貴方に好きと言いたくて【完結】   作:puc119

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復讐なんて

 

 

「えと……戦わないの?」

「静かに。気づかれるかもしれん」

 

 うつ伏せとなり背の高い草を壁として隠れる。

 草と草の間から見える景色の先には、イビルジョーが一頭。後は設置しておいた眠り生肉をジョーが食べてくれるのを待つだけ。

 それで寝たら運んできた爆弾を使う。それだけで倒せはしないがかなりのダメージが期待できる。正面からなんて戦ってられるか。俺はこんなところで死にたくないんだ。できることは全てやりたい。

 

 むぅ、それにしてもなかなか眠り生肉を食べてくれないな。腹減ってないのだろうか。ジョーなんていつだって腹ぺこなイメージなんだが……

 まぁ、見るからに毒々しいあの眠り生肉を食べるのは、いくらジョーとは言え覚悟がいるのかもしれん。

 

 そして今は、彼女とほぼ密着するような形で隠れているわけだが……アレだ。彼女からすごく良い匂いがする。どうして女性はこうも良い匂いがするのだろうか。此方は目の前の狩りに集中したいというのに、これじゃあ集中できない。

 

「……此処で気づかれたら面倒だ。もう少し俺の方へ近づいてくれ」

「わ、わかった」

 

 他意はない。ジョーに気づかれたらマズいと思っただけだ。

 嘘です。少しくらい良い思いをしたいと思っただけだ。いや、このくらいは許してほしい。

 

 それにしても……前から思っていたが、ジンオウガ装備はどうしてこんなに可愛いのだろう。特に上位のガンナー装備の頭防具は本当に可愛い。サイドテール大好き。誰が開発してくれたか知らんが、よくやった。

 ただ、G級のジンオウ防具を考えた奴だけは許さん。どうしてああなった。

 

 そうやって、意識を集中しているとようやっとジョーが眠り生肉に食らいついた。

 そして、その場へゆっくりと倒れこむイビルジョー。

 

「俺は罠を置くから君は爆弾をジョーの頭の前へ運んでおいてくれ」

「……了解」

 

 彼女から伝わる緊張感。

 まぁ、この彼女のパーティーはコイツに殺られているんだ。緊張するのも仕方無い。

 ただ、頼むから固まらないでくれよ。

 

 俺はシビレ生肉を適当な場所に置き、寝ているジョーの足元へ落とし穴を。彼女は頭の前に大タル爆弾Gを4つ設置。

 準備は、完了。

 

「いけそうか?」

「……うん」

 

 きっと彼女の頭の中ではコイツにやられた時の光景が広がっているはず。それでも、止まっている余裕はないんだ。

 ホント、頼みますよ。

 

 小タル爆弾を設置。

 

 さて、そんじゃ、始めようか。

 

 

 小タル爆弾によって大タル爆弾が起爆。爆風がイビルジョーを包み込んだ。

 そして、爆弾によって叩き起こされたジョーは俺の設置した落とし穴の中へ。

 

 これでダメージはかなり入ったはず。一気に畳み掛けたい。

 背中に担いでいた大剣を抜刀し、直ぐに溜め。そのまま限界まで溜めた大剣をジョーの頭へ。手応えはあまりない。分かっちゃいたが、やはりコイツの頭は堅い。

 けれども、俺の攻撃もまだ続く。横殴りから勢いをつけ振りかぶるようにもう一度溜める。

 

 渾身の力を込めて、再びジョーの頭を叩き潰す。そして、振り下ろした大剣の勢いを活かしながら薙ぎ払い。

 抜刀溜め斬りからの強溜め斬り薙ぎ払い。

 それは大剣にできる最大の攻撃。

 

「……まぁ、そんな弱い相手じゃないわな」

 

 そんな攻撃を喰らってもジョーはまだ倒れなかった。顔に大きな傷を付けることはできたが、まだまだ元気な様子。たいていのモンスターならアレだけ叩き込めば倒せるんだが……流石と言ったところか。

 

 そして、落とし穴から抜け出したジョーの咆哮が響いた。

 怒り状態となったジョーの全身は赤く染まり、背中の筋肉は大きく隆起。

 

「あっ、はっ……はっ……」

 

 彼女の荒い息使いが聞こえた。チラリ様子を確認すれば、手足は震えているし、その表情は完全に死んでいる。

 

 ……ちょーっとマズいな。

 

「止まるなっ! 身体を動かせッ!」

 

 彼女に向かって叫んだ。

 彼女の装備じゃ一発が致命傷となる。止まっている場合じゃないんだ。

 

 一方、ジョーの口からはバチバチと嫌な音。

 

「ブレス! 下がれっ!」

 

 ブレス中のジョーの股下は安置。だから、なんとかローリングで転がり込みたいところだが……彼女が固まったまま。

 ああ、もう! だから復讐なんて止めとけって言ったんだ。復讐しようと思っても怒りで我を忘れるか、恐怖で身体が動かなくなることばかり。そんな状態でまともに戦えるわけがないだろ。

 

 急いで納刀し、彼女の元へダッシュ。

 そして、背中にブレスをかすらせながら、彼女を掴んで緊急回避。

 

「あ、あっ……ありがとう」

 

 いいよ、気にすんな。

 でも、もう少し頑張ってもらえると俺はすごく嬉しい。これじゃあ、まともに戦えたものじゃない。

 

 ダメージはかなり入っているはず。だから、もう一度でもラッシュをかければ倒せると思うが、さて、どうしたものか。

 正直、この彼女を庇いながら戦い続けるのは無理だ。ホント、随分と難易度の高いクエストだよクソが。

 

「いけるか?」

 

 あまり言いたくはないが、ベースキャンプで待機しているってのもオススメだ。

 

「……うん。大丈夫。やっとスイッチ入ったから」

 

 そう言った彼女の手の震えは確かに、止まっていた。

 そりゃあ、良かったよ。超期待してる。

 

 さて、そんじゃ、サクッといかせてもらおうか。

 

 

 

 

「麻痺瓶入れる」

「頼んだぞ!」

 

 ジョーの尻尾振りを躱してから、目の前に来た頭へ抜刀斬り。けれども、溜めないせいで力が乗らず、やはり手応えはほとんどない。

 そして、再びバチバチとジョーの口から嫌な音。

 

「ブレス!」

 

 半歩下がるジョーと距離を取られないよう、ローリングで距離を詰め、安置である股下へ。

 更に、ローリングから横振りをして、振りかぶるように溜める。限界まで溜めることはできなかったが、力を込めた強溜め斬りをジョーの胸へ叩きつける。

 

 響いたジョーの悲鳴。でも、まだ倒れてくれない。やたらと体力多いな、おい。

 

 叩きつけてから一度ローリング。体制を整えて……ああ、ヤバい。ショルダータックルかよクソが。

 グッと身体を沈め、その狙いは俺。ローリングで避けられる立ち位置じゃない。完全に俺の立ち回りミス。

 

 以前のことがあるから、ガードはなるたけしたくなかったが……まぁ、しゃーないか。これで、また腕をやったら笑えないよなぁ。

 なんてことを考えつつ。ジョーのタックルに備えて大剣を構える。

 

 その瞬間――彼女の貫通矢が当たり、ジョーが痺れ始めた。

 やだ素敵。結婚して。

 

 ……さて。

 さてさて。そんじゃ、ま。これで終わりにしようか。

 

 痺れているジョーの頭へ移動し、力を込めて溜め。手は抜かない。これで終わらせよう。

 そして、俺は大剣でジョーの顔面を叩き潰した。

 

 

 

 

 

 

 

「勝った……の?」

「ああ、そうだよ。お疲れ様。あの時の麻痺は本当に助かった」

 

 俺の攻撃を受けたジョーはその顔を潰され、ついに倒れ動かなくなった。

 あー……疲れた。今回は本当に疲れたわ。ジョーがさっさとシビレ生肉を食ってくれれば良かったが、なかなか上手くいかないもんだな。まぁ、その代わりに彼女が麻痺を取ってくれたから問題ないが。

 

「…………」

 

 動かなくなったジョーを見つめる彼女。

 その顔は見えず、そんな彼女が何を思っているのかは分からない。

 

 復讐、ねぇ。

 

「どうだ? 敵を討った感想は」

 

 取り出した煙草へ火を点けつつ、彼女に聞いてみた。

 その答えは聞かなくても分かること。でも、此処は聞かなきゃいけない場面なんだろう。

 

「……おかしいね。コイツを倒せばさ。私の中にあるモヤモヤもなくなるって思ってた。思ってたのに……全然、晴れてくれないや」

 

 そう言って、此方を振り向いた彼女は笑いながら、雫を溢した。

 

 ……だから、俺は言ったんだ。自己満足にすらならないって。

 それでも、敵を討ちたいという彼女の気持ちは分かってしまう。だって、あの時の俺だって……

 

 ああ、そっか。俺は無意識のうちに重ねていたのかな。この彼女と昔の俺を。ホント……バカなことで。

 

 そして、彼女は大声をあげて泣き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「あの……今日はありがとう」

 

 彼女が泣いている間、俺はただただボーッと煙草を吹かしていた。その間、俺が何を考えていたのかは覚えていない。

 

「はいはい、どういたしまして」

 

 仲間の敵を討つことに成功した彼女。

 そんな彼女がこのクエストで何を得られたのか分からない。俺にはむしろ、失ったものの方が多いと思うが。

 

「ごめんなさい。私に付き合わせちゃって。それに私が今も生きているのは貴方のおかげ。だから、本当にありがとう」

「だから、もういいって。俺が勝手に関わっただけなんだから」

 

 君が気にすることじゃない。

 

 それにしても、帰ったら絶対に怒られるよなぁ……

 登録されていないのにクエストへ来てしまった彼女はもちろん。その同行を許してしまった俺も。これでハンター資格を剥奪でもされたら笑えない。

 そうなったら、この彼女には責任をもって結婚してもらおう。

 

「んで、君はこれからどうすんの?」

「……ハンターはこれでもう辞めようと思う。続けられる気もしないし」

「そっか」

 

 あー、ホント貧乏くじを引いちまったなぁ。普段から運の良い方だとは思っていなかったが、今回は本当に酷い。厄日だ、厄日。

 

 んで、この彼女はハンターを辞める、と。

 そうなるともう会うことはないだろう。今回のことに託つけて、この彼女には俺と結婚してもらおうと思わないでもなかったが……どうにも、ね。

 そりゃあ、この彼女がお嫁さんになってくれれば嬉しいが、その先に幸せな未来を想像することがどうしてもできなかった。

 だから、俺は彼女のパーティーのことなんかも聞いていない。一度、自分と重ねてしまったということもあり、色々と思い出しそうだったんだ。本当に色々と。

 

「そんじゃ、帰るとするか」

 

 帰りたくないけど。

 

「うん」

 

 そう言った彼女は、泣き跡が残るものの――見蕩れるような笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからバルバレへ戻ると、当然のことだが、そりゃあもう怒られた。彼女とふたりして滅茶苦茶怒られた。

 んで、処分の方だけど、彼女はハンター資格の剥奪。俺は20日間の狩猟禁止と言ったもの。そのことに文句はない。それだけのことをしたわけだし。

 

 蓄えはちゃんとあるため、生活に困ることはないが……暇になってしまった。さて、その間は何をしていようか。

 

「それじゃ、私はもう行くね」

「了解。まぁ、アレだ。元気に暮らしてくれ」

 

 そして、彼女との別れ。

 本当に短い付き合いではあったものの、思うところが何もないわけでもない。こんなチャンスがあるか分からんし、もったいなかったかなぁ。

 

「ホントに……本当にありがとう」

「ああもう。だからいいって」

 

 大したことはしていない。そんなお礼ばかり言われても恥ずかしいったらありゃしないわ。

 

 

「それでも、最後のクエストが貴方と一緒で良かった。さようなら。……()()()()()()()()さん」

 

 

 彼女と交わした最後の会話はそんなもの。そして、彼女は可愛らしく笑いながら去っていった。うん、さようなら。

 それにしても……英雄、ねぇ。そんな立派な存在じゃないんだが。昔のことは昔のこと。今はただの素敵な嫁さんを探す独身ソロハンターだ。

 

 

 はぁ……あーあ、やっぱりもったいなかったよなぁ。

 まぁ、後悔していたって仕方無い。きっとまた訪れてくれる新しい出会いに期待するとしよう。

 

 

 


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