貴方に好きと言いたくて【完結】   作:puc119

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汚れ役

 

 

 ようやっと謹慎期間も終わり、勘を取り戻すために行ったレイア亜種のクエストも無事クリア。

 アイツに折られた腕も元通りだし、完全復活と言ったところだ。

 

「お疲れ様でした。此方が報酬となります。……あと、ギルドマスターから貴方にお話があるそうですよ」

 

 そして、クエストから戻り、いつもの日課である受付嬢への求婚をしようと思っていたのだが、横槍が入った。

 ギルドマスターから俺に話とは珍しい。飲みに誘われることもあるが、そんなことで呼び出しはされない。面倒なモンスターでも現れたんかねぇ。

 

 ともかく話を聞いてみないと分からないため、ギルドマスターの元へ。

 

「へい、おやっさん。俺に話があるって聞いたけど、どしたの?」

「ほっほほ、よく来てくれたね。待っていたよ」

 

 俺には素敵なお嫁さんを見つけるという大切な使命がある。できれば面倒なことは遠慮したいんだが、はてさて、何の用事なのやら。

 

「……遺跡平原にね。ラージャンが現れたんだ」

 

 ラージャンねぇ。それだけなら別段珍しい話でもなんでもない。ジョーほどではないにしろ、アイツ何処にでも現れるからなぁ。最近は集会所でも見かけたぞ。

 

「それだけなら良くある話。だから、そのラージャンの討伐はあの彼女に任せたんだ」

 

 適任だと思う。アイツほどラージャンが似合うハンターはいないのだから。同族は同族に任せるべきだ。

 

 ただ、話しの流れ的にどうにも嫌な予感する。だって、そんなよくある話をするためだけに俺を呼ぶはずがない。

 

「でもね、あの彼女ですらそのラージャンを倒すことができなかった」

 

 ほら、見なさい。言わんこっちゃない。

 

 そして――

 

「……アイツは大丈夫だったのか?」

「ほっほほ。安心しなさい。彼女は怪我ひとつないよ。流石と言うべきか、相手の実力を確認して直ぐにリタイアしたそうだ」

 

 それを聞いて一安心。

 アイツまで消えてしまうのは流石にキツい。

 

 んで、ギルドマスターが俺に何を伝えたいのかもだいたい分かった。ラージャン、か。

 

「もう私が何を言いたいのか分かったと思う。……お願いできるかな?」

 

 アイツでもダメだったってことは、上位の中でもかなりの強さ。若しくは、そのさらに上であるG級個体ってことだろう。そうなってくると……俺に頼むのはおかしいことじゃない。

 

「そのラージャンはG級個体なのか?」

「それがね、観測隊によると上位クラスらしいんだ。でも、私はG級の実力があると思っている。なにせ、あの彼女がダメだったのだから」

 

 まぁ、普通に考えればそうなるよな。ことラージャンにおいてならアイツは本当に強い。と、なると観測隊がその判断を誤ったと言ったところか。

 

 このギルドマスターにはかなりの恩がある。その恩を返すためにも、その依頼を引き受けることに抵抗はない。

 とは言え、相手はG級のラージャン。最近まで戦っていた相手とは本当にレベルが違う。あの頃ならまだしも、今の俺なんかが勝てる気はしないぞ。ゴリラは強いんだ。

 

「あー……引き受けたいところなんだが、流石にソロでG級ラージャンはキツい」

「それは私も分かっているよ。だから、以前ダレン・モーランの討伐に来てくれた大老殿のハンターふたりにお願いしてある。それならどうだろうか?」

 

 おお、それならなんとかなりそうだ。

 その大老殿のハンターってのはあの後輩のことのはず。あの後輩の階級はG3。あの頃はまだまだ危なっかしいところもあったが、今はきっと一流のハンターとなっているだろう。それは頼もしい。

 

「それなら大丈夫だと思うが……それ、俺が行く意味はあるのか?」

 

 ただ、そうなってくるとそんな疑問が残る。正直、俺なんかよりG級のハンターに任せてしまった方が絶対に良いのだし。俺が行くことで足手纏いになる可能性だって十分ある。

 

「……一言で表すと、体裁、かな」

 

 ああ、なるほど、ね。

 

 ギルド側の気持ちは分からんが、おやっさんも苦労していそうだ。つまり、ギルド側はこのクエストを上位クエストってことで片付けたいのだろう。

 ホント、面倒なことで。

 

「本当に申し訳ない。私たちはキミ達ハンターの命を預かっている立場だと言うのに」

「おやっさんが悪いわけじゃないんだ。気にすんな。それにそんくらいのことは慣れてるよ」

 

 元大老殿のハンターというこの特殊な立場もあってか、俺にこういうクエストが回ってくることはよくあった。普通のクエストではないが、普通のクエストとして終わらせたいクエストを受けることが。

 貧乏くじを引かされていることは分かっている。けれども、誰かがやらなければいけないというのなら、自分で片付けた方が気持ち的に楽。

 

 そこにやりがいなどは感じないが、自分に役割があるというのは悪いものじゃない。例えそれが汚れ役だとしても。

 

「んで、いつまでに行けば良いんだ? G級用の武器を作りたいから、直ぐに出発はできんぞ」

「そうだね……大老殿のハンターが来るまで時間はあるし、キミの武器が完成したら行ってもらえるかな?」

 

 了解。

 武器はいつも通り、アイツの兄に頼むとして……他に準備するものはあったかね? そのゴリラが極限化個体だってんなら、抗竜石の準備をしないとだが、今回はそうじゃないはず。

 まぁ、身体が鈍らない程度にのんびりしていよう。

 

 久しぶりのG級クエスト。気張って行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 そんなことがあってから五日後。アイツの兄に頼んだ武器も完成し、クエストへ行く準備は完了。

 久しぶりにG級用の防具を装備してみたが、筋肉が減ったせいか、あまりフィットしない。そろそろ俺も潮時ってことかねぇ。

 

「先日ぶりです先輩! 今日はよろしくお願いします!」

 

 そして、大老殿から後輩たちも到着。あとはその上位(仮)のラージャンを倒すだけだ。

 

「いや、よろしくお願いするのは俺の方なんだが……」

 

 今じゃお前の方が絶対に上手いし。俺なんてただの上位ハンターなんだ。戦力にはならんぞ?

 はぁ、昔のことを知られている相手ってのはどうもやり難いな。

 

「……よろしくお願いします」

 

 そして、あのお祭りの時に出会ったライトボウガンのハンター。

 どうやらお堅い性格っぽいし、俺とは合わなそうだ。でも、美人だからいてくれるだけで俺は満足だよ。どうだい? このクエストが終わったら、結婚でも。

 

 んで、今の大老殿にはこんなハンターもいるのか。ホント、羨ましい限りだよ。でも、どうせ彼氏持ちだろう。

 

「ああ、よろしく頼む。そんじゃ、そろそろ出発するか」

「はい!」

 

 いやー、頼もしい仲間がいるパーティーで何よりだ。

 粉塵飲んだり、罠を使ったりするくらいしかできんが、今日はよろしくな。

 

 

 

 

 

 

 クエストカウンターで手続きを終え、早速出発。場所は遺跡平原だし、それほど時間はかからないだろう。

 

 相手はG級かぁ……割と考えなしで来てしまったが、今更になって不安になってきたぞ。

 

「……その勲章って」

 

 この先の未来を考え、なんとも微妙な気分になっているとライトボウガンの女性が話しかけてきてくれた。

 

「ん? ああ、せっかくだしと思って付けてきたんだ」

 

 それはG3のさらに上の階級を意味する勲章。

 カッコつけにと思っていたが……コレ、思ったより恥ずかしいな。こんなことになるならつけてくるんじゃなかった。

 

「あれ? でも、先輩っていつもつけていなかったような……」

「確かにあの時はつけてないことの方が多かったな」

 

 たてがみマグロのスープを溢してからどうにも付ける気が起きなかった。一応、式の時だったり特別なクエストの時は付けるようにしていたが。

 

 まぁ、どうせこの先、これを付けることはないだろうし、たまには良いかもな。

 その勲章に見合うだけの実力が自分にないから、微妙なところではあるが。

 

「それにクシャナX防具……本当に貴方があのハンターだったのですね」

「それは昔のこと。今はただの上位ハンターだよ。それに今回も俺はほとんど戦力にならんと思う。だから、今日はよろしく頼むよ」

 

 本当はできるだけ装備したくなかったけれど……流石に上位用の防具で戦いを挑むのは無理。今回は我慢するとしよう。

 

 

 それから、ライトボウガンの女性は少し眠ると言ってから、仮眠所の方へ向かって行ってしまった。

 

「先輩、その武器はどうしたのですか? 見たことのない大剣ですが……」

 

 そして、今は後輩とふたりきり。

 ふたりきりなんて言うと良い響きだが、野郎とふたりきりになってもなぁ。

 

「俺の大剣はほら、あの時に折れちまったし。これは先日、作ってもらったばかりのやつだよ」

 

 俺が愛用していた大剣――角王剣アーティラートはもうない。かなり気に入っていたんだが……まぁ、折れてしまったからなぁ。

 

「その大剣はなんて名前なんですか?」

「ん~……確か、ブラックミラブレイド、だったと思う」

 

 アイツの兄に頼んだんだが、珍しい素材をかなり要求されるわ、値段は高いわと大変だった。古龍の大宝玉はもったいなかったかなぁ。

 そんな武器なのだし、これからはこの大剣を愛用にしよう。

 

「え? それって……」

「そう。アレの素材を使って作ってもらったよ」

 

 多分、この大剣を持っているのは俺くらいだろう。だから、後輩がこの大剣を見たことがないのも仕方無い。ちゃんとした資料もない中、この大剣を作ってくれたアイツの兄には感謝。

 これはそんな武器。今度は折らないよう、大事にしないとだな。

 

 さてさて、そんなことはどうでも良いんだ。いくら良い武器を持っていようが、使う奴が使う奴なのだし。

 

 それよりも……

 

「お前ってあのライトボウガンのハンターと付き合ってるの?」

 

 そのことの方がよっぽど大切。

 恋ばなしようぜ、恋ばな。

 

「ふふっ、そんなことはありませんよ。それに僕、女性には興味ありませんし」

 

 うっわ、ムカつくなコイツ。

 俺も一度くらいそんなセリフを……うん?

 

 

 女性……()()

 

 

「それにしても今日は本当に嬉しいです! まさか、また大好きな先輩と一緒にこうやってクエストへ行くことができるなんて」

 

 ……ちょっと、待ってね。

 

 さっきのセリフの後にそんなセリフを言われても寒気しかしないんだが。いや、気のせいだよな? 俺が考えすぎているだけだよね?

 

「だから、今日はよろしくお願いします!」

「えっ、ああ、おう……よろしく頼むわ」

 

 一応、言っておくけど、俺にそっちの気はないです。

 

 

 


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