貴方に好きと言いたくて【完結】   作:puc119

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物語

 

 

 ドンドルマの大老殿をさらに奥へと進んだ先にある、小高い丘の上。ドンドルマの街を一望できる場所に、質素なんて言葉が似合うふたつの墓があった。

 其処にあるのは墓標として二本の柱とふたつの武器だけ。あとは、供え物としての花束が置いてあるくらいだ。

 

「よっ、久しぶり。最近はなかなか来ることができんくて悪かったな」

 

 風の通りがよく、なかなかに心地良い場所。

 そんな場所にあのふたりが眠っている。

 

「あれからもう3年だってさ。ホント、時間の流れってのは早いもんだ。俺みたいなのんびり者じゃついていくのも大変だよ」

 

 墓標の直ぐ前に突き刺された覇竜――アカムトルムの太刀である覇剛刀クーネタンカム。それは彼が使っていた武器。

 もうひとつは崩竜――ウカムルバスのヘビィボウガンである崩天砲バセカオンカム。それは彼女が使っていた武器。

 どちらも武器としては超がつく一級品。

 

「んでさ、俺たちに懐いてくれた双剣使いのイケメンハンターいるだろ? ソイツがな、今じゃ大老殿でも一番上になったんだ。あんなに頼りなさそうな奴だったってのに、人間成長するもんだな」

 

 そんなふたつの墓があるこの場所。

 けれども、あのふたりが此処に眠っているわけではない。此処にあるのはアイツらが使っていた武器だけだ。

 

 俺たちが行った最後のクエスト――黒龍ミラボレアスとの戦いで、あのふたりは死に……その身体すらも残らなかった。

 そんなよくあるお話。

 

 拘束用バリスタ弾を撃ち込み、怯んだ黒龍へ撃龍槍を直撃させた。

 断末魔のような黒龍の悲鳴が響き、黒龍は横に。それで倒したと思った。俺たちは伝説すらも倒すことができたと思ってしまった。

 

 そんな一瞬の油断。

 

 撃龍槍を直撃させたにも関わらず起き上がったミラボレアスは、巫山戯てる熱量のブレスを吐き出し、俺以外のふたりを焼いた。残ったのは原型を留めていない防具と、武器だけ。

 身体は、何も残らなかった。

 

 そのあとのことはよく覚えていない。

 気がつけば折れた大剣を握り締め、切り落とした黒龍の頭の前に立っていた。

 

 それがアイツらと一緒に戦った最後のクエスト。

 アイツらは本当に良い奴らでどんなハンターよりも上手かったと思う。俺たちは何頭もの古龍や古龍に匹敵するモンスターを倒し、戦闘街に現れたゴグマジオスすら倒してきた。

 

 けれども、そんなアイツらも一瞬で消えてしまうことに。

 撃龍槍を直撃させたことで生じた一瞬の油断。今更後悔したところでどう仕様も無いが、どうしたって思い出し、悔やんでしまう。

 

 ……ホント、女々しい限りだよ。

 

「久しぶりだな。若き狩人よ」

 

 そして、後ろから聞き覚えのある低い声が響いた。

 

「良いのか? 大長老が仕事をほっぽり出し、こんな場所へ来て」

 

 見なくても分かる。誰が声をかけてくれたのかくらいは。

 それは、大老殿の中でも一番のお偉いさんであり、若い頃はラオシャンロンの頭を一刀両断したなんて伝説まである元ハンター。

 

「これくらいなら構わん。ワシとて、ドンドルマの英雄に対する礼儀くらいは心得ておる」

 

 アイツらはそういう硬っ苦しいのが苦手だと思うんだがねぇ。酒片手にフラっと立ち寄ってやるくらいが丁度良いと思う。

 まぁ、目立つのを嫌うアイツらのため、こんな場所へ墓を用意してくれたのは感謝しているが。

 

 後ろを向くと、其処には10m近いんじゃないかってくらいの大男が立っていた。竜人族で1000年に一度しか生まれないと言われている巨人。それが、ドンドルマの大長老。相変わらずでっけぇ身体してんな。

 それにしても、わざわざ大長老が墓参りをしてくれるとは……お前らも随分と偉くなったもんだ。なんとも似合わないことで。

 

「さて……話は聞いておるな?」

「詳しいことは知らんが……まぁ、聞いてるよ」

 

 ラージャン討伐のクエストの帰り道。あの後輩から教えてもらったことは、信じられることじゃない。だって、あのモンスターは俺たちが倒したはずだから。

 デマであってくれれば、それが一番だと思っている。

 

 けれども、自分の中の何処かで――ああ、やっぱりこうなったか。なんて思う自分もいたりするんだ。

 だからきっと、それは見間違いとかじゃないんだろう。

 

「そうか……混乱させるわけにはいかないため、公表はしておらん。しかし、まず間違いないだろう。観測されたモンスターはあの黒龍だ」

 

 確かに俺たちはあの時、黒龍を討伐した。つまり、確認されたのは新しい個体。

 伝説とまで呼ばれる龍がそんなポンポン現れるなって話だよ。

 

「観測された場所は?」

「ウム……それがだな、シュレイド城ではなく――溶岩島なのだ。さらに、以前ヌシたちが倒した黒龍とは見た目が異なっているらしい」

 

 溶岩島? まぁた、変な場所に現れたもんだな。

 いや、まぁ、戦闘街とか人間が住む場所に現れるよりよっぽどマシだが。

 

「……ヌシにはあのようなことがあったのだ。ワシから強要することはできん。そのようなことはできんが――」

「行くよ」

 

 大長老の言葉を遮り、自分の気持ちを乗せた言葉を落とした。

 

「いや……行かせてくれ」

 

 あの後輩の話を聞いてから俺の気持ちはただのひとつ。例え、俺に依頼が来なくとも、行くつもりだ。

 

 そのために此処へ来た。

 アイツらへの最期の挨拶だとかそんなことも含めて。

 

「……本当に良いのか? 此方も全力で手配するが、安全は保証できぬぞ」

「分かっているさ。それは俺が一番分かっている」

 

 だからこそ、俺が行かなきゃいけないんだ。他の誰でもない、黒龍と戦った経験のある唯一のハンターである俺が。

 それが筋ってもんだろう。

 

「分かった。それでは、近いうちにバルバレギルドへ依頼を出しておく」

「おう、ありがとう」

 

 ん~、黒龍かぁ……流石に勝てんよなぁ。

 

 仇討ちだとかそういうことを思っているわけじゃない。そんなことに何の意味もないことはよく分かっているから。

 

 じゃあ、どうしてそんな自ら死ぬようなことをするのかってことだが……なんでだろうな? それは俺にも分からんよ。

 まぁ、どうせ理屈じゃ説明できないんだろう。そういうこともあるさ。

 

「先も言った通り、このことは公表しない。そのため、ヌシには溶岩島の探索という形で行ってもらうこととなるだろう。そして、ワシらとしてもヌシを失うわけにはいかん。普段とは違い、一度でもダウンしたらその時点でクエストを諦めてもらう。それでも良いか?」

「ああ、充分だよ。せめて、これからに繋がる情報を集めてくるさ」

 

 とは言え、あの黒龍が相手となるのだ。一度でもダウンすればそれは死ぬことと何も変わらない。死体だけでも帰って来ることができれば儲けもの。

 

「んで、ひとつ頼みごとをしても良いか?」

「ウム、言ってみろ」

 

 多分……というか、まず間違いなく俺はこのクエストで死ぬだろう。

 できるだけやってみる。やってみるつもりではあるが……相手が相手だしなぁ。今まで多くのモンスターと戦ってきたが、黒龍はそれらと次元が違う。

 

 今回のクエストはそんなもの。例え俺が命を懸けたところで、それにどれほどの意味があるのか分からない。

 いくら情報を集めるたって、それがどのくらい役に立つのかも……

 

 だから、死ぬ前にさ。色々とやっておきたいんだ。死んでしまったら何もできんもんな。

 

 

「俺が死んだら、その墓はこのバカップルの間に作ってくれ」

 

 

 俺からのお願いはそれだけ。

 そんなことをしたら、あの世でもいちゃついているだろうアイツらに何を言われるのか分かったもんじゃないが……まぁ、俺だけを残して勝手に逝っちまったんだ。それくらいはやっておきたい。

 それだけのことができれば、ざまあみろ。なんて思いながら俺も死ぬことができる。

 

 なんとも取って付けたような理由だが――死ぬ理由くらいにはなるだろうさ。

 

「……ああ、心得た」

 

 うん、頼んだ。

 悪いな、最初から最後までアンタには世話になりっぱなしだ。そして、そんな存在がまだまだ沢山いる。全員とは言わないが……まぁ、ある程度のケジメをつけておいた方が良さそうだ。

 

「頼んだぞ。どうか……どうか死なないでくれ。ワシから言えるのはそれだけだ」

 

 ふふっ、俺だって死にたくはないさ。

 やり残したことが沢山あるんだ。やっぱり、素敵な嫁さんを見つけないと死に切れん。

 

 

 生きる理由もある。

 

 死ぬ理由もある。

 

 

 つまり、どちらへ転んでも俺は得するって感じだ。それならもう、あとは迷わず進むだけ。

 3年前、アイツらを失ってから俺の物語は止まったまま。そんな物語をもう一度始めてみる良い機会だろうよ。

 

 せっかちなアイツらのことだ。どうせ俺のことなんざ待っていちゃくれないだろうが……まぁ、もしあの世で会うことができたらその時はよろしくな。

 

 ふふっ、そんなことを言ったらアイツらに怒られそうだな。たださ、これで最期なんだしやっぱりカッコつけてみたいだろ?

 だから、まぁ……そんくらいは許せ。

 

「ありがとう。世話になった」

 

 最後に大長老へそんな言葉を落としてから、その場を後に。

 

 そんじゃ、バルバレへ行くとすっかね。

 いつまでもプロローグを語っていたって仕様が無い。そろそろ本編を始めてみようか。

 

 この物語を終わらせるために。

 

 

 

 


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