艦娘が伝説となった時代   作:Ti

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ややこしいですが、前話の前日に当たるお話です。


作戦会議

 

 

 駆逐艦《吹雪》が去っていった部屋で、独りしばらく椅子に座って目を閉じていた。

 シンクロニシティ。ただの偶然の様なのに因果を感じる。

 

 疲れとかあまり顔に出ないタイプだが、本当に突き詰められた時は顔に感情が飛び出してしまう。意外と緊張に弱いのかもしれない。重圧に弱いのかもしれない。

 

 

 

 

 

 昨晩の会議の事を思い出していた。

 送られてきた【 Navy Code Level S 】の解凍作業に忙しかった証篠は完全に時間の感覚を失くしてしまって、会議をすっぽかしかけた。

 

「……遅刻だぞ、証篠」 

 急いできた、というような様子も見せずに部屋に入ると、鏡がいきなり小言をぶつけてきた。

 

「まあまあ、さっきまで君たちに代わって大事なものの整理してたんだから大目に見てよ。それに何を話していたかは、大方それから理解できる」

 中央に穴の開いた大きな円形のデスク。用意された座席は15。

 まだ5人しかその椅子に座ってはいないもののかつては、全ての席が埋まっていた。

 中央の穴には立体投影された地図の映像。

 赤く光る点に存在している謎の孤島。本来の世界地図には存在しないそれが、北方海域に出現していた。

 

「―――地図にない島ね。予想通りと言えば予想通りだけど、陸上型深海棲艦か……元は岩礁などだがそれに寄生し、深海装鋼を海上に展開して陸上基地を作り上げると言うね」」

 それで、どこまで話したの、と御雲の方を見た。

 

「まずは、報告からしたらどうだ?こっちは既にまとまっている情報だ。いつでも出せる」

 御雲がそう言い返すと、証篠は席に腰を下ろしながら、はいはい、と適当に返事を返した。

 

「現段階での、改造が可能な練度を持った艦娘は駆逐艦《時雨》《夕立》《綾波》《睦月》《如月》《皐月》《文月》《朝潮》《大潮》《霞》。辰虎くんのところは多いね~」

 

「まあ、俺のところは生半可な訓練はしてねえからな」

 

「なるほど。その日頑張った子にスタンプあげて、毎日おやつは欠かさず、夜はちゃんと歯磨きするよう促してお腹出して寝てないかチェックして、独りでトイレに行けない子には付き合ってあげる提督は佐世保にはいなかったのかーそうかー」

 

「てめえ!!それどいつから聞きやがった!?!?」

 

「なんというか、母親だな」

 

「ふっ……」

 

「黙れ、御雲ォ!!鼻で笑わないでくださいっ、鏡さん!!」

 

「まあ、辰虎は置いといて。軽巡は《由良》《川内》、重巡は《古鷹》《利根》、戦艦は《比叡》。こんなところだね、予定の資源で出来るかどうかは試さなきゃわからないけど、一応全員可能ってことで話は進めていくよ」

 

「1つ、質問よろしいでしょうか?」

 そう手を挙げて注目を集めたのは、ブイン基地のクレインだった。

 

「なに?」

 

「初期艦である5隻の練度が他に劣るとは思えません。それなのに、改造可能な初期艦がいないことに理由はあるのでしょうか?」

 

 クレインの疑問は尤もな話だろう。この戦いの始まりから戦場に身を置き、幾度となく視線を渡ってきた彼女たちが、他の艦娘に練度が劣る訳がない。

 

「あー、ごもっともだ。でも、初期艦は改造できないことになっているんだよ」

 

「それはどうして?」

 

「クレインさん、初期艦ってなんだと思う?」

 質問に質問を返すのはやや野暮なことかと思ったが、必要な問答であったので敢えて問いかけた。

 

「鎮守府を動かす上で、重要な存在です。彼女たちの経験はその鎮守府で最も長いでしょうから。万が一、司令塔たる提督の身に何かが起きた場合、代行して鎮守府を運営できるのは初期艦くらいでしょう」

 

「その回答だと50点だね。最も重要なのは、初期艦が失われると、その鎮守府の昨日は止まる。表面上の形の話じゃない。根幹から止まる」

 そう言っても、理解していないような顔をクレインと、ついでに天霧もしていたので、ふぅ、と短く息を吐いて凭れ掛かるのをやめてデスクに肘を突いた。

 

「初期艦の最初の役目は、その鎮守府に『火を入れる』ことなんだよ。妖精を呼ぶ、なんて言い方もされる。実際に妖精は彼女たちの力で呼び出されるものだからね。その他にも建造ドックや入渠ドックなどの管理は妖精を中心に行われている。鎮守府の妖精ってのは、装備に住む妖精たちとは少し違ってね。まあ、妖精にも役割ってものが綺麗に分担されていて、できることとできないことってのがはっきりと分かれている」

 

「装備の妖精は装備を扱うことだけ、入渠ドックの妖精は艦娘の修理だけ、と言った感じに一点特化されているということですね?」

 

「まあ、そんなところ。中でも、鎮守府所属の妖精ってのは初期艦が呼び出して、それからずっと変わらない。そして形にすることができるのも初期艦だけで、留めることができるのも、初期艦。その初期艦が失われるなんてことがあると、その妖精も消える。鎮守府の機能が止まる、の意味わかったよね?」

 

「ん?でも、俺のところの《電》は今はブインにいるけど、佐世保に影響はないぞ?」

 天霧のそんな言葉に、あからさまな溜息を吐いたのは証篠ではなく、御雲だった。

 

「お前なぁ……俺が捜索を打ち切ることを認めたのは、お前の佐世保がまともに機能していたという根拠があったからだ。どこかで電が生存していた理由だ。そんなことも理解できずにお前は俺に文句を言ってきたのか?」

 

「な、なるほど。あの時はそういう意味だったのか」

 

「遅いわ、この出来損ないが。そもそも、艦娘は轟沈以外の手段で命を落とすことは解体を受けるまでほとんどない。意識がある状態で動けなくなる程度だ。電の生存が確認された以上、その安否の確認は必要なかったんだよ。まあ、どんな状況にあるか分かったもんじゃないから気が気でなかったが」

 

「誰が出来損ないだ、オラ。ったく……じゃあ、ちゃんと説明しやがれ」

 

「天霧、士官学校で教わる内容のはずだが……?」

 

「えっ、そうなんすか?鏡さん、すみません」

 

「露骨に態度変えやがって……ほら、証篠。馬鹿は黙ったし話を続けろ」

 

「はいはーい、残りの理由はクレインさんが言ったとおりだよ。ちゃんと電ちゃんは大事にしてあげてね?彼女は佐世保とブインの2つの初期艦と言う異例の存在だから、彼女に万が一が生じると2つの拠点が同時に沈む」

 

「は、はい……ですが、それだけでもやや理由には足りないと思います。改造を受けれなくするほどでは」

 

「改造の成功率は100%じゃない。それで十分でしょ?90%や80%なんてまだ高確率と呼べるような範囲だったらいいよ。そのくらいの危険ならば、彼女たちが立っている戦場にもいくらでもあるだろう。改造の成功率はもっと低い。まあ、このデータはまだ手探りでするしかなかった過去のデータだから、今は少しは改善されてるんだろうけど」

 

「無知で申し訳ありません。改造に失敗するとどうなるのですか?」

 

「高確率でFGフレームが破損する。艦娘の肉体の破損ならばともかく、FGフレームの破損は艦娘という機能を保てなくなる。最悪、その力を失い、当然轟沈に等しい扱いになる。更に肉体の方にもそれ相応の反動が来る。FGフレームを変形させるほどの膨大なエネルギーが行き場を失って流れ込むんだ。どうなるかくらい想像できるよね?そんなものに、重要な存在である初期艦をぶち込むわけにはいかない。言い方に語弊があるかもしれないけど、初期艦には代わりがいないんだ」

 

「……理解できました。ですが、そんな危険性があると分かりながら、あなたはそれでも行うのですか?」

 頬杖突きながら、ちらりとクレインの方を見た。

 向こうも組んだ手をデスクに肘を突いて口の前に持った状態で、身体はこちらに向けてはいないが、根っから真面目なのだと言う気がしみじみと伝わってくる真っすぐな眼がこちらを見ていて、ふと視線が交叉してしまい、思わず逸らしてしまう。

 

「はぁ……私も信用がないなぁ。危険性はあるよ、それは何事にも、だよ?取り返しのつかないという事態を100%避けるために初期艦の改造は行わないだけ。ただ、私が改造を務める限り、失敗は有り得ない。1人として失いはしない。慢心もなしに、確かな覚悟があって私もこう言っている。それでも、クレインさんは私を疑うのかな?」

 しばらく、と言ってももっと短い時間だったかもしれない。

 こっちをじっと見て、不自然な静寂の中でどんな変化をするのか観察されている気がした。証篠は何もしなかった。ただ、自分の言葉に対する返答を待っていただけだった。

 

「分かりました。あなたを信用するしかないようです」

 

「どうも」

 一応の信頼は得られたようで、顔には出さなかったっが安心した。

 

「まぁ、吹雪はさておき《叢雲》に関しては初期艦どうこうの以前に改造用の設計図が存在しないから無理なんだけどねー」

 

「改二についてはその辺りでいいだろう。他には?」

 御雲は証篠に問い質す。証篠には勿体ぶらずに持ってるもの全てを出せ、と言っているかのように思えた。

 

「些細なことではあるが、気になるのが数点。大きく分けて1つは《翔鶴》について」

 クレインがあからさまな反応を見せたので、思わず口角がつり上がった。先程の仕返しとまではいかないが。

 

「翔鶴さんについてですか……」

 

「うん。調査隊の報告書から色々と推測が立ってね。と言うか、ほとんど答えに近いんだけど、一部がまだ謎のままって感じ。とりあえず、どうして航空母艦《翔鶴》が100年前の記憶を保持したまま、現代に蘇った原因だけは突き留めることに成功したってとこ」

 証篠はカード状の端末をデスクの上に置くと、それを指でタップする。デスクにディスプレイが現れ、端末内の情報を中央の立体映像内と各提督のデスクに送った。

 

 

「第2次鉄底海峡攻略作戦、通称『FS作戦』。第1次の『アイアンボトムサウンド』と合計しても史実上被害が最も大きかった戦い。この中で航空母艦《翔鶴》は友軍撤退の殿を務めて、その末に敵艦隊により撃沈されている。まあ、そんな戦いがあったってことで、問題はその前だ。大本営による新装備の実験対象艦娘の中に《翔鶴》の名前も存在していた」

 

「新装備の実験と言うと……噂に聞く試製シリーズなどか?実験協力の代わりに、優先的に配備してもらえるなどと言う」

 鏡の問いかけに、証篠は首を横に振る。

 

「いや、そんな大層なものじゃないけど、それなりにぶっ飛んだものではあるね。この時実験開発途中だった新装備の名前は『補強増設』。本来不可能とされているFGフレームのスロットの数の変化を強制的に行うものだ。開発段階で徐々に改善はされていったものの、当初は寧ろ問題しかないと言うか。設計の粗さがやけに目立つんだよね、これ……本来装備できる装備の1割にも満たない装備しか載せられないとか、結構ガバガバ」

 

「スロット数を増やせるのか……その1割の内容次第では魅力的ではあると思うが」

 

「まあ、御雲君の言う通り魅力的ではあるけど、とにかくこれは実験段階で、試作品に過ぎなかった。そして、翔鶴の『補強増設』に搭載されていたのは、『応急修理女神』、ダメコンの一種で破損したFGフレームを完全修復させる上に、艦娘の肉体まで再生すると言う特殊な『妖精』だった」

 

「……もしかしたら、私はそれを見たのかもしれません。あの時、私は翔鶴さんと出会った時、妖精のようなものを見たような気がします」

 クレインは翔鶴と出会った時の事を思い出しながらそう言った。

 船の墓場のような場所で、砂を掘り返し見つけたのは、1匹の妖精。

 次の瞬間、海は大きく形を変えながら、クレインの下に1人の女性を呼び出した。

 

「あれは、その女神と呼ばれる妖精だったのでしょうか?」

 

「多分、そうなんだろうね。女神は装備した艦娘のFGフレームを完全に記憶する。FGフレームが失われても、艦娘の肉体が失われても、全てを元通りにしてしまうと言う力がある」

 

「だが、待て。そうなると、100年前の戦いで翔鶴の女神は発動しなかったと言うことになる」

 

「女神は発動し、本来の力を示している。御雲、考えるべきなのは『補強増設』側の不調だ」

 

「その通り。翔鶴に割り当てられた『補強増設』は不幸なことに、欠陥品だった」

 証篠はデスクに指を走らせて、表示される情報を更新する。

 今度は100年前の資料ではなく、新たに作られた報告書であった。

 

「推測しかできないけど、翔鶴のFGフレームと『補強増設』の結合は不安定だったんだと思う。FGフレームの破損を『補強増設』側に伝達できていなかった。もしくは、FGフレーム側が『補強増設』の結合を認めていなかった」

 

「でもよぉ、仕方のないことなんじゃねえの?実験段階だったんだろ?失敗だってありはするだろ」

 

「まあ、辰虎の言う通り、仕方のないことなんだけどね……これが彼女にとって幸か不幸か。何はともあれブイン基地にどういう訳か、翔鶴の艤装と『補強増設』が流れ着き、クレインさんの手で女神が起動した。そして現代に航空母艦《翔鶴》は蘇った。まさしく、奇跡。いや、あるべくしてあったのかもしれない」

 

「証篠でも使うのだな、奇跡なんて言葉を。数字ばかりに囚われた女だとばかり思っていた」

 鏡が珍しく、頬を緩ませて笑う。一方の証篠は腕を組んだまま、やや不機嫌そうに頬を膨らませた。

 

「失礼なっ!私はこう見えてもロマンチストだよ……ったく、もー。じゃあ、次の話。翔鶴の持っていた装備なんだけどさ」

 

「まだ続くんですね、翔鶴さんの話」

 自分の重要な部下の話、しかも自分の知らない彼女の秘密を次々と持ち出されて、精神的に結構重圧のかかるクレインが申し訳なさそうに苦笑いを浮かべていた。

 

「気が気でないだろうけど、我慢してねー。それで、天山一二型なんだけど。これはネームド艦攻だった」

 

「話には聞いている。在りし日の戦士の魂が宿るとされる装備のことだな。天山一二型には『村田隊』があったと聞いたが」

 

「そうそう。この『村田隊』なんだけどね―――本来、翔鶴には存在はずなんだよ」

 

「……は?」

 証篠の言葉に、少し間を置いて御雲は素っ頓狂な声を出した。

 

「記録によると、この『天山一二型(村田隊)』は『FS作戦』中に翔鶴航空隊を単独で離脱して、航空母艦《赤城》の下に戻ったとされている。その後、《赤城》が『村田隊』と共に戦っていた記録もあるし、更に言うと、現役時代だった《赤城》の矢は、ほとんどが子孫に家宝として『破魔矢』の意味を込めて受け継がれている。当然『村田隊』もそこに含まれている」

 

「つまり、どういうことだ?女神で蘇った翔鶴にあってもおかしくはないんじゃないか?女神が『村田隊』まで保存しているのならば、そのまま復元されてもおかしくはないのだろう?」

 

「鏡くんの言いたいことは分かるよ。でも、『村田隊』は赤城の下に戻っている。これは翔鶴がスロットから『天山一二型(村田隊)』を切り離さないと無理なんだよ。当然、女神には切り離した事実も伝達される。復活するときには『村田隊』は存在していないはずなんだよ」

 

「要は、これは……いえ、これも『補強増設』の欠陥が原因だと言うことですか?」

 クレインの言葉に、証篠は腕を組んで首を少し傾けた。

 

「多分、そういうことになるんだろうねー……同じ魂が複数存在するのは、『原典理論』に反するからね」

 

「2つの『村田隊』か……まるで双子の様だな」

 

「あっ、そうだ。『原典理論』で思い出した。最後の私からの報告。御雲くん、《叢雲》についてなんだけど」

 証篠がそう口を開いた瞬間、御雲は掌を向けて制した。

 

「その報告は後で個別に頼む。立場上、公にできることでもないからな」

 

「うーん、分かった!じゃあ、私からの報告は終わり!じゃあ、作戦の話だね」

 

「ふぁぁ……ようやく訳の分からねえ話も終わって本題に戻れるなぁ。今、何時だぁ?」

 

「そう言う発言は控えろ、天霧。ほとんど方針は決まっている、詳しくは御雲から頼みたい」

 鏡がそう言って御雲を見ると、小さく頷いてデスクをタップする。

 証篠が出していた情報が引っ込み、代わりに大きな日本地図が表示された。

 

 

「まずは補給線を絶った後、北方海域に集結した敵艦隊を撃滅する」

 御雲はデスクを指で弾く。無数の矢印と、艦隊を表すシンボルが地図上に出現していく。

 

「こちらが、先日横須賀の駆逐隊によって判明した敵物資の集積地と思われる場所だ」

 御雲が予測し、JADFの偵察が加えられ、確定された現段階での破壊目的地。

 

「結成する艦隊は、合計6つ。先行して対潜対空哨戒、制空権をとる艦隊。補給基地周辺の展開する部隊に、夜戦による奇襲をかける艦隊。補給線を絶つ際に、北方海域の本隊に対し、囮となる艦隊。補給基地を破壊する水上部隊。そして、北方海域敵主力部隊を叩く連合艦隊」

 

「連合艦隊は空母機動部隊。俺が指揮下に置く。クレイン殿にも協力していただく」

 加賀を旗艦とし、翔鶴、蒼龍、飛龍を基幹とする空母機動部隊の指揮。

 機動部隊を編成するのならば、この男に一任されるのは分かっていた事であったが、クレインという青年にも一端を任されると言うのは、やや証篠には驚きであった。

 

「先行する水雷戦隊と、軽空母を基幹とした艦隊は俺が指揮を執る。うちの奴らに夜間の奇襲なんてものはお似合いだ」

 カチコミのような作戦には確かにこの男指揮下の艦隊がお似合いだろう。

 そう言えば、夜戦好きの軽巡洋艦が呉の証篠の下にもいたような気がするが、今はどうでもいいだろう。

 

「囮部隊の指揮と、連合艦隊の補佐を私の指揮下の艦隊が行います。やや微力ですが」

 なかなか慎重な指揮が求められる場所にこの青年を投入するのか、と少し疑問符を抱いた。知れば知るほど、この青年は不思議な存在なので、やや信用しがたいが、無駄に礼儀正しく紳士的なので、どこかで折れそうだ。

 

「そして、補給基地の破壊は俺が指揮を行う。全ての艦隊の総司令部の決定権も俺が持つ」

 本作戦の最重要点はやはりこの男か、と。補給基地1つを破壊することの意義の方がずっと強い。寧ろ、この作戦の成否はここにかかっている。

 

「なるほどなるほどー……ん?私は?」

 適当に話を聞いているうちに自分の居場所がないことに気付く。

 動くはずの6つの艦隊のいずれにも、自分の指揮する艦隊がない。

 

「まさかお留守番なんてないよね?帰ってきた艦隊の修理に徹しろと?」

 

「お前は例の特務に回ってもらう」

 御雲の口から発せられた言葉に、ワンテンポ遅れて、勢いよく立ち上がった。

 

「は、はぁ?えっ?あれ御雲くんがやるんじゃなかったの?」

 

「貴様が適任だとの、上からのお達しだ。俺もそう思う」

 

「不安ではあるが、俺もだ」

 

「俺は何の話か全く知らねえです」

 

「わ、私の方も……」

 

「あぁ、辰虎くんとクレインくんは知らされてないんだね。まあ、機密性の高さから仕方のないことかもしれないけど」

 

「一部で異論があった。この作戦の裏で行うべきか、否かだ。だが、早めに動くに越したことはない。それに、一体どんな連中がこの存在を狙っているのかもわからない。それに気になる情報もある」

 

「気になる情報って?」

 証篠の疑問符の乗った言葉に、鏡がコンソールを弄りながら言った。

 

「航空防衛軍航空総隊六〇七部隊所属の織鶴 瑞羽3尉からの報告書だ。すぐに織鶴総司令官の下で海軍に通達され、最高機密扱いとされている」

 証篠の目の前のディスプレイのみに、1枚の報告書の画像が映された。

 大きく赤い判子で「重要機密」と押してある。

 

「南西諸島海域上空を飛行中に、濃霧により視界不良。霧の内部に巨大な影を確認。直後にロックオンされて、緊急回避を行った……」

 その一部を抜粋して、声に出して読み上げる。

 ここは明らかにおかしいからだ。突っ込みどころが多すぎて、自分が受け取れば突き返すだろう。

 

「最悪の事態が起こっている可能性がある。ただの伝承が現実のものになるかもしれない」

 やれやれ、と言った表情で御雲がそう言った。

 だが、彼の抱いている危機感は証篠には小さすぎるようにも思えた。

 

「本当に、《叢雲》の予想は当たっていたってこと?」

 胸の中で生まれた大きな焦りが、頬を伝う汗となる。

 伝承なんてものより、可能性の中にある可能性の可能性のような、ありえないと断言できるレベルの話だったはずのものが、もしかしたら存在してしまっているかもしれない。

 

「あくまでも可能性だ。だからこそ、この時代に必要になる」

 鏡が落ち着かせるようにそう言った。だが、落ち着けるはずもなかった。

 しかし、今は席に座った。一度腰を下ろして考えた。

 

 艦娘の『改二』の対極、「深海棲艦の可能性」。

 こんなもの信じたくはなかった。

 

「探し出さねばならない―――《天叢雲剣》を。早急に申請しよう」

 

 

 

     

 

 

 




 割とこの章、証篠が中心に動くかもしれません。

 次話はこの話でちらりと出た『原典理論』について軽く触れて、作戦開始まで持って行けるかどうかのところまでを書かせていただきます。

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