間を過ごせば良い。

 

 そして、一番の問題だが――

 

「……彼氏は?」

 

 前回、俺は其処でやらかした。

 可愛い女の子なんてほぼ全てが彼氏持ちクソが。中にはあの受付嬢みたく、独り身の可愛らしい女性もいるがあの受付嬢は例外だ。結婚してくれねーかなぁ。

 

「さぁ? ただ、聞いたことないし、いないんじゃないかい?」

 

 はい、きました。このクエスト勝ちました。

 きっとその姪っ子ちゃんを幸せにしてみせる。

 

 これは明日からの生活が楽しみだ。テンション上がる。

 

「ああ、そうだ。その姪っ子ちゃんは何の武器を使うんだ?」

「ソレを最初に聞きなよ……」

 

 それ以上に大切なことがあったのだから仕方無い。

 ぶっちゃけ、ハンターになどならず俺と一緒に生活してくれればそれで良いが、そうもいかない。今の俺にできるのは、その姪っ子ちゃんに狩りを教え、立派になってくれるのを待つくらいだ。

 

「ヘビィボウガンだよ」

 

 ああ……ヘビィ、か。

 ガンナー武器全てに言えることだが、確かに誰かが教えてやらないと難しい武器だ。コイツはハンマーしか扱えないはずだし、それくらいなら俺が教えた方がまだ良いのかもな。

 

「アンタならヘビィも使えるだろう?」

「まぁ、それなりには使えるよ」

 

 ヘビィは俺自身使ったこともあるし、ずっと見てきた武器だ。少なくとも、基本くらいなら教えられると思う。

 俺のヘビィ装備はまだ残っているだろうか。

 

「アンタって無駄に器用よね」

 

 不器用だよ。

 器用な奴がこんな人生を歩むはずがない。

 

 それに、ヘビィだって使えるってくらいだ。大剣と違って上手く使えるわけじゃない。色々とあったから少し触ってみただけ。まぁ、結局、今も大剣を使っているわけだが。

 

「とりあえず、明日からよろしく頼んだよ」

「了解。姪っ子ちゃんにもよろしく言っといてくれ」

 

 さて、明日からは忙しくなりそうだ。

 多分下位のジャギィ討伐くらいのクエストになると思う。しっかし、孤高の一匹狼なんて噂されていれば良いなって思う俺のような奴がまた、パーティーを組むことになるとはねぇ。この人生、なかなかどうして分からないものである。

 

 

 そして、その時もまた舞い上がってしまっていたため、気づかなかったが、よくよく考えると、アイツの姪なんだよな。アイツの姪ってことは、アイツの兄(ムキムキマッチョ)ってことで……まぁ、うん。これはダメかもしれん。生物には遺伝とか血筋とか色々あるのだし。

 女性の可愛いって言葉ほど信用ならんものはないと思うんだ。

 

 そんなことを自宅に帰り、ウキウキ気分で明日の準備をしている時にようやっと気づくことができた。

 いつだって、そうだ。俺は気づくのが遅すぎる。

 

 その日見た夢は、2頭のラージャンに追い回されるものだった。

 

 

 


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