貴方に好きと言いたくて【完結】   作:puc119

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厄介事

 

 

 リハビリがてらのクエストも終わり、バルバレへ帰還。

 今日も今日とて冷たい受付嬢からの愛をもらってから、いつも通りビールを注文。

 完治したとは言い難いが、ラージャンに持っていかれた左腕もかなり回復してくれた。これでまた一流のハンターを目指すことができそうだ。

 

 そして、クエストも無事終わったのだし、俺としては気持ち良く酒を飲みたいところなんだが……アレだ。なんだか知らんけど集会所の空気が重い。

 

「雰囲気が重いんだが、なんかあったウホ?」

 

 近くで俺と同じように酒を飲んでいたアイツに聞いてみる。

 なんとなく察しがつくものの、詳しいことは聞いてみないと分からない。

 

「ぶっ飛ばすぞ。……ケチャワチャを討伐しているとき、イビルジョーが乱入してきて……だってさ」

 

 豪快にグラスを煽りながらアイツが答えた。

 なるほど、そんなことがねぇ……

 

「犠牲は?」

「4人中3人」

 

 全滅しなくてまだ良かったと言ったところか。

 よくある……とは流石に言わないが、乱入してきたモンスターに殺られるのは、決して珍しいことじゃない。突然のできごとにはやはり対処し難いのだから。

 

 ふむ。集会所の空気が重い原因はソレか。

 俺は何の関係もないため、別に俺まで暗くなる必要なんてないが、この雰囲気の中じゃどうにも騒ぎ難い。正直、こういう雰囲気は苦手だ。

 

「アンタ、左腕は?」

「お陰様でほぼほぼ治ったよ」

 

 まだ違和感があるものの、もう元の状態に戻ったと言って良いくらい。回復力だけは人一倍あると自負している。

 医者に見てもらったが、どうやら骨の折れ方がきれいだったらしく、それで早く治ったとも言っていた。コイツに折られなかったら治るのはもっと遅くなっていたかもしれない。まぁ、だからと言って感謝などするわけないが。

 

「そりゃあ、良かった」

 

 そう言ってアイツはカラカラと笑った。相変わらず憎めない奴である。

 

 それにしても、4人中3人がねぇ……ひとりでも助かったのは良いことだが、残ったそのひとりは何を思うのやら。

 少なくとも良い感情を抱いてはいないだろう。人間、そんな簡単に割り切れるものじゃないんだ。

 

 その日は雰囲気が雰囲気ってこともあり、どうにも飲む気になれず、ビールを一杯飲んだところで帰宅することに。

 その帰り際、クエストへの出発口をただじっと見つめるジンオウガ装備の女性のハンターの姿がチラリと見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 そんなことがあってから数日。

 

「えと……今、届いているのはイビルジョーの討伐ですね」

 

 今日も頑張ってクエストへ行こうかと思い、受付嬢の元へ向かうと、ジョーのクエストを依頼された。

 

「あー……そのジョーってもしかしてアレか?」

「正確なことは分かりませんが、おそらく……」

 

 マジかよ。なんだってそんなクエストが俺のところに回ってくるんだ。ソロでも倒せるとは思うが、タイミングとか色々と悪い。正直、このクエストは遠慮したいんだが……

 別にそんな必要はないのに、いらんことを考えてしまいそうだ。油断できる相手じゃない。クエスト中はできるだけ余計なことを考えたくないんだ。

 

「……アイツって今、フリーだったりする?」

「いえ、彼女は確かクシャルダオラ討伐のメンバーに入っていたかと」

 

 残念。アイツ以外に頼りになりそうなハンターもいないし……はいはい、ソロで頑張りますよ。どうせ誰かがやらなきゃいかんのだ。誰かに任せるくらいなら自分でやった方が良いだろう。誰かに任せた結果、ソイツに死なれでもしたら流石の俺でも責任を感じる。

 

 はぁ、眠り生肉と爆弾のストックはあっただろうか。あと、罠もできるだけ持っていた方が良いよなぁ。

 

「……そのクエスト、私も連れて行ってくれない?」

 

 うだうだ言ったところしゃーない。さっさと行こうかと思っていたらそんな声。そして、その声をかけてきたのは、先日見かけたジンオウガ装備のハンターだった。

 

 ああ、これはまた面倒なことになりそうだ……

 だってどうせアレだろ? この女性のハンターが生き残ることのできたハンターとかそういうのでしょ? 勘弁してくれ。

 

「大丈夫だよ。これくらいなら俺ひとりでクリアしてくるから」

 

 この女性を連れて行ったところで、禄なことにならん。

 だから、この女性の提案は優しい言葉でさらりと受け流すことに。復讐? ダメダメ。お兄さんそんなこと許しませんよ。

 

「……お願い。きっと貴方の力になるから」

 

 いや、そんなこと言われてもなぁ……

 チラリ受付嬢を見ると、彼女も彼女で困ったような顔をしていた。こりゃあ彼女に助けを求めるのは厳しそうだ。

 

 はぁ……仕方無い、か。

 

 

「……はっきり言うが、足手纏いだ。そして、お前の自己満足に付き合ってやる義理はない」

 

 

 声を落とし、できる限りの凄みを加えて言葉を叩きつけた。

 女性に対して厳しいことを言ってしまったせいで罪悪感がヤバい。本当にごめん! でも、お願いだから自分の命は大切にしてくれ。

 ……君の気持ちも良く分かるが、死んでしまったら意味がないんだ。

 

 そんな俺の言葉を受けたその女性は唇を噛み締め俯き、それ以上の言葉を出しはしなかった。

 そんな女性の姿を見て自己嫌悪。だから、こういうのは嫌だったんだ……

 

「……悪い。彼女のフォロー頼んだ」

 

 そして、受付嬢にその女性のことをぶん投げることに。

 きっとあの女性だって、今はただ気が動転しているだけ。時間が解決してくれるとは言わないが、今はとにかく落ち着いてくれ。

 それくらいしか、俺にはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 なんともモヤモヤとした気持ちのまま、準備をしてクエストへ出発。

 準備をしていた間のことはよく覚えていない。これで忘れ物があったら笑えない。

 

 それにしても……やっちまったなぁ。

 もっと上手い言葉があっただろうに。何を苛立っていたか知らんが、どうして俺はあんな言葉を選んだのやら……

 

 ――仲間がやられたからその敵を討ちたい。

 

 そんな彼女の気持ちが下手に分かってしまうせいで余計に遣る瀬無い。あの女性には申し訳なさでいっぱいだ。今度、どうやって謝れば良いのか分かったものじゃない。

 こんなんでも凹みやすい性格なんだ。そんな状態でジョーと戦って大丈夫だろうか……

 

 はぁ、さっきからため息しか出てこねーわ。

 考えれば考えるほど、先程の失敗が膨らんでくる。自分を慰める上手い言い訳が思いつかない。

 

 とは言え、殺られるつもりは全くない。それに、どうせクエストが始まれば目の前の敵に集中してくれるはず……たぶん。きっと。自信は、ない。

 

「へい、アイルーお前って彼女いる?」

 

 このままじゃ自己嫌悪でどうにかなりそうだったから、飛行船を操縦しているアイルーへ話しかけてみた。

 沈んでしまった気分を無理やり上げるため。戯けてみせる。

 

「…………」

 

 無視された。

 

 はぁ……こんな時だって隣に素敵なお嫁さんがいれば、慰めてもらったりしてくれるんだろうなぁ。心から素敵な嫁さんがほしい。

 俺の心はもうボロボロだ。いつもの調子が出ない。

 

 

 

 

 

 

 

 結局、モヤモヤとした気持ちは晴れないまま、イビルジョーのいる遺跡平原に着いてしまった。どうにもあまりよろしくない状態。

 

 このままじゃ、とてもじゃないが戦えたものじゃない。

 目を閉じ、大きく深呼吸。無理矢理にでも自分を落ち着かせるため。

 

 暫くの間、そうやって目を閉じ深呼吸を繰り返し、ようやっと自分が落ち着き始めたと思ったとき、ガタン――と俺の乗ってきた飛行船から音がした。滅茶苦茶驚いた。せっかく落ち着いてきたのに台無しだ。

 

 そして、何とも厄介なことに――

 

「いや、なんで君がいるんだよ……」

 

 あのジンオウガ装備の女性が其処にいた。

 

 うっわ、うわー……嘘だろ、おい……ちょっと待って、本当に待って。

 

「そ、その……えと……」

 

 しどろもどろと言った様子の彼女。

 こっそり飛行船に乗り込んでいたのか。勘弁してくれよ……

 てか、どうして俺は気づかなかった。いくら気が動転していたと言っても流石に気づけ。

 

「はぁ……あのな。君の気持ちも良く分かるが、頼むから落ち着いてくれ。今の君の精神状態でジョーに挑むのはどう考えたって無謀だろ」

「それでも私はアイツを倒したい」

 

 俺を睨みつけるように言葉を落とした彼女。

 君はそれで良いかもしれんが、お願い。俺の気持ちも少しは考えて。これで、君まで死んでしまったら俺はどうすりゃ良いんだよ。下手したら自殺もんだぞ。

 

「……俺がリタイアすると言ったら君はどうする?」

「私は戦う」

 

 ですよね。知ってました。

 どうしてこうも俺へ貧乏くじが回ってくるんだ。呪われていると言っても良いくらいじゃないか。俺が何をした。

 

 

 ……さて、どうすっか。

 

 相手はあのイビルジョー。此処最近じゃ間違いなく一番の強敵。彼女はジンオウガ防具に武器は桜火竜の弓。いけなくも、ない。

 

「……例え、アイツを倒したところで自己満足にすらならんぞ」

「それでも良い。そうでもしなきゃ……私は前へ進めない」

 

 ホント、面倒なことにこの様子じゃどうせ何を言ったところでこの彼女は引かないだろう。

 集会所でも言った通り、この彼女の自己満足になど付き合ってやる義理はない。けれども、何とも運の悪いことにこうして関わってしまったんだ。そんなことになって知らないフリができるほど、器用な性格はしていない。

 

 それなら、俺にやれることはひとつ、か。

 

「……お願いだから死なないでくれ。俺から言えるのはそれだけだ」

 

 ため息とともに、そんな言葉を落とした。

 死ななきゃそれで良い。それだけで充分だ。

 

「分かってる。あと……ありがとう」

 

 最悪のコンディション。勝てっかなぁ。

 でも、勝たなきゃだよなぁ。

 

 目を閉じ、散ってしまった意識をもう一度集める。

 色々と思うところもあるが、今ばかりは何も考えずこのクエストに集中。

 

 パチリ目を開け、一度だけ深呼吸。

 

 そんじゃ、ひと狩りいかせてもらおうか。

 

 

 


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