艦娘が伝説となった時代   作:Ti

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開戦

「―――――兄さん、聞こえる?」

 

 

「……一生のお願い使ってもいいかしら?」

 

 

「そう……私の友達を助けたい。力を貸して」

 

 

「―――――すぐに迎えに来て」

 

 

 

 

 ライオンやゾウは図鑑で見ることができる。自分より遥かに大きな躯体を持ち、人間など簡単に屠る力を持つ。それが大自然が与えた生命の力なのだとするならば。

 

 いや、これは明らかに違う。

 同じ自然の中に生まれて、その根底にあるものが違う。

 命の炎を燃やす野生の生命のありさまはもっと力強く、美しい、壮麗なものだ。

 

 目の前にいる生物にそんな美しさはない。あるものは命を嬲る者としての深い闇。

 その姿は、生命が宿る者であるとは思えないほどに醜いが、これが神の悪戯によって生み出されたとするならば、この存在は奇跡であり神々しくも思える。

 

 身体を動かせば軋む金属。呼吸をするように漏れる排気。鈍い光を放つその体は金属であって生命を宿している。

 

「――――どうしよう?」

 私はその覗き込めば絶望に支配されそうになる黒い感情を宿した双眼に睨まれていた。

 ヘビ睨まれた蛙。まさにその通り。

 むき出しになった生え揃った白い牙がギギギと歯ぎしりのような音を立てて動き始める。

 

 ガシャンと音を立てて開いたその口の奥に広がる黒い空間。

 続けて黒い棒が伸び、真黒な丸い穴が私を見ていた。

 

「え?今どこから砲塔出したの?口から?すごい……じゃなくて!!」

 好奇心旺盛な私はその好奇心の収まりどころを知らずに、資料の上でしか見たことのないイ級に釘付であった。

 

 あぁ、確かに怖い。足が棒のようになってはいたが、それでも私の頭は観察する。

 艦娘と対を成す存在であるその存在さえ、私の守備範囲ではあるが、私を見ている黒い穴は私の死を意味するものであった。硬直が解け、反射的に体が横に動いた。

 

 ズガァァァァァァァン!

 

「きゃあ!!」

 地面に伏せた私の後方で何かが爆砕する。揺れる地面、響く轟音。鼓膜が震え脳が揺れる。

 

「ううぅ…耳が痛い…」

 キィィンと耳鳴りがする耳を押さえながら、その煩わしい音を飛ばそうと頭を横に振る。

 何が起きたのか把握しようとぼんやりとした目で後方を確認すれば、面白いことにそこにあった植木がなかった。

 途中から抉るように消えており、断面は黒く焦げてその臭いがここまで漂っている。

 

「……死ぬ」

 背筋を駆けた冷たさにすぐにイ級の姿を探した。

 ガシャンと音がして、その音の方向を見た。砲口から煙を吐き、ギョロっと目が私を見た気がした。

 黒く丸い頭がこっちへと向きを変え、再び私に照準を合わせた。

 

「え?ちょっと、装填早すぎ!!」

 水中でもがくように慌てふためいて、私はすぐに立ち上がり前に飛んだ。

 

 ズドォォオオン!!

 

 大きく地面を抉り、砂煙が立ち込める。

 

「ケホッ、二度も勘で飛んで助かるなんて……私って意外と運がいいのかな?」

 この距離で二度も難を逃れたのは相当運がいいのだろう。

 ある程度アウトドアでもあってよかった。動けるだけの身体は持っていたみたいだ。

 

 だが、安心してもいられない。

 私にはあれをどうとする策は一切ないのだ。鞄があればよかったのだが、あれはラクちゃんと揉めた時に置いてきた。筆箱にはさみとかあったからまだ何かできたかもしれない。

 

 しかし、当時の技術の進んだミサイルやトマホーク、機銃や砲弾でも全く傷がつけられなかった深海棲艦の装甲をはさみでどうとできるわけがない。どういう訳か、こちらの技術が全く通用しないからこそ、人類は海を追われたのだ。

 

 深海棲艦の持つ「深海装鋼」はただの金属じゃない。

 大きく展開した金属部分も、一見皮膚のように見える部分も、その全てが特殊な金属。零距離でも小銃もライフルもその弾は通用しない。歴史上、唯一貫いたのは艦娘の艤装から放たれた砲弾、それだけだ。

 

 そんなことを思い出しながら、私は顔を上げてイ級がいた方向を見た。

 

 

「―――――――――――――――――――――――――――」

 声を失い、我も失いかけた。想像を絶する光景が眼前に広がっていた。

 

(なにこれ汚い臭いこれ魚?海藻もあるし生臭いし鉄臭いし油臭い吐きそう)

 

 この距離からだと規則的にとは言えない白い歯が並び、摩耗した部位には海藻や何かの切れ端がこべり着いていた。

 異臭も凄まじく、アンモニアやホルマリンとは違った刺激臭が鼻腔を突き抜け、思考を掻き乱す。

 顔にかかる熱気は少し湿っており、人間の吐く息に似たものを感じた。

 

 深海棲艦の食に関する文献を見たことがある。余程の物好きが作ったのだろう、私が言えたことじゃないが。

 そもそも、食事などするのかという前提があるのだが、船を食いちぎるところからそういった仮説が立てられた、程度の文献であった。

 

 要は主食は鉄らしい。民間船を襲撃するのは、ただの捕食などといった話が持ち上がっているのだ。

 

 鉄は人間の体にも含まれている。血の味が、ちょうどそんな感じだ。

 

 

 食べられるの……?私……?

 そんな予備知識がなくても、否応なしにそう考えざるを得ない状況。大きく開いた口が目の前にあるのだ。

 

「嫌……いやぁ……」

 動くことはできなかった。全く身体が言うことを聞かない。

 なにが動ける身体だ。こんな時に限って、震えが意思伝達の邪魔をする。

 

「ガァァァァアアアアア!!」

 叫びと同時に、大きく開いた口が私に躍りかかる。

 何もできない私は覚悟するしかないことを悟り、半ば諦めた。

 

 あぁ、これが絶望なのか。

 

 目を閉じて現実を否定しようとした。それが死を待つだけの行為と知りながら。

 

 

――――キィイイン

 

 

 金属を叩きつけた音が響き、すべての音が止まった。うっすらと目を開き、私は自分の身に起きたことを把握しようとした。

 

「…………え?どうなったの、私?」

 

「ガッフ、ガッフ」

 

 大きく開いた口は私の目の前で止まっていた。

 イ級の口はつっかえ棒のようにあるものが挟まっていた。

 側にあったマンホールの蓋だ。直径一メートルくらいある厚い金属の板が綺麗に歯の隙間に挟まっていた。

 

「―――――こっちだ。聞こえればの話だが」

 

「え?」

 誰かの声がした。口を開いたマンホールの中から声がする。そこからは反射的に体が動いた。

 ようやく感覚の戻った体を起こし、一気にマンホールまで駆け寄って口が開いたマンホールの中に滑り込む。

 

 マンホールを見て思い出したのだ。ここから先は私にも考えはあった。

 この先にある水道は港まで続いている。そのことはこの土地について調べた時に把握していた。

 この町はかつて艦娘たちが拠点を置いていた場所だったため、成り行きでという感じだった。

 

 一体、あの時代の艦娘はこの町でどのような風に生活をしていたのか。残念ながらそういった描写が描かれているものはとても少ないのだが、お婆ちゃんの書斎には多くあった。

 

 そのうちの一冊に「避難路として設計された地下水道」があった。

 何度も読み返した私の頭の中にはこの町の地図は完璧に収まっている。当時の地形も、現在の地形も。

 

 水道は深海棲艦が侵入することはできないだろう。まともに動ける大きさではない。

 今一番の、安全な場所であった。

 

 

 

「―――――久し振りに見るな。この醜いものも」

 

「ガッフ……ガァァァァァァ」

 

「しかし、ここは君たちの領域ではないだろう?大陸まで汚すものではない。懐かしいものをあげるから海へ還り給え」

 

「酸素魚雷を改造したものだ。時限式にして信管は抜いておいた。単発だが強力だ。口内で起爆すれば駆逐艦一匹沈めるには十分だろう」

 

 

 ズガァァァァァァァァァアアアン!!!

 

 

 

     *

 

 

 

 梯子を下り切った後に、地上の方で爆発音がした。天井が揺れ、パラパラと埃が落ちる。

 

「はぁ……はぁ……怖かった。でも、お父さんたちのところに行かなきゃ」

 地下水道に明かりはほとんどなかった。ところどころに誘導灯が点いて、それが薄暗い空間を広げている。

 10センチほど張った水が一方向に流れ、内部は少しカビ臭かった。

 

「でも、あそこにイ級がいたってことは港の方にはもっとたくさんいるかもしれないってことだよね?」

 当然、深海棲艦は海からやってくる。陸で発生することはない。

 海に面しているのは港だ。私の父やその仲間たちがいるその場所にはここよりも多くの深海棲艦がいるだろう。

 

「……生きててね、お父さん、みんな」

 それでも、ここまで来たのだ。私は行かなければならない。

 もしかしたら、誰かがまだ残っているかもしれないし、怪我を負って倒れているかもしれない。

 父のような人たちはきっと逃げない。あの人は身体の言うことの聞きにくい年配の方を避難を誘導して、最後に逃げる人だ。

 

「――――まぁ、待ちたまえ。君、聞こえてるんだろう?」

 

「うん、聞こえてるよ……って誰?」

 水道の中で声が反響して、私は驚きながら一歩下がった。パシャンと足元の水が飛ぶ。

 

「私だ、私。上ばかりを見るな。足元だ」

 声に導かれ、私は自分の足元に目を向けた。

 

「えっ?足元……あっ」

 正確には足元ではなく、水のない水道の壁側にそれはいた。

 

「も、もしかして、あの時の」

 そのシルエットには見覚えがあった。二頭身ほどの小さな体。腕、足、顔、人型の小さな生物。

 身体に比べ、大きい不釣り合いな頭には茶色い髪が生え、ぱっちりとした目がこちらを見上げていた。

 ヘルメットを首から後ろに下げており、蒼色のワンピースのようなものを身に着けていた。

 

「あの時?はて、いつか会ったことがあったかな?まあ、どうでもいい。それにしても無茶なことをする」

 見た目が女の子だったので、どんな声かと思えば随分と男勝りな声で話しかけてきた。というか躯体の割りに声が随分と大きい。

 

 ともあれ、私が港で見たものは幻などではなかった。

 今、私が見ている光景が幻でない限りは。

 

「やっぱり、私は間違ってなかったんだ……あ、あなたは小人さんですか?」

 そう尋ねると、その生き物は顎に手を当てて考え込んだ。

 

「小人……か。いや、私たちは妖精と呼ばれている。と言っても、勝手に君たち人間がそう分類しているだけだが」

 

「妖精?」

 

「まあ、知らないのも当然だ。私たちが存在したのは艦娘が存在した時代だからな」

 

 艦娘―――妖精。

 そのつながりで私の頭の中の引き出しに検索がかかる。すぐに見つかるそのワードは艦娘を語る上では欠かせないものだ。

 

「あっ、本で読んだ。艦娘に妖精は欠かせない存在だって」

 

 妖精―――艦娘の歴史の陰に存在した謎。

 大人が子どもたちに話す童話の中では「悪さをすると妖精が大切な者を盗んでしまう」などと言って語り継がれる都市伝説であったりするが、

 艦娘の文献の多くにはその名が登場するのだ。

 だが、謎と呼ばれるだけあって、妖精そのものに対する記録がないと言えるほどに少ない。

 

「へえ、小さいんだね」

 私もこのとき初めて彼女たちの姿をはっきりと見た。

 図や写真、スケッチなどの視覚的記録がなく、姿かたちがどのようなものであったかが分からないのだ。

 ある文書には「艦娘の肩に乗って遊んでいる」だとか「艦載機の妖精もアイスを手にして嬉しそうだ」とか「鋼材や燃料を運び、慌ただしい」とかその大きさが特定できる文書がない。

 

「どうしてこんなところにいるの?」

 

「まあ、その辺りの詳しい話は後だが、港には行かない方がいい」

 

「え?なんで?」

 

「あそこに人はいない。いや、正確にはいたが全員避難した。何、海軍も無能ではない。住民の避難を第一に迅速に動いた」

 それは私にとって朗報だった。

 誰も残っておらず、全員したということはみんな無事でいてくれたということだ。私が向かう必要もない。

 

「海軍が……?助けに来てくれたの?じゃあ、今も海軍は戦ってくれてるの?」

 

「戦ってはいるが、見ての通り上陸まで許している事態だ」

 そうだ、私はこの目で見たのだ。イ級の姿を。

 海軍は戦っているかもしれないが、こんな私が言うのもなんだが深海棲艦には太刀打ちできないだろう。

 

「深海棲艦の侵攻が予想を遥かに超えて早かった。本来集結させる予定だったイージス艦も集めきれてない。まあ、あってどうなるというものでもないが」

 深海棲艦に人を殺す兵器は通用しない――――

 あれは人とは違うのだ。一つの町を焼き尽くす火力を持つ軍艦でさえ、あの生き物には敵わない。

 道を遮っただけで、深海装鋼の牙に船体を喰い千切られ、海底に沈んでいくのがオチだ。

 

 あれは悪魔だ。もしくは神なのかもしれない。

 それらを殺すには、悪魔、もしくは神に匹敵する力を手に入れる必要がある。

 ラクちゃんが言った通り、倫理も道徳もない「悪魔の技術」であったのだろう。

 

「君は内地に逃げるといい。この地下水路だと……向こうの方角だ」

 それは把握している。この水道をまっすぐ行けば、町役場の正面の下水道に出る。

 だが、問題はそこじゃない。

 

「ねえ……この町はどうなるの?」

 艦娘誕生以前の歴史は小学校の頃から、社会の授業で教わることである。戦争学習の一環として特別授業を設けることもある。

 その枠を超えて、艦娘の歴史を学んでいた私には、容易に想像がついた。

 

 歴史というものは私たちの意思や願いに反して繰り返すのだということをこのとき実感した。

 この状況は当時と酷似している。

 現代兵器をもってしても太刀打ちできない脅威に襲われた町がどうなったのか。

 

「恐らくだが、放棄される。深海棲艦侵攻地区として隔離される。あの時代もそうだった。君は艦娘という存在に詳しいみたいだが、それなら知っているはずだ。深海棲艦には艦娘の兵器しか通用しない」

 この時代には語り継がれていることだろう、と妖精は語った。

 

 あぁ、当然知っている。

 人間は海を追われ、内地で日々怯えるしかなかった。生存競争に負けた生物はその世界から駆逐される。当時の人類は深海棲艦に敗北した。

 

「イージス艦を集めても足止めがやっとだ。船を壁にして侵攻を防ぐという手もあるが。今の人類にあれを止める手はないよ。さあ、逃げよう。ここも安全とは限らない。手は早く打った方がいい」

 妖精の言葉を聞かずとも、理解していることを脳内で何度も反芻しながらも、私の意思は私の知識にすら反して別方向へと向かった。

 

「……待ってよ」

 

「君に何ができる?一時の感情に縛られるのは人間らしいがそれは愚かなことだぞ?君はまだ幼い」

 

「ねえ、妖精さん。この町がどんな町か知ってる?この町はね、かつて艦娘たちが歩いていた町なんだよ」

 

「…………」

 

「少し離れたところだけど、鎮守府が置かれてここは艦娘、いや人類の最前線だった。艦娘はね、私の憧れなんだ。今じゃ伝説になっちゃったけど、私は彼女たちのようになりたい」

 

「伝説は存在しないからこそ伝説として語り継がれるんだ。縋る者の存在しない世界に何を望む?」

 

「ただの伝説じゃない。姿形がなくても、この町がある。この町が失われてしまえば、彼女たちが戦った歴史さえなくなってしまう。私はそれが嫌だ。彼女たちが残したなにかを守って未来に紡ぎたい」

 

 

 いつか夢を語った。

 艦娘は私の憧れであり、彼女たちこそ私の理想だと。

 彼女たちになりたい。彼女たちが守ったこの世界に自分も何かを描きたい。彼女たちのように、と。

 彼女たちが残したものは、平和だけではない。それでは艦娘はただの犠牲として歴史の中に葬り去られる。

 艦娘が、多くの人々が平和を祈って戦い抜いたあの時代を、その意思がこの世界には受け継がれている。

 

 それを紡ぎ、伝えていくのは後世の役割だ。

 彼女たちの夢を紡いでいくのは、私たちの役割だ。それが幼い私が必死で思いついた唯一の道。

 

「その未来で私の守りたい人が笑ってくれるならそれでいい。だから、私はこの町を捨てない」

 

「戦うつもりかい?木の棒で要塞に立ち向かうようなものだ。無謀の二文字で君の人生は終わる」

 

「無謀なんかじゃない……艦娘の兵器があれば対抗できるんでしょ?あるよ、この町に。なにか使えるものがあるかもしれない。この町はまだ戦える」

 一歩も引くつもりはなかった。

 いわば、妖精たちも伝説の存在だ。艦娘たちとともに戦乱の世を駆け抜けた存在。

 それを前にしても私は一歩も引くつもりはなかった。

 

「そこに行けばあなたが何とかしてくれるでしょ?あなたがただの妖精じゃないとはさっき理解した」

 

「ほう、何を根拠に?」

 

「マンホールを投げるのは大人でも難しい。しかもあんなに的確に。どんな力してるか知らないけど」

 破綻した理論でしかないが、今の私が張り合えるのはこの程度のことしかない。

 

「そもそも、謎でしかない存在だもんね。でも、戦闘向きの妖精なんてどの本にも載ってない。唯一、力持ちとして私が知ってるのは」

 

 妖精の姿こそ残っていないが、妖精の様子ならば語り継がれている。それと、妖精たちの役割。

 

 艦娘たちの艤装の操作を補助する「装備妖精」。

 艦娘たちや多くの艤装の記録を管理する「図鑑妖精」。

 そして、最も主たる存在が、「艦娘を生み出すことができる妖精」。

 その存在は様々な文献に登場し、その様子は明記されている。

 

「工廠妖精。大量の資材と艤装を持ち運ぶ妖精たちは自然と力持ちになるって。ここに逃げ込んだ後に爆発音もしたし、きっと何か作ってそれを投げたんでしょう?」

 その妖精の役割は艦娘を生み出すこと、艦娘たちの使う装備を生み出すこと、艦娘たちが負った傷を癒すこと、それと解体。

 開発は得意分野のはずだ。

 

「悪くない洞察力だ。なるほど、平和ボケしている人間ばかりという訳でもないのだな」

 

「あなたなら動かせるようにできるでしょ?連れて行ってあげる!だから、力を貸して」

 

「私は君のその行為を勇気とは呼ばない。賭けと呼ぶに等しいだろう」

 妖精はぴょんと飛ぶと、私のスカートに掴まり、よじ登っていくと、私の肩に落ち着いた。

 

「だが、……なるほど。確かに君ならば賭けも悪くはない。連れて行ってくれ」

 

「うん!ちょっと走るから捕まっててね」

 港の方から途中にある分岐点の方に曲がると、私がよく向かう場所へと通じるようになっている。

 

 そこには、『艦娘たちの艤装』が残されている。正確には展示されているのだが。

 きっとそれが最後の希望だ。艦娘たちの武器、それを作り出すことのできる妖精の存在。この二つさえあれば私にも何かできるはずだ。

 まあ、艦娘のようにはいかないだろう。私がそれを装備できるはずがない。でも、置き砲台みたいな感じに扱えるはずだ。

 

 最悪、海軍に渡して船の艤装の一部として使ってもらえばいい。

 

 ともかく、諦めるつもりはない。この町を簡単に渡すつもりはない。

 浅はかな考えかもしれないが抗ってみせる。反抗期がきた記憶はないが、これは私の小さな反抗だ。

 

 私たちの希望が存在するその場所の名は「艦娘記念館」。

 

 

 

 

 

 

 

 




この妖精、しばらく出てきます。

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