貴方に好きと言いたくて【完結】   作:puc119

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思い出とか

 

 

 謹慎処分を喰らってしまった。

 これでも一応、少し昔はドンドルマの英雄なんて言われるほどのハンターだったのだが、なかなかどうして人生とは分からないものである。

 まぁ、英雄なんて呼ばれはしていたものの、どう考えたって名前負けしていたが。

 

 謹慎期間は20日となかなか長い。その間、クエストへ行けないとなると……ぶっちゃけ暇だ。

 とは言え、変なことをすれば今度こそどうなるか分からん。だから、家の中でおとなしくしているのが一番なんだろうが……腹は減るし、閉じ篭っているのは性に合わん。

 そんなことで飯を食うため集会所へ足を運ぶこととした。

 

 

 

 

 そして、集会所へ着いたわけだが、なんだかいつもと雰囲気が違う。

 なんとも表現し難いが、興奮していると言った感じ。

 

「今日ってなんかあるの?」

 

 アイルーへポポノタンとココットライスを頼んでから、近くにいた受付嬢に聞いてみた。クエストカウンターにいないということは、休みの日ってことだろうか。

 

「はい、これからダレン・モーランの討伐が行われるそうです。それで討伐隊が組まれ、ドンドルマからもG級のハンターさんが招待されました」

 

 なるほど、見かけない防具の奴がいると思ったら、大老殿のハンターだったか。

 

「俺、呼ばれてないんだけど?」

「貴方は謹慎処分中じゃないですか……」

 

 そうでしたね。そりゃあ呼ばれないはずだ。

 それにしても、ダレンを討伐するためだけにG級のハンターが、ねぇ。別に其処までする必要はないと思うんだが。流石にソロでダレンと戦うのは厳しいが、バルバレのハンターだって4人も集めれば討伐できるだろうに。

 まぁ、ダレン討伐なんて一種の祭りのようなものだし、それで呼んだとかそういうことだろう。

 

「んじゃあ、バルバレの討伐組にはアイツも入ってるのか?」

「えと、呼んだのですが、見せ物は勘弁ということで断られました」

 

 そりゃあまた、アイツらしいことで。

 まぁ、俺だってパーティーに可愛い女の子がいない限り呼ばれても断っただろう。面倒事に自分から突っ込んでいく趣味はない。

 

 G級ハンターねぇ……俺が言うのもアレだが、まともな奴なんてほとんどいなかったぞ。今の大老殿がどうなっているか知らんが、あれが変わるとも思えん。戦闘狂やドMなどなどとかなりカオスな環境だった。

 そんな場所に自分がいたなんて信じられん。

 

「今日は休みなの?」

「はい。久しぶりの休日です」

 

 俺の問いかけに嬉しそうに答えた受付嬢。かわいい。

 俺たちハンターと違ってギルドガールは勝手に休んだりすることはできない。大変そうだ。

 

「奇遇だな。実は俺も今日は休みなんだが……どうだい? デートでも」

「仕事ですら嫌なのに、どうして休みの日も貴方と付き合わなきゃいけないんですか」

 

 取り付く島もない。相変わらず辛辣ね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「おー、やっとるやっとる」

 

 酒とつまみを持ち込み、いつもの櫓の上で、双眼鏡でダレンと戦う精鋭たちの観察。

 大砲の音は此処まで響いてくるし、バリスタで攻撃しているのもちゃんと見える。あの様子なら討伐も可能そうだ。

 これで討伐することができればバルバレギルドも大きな収入となるし、きっと盛大な宴が開かれることだろう。そのためにも、あの精鋭たちには是非討伐してもらいたいところ。頑張れ頑張れ。

 

「ちょいと、あたしにも見せておくれよ」

 

 そして、何故か知らんがアイツもいる。

 ダレン討伐は断っておいたくせに用事があったわけじゃないらしい。

 

「双眼鏡買ってこいよ。あとあまりこっちに近づくな。お前の重さで櫓が傾いたらどうしてくれる」

「そこまで重くないわ。それに双眼鏡なんて普通は持ってないさね」

 

 いや、この櫓もなかなか脆いし、案外あっさり傾くかもしれんぞ。そんなことになったらまた怒られる。こちとら謹慎中の身なんだから、そういうのは勘弁してほしい。

 

 渡さないとギャーギャー五月蝿いため、仕方なしにアイツへ双眼鏡を渡す。あと俺は双眼鏡、便利だと思うんだがなぁ。

 

「なんだい。かなり優勢っぽいじゃないか。これならあっさり倒してくれそうだね」

「そりゃあ、G級のハンターもいるしなぁ。負ける要素はないだろ」

 

 コイツもバルバレの中ではかなり強いが、大老殿のハンターはそれ以上に上手いのがゴロゴロいる。そんなハンターがいれば負けることはないだろう。

 

「G級ねぇ……アンタはまた戻ろうと思わないのかい? どうせまだ誘われているんだろう?」

「戻る気はないよ」

 

 あんな場所にいたらそれこそ本当にいつ死ぬか分からない。G級のモンスターと比べれば上位の古龍種ですら可愛く思える。なんだよ極限化個体って。あんなもの二度と戦うか。

 

「そりゃあもったいない。アンタならまだG級でも充分活躍できると思うんだけどねぇ」

「いや、流石に厳しいよ。それに、アイツらももういないしな」

「……そうかい。それなら仕方無い」

 

 そんな言葉を交わしたところで、アイツはそれ以上の言葉を落とさなかった。

 

 俺が大老殿の英雄なんて呼ばれるようになったのは、アイツらのおかげ。自慢となってしまうが、本当に俺たちは強いパーティーだったと思う。

 でも、それも過去のお話。だって……アイツらはもういないのだから。

 

 色々ありました。

 本当に色々あって……色々失った。そんなお話。

 俺が英雄などと呼ばれるのは、あまりにも大きすぎる犠牲があったからこそのこと。それは忘れちゃいけないことだが……正直、思い出したくもない。

 

 はいはい、湿っぽいお話は止めにしましょうか。そんな話をしたところで誰も得しない。

 

「おっ、もう直ぐ、決着がつきそうだよ」

「それは良かった。これでまたただ酒が飲める」

 

 酒は良いものだ。色々なことを忘れさせてくれるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へい、そこの彼女。どうだい? これから俺と一緒に熱い夜を……あっ、ちょっと待って。おーい」

 

 その日の夜。例のごとくバルバレではギルド主催の祭りが開かれた。

 集会所を中心に開かれたそれは、商人たちの集う通りまで広がっている。

 

 それにしてもおかしいな。祭りのテンションでどうにかなると思ったが、先程から女の子に声をかけてもことごとく無視される。あの受付嬢を探しているが、全然見つからないし、このままじゃひとり寂しい祭りとなってしまう。

 こんな日くらい良い思いをしたかったんだが……

 

 むぅ、これならもういっそアイツのところへ行こうかな。今日は姪っ子ちゃんもいるらしいし。姪っ子ちゃんの旦那がいたら複雑な気分となるが、ひとりで酒を飲むよりは良さそうだ。

 

「あれ? 先輩? もしかして、先輩ですか!」

 

 そして、声をかけられた。野郎から。

 男から声をかけられたってちっとも嬉しくないんだがなぁ。なんて思いながら、其方を見ると頭防具はないが、レギオス防具にレギオスの双剣を担いだハンターがいた。

 

「ああ、なんだ。大老殿から呼ばれたハンターってお前だったのか。ダレン討伐お疲れ様」

「はい、お久しぶりです!」

 

 それは俺がまだ大老殿にいた頃、一緒にクエストへ行ったり食事をした後輩ハンター。G級ハンターじゃ希少種である常識人であり、性格も良い。あと、イケメンであるクソが。何処とは言わんがもげれば良いのに。

 そして、あの頃はまだG1だったが、ソイツの胸についた勲章はG3のそれ。G3と言えば、G級の中でも実質トップと言って良い階級。立派なハンターになってくれたようでお兄さんも嬉しいよ。でも、イケメンであることは許さんからな。

 

「……その方は?」

 

 なんて声をかけてきたのは、ソイツの隣にいた蒼火竜のライトボウガンを担いだ少女。防具はレギオス一式。階級はG1。あと、かわいい。

 

「え、えと……その……」

 

 少女の問いかけに困った様子の後輩。

 多分、その少女は最近になって大老殿へ来たのだろう。こんな少女、見かけたことないし。こんな可愛らしい少女を俺が忘れるわけない。

 

「ちょいと昔に関わったことがあるだけだよ」

 

 どうやら後輩が俺に気を使っているらしいのでフォロー。別に隠しているわけじゃないが、俺も好き好んであの頃の話をしたくはない。

 

「うん、そんなところ。僕がハンターとしてまだまだだった時にお世話になったんだ」

「……そう」

 

 あらやだ。このふたりカップルみたい。それを見せ付けられる俺のことも少しは考えてほしい。爆ぜれば良いのに。

 

「それで、先輩はその……」

「戻らないよ。それに例え俺が戻ったところで戦力にはならんさ。できても運搬クエストくらいだ」

 

 最近、煙草のせいかスタミナの減少は早いが、強走薬を飲めばまだやれると思う。ただ、やりたくはない。

 それに、まだ防具は残っているものの、愛用していた俺の大剣は最後のクエストで折れてしまった。そして、そんな最後のクエストの記憶はほとんどない。ホント、どれだけ無茶な戦いをしたのやら。

 

「そ、そんなことないですよ!」

 

 ……ホント、優しいなお前は。

 俺を傷つけないよう、必死に言葉を選んでいるのが良く分かる。俺にはもったいないほど、良くできた後輩だ。

 

「大丈夫、大丈夫。お前らなら問題ないって。まぁ、アレだ。どうしても厳しくなったら、その時にまた声をかけてくれ。今の俺じゃ何ができるか知らんが」

「そう、ですか……」

 

 俺の言葉に後輩は悲しそうな顔をしながら、笑った。

 悪いな。

 たださ。俺はもうハンターなんて引退したいんだ。本当はあの時に辞めるつもりだった。それでも、なんとなく惰性で続けている。そんな奴がいたってかえって迷惑だろう。

 

 ホント、早く素敵な嫁さんを見つけないとだよなぁ。

 ま、それができたら苦労はしないってお話か。

 

 

 

 

 それから、適当な雑談をしたところで後輩たちと別れた。

 

 G級、ねぇ。

 未だに大老殿から手紙は届く。けれども、やっぱり戻るつもりはない。

 

 ……分かっているさ。自分の言動と行動が矛盾しているってことくらい。一流のハンターを目指すなんて宣いながら、やっていることは全く違うこと。

 かと言って、どうすれば良いのかが分からない。前へ、進めない。

 

 ホンっト、難しい人生だよ。どうやって攻略すれば良いのか分かったもんじゃない。

 もし、アイツらがまだいたら、もう少しは違う人生を歩めていたんかね? そんなことを考えたところで仕様も無いが、どうしても考えずにはいられなかった。

 

 

 そんな俺が無理やりにでも前へ進まされることになるのは、もう少しだけ先のお話。

 

 

 






あと数話で完結となります


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