防具はラギア一式に、武器はブラキディオスの素材を用いたディオスブレイド改。自分のことだが、防具も武器もそれなりに優秀だと思う。上位の上――G級にもなればこの装備でも厳しいが、少なくとも上位クラスならこの装備で十分だろう。
優秀な装備はある。ハンターとしての実力もそこそこ。あとは、素敵な嫁さんを見つけるだけだ。
ま、それが一番難しいんだけどさ。
「そんじゃ、今日も頑張って行こうか」
止まることはしない。前だけ向いて進めば良い。
集会所へ着くと今日も今日とて沢山のハンターがいた。
ひとりで酒を飲んでいる奴もいれば、パーティーで楽しそうに食事をしている奴らもいる。これからクエストに出発するのか、ギルドストアで買い物をするハンター。無事クエストから戻って来て報酬を受け取るハンター、などなど。
さて、俺もクエストを受けるとしようか。
一流のハンターへの道のりはまだまだ長い。
「……ようこそクエストカウンターへ」
そして、受付窓口へ行くと、いつも通りの冷たい視線を受付嬢からもらった。
「君を攻略したいんだが、そんなクエストはあるかな?」
「ねーよ」
ないのか。それは残念だ。
さて、先日はレイアのクエストに行ったが、今日はどんなクエストへ行こうか。ブラキディオスの素材があれば俺の大剣も強化できるが、アイツ強いんだよなぁ……
「それじゃあ、何かオススメのクエストは?」
「防具無しで行く激昂ラージャンとかどうでしょうか?」
死にます。
それにしてもおかしいな。どうしてこうも俺は受付嬢に嫌われているのだろうか。こんなにも俺は愛を伝えているというのに、返ってくるのは辛辣なことばかりだ。
ふむ、何のクエストへ行ったものか……
なんて考えている時だった。
「あ、あの! 私と一緒にクエストへ行ってもらえませんか?」
そんな声をかけられた。
其方の方を向くと、ナルガ一式に操虫棍を持った女性のハンターの姿。
今までも、一緒にクエストへ行ってくれと頼まれることはあった。しかし、女性のハンターから誘われたのは初めて。
野郎なぞからクエストへ誘われたところで、ちっとも嬉しくない。だから、ほとんどの誘いは断ってきた。
「もちろんさマドモアゼル。どんなクエストだろうと喜んでお付き合いするよ」
しかし、相手が女性となれば別だ。喜んでついて行く。
「本当! ありがとうございます!」
俺が誘いに乗ることを伝えると、ナルガの少女の顔は明るくなり、お礼の言葉を言ってから笑ってくれた。超可愛い。ヤバい、惚れそう。いや、惚れました。結婚してください。
「それで、何のクエストに行くんだ?」
この少女は下位装備だ。そうなると、行くクエストも下位のクエストなはず。俺は上位装備なのだし、下位クエストくらいならどうとでもなる。
まぁ、今の俺なら例えラージャンだろうが、イビルジョーだろうが倒してみせるが。
愛にはそれだけの力があるのだ。
「え、えと、ブラキディオスの宝玉が欲しくて……」
おぅ……マジか。まさかブラキが来るとは思わなかった。しかも、宝玉は上位個体からしか取れないんだが、そのことを分かっているのか?
それに、例えブラキを倒したところで宝玉が手に入るかも分からん。宝玉は本当に希少な素材なんだ。
「そうなると、上位のクエストになるが……君は行けるのか?」
「はい、私も一応上位ハンターですので」
あー、それならなんとかなるか? まぁ、最悪俺がひとりで戦えば良いのだし、大丈夫か。
「了解した。そんじゃ、上位のブラキディオス討伐で良いんだな」
「はい、よろしくお願いします」
それにしても宝玉、か。何頭倒せば……うん? ああ、そうか。むしろこれは有り難いぞ。だって宝玉が出るまでこの少女と一緒に狩りに行けるのだから。
クエストを繰り返していくうちに少しずつこの少女と仲良くなり、最終的には……うむ、完璧な流れだ。俺の未来は明るい。
「そんなわけで今日は上位ブラキのクエストを頼むよ」
とりあえず、受付嬢にクエストを依頼。
「分かりました。貴方がいるので大丈夫だと思いますが……気をつけてください」
ああ、分かってるよ。どうか、君も俺の幸せな未来を願っていてくれ。
倒せるとは思うが、ブラキは決して弱い相手じゃない。それにこの少女もいるのだ。無茶はせず、とにかく命を大事にいかせてもらう。
「もう出発できるかい?」
「はい、大丈夫です! 今日はよろしくお願いしますね」
此方こそ不束者だが、よろしく頼むよ。
夢にまで見た可愛い女の子とふたりきりのクエスト。全力で行かせてもらおうか。
少しばかりクエストへ行く準備をして直ぐに、地底火山を目指して出発。
最近になって漸く使われるようになった飛行船のおかげで、昔よりも移動に時間はかからないようになった。ガタゴトと揺れる馬車のあの感覚も悪くなかったが、如何せんアレは時間がかかりすぎるからなぁ。
さて、今回戦う相手、ブラキディオスは――強い。あの古龍たちほどではないにしろ、その実力はトップクラス。獰猛な性格に強靭な前脚。そして、爆発を引き起こす粘菌。
正直なところ、俺だってできれば戦いたくない相手だ。狂竜化個体なんて特に。
そんな相手だと言うのに……
「君はどうしてブラキの宝玉が必要なんだ?」
ブラキの武器や防具に宝玉を要求されることはあるが、この少女の防具はナルガで、武器はネルスキュラの操虫棍であるアサルトロッド。だから、どうにも引っかかった。
「……それが手に入れば、私もハンターとして認められるのかなって思ったんです」
ふむ、そういうことか。
この少女に何があったのかはまだ分からんが、その気持ちも分からないでもない。それが全てとは言わないが、ブラキの宝玉を手にすることができれば、一応の証にはなるだろう。本人がそれで良いと感じるのなら。
「了解した。ただ、相手はあのブラキなんだ。とにかく気をつけてくれ。焦らず、慎重にな」
このクエストで宝玉が手に入るとは考え難い。最低でも10頭ほどと戦うくらいの覚悟が必要だろう。
しかし、焦ったらダメだ。そんな状態で勝てるような相手じゃないのだから。
「はい、わかりました!」
うむ、なんとも良い雰囲気だ。パーティーは久しぶりだが、たまにはこういう感じも……てか、ホント可愛いなこの娘。
もう今のうちから言っておきます。俺、このクエストが終わったらこの娘と結婚するんだ。式は、海が見える素敵な会場で挙げようか。
「そ、それにしても、どうして俺なんかをクエストに誘ったんだ?」
この娘の容姿なら独り身の野郎共など直ぐに釣れそうだ。
悲しいことに、ハンターの男女比は偏りがすごい。女性のハンターなんてほんとんど見かけないし、見かけたとしてもラージャンみたいなハンターばかりだ。大剣2本を両手に持って乱舞し始めたり、ジンオウガに素手で闘いを挑むようなハンターを女性と言うには無理がある。そして、極希に可愛らしいハンターもいるがそのだいたい彼氏持ちクソが。
ハンターはそんな状況だ。そんな中こんな可愛らしい少女が、俺などに声をかけてくるとは……はっ! これが噂のモテ期か。
「えと、そもそも私なんかと一緒にクエストへ行ってくれるハンターがいなくて……」
あら? そうだったのか。それは予想外だ。
ああ、でも、この少女は下位装備。そんなハンターが上位……それもブラキの宝玉が欲しいなどと言ったら断るハンターは多いかもしれん。例え、この少女がどんなに可愛らしいとしても、やはり自分の命は大切なのだから。
まぁ、そんなこと俺には関係ないが。可愛らしい少女が目の前にいるというのなら、自分のことなど二の次だ。
「それで、ギルドマスターに相談したら貴方を紹介してくれたんです。貴方なら私と一緒にクエストへ行ってくれるって」
マジか。よくやったぞ爺さん。
爺さんとは長い付き合いだが、初めて感謝する日が来た。今度、酒樽のひとつや二つほど送ってやるとしよう。
「最初はすごく堅い性格なんだろうと思っていました。でも、貴方が優しそうな人で、その……良かったです」
そう言って、その少女は何処か恥ずかしそうにしながら、本当に可愛らしく笑ってくれた。そんな少女の笑顔に見蕩れてしまったのも仕方の無いことだと思う。
神だか古龍だか知らんが、一生この娘を大切にすると此処に誓おう。
「……そっか。俺に何処までできるか分からんけどさ。できるだけ頑張ってみるよ」
君がため、やってやろうじゃあないか。
「は、はい! よろしくお願いします!」
さてさて、長い道のりとなるだろうが、この君と俺の物語を少しずつ書き始めてみよう。