綺麗な青空の下、よくぞお集まりいただきました。
私、海軍特殊災害対策部横須賀支部の御雲月影と申します。
みなさんがご存知の通り、横須賀鎮守府にて艦娘たちの司令官を務めております。
まず、最初にこのような若輩者が、海軍の代表として皆様の前に立っていることに何かしらの不満や、海軍に対する不信感を抱く方もおられるかもしれません。
お断りさせていただきますが、まだまだ私よりベテランの方が多くご存命されており、未だに現役で前線に出ておられます。
そう言う訳で、私のような若者がここに立っているということが、まだこの国が追い詰められてしまっているということを表している訳ではありませんのでご安心ください。
並びに、私のようなものにも、皆さんへの言葉を口にする機会をどうかお許しくだされば喜ばしい限りです。
それに私達提督は、こう見えても、艦娘や深海棲艦においては専門的な分野での研究を行ってきた者たちです。より正確な情報を皆さんにお教えすることも場合によっては可能です。
今後とも、皆さんの安全を確実にお守するために、私たちにできる限りの情報発信を行っていきたいと思っています。詳しい情報の発信方法としては、海軍のHPおよび広報部への問い合わせ等で対応させていただきます。
では、前置きはこのくらいにしておきましょう。
そろそろ、与太話にも飽きて来た頃でしょうし。
残念ながら、再び《深海棲艦》なる脅威が現代に蘇る事態となり、再び私たちは彼女たちの力に頼らざるを得ない時代となりました。
伝説と呼ばれ、かつてこの世界を守った彼女たちを。
皆さんもご存じでしょうが、人類のみの力では深海棲艦を打ち倒すことはできません。
人は海を奪われ、空を奪われ、徐々に陸地まで奪われていき、多くの人々が犠牲となったこと。
たった100年前の話です。されど100年。
人々がその出来事を、お伽噺のように語り継ぐ、それほどの時間が流れて、この年に再びすべての人類が今一度試されようとしています。
人同士ならば、和解の道もあり得たでしょう。しかし、どうやら彼らには我々人類を駆逐する他に目的はないようです。
これは1つの清算なのでしょう。
100年前から変わりはしない、かつての戦争で奪われた多くの命が、怨念として生み出した存在が深海棲艦なのだと。
それを打ち倒す使命は、その先の時代を生きる私たちに課せられたものです。
その代表として、私たち、軍が存在しています。だから、皆さんが深海棲艦と戦うなどと言う事態は決してありません。
皆さんには何かを強いるおつもりはございません。
これまでと変わらぬ平穏ができる限り維持できるように、我々も尽力していきます。
ただひとつ、どうか忘れないでいただきたい。
皆さんがさりげない時間を送っているその裏側で、
彼女たちは、戦い続けているということを。
そして、信じてほしい。彼女たちは必ず勝利すると。
そして、祈って欲しい。彼女たちは必ず帰ってくると。
この世界に、最初に生まれた艦娘の鎮守府は、ここから離れた港町に生まれました。
多くの市民が彼女たちを受け入れ、征く彼女たちを見送り、その帰りを待ち、喜びの声を上げて帰ってきた彼女たちを出迎えたと聞きます。
まだ、艦娘という存在が朧げであった時代に、市民と艦娘たちを触れ合わせたことは今の私にとっては危険であったと思われます。
しかし、その行動が強い信頼関係を生み出しました。
そして、祈りが、願いが、強い力となって集い始めました。
綺麗ごとかもしれません。
ですが、私は信じたいと思う。その力こそ艦娘の原動力なのだと。
だからこそ、私は艦娘を率いる立場として、
彼女たちの近くにある存在として、皆さんにその3つだけをお願いしたい。
そして、これは私個人のお願いです。
もし可能な方のみ4つ目のお願いを聞いていただきたい。
深海棲艦は生物です。紛れもない生命体です。機械といった無機物とは違います。
それを打ち倒す艦娘たちも同様です。
彼女たちはただ戦うためだけに生まれてきた機械ではありません。
確かに、私たちからすれば彼女たちは深海棲艦と戦う手段であり、兵器なのかもしれません。
それでも、彼女たちをどうか人として受け入れてほしい。
物言わぬ冷たい兵器ではなく、温もりのある手を差し伸べてほしい。
彼女たちは生きています。私たちと同じように。
彼女たちは笑います、泣きます、怒ります、喜びます。
彼女たちだって、在りし日の戦いの中で失われていった人々の魂より生まれた願いなのです』。
人としての感情を持ち、人と同様に苦しみます。
だからこそ、どうか否定しないでください。
さて、この辺りで閑話休題としましょう。
先日、日本国周辺の海洋における深海棲艦の勢力範囲、通称『浸蝕域』の観測の全てが終了しました。この事態を受けて、我々は現艦隊も用いる反攻作戦を行う予定です。
北方海域への補給線を破壊。補給物資を温存していると思われる海域の艦隊を撃滅し、北方艦隊の壊滅を狙います。
同時に、南方への警戒。東方への偵察を行い、敵艦隊全体の戦力の把握が済み次第、今後は順を追ってこれを叩いていきます。
その先駆けとして、アリューシャン列島へと進攻します。
これが恐らくこの時代最初の大きな戦いとなるでしょう。
開始時期等は機密事項とさせていただきますが、心得てほしい。
私たちの反撃は既に始まっています。
奪われるだけの歴史は終わりです。新たな時代が訪れようとしています。
その時代の道標をここに掲げます。
ややベタですが、この旗こそが我々日本国の軍人の意志の表明としては適切でしょう。
旭日旗には必勝の祈願を、そしてZ旗にはこの場所が、この鎮守府が我々の最後の防衛線であると言うことを、ここから先には進ませない私たちの意志を。
この旗が掲げてある限り、我々は戦い続けています。
我々は新たな時代を作り上げています。
もし、この旗が折れることがあれば、それは私たちの敗北の時でしょう。
そんな日は来る必要はありません。
そんな時は永久に訪れさせるつもりはありません。
その誓いを、全ての日本国軍を代表してここに述べさせていただきます。
『横須賀鎮守府海軍特務大佐、御雲月影』
Z旗は有名ですね。本来はボートを出してくれ、と言ったような意味合いだそうです。
あとは投網中だとか。
もっともよく知られているものは日本海海戦の時のZ旗でしょう。
Z旗はZがアルファベットの最後に位置する文字であることから、「これが最期」「最後を決する重要な戦い」と言ったような意味に派生したという説もあります。
今回はそれを利用して、Z旗を掲げたこの場所が最期の戦線。
つまり、絶対に譲れない防衛線。一切の地上への攻撃を認めない意志として登場させてみました。
まぁ、海でのことは全部海で片を付けてやる。という感じです。
月並みではありますが、この章の名前はちゃんと回収させていただきました。